正義執行   作:ラキア

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第29話

 カタカタ、とキーボードを打つ音が執務室に響く。表示されているディスプレイを見て、ようやく一段落ついたと確認してから背もたれに寄りかかり、腕を伸ばした。周りを見てもそこには誰もいない。それはそうだとフェイトは思う。この執務室は本局にある自分の個室のようなものだ。故に集中して仕事をすることが出来る。机に置いてある時計の時刻を確認すると、既に二二時を回っていた。そろそろ退勤しようと思い、ディスプレイに日報を入力してから更新し、電源を落とす。荷物をまとめてから席を立ち、扉の前まで歩いてからキーカードをかざして扉を開けた。

 本局からは転送装置で地上へと降りる。転送装置に向かう際に、まだ仕事をしている局員を見かけて挨拶緒交わしていく。流石にまだ慌しいなと思いつつ、転送装置についた為、地上へと転送した。

 

 事件終結から既に二ヶ月が経過した。

 

 魔法技術の賜物で復旧作業はかなり進んではいるものの、ミッドチルダは以前の平和を完全には取り戻してはいない。現場の被害の爪痕も未だに残っている状態であり、集積所では瓦礫の片付けが未だに行われている。また地方都市ではスカリエッティが扇動した犯罪者の暴れ回った為、略奪が酷かった地域ではいまだに手が付けられない部分も多く、多くの局員が収拾作業にあたっている。

 それでもクラナガンを始め都市部では先の復旧作業である程度は生活できる状態にまで回復はしていた。生活する上での不便な所はほとんど無いだろう。だからこそ、局員にとっては今が一番大変な時期だ。

 

 本局の転送装置から地上本部にある転送装置へと転送を完了し、そこから歩いて外へと出る。途中の通路では案の定、陸の局員が慌しく仕事に追われている様子が見て取れた。お疲れ様と挨拶していき、駐車場へと向かう。すると途中によく見る背中を見つけた為、声をかけた。

 

「ティアナ」

「あ、フェイト執務官。お疲れ様です」

 

 書類が入っているだろう鞄を下げ、六課の制服に身を包んだティアナの姿があった。振り返り挨拶をしてきたのでそれを返し、二人で並んで廊下を歩く。

 

「ティアナは今日は地上本部でミーティングだったっけ?」

「はい。ナカジマ三佐の付き添いで。私は個人的に済ませたい用事があったので、この時間に」

 

 ティアナの外出連絡から思い出す。現在、機動六課はナカジマ三佐率いる陸自と合同で仕事をしている。主に事件の収拾の為だ。故にティアナも含め、陸自の局員と一緒に行動する機会が増えた。元より対スカリエッティの為といっても過言ではない目的で作られた機動六課だ。その目標が達成されたからといっても、一年という期間が途中で終わることはない。残り約半年はこんな感じで仕事にあたることだろう。

 停めてある愛車に乗り、ティアナが助手席に座る。エンジンをかけて道路へと出る。都市部とあって車の量も多く、人工的な光に照らされながら幹線道路を走っていく。ビル群は災害前と比べ光の数が少ない。完全に復旧が進んでないのか、入っている企業も以前よりかなり減った為だろう。先ほど自販機で買っておいた飲み物に口をつけながら真っ直ぐ進んで行く。

 

「そっちの方も上手くいってる?」

「はい。ナカジマ三佐が率先して事件の収拾に力を入れているので、こっちも問題は無いと思います。時間はかかると思いますが……」

「まあ、そうだよね」

 

 苦笑いしつつ、納得する。

 あの事件が終わった後、逮捕されたゼストが差し出した過去の戦闘機人に関するデータを元に、スカリエッティの事件の捜査は一気に進んだ。それと同時にレジアスも汚職を認め、全てを吐いたのもあって局内の捜査も進んだ。更に秘密裏に査察部と協力して調べていたユーノによって最高評議会も直ぐに告発され、処分を下された事により、芋づる式に関わった局員が次々と逮捕されていった。その光景はある意味衝撃的だった。因みにユーノが事件当時に最高評議会の元へ向かった際に戦闘機人と遭遇し、ユーノの捕縛術によって直ぐに確保された。もしユーノがいなければ最高評議会は今頃この世から消えていたのかもしれない。レジアスも処分を下され、現在は完全に引退している。

 

 一方、スカリエッティの処分の方だが。管理局を襲撃し、犯罪組織を扇動してテロを起こし、さらに古代兵器を使ってクラナガンに莫大な被害をもたらし、挙句の果てにミッドチルダ壊滅のあと一歩までやらかしたのだ。正直死罪が適正だろう。その結果、スカリエッティは終身刑へと決まった。このまま牢獄暮しで一生を過ごすことだろう。

