「くそッ! 何て数だ! 切りが無い!」
「泣き言言ってる暇があれば手を動かせ! 落とされるぞ!」
航空魔導師が迫り来るガジェットドローン一型を迎撃しつつ、苦言を漏らす。撃墜していってもまた別方からガジェットドローンによる砲火が此方を狙い、善方向から砲撃が来る。それを回避しつつ、少しでも死角を無くす為に連携を取り、背をくっ付けて視野に映るガジェットドローンを撃墜して行く。
ゆりかごは依然として上昇を続けている。船のいたる所にある砲門が火を吹き、さらに無数に出てくるガジェットドローンによってその周囲の戦火は凄まじいものだ。航空魔導師が交戦するが、その猛威故に取り付く事が出来ない。
「だが、流石は六課の八神二佐……いや、歩くロストロギアと今は言ったほうが良いか……凄まじい。これ以上頼もしい援軍はいないな」
「同感だ」
魔導師は背を預けている同僚に言葉をかける。それに同意する魔導師もまた、駆け付けたはやての戦力の高さに感嘆の声を漏らした。先ほどまでガジェットドローンの戦力差に戦局が崩れかけており、撤退を強いられる寸前の状態だったが、
「各部隊は連携を取ってガジェットを各個撃退しつつ、砲撃に注意! 集団の群れは私が吹き飛ばす!」
「「了解!!」」
だが、はやてが来た事によって、崩れかけていた包囲を何とか立て直す事が出来た。戦力としては勿論の事だが、それとは別にはやての指揮能力が高いという事が戦局を立て直す大きな要因となった。魔導師達は立て直すことが出来、現在もはやての指示に従いガジェットドローンを撃墜していく。
「クラウ・ソラス!!」
はやては夜天の書を開き、その一つである砲撃魔法を放ち、ガジェットドローンの群れを一斉に撃墜する。その凄まじさに周りに居た魔導師達が驚きの声を漏らした。
はやてはシュベルトクロイツを下ろし、軽く息を整える。
「はやてちゃん、二時の方向に三型のガジェットの反応複数あるです!」
「了解やリイン! でもすまんなぁ、まだ本調子やないのに……」
はやての肩で浮遊するのは現場復帰したばかりのリインフォースだ。ヴィータと共にゼストと交戦し撃墜されて怪我を負ったが、マリエルの治療によって無事に回復。だが怪我は治ったとはいえ、いきなりの決戦だ。負担は大きいだろうが、リインフォースは大丈夫と返事する。
「これくらい大丈夫です! はやてちゃんは気にせず、ガジェットの迎撃を!」
「ああ、了解や。ここまで立て直せれば、後は時間稼ぎや……来るで!」
はやては下方へと視線を向ける。するとそこから凄まじい勢いでゆりかごへと飛んでくる人影があった。ゆりかごから放たれる砲撃を物ともせず、人影───なのはは一直線へと突っ込んで行く。
そしてなのははゆりかごへと衝突。そのまま内部へと突入した。衝撃でゆりかごの下部が爆発を起こし、魔導師達は動揺した声を漏らす。それもそうだろう、なのはの規格外な戦闘能力はクロノ達含む元アースラのクルー。そして六課の人間だけが知っている事だ。現に今の光景を誰一人として人間が突っ込んだと認識できる事は無い。
はやてはそんな魔導師たちの意識を声をかけて戻し、目の前の戦場へと視線を向けた。
「頼むで……なのはちゃん」
◇
薄暗い室内の中心には、表示させているディスプレイを操作するウーノと、その表示させている映像を笑みを浮かべて観戦するスカリエッティがいた。
「ドクター、侵入者が三名。こちらへと近づいて来ます。現在トーレ、セッテ、セインが迎撃にあたっています」
「そうかい、ウーノ。進入者の一人は恐らく……フェイト・テスタロッサだろうな。彼女と私は少々縁があるからね」
スカリエッティは顔色一つ変えずに、むしろ愉快そうに笑みを浮かべていた。歩を進め、そのままウーノへと近寄る。ウーノは依然として端末を操作していたが、その手にスカリエッティは自分の手を重ね、動きを止めさせた。どうしたのかとウーノがスカリエッティに振り向くと、スカリエッティはウーノの頭を撫でる。
「もういいだろう、ウーノ。ここまで来たのだ。私達の役目はここで終わりさ」
「ドクター……」
