正義執行   作:ラキア

23 / 31
第23話

 

 クラナガンへと戦域は拡大し、ガジェットドローンと陸戦魔導師が交戦する中、戦闘機人三人はこれに乱入して魔導師を秒で仕留めていく。オットーとディードの連携によって防衛線は崩れ、混乱する魔導師をウェンディがライディングボードで砲撃を仕掛けて倒していく。

 現場の魔導師をクリアにしてからウェンディは満足そうにして、気を失って倒れる魔導師の頭を踏み付けながら、

 

「いやぁ、楽勝ッスね! 前回とは違って蓄積データも十分に揃っているッスから、この程度の魔導師なんて屁でもないッスよー。二人もそう思わないッスかー?」

 

 浮遊する二人に向かってフランクに話しかけるウェンディだが、オットーもディードも無表情であり、その言葉を耳ともしない。感情が稀薄でコミニケーションを取ろうともしない為、ウェンディは顰め面で舌打ちして苦手意識を露にする。

 

 ともあれ防衛線の一つは崩壊したのだ。ウェンディはライディングボードに乗って飛行し、二人を背後につけて地上本部の方向へと向かっていく。

 目的は聖王のゆりかごが安定して上昇する為に、地上の機能を無力化する為である。その為地上本部を潰そうという事だ。先日の襲撃の建て直しがまだ進んでいないため、目的地に着けば直ぐに終わるだろう。だが地上の部隊もそれを絶対に阻止すべく、必死の抵抗をしている訳だが。

 現在は戦闘機人、ウェンディを含む三人に加え、さらに別方向からノーヴェと、先日捕らえて調整を施したタイプゼロファーストが攻め込んでいる。さらにゼストとアギト、ルーテシアがそれぞれ本部へと向かっている。

 

 ウェンディは移動しながらノーヴェへと通信する。

 

「ノーヴェ、そちらはどうッスか? ファーストの調子も含めて」

『こっちも楽勝だよ。こいつも特に問題は無さそうだ。───さっさと終わらせて、チンク姉を助けるぞ』

 

 その言葉に、ウェンディは少しだけ表情を曇らせるが、直ぐにいつもの表情に戻って了解と返事をする。チンクは結局セインの救出が間に合わず捕らえられてしまった。それに酷くショックを受けたノーヴェは何としても救い出そうと奮走しているのだ。この作戦が成功すれば、このミッドチルダを実質制圧できるのだから。

 そしてノーヴェと一緒に行動するのはタイプゼロファースト───ギンガを回収した後、スカリエッティの調整によってその自我を更新。無感情で任務に遂行する戦闘機人へと仕上がっている。コミュニケーションが取れないが、戦力にはなる。

 更にはゼストとアギトが航空魔導師による空の防衛線を攻め込み、別方向からもルーテシアが交戦している状態だ。二人の戦闘能力の高さからみて空のほうも問題なく制圧できるだろう。

 

「さて、じゃあ私等もさっさと向かうッスかー……って、お?」

 

 その時、アジトから通信が入る。ウーノだった。どうやら管理局側に増援があり、魔力反応からみて機動六課の魔導師と判明した。その報告を聞いてウェンディは鼻で笑う。

 

「ようやくお出ましッスかぁ……。先日の借りもあるし、来るというならお望み通りッスよ!」

「ウェンディ、油断しないで」

「ありゃ、こういう時だけ喋るんスか……」

 

 調子に乗るウェンディにオットーが目線を合わせずに言葉を口にする。その一言のみだったが、ウェンディとしては馬鹿にされているようでやはり複雑だ。だが気にしても仕方ないと思考を払い、前方へと進んでいく。

 ボロボロになった幹線道路を進んで行くなか、ウェンディは視界に何かを見つける。

 

「あれは……民間人ッスかねー?」

 

 道路の真ん中に、人が立っていた。その姿は魔導師とは異なり、全身黒い服装に包まれている。いや、服装と呼べるかも分からない姿であり、既にボロボロな状態だった。戦闘にでも巻き込まれたのだろう。避難もままならない内に街は戦場と化したのだ。ボロボロな民間人が居てもおかしくない。

 不審には思ったが、気にしている余裕は無い。邪魔なので排除しようとオットーがISレイストームで砲撃を放つ。

 が───。

 

「───え?」

 

 砲撃が当たる寸前、その人影はまるで最初からそこに存在しなかったように一瞬で姿を消した。一体何が起こったのかと思考しようとした刹那───。

 