 戦闘機人はスカリエッティによって使われていたという事もあって、捜査に協力的であれば更正施設にてしばらく過ごし、刑期を短くすることが出来る事となった。だが何人かの戦闘機人は非協力的である為、スカリエッティ同様に牢獄へと送られている。

 ゼストはあの事件終結後に容態が悪化し、残念ながらこの世を去った。ルーテシア、アギトはスカリエッティ確保後に協力したという事もあり、更に肉親が実質人質に取られていたという事もあり、更正施設へと送られて刑期が軽くなるようだ。前にギンガと一緒に様子を見に行った際は元気そうに過ごしていたので大丈夫だろう。

 カーブに差し掛かったため、ハンドルを切りつつフェイトが口を開く。

 

「はやては今日も本局泊まりだって」

「今日も、ですか。まあ、大変ですよね……」

「あはは、まあ仕方ないね。部隊長だし」

 

 あの場で前線にいた一人であるはやては現在でもなお仕事に追われている状態だ。それは前線での指揮を担当したのだから、後始末もそれなり多いのは当たり前だ。自分もアジトに突入した故にやることも多かったが、ヴェロッサとシャッハもいた為、はやてと比べると少ないのが幸いだ。幸いというと起こられそうだなと思っておく。

 

「ヴィータ隊長たちも地方都市に行ってますから、今日は戻って来れなさそうですし」

「そうだねぇ……」

 

 ディスプレイを起動して届いているメールをチェックしながらティアナが言う。

 あの事件の最中に全身負傷で治療を受けていたヴィータとザフィーラとシャマルは、その驚異的な回復力で直ぐに復帰し、いち早く仕事に復帰していた。現在はヴィータ、シグナムとザフィーラの三人で被害を受けた地方都市に行って仕事をしている。

 

 ティアナはメールの内容をチェックしながら、ふと画面端に映ったネットニュースの内容を見た。そこには先の事件【JS事件】についてある事ない事が書かれているのを見て少し溜息を吐いた。その様子を横目で見て察したフェイトが口を開く。

 

「またネット記事でデマ?」

「デマ……といえばそうですね。全部が間違っていないんですが、一部憶測が入っていますねこれ」

「まあ、全部マスコミに公表できないからね」

 

 JS事件。そういう内容で世間にはこの事件が知れ渡っており、その全容は語られてはいないが故に、管理局を叩くような記事が広まっているのが事実。組織内の裏取引やら犯罪組織と繋がっている等、内容は様々だ。管理局もそうであるが、聖王教会側でもこの手の話は多く、今回の事件に聖王が関わっていたのだとか、どこから漏れたのか知らない内容が含まれており、それによって信仰者の一部で騒ぎになったりもした。

 それでもだいぶ落ち着いた方ではあり、今ティアナの目に映った記事はまだマシな内容だった。相変わらず皮肉が多く含まれてはいるが。

 

「エリオとキャロは先に隊舎のほうへ戻っているそうです」

 

 ティアナの言葉に安心したように答えた。エリオとキャロは現在、地方の復旧作業もそうだが、基本的に六課の仕事はロストロギアの調査とその確保だ。それは変わらない。故に二人はどちらかというとその調査のほうの仕事にあたって貰っている。二人だけではなく、何人かの魔導師と組んでいるので心配は無く、更に復帰したシャーリーを始めとしたロングアーチがついているので問題はないだろう。

 機動六課の隊舎の方も復旧が終わり、現在では寮も含め元の形を取り戻していた。訓練場のほうはまだまだ先の話であるが。

 

「そういえば、スバルの様子はどうだったの? 今日の午前中、様子を見に行ったんだよね?」

「はい。相変わらず、といった感じでした」

 

 フェイトの問いに、ティアナは苦笑いを浮かべつつ答えた。

 スバルはあの後、直ぐに入院と検査を受ける事となった。当然といえば当然であるが、その時のマリエルの話によると、以前のスバルの身体とは殆ど構造が変わっていたらしく、以前の戦闘機人の身体とは違うものになっていたそうだ。人間の身体に近いものへと変化していたらしく、メンテナンスも今後ほぼ必要が無いくらいになっていたらしい。その時のマリーの様子は完全なる機械と人間の融合体の完成形と興奮していたのは衝撃だった。

 スバルの事については、こちらで被害に遭った者がティアナとなのはくらいなものだったので、そこまで重い罪にはならなかったが、本人が自首した故に、現在戦闘機人たちと共に更正施設へと入っている。刑期が終わるのは一番早いだろう。何故か戦闘機人の赤髪の子達や茶髪の姉妹に怯えられていたのは何だったのだろうかと疑問に思うが。