目を丸くしたウーノだったが、スカリエッティの言葉を理解したのだろう。そのまま手を止め、操作していたディスプレイを放置した。ウーノは今まで見せてきたキツイ印象の表情を緩ませ、目を閉じてかすかに笑みを浮かべた。スカリエッティに肩を預ける形で寄りかかる。
その時だった。室内の後方にあった扉が吹き飛ばされ、爆風と共に二つの影が飛んで来る。トーレとセッテだった。二人は地面へとバウンドし、そのまま立ち上がれること無く、倒れ伏す。セッテは気絶し、損傷の激しいトーレもまた朧気になる意識の中、スカリエッティとウーノのほうへ顔を向けて、
「……すみ、ません……ドク……タ……」
その言葉の途中でトーレは力尽き、気を失った。スカリエッティは動揺する事なくその様子を見つめ、破壊されて穴が空いた場所へと視線を向ける。煙が舞う中、人影が奥から歩いて来る。対艦サイズへと刀身を伸ばしたザンバーを片手で持ち、こちらに対し鋭い双眸を向けるフェイトだった。
トーレもセッテもかなり高い戦闘能力を持っていた。それこそヴォルケンリッターの戦闘能力は軽く凌ぐ程の実力だ。だがフェイトは規格外だった。室内だからといってフェイトの戦術が鈍ると言ったら大間違いである。フェイトの戦術は狭い空間であっても衰えはしない。いかなる状況であっても、その速さと力は相手を一瞬で一刀両断する。今回に至っては二人がまとめて攻めてきた為、大剣の側面で叩き潰しただけだ。フェイトにとっては他愛もない事である。
「ジェイル・スカリエッティ。貴方を逮捕します」
「ああ、構わないよ。だからその剣をこちらに向けるのは止めたまえ。ウーノが怖がる」
スカリエッティはフェイトに対し、抵抗せずに両手を上げる。フェイトは念のためスカリエッティとウーノを拘束する。視線を上へと向けると、そこには室内に表示させているウインドウがあり、ゆりかごと地上での戦闘の様子が映されていた。
「スカリエッティ。今すぐ戦闘機人と魔導師、そしてガジェットを止めてもらう」
「それは無理だな。例え私を人質にしたって彼女達は止まらんよ。ルーテシアやゼスト辺りは喜んで掌を返すだろうがね」
それを聞いて、フェイトは驚くことも焦ることも無かった。予め予測していた事だ。そもそもスカリエッティを捕らえてそれで終わるならば、スカリエッティがいつまでもこのアジトに留まっている筈が無い。
なら、スカリエッティの目的は一体何なのか、それが気掛かりだった。
「ジェイル・スカリエッティ。貴方の目的は何? 聖王を蘇らせて、ゆりかごを起動させてそれで終わり? ……いや、そんな筈ない。貴方ならそんな事をしても何も得られないと分かっていた筈だ。確かにゆりかごは脅威だ。でも管理局の戦力から考えて撃墜されるのは目に見えている」
その言葉通りだ。ゆりかごは確かに最悪のロストロギアであり大きな脅威だ。しかし六課のはやてが前線に出て、さらに上昇しても待ち構えている艦隊の主砲の一斉砲撃で沈められ、それで終わりだ。一方地上本部でも同じだ。初手こそかなりダメージを与えられるだろうが、戦力差から考えて負けるのは目に見えている。大きな被害が与えられるが、結局はそれで終わりなのだ。
そんな事も考えられない程、スカリエッティという人物は愚かではない。これだけの事をやらかしたのだ。何か目的がある筈だ。
「貴方が言った【新たな世界】って、一体何なの?」
フェイトは訊ねる。するとスカリエッティに笑い、身体を震わせた。
「確かに。このままでは私は唯の愉快犯でしかないだろう。世界だの何だのと宣言しておいて、結局はただのテロを起こしただけの犯罪者。それで終わりだろうな」
スカリエッティが自傷気味に笑いつつ、言葉を口にする。次いで口を開き、
「だが、真の目的はその先にある。地上での戦火拡大も、ゆりかごの起動も、聖王の復活も───全ては下地に過ぎないんだ。私も含めてね」
フェイトは眉を顰める。スカリエッティが何を言いたいのか理解出来ないからだ。テロを起こし、被害を出し、それで一体何をしようというのだろうか。
「古来より、世界を変えてきた要因は何だ? 時代を変えたのは一体何がもたらした? その答えはただ一つ」
スカリエッティはウインドウに向かって言った。