 ───オットーの顔面に拳が突きたてられ、後方へと吹き飛ぶ。

 

「は?」

 

 慌ててその場で急停止し、吹き飛ばされたオットーを見る。地面に何度かバウンドし、その後ピクリとも動かなくなった。オットーがやられた事により、ディードが怒気を放って辺りを警戒する。

 だが、次の瞬間───。

 

「ここだ」

 

【挿絵表示】

 

 その声が、ディードの後方から聞こえる。振り返ると、そこには先ほどの黒い影が居た。先ほどのボロボロな姿では無く、真っ黒な戦闘装束を身に纏い、首から巻いたスカーフのようなものが風に揺らいでいた。

 姿を確認した一瞬、次の瞬間には振り向きつつ、その勢いのまま上体を回して固有武装である赤い光を刀身とする双剣を横に薙いだ。ディードのISツインブレイズは双剣術において長けている。だが、振り抜いた刀身はそのまま空を切るだけであり、その姿は消えた。

 

「遅い」

 

 その声は今しがた自分が向いていた方向だ。振り向くとそこには何かを手に持っている黒い人物。その手に持っていた【モノ】を見て、ディードは恐る恐る自分の腕を見た。

 

 ───自分の両腕が、肘から下が無く、もぎ取られたように切断されていた。当然、黒い人物が持っていたのは双剣を握ったままでいる自分の腕である。ディードは気付いた瞬間、凄まじい痛みにその場で蹲る。いくら余剰要素排斥により感情が薄いとは言っても、強烈な痛みには耐えられない。

 

「……このッ!!」

 

 ウェンディが横から砲撃を放った。黒い影はディードの腕を捨ててからその砲撃を避けていく。その動きは既に常軌を逸しており、消えては現れの繰り返しのようにして砲弾が外れていくのだ。点滅する立体映像に攻撃しているかのような感覚に陥る。

 そして距離は詰まり、黒い人物は目の前まで接近し、

 

「他愛ない」

 

 言って、ウェンディの胴に拳を入れた。それだけで身体の機能が内側から破損する。その事に気付きも出来ないウェンディは薄れ行く意識の中、自分が吹き飛ばされた事だけ理解できた。地面にバウンドし、そのまま勢いで引きずられ、ウェンディは意識を失う。

 黒い人物は振り返り、未だに放心するディードへと歩み寄っていく。それに気付き、ディードも痛みに耐えながらなんとか撤退しようとするが、立ち上がった瞬間に肉薄され、後頭部を掴まれて地面へと沈められる。地面が砕け、ディードは力尽く。

 

 僅か数分。その間に、陸戦魔導師を圧倒し蹂躙していた戦闘機人三人が潰された。まるで羽虫の如く、叩き落とされる程度の感覚で。

 

 黒い人物はその後、一瞬にして姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 聖王のゆりかご。その内部にある聖王の玉座には現在、クアットロとディエチ。そして玉座に拘束されているヴィヴィオの姿があった。ヴィヴィオは明らかに衰弱している。スカリエッティがヴィヴィオの聖王としての力を蘇らせるために、レリックをその身体に埋め込み、そしてゆりかごを起動した事により、幼き身体のヴィヴィオにかかる大きな負担がかかっている。

 そんなヴィヴィオの様子を、ディエチは複雑な表情で見つめた。その隣でクアットロは愉快そうに展開させてある端末を操作する。

 

「ゆりかごの航行は良好。上昇も問題なし。厚い装甲と周囲へのAMF展開もあって、周りの煩い航空魔導師は手も足も出来ない。さらに無数の砲撃によって迎撃もばっちり。まさに理想の空中要塞」

「でもクアットロ……何だか可哀想じゃない?」

 

 ディエチが言うと、クアットロは眼鏡を手で上げてからディエチを見る。その表情はいつも通りの彼女の笑みだが、その瞳には少しだけ冷たさが混じっている。

 

「可哀想……と思うのは勝手だけど、ディエチちゃん。これはドクターの願いの為。今更そんなつまらない感情に囚われている余裕なんて無いわ」

「うん、分かってるよ。だから別にどうこうしようっていう訳じゃない。自分の役目はきっちりやるよ」

 

 言って、ディエチは踵を返してイノーメスカノンを担ぎ、玉座の間から去って行く。その様子を見てからクアットロはウーノへと通信を繋いだ。

 

