正義執行   作:ラキア

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第26話

 

 

 ティアナとの念話を切った後、エリオはガリューと共にティアナのいる反応の場所へと向かっていた。加速して地面を蹴り、道を進んで行く。反応が近くなり、一際損傷の激しいオフィスビルが見えた。そこにティアナの反応があった為、穴が空いている壁から内部へと入る。

 そこには激しい戦闘の傷跡が残るロビーが視界を埋め、倒れているノーヴェ、そしてギンガを見つける。そして壁際にはもたれ掛るようにして倒れているティアナの姿を確認した。

 

「ティアナさん!?」

 

 エリオはティアナの元へと駆け寄る。一体何があったのか。相打ちとしてはやけに不自然な状況だ。ティアナの意識は辛うじて残っており、エリオの事を見ると苦しそうに声を上げる。

 

「エリオ……?」

「ティアナさん! 一体何があったんです!?」

 

 エリオの疑問にティアナは咳き込みつつ、

 

「……スバルよ。……あの馬鹿……まるで別人じゃない……」

「スバルさん……? 一体どういう?」

 

 ティアナの言葉にエリオは理解が追い付かない。だが、ティアナは次いで口を開き、

 

「……あの馬鹿を、早く止めて……あいつ、本当に……ッ!」

 

 そこでティアナは意識を失う。エリオは一体何が起こったのか分からなかったが、スバルに何かが起こった事だけは理解出来た。ノーヴェとギンガの身柄を確保しつつ、エリオはキャロへと通信を繋ぐ。

 

「キャロ、聞こえる? こっちは今ティアナさんを見つけた。酷い怪我をしてるけど、命に別状は無い。戦闘機人も二人確保した」

『了解、エリオ君! こっちも今シグナム副隊長と合流してゼストさんを止めた所』

 

 その言葉を聞いて、エリオとガリューは一先ず安堵する。

 

「キャロ、そっちでスバルさんを見かけた?」

『スバルさん? スバルさんって今、行方が分からないんじゃ?』

「僕もよく分からないんだけど、ティアナさんによれば、スバルさんが現れたらしいんだ。多分、普通の状態じゃないと思う」

 

 恐らくはエリオの知るスバルでは無いことだけは確かだ。戦闘機人二人は明らかにティアナによって倒されたとは思えない怪我の仕方をしており、ティアナの傷から見て接近戦での攻撃を受けたと思われる。だとすれば、戦闘機人とティアナを倒したのはスバルだろうと推測する。ティアナを攻撃したという事は、スバルが正常ではないという事だ。

 その事をキャロに説明しつつ、とりあえずは皆一旦合流することに決めた。エリオはティアナを抱え、ガリューは両脇に戦闘機人を抱えてビルから出る。するとエリオは上方に何かを感じた。

 

 そこには、ビルの屋上から空に向かって何かが飛んでいく光景があり、その何かは人間とは思えない速度で一直線に上空へと飛んでいく。その先にはもう一つの戦場である───聖王のゆりかごがあった。

 

 

 

 

 

 

 もう数えるのも億劫に成る程の砲撃魔法を放って、ガジェットドローンの群れを撃破する。さすがに疲労も蓄積され、肩で呼吸する。はやては周りの状況を確認した。他の航空魔導師の隊も疲弊が現れている。

 だが、休んでなど居られない。気を抜けばガジェットドローンとゆりかごの砲撃の餌食となって空の塵と化すからだ。そして自分らが散れば、塵と化すのはミッドチルダ全てだ。故に弱音など吐いていられない。

 なのはがゆりかごを無力化するまでが勝負なのだ。

 

「フェイトちゃんの方もアジトを押さえたし、地上のほうも何とか持ちこたえている。後は私等が頑張らな!」

「はいです!」

 

 夜天の書を持ち、詠唱を唱えて砲撃魔法を放つ。それによって更にガジェットドローンの群れを撃墜した。だがゆりかごからは無尽蔵にガジェットドローンが排出される。切りが無いが、踏ん張らなければならない。

 

 ───その時である。

 

「───ッ!? 何や!?」

 

 下方から何かが接近しているのを感じ、視線を向ける。そこにはゆりかごに向けて一直線に飛んで来る人影が映った。まるで先ほどのなのはと同じような光景である。

 凄まじく速く、何かしようとする間も無く、人影はそのままゆりかごへと衝突した。激しい爆発がゆりかごの下部に起こる。

 

「一体何が……!?」

 

 

 

 

 

 

 玉座の間にはこれといった障害物が無い。故にどこにも逃げるスペースなど無い。だが、そんなのは二人にとって意識の外だ。なのははヴィヴィオへと接近し、拳を繰り出す。ヴィヴィオはそれを上体を屈んで避けつつ身体を回転させ、そのままなのはの背にカウンターを入れた。がら空きだった背中にヴィヴィオの拳が命中し、なのはは前方への勢いもあってそのまま吹き飛ばされる。

 激しく煙が舞う中、なのはは直ぐに身体を起こしてその場から跳躍する。姿が見えない筈のヴィヴィオから直ぐに追撃され、その攻撃はなのはが居た場所へと拳が打ち付けられる。