「───力だよ。世界を変えてきたのはいつだって大きな力だ。力によって革命が起き、戦争をもたらし、そして新たな時代を築いていった。求めらるのは大きな力だ! ゆりかごでも聖王でもない! そんなものは過去のものであり、現代では力を持たない! 新たな力が、世界を次の時代へと変えるのだよ!」
心の奥底から叫ぶように、スカリエッティは言った。フェイトは表情を険しくさせる。今の言葉から、スカリエッティはまだ何かをしようとしている。だが、現に拘束されている状況で一体何をしようというのだろう。
「……種は撒いた。予定通りに成長した。覚醒の条件も満たした。後は───彼女が成すべき事をするだろう」
「答えて。その力というは一体何!?」
ザンバーを向けてフェイトが問う。スカリエッティは振り向き、
「───現代に君臨する絶対的な力。私が生み出した最高傑作だよ」
◇
ゆりかごの後方部にある動力源。その手前の通路でディエチはイノーメスカノンを構えていた。通路は広く真っ直ぐな道が続いている。侵入者がくれば狙い打ちという訳だ。
先ほど衝撃と共に、恐らく六課の魔導師がゆりかご内部へと突入してきたのは分かっていた。狙いは聖王とこの動力源で間違いない。内部のはガジェットドローンが迎撃システムとして蔓延っているが、時間稼ぎ程度だろう。ここに到達するのも時間の問題だ。
ディエチは呼吸を整えつつ、前方を警戒する。こちらへと真っ直ぐ接近する存在を感知した。望遠能力を使い、その存在を視認する。
「あれは……」
此方へと脚力のみで駆けて来る存在は、先日自分を戦闘不能にした人間、なのはであった。その常人とは桁外れのスピードに目を丸くしつつも、砲身をなのはへと向けて狙いを定める。
先日は外したが、今回は条件が良い。この通路は逃げる場所が無い一本道だ。避けるスペースなど存在しない。ディエチがエネルギーを最大限に溜めた砲撃を防げる筈もない。
だからこそ仕留められる。ディエチはそう確信していた。
「今度こそ外さない。これで、仕留める」
狙いを定める。なのはは既にこちらの存在に気付き、そして狙われている事にも気付いているだろう。だが、気付いた所で遅いのだ。ディエチは引き金を引いて、凄まじい威力であろう砲撃を放った。
───しかし。
「普通のパンチ」
なのははその砲撃を、拳一つ突き出して相殺したのだ。いや、相殺どころか、その衝撃がディエチの居る場所まで届き、巨大な砲身であるイノーメスカノンがバラバラに砕け散る。吹き飛ばされ、衝撃で地面に倒れ伏す。彼女の内部機能は衝撃によって異常を起こし、戦闘不能となった。
「……化け……もの……」
ありえない現実と、あまりもの理不尽に絶望の表情を見せながら、ディエチは気を失った。
ディエチが倒れている所まで来たなのははそれを見て、
「あ、この間の戦闘機人だったんだ。前とは威力が違ったからびっくりしたの」
そう一言だけ漏らし、まるで何事も無かったように通り過ぎていく。その後方にある扉を拳で粉砕し、動力源をまた拳で破壊する。爆発を起こし、ゆりかごが大きく揺れる。警報がなり、船内に警告を伝えるシステム音が響いた。
なのははレイジングハートへと質問する。
「これで動力源は破壊したね。ヴィヴィオが居るのは反対側かな?」
その疑問にレイジングハートは肯定する。はやてから聞かされたブリーフィングではゆりかごは動力源、そして聖王の存在で起動している。その二つを無力化すれば作戦完了だ。だが、動力源はこのゆりかごの船そのものと同じで、自己修復機能が備わっている。その為早く聖王の存在を無力化しなければふりだしに戻ってしまうのだ。
なのはは来た道を真っ直ぐ戻り、聖王が居る玉座の間へと向かった。地面を蹴って真っ直ぐ通路を進んで行く。ここまで来るときもそうだったが、近接攻撃に特化したガジェットドローンが道を塞ぐように湧き出てくる。蠍を彷彿とさせるその姿は侵入者を切り裂き、蹂躙するように作られている。だが、それでなのはを止められる筈も無く、ただ通り過ぎていくだけの衝撃で破壊されていく。哀れとしか言い様のない光景だが、それを気にすることも呵責も無い。