「ウーノ姉様、ゆりかごの方は問題ないです」

『分かったわ。予定通り……と言いたい所だけど……』

「……? 何かトラブルでも?」

 

 クアットロが首を傾げて訊ねる。

 

『地上の方で、ウェンディとオットー、ディードの三人がやられたわ』

「ウェンディ達が?」

 

 それを聞いて、クアットロは驚嘆する。ウェンディはともかく、オットーとディードがやられたというのはクアットロにとっても予想外だった。いや、管理局の戦力から考えて、撃墜されることは予想していたが、それにしても早すぎた為だ。

 顎に指を当てて思考していると、ウーノに次いでスカリエッティが通信を開き、

 

『問題ない、全ては予定の範疇さ。この計画の中心はクアットロ、君にかかっている。期待しているよ』

「ええ、ドクター。このクアットロ、ドクターの夢を叶えてみせます」

『頼もしいね。よろしく頼むよ』

 

 ウーノとスカリエッティの通信が途切れる。クアットロはヴィヴィオのほうへ向き直る。ヴィヴィオが拘束されている手錠に、ゆりかごの制御に関わるエネルギーの振動が伝わり、ヴィヴィオは苦痛に表情を歪ませて悲鳴を上げた。それを見て、クアットロは愉悦に似た表情を浮かべた。

 

「そう。結局、ドクターの夢はこのゆりかごにかかっている。なら、私さえ目的を果たせば何の心配もないわ。他の娘達がいくら犠牲になろうと、ね。さあ、聖王様、新たな世界構築の為に頑張りましょうね」

 

 そう言うと、クアットロは眼鏡を外し、それを投げ捨てた。三つ編みに結んでいた髪も解き、今までの彼女の印象ががらりと変わる。その姿は、もう一人のスカリエッティとも呼べるような狂気染みた雰囲気を漂わせていた。

 

 

 

 

 

 

 ルーテシアは飛行型ガジェットドローンに乗り、多数のガジェットドローンと共に地上本部へと向かっていた。航空魔導師が迎撃に出てくるが、ルーテシアは腕を動かし、その掌から魔力砲撃を放って撃墜。背後を取ろうと接近した魔導師に対してはガリューが入り、その蹴りによって吹き飛ばされていく。ガリューはルーテシアと同じように飛行型ガジェットドローンに着地する。

 

「ウェンディたちの反応が消えたって事は、やられたって事ね。ゼストも六課の騎士と交戦に入ったようだし、現状本部に攻め込めるのは私たちとノーヴェたちか……。結構厳しくなって来たわねー」

 

 ルーテシアは端末を操作して状況把握し、そう呟いた。だが別段焦る様子も冷静に把握する訳でもなく、それはいつも通りのフランクな彼女だった。端末を閉じ、アスクレピオスを操作。インゼクトの召喚を行い、周囲のガジェットドローンに同期させていく。

 

「まぁでも、ここまで来たらやれる所までやるしかないか。悲しいけどこれ、戦争なのよね」

 

 右手の中指を折って親指で押してポキッと音を鳴らす。グローブ型のデバイスを握ってから、正面に気配を感じたのでルーテシアは途中のビルの屋上へと飛び降りた。着地し、こちらに接近する存在を待つ。

 するとその姿が露になる。飛竜だ。その背には六課の魔導師が二人乗っており、此方を視認している。以前に戦闘を交えた同年代くらいの女の子と男の子───キャロとエリオだった。飛竜フリードリヒがビルの屋上まで下がり、二人はフリードから降りてルーテシアとガリューと相対する形となる。

 

「いつだか会ったわね。また会うとは思っていたけど、どうやら結構強くなったみたいね。お姉さん驚きだわー」

「え……お姉さん?」

「どう見ても同い年くらいにしか……」

 

 ルーテシアの緊張感の無い言葉と、そのわざとらしく手を口に当てる仕草を見て、身構えていたキャロとエリオは少し動じていた。

 

「人を見た目で判断してはいけないの。私はあなた達と違って事情があるのよ。こんな身体になって……ああ……私可哀想……」

「……ッ! それって、何か病気とか?」

「まさか……スカリエッティに!?」

「いや、無い無い。多分あなた達と同年代」

 

 ルーテシアの言葉に心配する様子を見せた二人だったが、直ぐにそれが嘘だと片手を横に振りながら答えるルーテシアにずっこける様子を見せた。中々弄りがいがあって面白いなとルーテシアは笑いつつ、