 後方へと跳び、なのははヴィヴィオへと視線を向けつつ、

 

「……さすがに、手加減が過ぎたかな?」

 

 攻撃を受けたが、別段に顔色を変えることも無くなのはは言葉を漏らす。先ほどのなのはのスピードはいつもの普通の攻撃よりも更に速度を落としたものだ。なのはとしてはヴィヴィオに攻撃などなるべくしたくない。故に攻撃も甘くなった。

 

 だが、レイジングハートはそんななのはへと一つ報告する。それはヴィヴィオを助ける方法が分かったというものだ。

 

「流石レイジングハート! それで、どうやって助けられるの?」

 

 問うと、レイジングハートは答える。そうしている間にもヴィヴィオはこちらへと接近し、拳を振るってくる。なのははそれを余力を残しつつ回避し、レイジングハートの声に集中する。

 レイジングハートが言うには、ヴィヴィオの身体にレリックの反応があるという事。それによってヴィヴィオが聖王の力を発動しているという事だった。しかし、それが分かった所でなのはにはどうしようも無いのが現実だった。

 身体の中にレリックの反応があるからといって、どうすればいいというのだ。以前のナハトヴァール戦とは違い、今回は人間で、しかもなのはが大事と思うヴィヴィオが相手だ。もしレリックを破壊しようとワンパンすれば、間違いなくヴィヴィオの命は散ってしまうだろう。そんな事は出来る筈もない。

 

 ヴィヴィオの拳を避けつつ、なのはは壁沿いを蹴るように駆けて翻弄する。それを拳から放出する砲撃によって追い討ちをかけてくるが、それをも何とか回避して行く。その隙にレイジングハートは答えた。

 

 魔法によって内部に魔力を通せば破壊が可能だと。しかし、その言葉になのはは戸惑いを露にした。

 

「魔法って言ったって……私、今まで魔法で攻撃なんてした事ないよ?」

 

 なのははこれまで飛行魔法や足場を作る程度には魔法を使って来た。元より魔法適正が高かった故に問題は無かったが、それでも使用する機会などほぼ皆無だ。今更魔法で攻撃なんて出来る筈がなかった。

 だが、レイジングハートはそれを重々分かっている。だからこそ言葉を続けた。

 

 なのははそのままヴィヴィオの胴に死なない程度に攻撃すればいい。その瞬間に拳に魔力を込め、それを放出することによってレリックを破壊すると言葉にした。確かにそれならば、なのはにも出来る事だった。

 別段難しいことでは無い。ヴィヴィオは魔力弾【バレットシェル】を展開し、拳から放出する魔力と共になのはへ一斉攻撃を繰り出す。それをなのはは普通のパンチを突き出す事によって相殺する。

 

「分かった、タイミングは任せるよ! レイジングハート!!」

 

 全力にて承りますとレイジングハートは機械音ながらも声を高くして答えた。丁度ヴィヴィオが跳躍して此方に回し蹴りを繰り出してきたので、その脚をつかみ、勢いに乗ったまま回転して投げ飛ばす。だが手加減故にヴィヴィオは空中で捻ることによって態勢を立て直し、足を安定させて此方を睨んで来る。

 

「……行くよ、ヴィヴィオ」

 

 その言葉が合図だった。なのはは踏み込み、ヴィヴィオも踏み込む。互いに接近した為、距離は一瞬にして殺した。どちらも腕が届く間合いになり、どちらが先に相手に攻撃するかのタイミングだ。

 先に攻撃を繰り出したのはヴィヴィオだった。腕を振るい、なのはの顔面へと拳を突き出す。しかしなのははそれを冷静に避け、がら空きだったヴィヴィオの胴へと拳を突いた。

 

【挿絵表示】

 

 瞬間、胴に触れたなのはの拳から桃色の魔力光が放出される。拳の威力はかなり手加減したものだが、魔法の威力は全力だ。まるで衝撃波のようにして魔力はヴィヴィオの胴を貫通し、同時に何かが砕ける音がした。

 瞬く間に玉座の間は光で埋め尽くされ、それが収まる頃には全てが終わっていた。

 

 視界が元に戻ると、そこには倒れるヴィヴィオの姿があった。身体は元の幼い姿へと戻っており、気を失っている。

 

「ヴィヴィオ!?」

 

 なのはは心配しながら駆け寄り、ヴィヴィオを抱きかかえる。呼吸はしている。どうやら、上手く成功したようだ。ホッと安堵して笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、レイジングハート。今回は全部、レイジングハートのお陰だよ」

 

 レイジングハートは相変わらずの機会の音声で「それが私の役目です」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 玉座の間から、船の下部にある空間。そこには所謂コントロールルームのような場所であり、そこでクアットロは端末を操作してガジェットドローンのコントロール、そしてゆりかごの動力炉の復元作業を行っていた。出現させていた立体ディスプレイには地上の様子やアジトの様子、そしてなのはとヴィヴィオの戦闘の様子などが映されていた。すでにアジトは押さえられてしまった為、映像の回線が切れてしまったが、別段それは問題ではない。