やがて立派な扉が見えてくる。レイジングハートが目的地の玉座の間だと教えてくれる。なのはは勢いを止めることをせず、そのまま拳を作って扉へとぶつけた。それにより激しい爆発で扉が破壊される。
その空間には奥へと続くように綺麗な装飾がされていた。まるでファンタジーの世界の王室といえる空間である。だがなのははそれに感嘆の声を漏らすこと無く、興味を見せない。なのはの視線はただ一つ───玉座に拘束されているヴィヴィオだった。
「あらぁ、随分来るのが早かったですねー。先ほど動力源を破壊したばかりだというのに、凄まじい速さをお持ちで」
横から声が聞こえる。それは玉座より少し横に居たクアットロによるものだ。玉座の高い段差から此方を見下ろし、挑発するように笑みを浮かべている。
「……貴女がヴィヴィオにこんな事を?」
「まあ、実質このゆりかごを操作してるのは私なのは間違いないですねぇ。それで、どうします?」
「決まっているの……ぶっとばす」
拳を握り、クアットロを睨む。対し、クアットロは演技かかった動作で両肩を抑えて怖い怖いと言葉を発す。この人を馬鹿にしたような性格は好きになれそうに無いと思いながら、一歩近付こうとすると、
「おっと……私を先に倒そうだなんて事しないで下さいよー。……さあ、王様? 貴女にぴったりの強者が現れました。この女を倒さないと、また世界は混沌の闇に陥ってしまうでしょう。貴女の大事なものが、全て無くなってしまいますよー? 嫌ですよねー?」
クアットロはヴィヴィオに対し、出鱈目な言葉を囁く。ヴィヴィオはそれを苦しそうにしながら涙を流し、嫌と叫んだ。
「ヴィヴィオ!?」
なのはが心配するようにヴィヴィオの名を叫ぶ。だがヴィヴィオにはその言葉は届かず、ヴィヴィオの叫びはどんどん激しくなる。それに合わせ、空間が振動を起こし、まるで何か大きな力が目覚める前触れのようなものが漂った。
「嫌嫌嫌嫌いやいやいやイヤイヤイヤ……いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッ!!!」
その瞬間、凄まじい光と魔力がヴィヴィオを包み込み、空間を白く染め上げる。その隙にクアットロは転移で姿を消す。なのはは視界が戻るまで待つと、そこには先ほどと変わらぬ光景が広がる。
だが、決定的に違うものがあった。
───ヴィヴィオの姿が、明らかに変わっていたのだ。
姿は女児から大人の姿へと変貌し、まさしくヴィヴィオがそのまま大人になったらという印象だ。さらにその身に纏う騎士甲冑は黒く染め上がり、およそ普通の魔導師では絶対に届かないであろう魔力を放っている。
なのはは戸惑う中、必死に状況を飲み込もうとした。そもそもヴィヴィオは聖王のクローンとして生み出された存在だ。しかしその身体はまだ幼かった筈である。本来がその姿なのか、それともスカリエッティによってそういう姿にされたのか。
いや、なのはと過ごしたヴィヴィオが偽りの姿とは考え難い。だとすれば、この姿は力の解放によるものだろうかと思考する。
「……もう……失うのは……嫌……ッ!!」
仁王立ちしながらも、その表情は悲しみに歪められており、涙を流している。
「ヴィヴィオ……?」
話しかけるが、ヴィヴィオはそれに返事しない。どうやら、こちらを認識出来ないのだろうとレイジングハートが教えてくれる。今のヴィヴィオにとっては、なのはは自分の敵だとしか認識出来ないのだろう。
するとヴィヴィオはなのはに向け、鋭い双眸を向ける。魔力がさらに放出され、拳を構えている。
「……やるしかないみたいだね。本当は、こんな折檻みたいな事しなくないんだけど」
なのはは覚悟を決めて、ヴィヴィオへ向けて臨戦態勢に入る。ワンパンで倒しては駄目だ。それは分かっている。何とかヴィヴィオを救い出す方法を見つけなければならない。
「レイジングハート、方法見つけられる?」
訊ねると、レイジングハートは答える。一度接近し、ヴィヴィオがこうなってしまっている原因が分かれば方法はある筈だと。ならば、やる事は一つ。一度拳を交えてみるしかないのだ。
「今までで一番気を使う手加減になりそうなの」
苦笑いを浮かべ、なのはは地面を蹴り、ヴィヴィオへと接近した。