 

「そういえば自己紹介まだだったわね。ルーテシア・アルピーノ。ルーテシアでもルーちゃんとでも好きなように呼んでくれて構わないわ」

「あ、えっと、管理局機動六課所属、キャロ・ル・ルシエです!」

「同じく、エリオ・モンディアル!」

 

 至って普通に、そしてフランクに自己紹介するルーテシアに対し、キャロもエリオも困惑気味にだが各々名乗る。ルーテシアはあっと思い出しように隣にいるガリューへと手を向けてから、

 

「紹介し忘れるところだったわ。こちら私の召還獣のガリュー。召還獣とはいっても私の相棒みたいな存在だから、普通に人と接する感じで問題ないわ」

「う……うん」

 

 ガリューはルーテシアに紹介されると、キャロとエリオに対して軽くお辞儀をする。二人は困惑気味にだがお礼を返した。

 先ほどから感じていたが、ルーテシアという人物はどうも分からないと二人は思考する。それはルーテシアから敵意というものを感じられないからだ。それどころか、二人に対してフランクに接し、むしろ友好的にすら感じてしまう。前回の地下水路の時も互いにそんな余裕が無かったが、今回のルーテシアからは余裕を感じる。いや、余裕とはまた別の何かをエリオは感じていた。

 

 ───まるで、もうどうでもいいような雰囲気を。

 

「……一つ、質問したい」

「はい、どうぞ」

 

 エリオはルーテシアに尋ねる。

 

「ルーテシア、君はスカリエッティの仲間だよね?」

「んんー……仲間といえばそうだし、そうでないとも言えるかなー」

 

 ルーテシアは上方を向いて口元に手を当てる。

 

「私には目的があって……まぁぶっちゃけると、私の母さんの為、かな」

「お母さん?」

「そう。私の母さんね、地上の陸戦魔導師でエリートだったんだけど、ミスって重症を負っちゃって。スカリエッティは母さんの身体を回収して、その遺伝子データから私は生まれた。あ、勿論戦闘機人じゃないから安心してね」

 

 誤解を招かないように手を振ってから言葉を続ける。

 

「しばらくはスカリエッティに利用される日々だったけど、別段無理やり意識を強制されてたって訳じゃなかったし、身体に仕掛けとかも無かった。プラス、同じく実験体として利用されてたゼスト……ゼスト・グランガイツ隊長ね。元陸戦魔導師のエリート部隊隊長で、母さんの上司。そのゼストと一緒に居た影響もあって、スカリエッティに心酔する事もなかったって訳。だから割と自分の意思で戦うし、命令されて戦うって訳でもない」

 

 一呼吸置き、キャロとエリオの目を真っ直ぐ見ながら言葉を続ける。

 

「私はゼストから母さんの話を聞かされた。昔起こった事も全て知った。だから、私は母さんを目覚めさせたいって願った。母さんは意識不明の状態で、目を覚ますには指定番号のレリックが必要となった。だから私とゼストは共にレリックを探す事にした。母さんの為に」

 

 ルーテシアの話を聞き、キャロのエリオは複雑そうな表情をした。ゼストについては管理局のデータベースから情報が出ており、隊員であったメガーヌ・アルピーノの事も調べられた。それを本局での会議で知っていた為、ルーテシアの説明にも納得がいった。ルーテシアは嘘は言っていないと分かった。

 そんな事を察してか、ルーテシアは「でも」と口を開き、

 

「もうこんな状況だしね。おそらくスカリエッティにとって、もはや母さんの事なんて二の次状態よ。だから、私もはっきり言って頑張る理由なんて無い。強いて言えば、ゼストの目的を手伝いたいってのはあるけど」

 

「なら……ッ!」

 

 キャロが声を上げるが、その先に何を言いたいのかを理解していたルーテシアは遮るように言葉を続け、

 

「でも、だからって今私が裏切れば、それこそ母さんの身に何が起こるか分からない。だから悪いけど、付き合って貰うわ」

 

 言って、ルーテシアはアスクレピオスを構えて二人に対し戦闘態勢に入る。それに対し、キャロとエリオもそれぞれデバイスを構えた。キャロはルーテシアに、エリオはガリューと向き合う。

 しばらくの睨みあいの後、ガリューが踏み込んだのを合図に、戦闘が開始した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。