 

 問題は、ヴィヴィオがなのはによって倒されてしまった事だ。聖王の存在が無くなった事によって、ゆりかごは本格的に機能を失いつつある。そしてクアットロはなのはの戦闘能力の高さに対しても身体を震わせていた。

 

「う、嘘……嘘でしょ? 聖王の力が……あんな、いとも簡単に倒されるなんて……ありえないありえない……ありえないッ!!!」

 

 頭を掻き毟り、先ほどまでの愉悦に満ちた表情が嘘のように恐怖で震えていた。もはやクアットロにはどうしようも無い現実だ。スカリエッティの唯一の希望だった筈の聖王とそのゆりかごが、なのはによって無力化されたのだ。聖王が負けるはずが無いと確信していたからこそ、自信に満ちていたのだ。

 だがどうだ、現実はもう詰んでいる。必死に思考を巡らせても打開策など出て来やしない。

 

 終わり。その言葉がクアットロの脳裏に浮かぶ。膝から崩れ落ち、地面に手を付けて倒れこむ。もうじき管理局がゆりかごを押さえに本格的に突入してくるだろう。そして無人となったこの船は管理局の艦隊によって沈められるだろう。そして自分達は牢獄へと閉じ込められるだろう。もはや絶望的としかいえなかった。

 だが、そんなクアットロの元に、一つの変化が起こった。

 

 激しい爆発と共に、空間にとある人物が現れる。何事かとクアットロは身体を振るわせつつ、煙が舞っている方向へと視線を向けた。コツコツと足音が聞こえる。やがて煙が霧散し、そこから現れた人物は───黒い怪人だった。

 

 訳が分からない。一体この怪人は何なのか。どうみても管理局の魔導師には見えない。クアットロは必死に思考を巡らした。立ち上がり、その怪人と目線を合わせることにより、クアットロに一つの記憶を蘇らせる。

 

「……そうだ。……ドクターが言ってたわ。……この世界に大きな力を生み出すって……」

 

 いつだか言っていた事だった。当時は何のことだか分からなかったが、それは聖王の存在の事だろうと思っていた。

 

 ───だが、それが勘違いで、スカリエッティの言っていた事が別の存在だとしたら。

 

 ───もしそれが、今目の前にいる怪人の事だとすれば。

 

 その思考の果てに、クアットロは再び表情を明るくさせた。蜘蛛の糸が繋がったような高揚感。興奮し、怪人へと話しかける。

 

「あなたはもしかして、ドクターの言っていた……大いなる力?」

 

 すると怪人は頷き、肯定する。その事実に、クアットロは嬉々として興奮した。まだ計画は終わってなんかいないと理解した。そうだ、考えてみればスカリエッティがこの展開を予測できていなかった筈がない。この聖王をも格下に思わせる力の波動、この怪人こそが、スカリエッティの夢であるのだ。

 クアットロの口から笑みが零れる。身体を震わせる。

 

「……ああ、最高……最高だわッ!! ドクターは本当に人が悪い! こんな切り札があったなら、私にも説明してくれなきゃ!!」

 

 クアットロの言葉に怪人は一切反応を見せないが、そんな事は彼女にとってどうでもよかった。クアットロは肩を抱えて身体を振るわせた後、怪人に向かって命令するように言葉を吐いた。

 

「なら話は早いわ! 今すぐ玉座の間に居る管理局の魔導師を倒して下さい! あ、聖王のクローンにはまだ利用価値があるので殺さないように。魔導師は容赦なく殺して構わないわ! 私の為、ドクターの為に!」

 

「───断る」

 

 怪人から出た言葉に、クアットロは固まった。理解が追い付かない。一言だけ言った怪人はクアットロに向かってゆっくりと歩き出す。クアットロは狼狽する。

 

「ま……待って! 何でよ!? あなたはドクターの為に生まれた存在なんでしょう!? ならドクターの夢を叶えるのは当然の事じゃない!!」

「……お前は一つ、勘違いをしている」

 

 怪人は目の前まで来てから、クアットロを睨みつけ、

 

「私がスカリエッティによって生み出されたのは事実だが、私はスカリエッティに従うつもりも無いし、ましてやお前の指示に従うつもりも無い。むしろ───邪魔なんだよ。管理局の存在も邪魔だ。世界に蔓延る治安維持の組織も邪魔だ。世界に蔓延する偽善を振りかざす人間が邪魔だ。欲に溺れて悪事を生み出す奴も邪魔だ。……私は、世界の全てが邪魔で仕方ないんだ。だから変えなければならない。邪魔でしかない存在を消し去り、絶対的な力によって恐怖で埋め尽くすんだ。───大きな悪で、全てを変えてやる」

 

 クアットロにはもう、思考する余裕すら無かった。ただ、この怪人から発せられるとてつもない恐怖に、失禁し、棒立ちすることしか出来なかった。

 

 気付けば、クアットロは怪人によって殴り飛ばされ、広い空間の壁に激突した。

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