 

「ティアナ的には、相棒がいないのは寂しいよね。多分一番早く釈放されるとは思うけど」

「いえ、大丈夫ですよ。あの馬鹿にとって頭を冷やすいい機会ですから」

 

 スバルに対する軽い毒を吐いてティアナは笑う。ゆりかごが沈んだ後、スバルは真っ先にティアナに謝罪した。当然ティアナも複雑な心境であったが、長い付き合いというのもあって許す事にした。一度フルボッコにやり返したのが条件だったが、それは良いだろう。友情の証だから仕方ない。

 同じくギンガも操られていたとあってギンガ自身には特にお咎めは無かったのだが、それでも罪を償うと自白して処分は受けた。逮捕まではいかないものの、やることは多々あっただろう。因みにギンガはスバルに対して何も思っていなく、むしろ自分が民間人に手を出すのを止めてくれたとして感謝していた。それもあってギンガは更正施設にて更正プログラムの仕事を担当している。

 

 そうこう話をしていると、そろそろ六課に着く頃合だ。高速道路から降りてから道路を進んで行き、やがて隊舎が見えてくる。門を通り、敷地内へと入って行く。あの事件で怪我を負った殆どのクルーが復帰したお陰で、現在六課の機能は通常運転だ。怪我の酷かったヴァイスもリハビリを終わらせてヘリパイロットとしての仕事に復帰している。

 

 駐車場に車を停めてから歩いて隊舎へと向かう。ティアナは書類を事務室に。フェイトも執務室へと向かう。

 

「ではフェイト執務官、お疲れ様でした。ありがとうございました」

「うん、お疲れ」

 

 挨拶を交わしてからティアナと分かれる。執務室へと入り、そこで本局の執務室でまとめたデータを自身の机のシステムに同期させておく。隊舎が復旧する前までは本局で執務室を借りていて、復旧が終わった今でも本局と六課の両方に自分の執務室がある。これはクロノが手を回してくれたのが切っ掛けである。何かと本局での用事が多い為、現在でも本局で執務室を借りているのだ。

 

 執務室から出てから寮へと向かう。寮に入り、淡い光が出迎えてくるのに対し、一気に気持ちがリラックスされる。軽く腕を回しながら自分の部屋とへ向かう為、廊下を歩いていく。

 

 すると目の前になのはの後ろ姿が見えた。

 

「なのは」

「あ、フェイトちゃん。今帰り?」

 

 駆け寄ってなのはへ声をかける。部屋着姿で廊下を歩いていたなのはは振り返った。どうやら自販機に飲み物を買いに行く途中だったようだ。折角なので、なのははフェイトと共にフェイトの自室へと向かう。

 

 室内へと入り、置いてるソファに腰掛けてフェイトが着替えを済ませるのを待つ。

 

「ヴィヴィオは、もう寝たの?」

「うん、今はぐっすりと寝てるよ」

 

 着替えながら訊ね、それに答える。

 ヴィヴィオはあの後、聖王教会にて検査、入院してからしばらく経ち、無事に退院した。ヴィヴィオの事をどうするかで聖王教会と色々話はあったのだが、本人の希望もあって、なのはが正式にヴィヴィオの保護責任者となったのだ。現在なのはは六課の嘱託魔導師としての期間中の為、こうして隊舎で過ごしているのもあり、ヴィヴィオもこの寮での暮らしとなっている。

 フェイトが着替え終わり、なのはの向かいの席に座りながら口を開いた。

 

「なのはの嘱託の期間、もうすぐ終わりだよね? 今後はどうする予定?」

「んんー……とりあえずはヴィヴィオを学校に通わせたいから、その準備かな。お金はお陰様で沢山あるし」

 

 顎に指を当てつつ、ニッと笑いながらなのはは答える。なのははそもそも自宅が被害を受けて嘱託魔導師になった身だ。故に色々とお金はあるし、ヴィヴィオの事に関してはある程度聖王教会からも手助けはするとの事。その厚意に甘え、学校も聖王教会の学院に通うことになるだろう。家の方も復旧手当てにより、不便の無い高級住宅地に建てる事になったので、問題は無い。

 

「後はそうだね、喫茶店でも始めようかなって思ってる」

「喫茶店?」

「うん。色々と準備は必要だけど、実家の経験もあるし何とかなるかなって」

 

 その言葉に思わず笑みが零れる。今まで無気力に生きてきたなのはが、いきなり自営業を始めると言うのだから当然だろう。しかし、今のなのはの様子を見れば、結構様になるのかもしれないと思う。

 

 ───なのはの姿はもう、かつての無気力さなど微塵に感じられないからだ。

 

 以前とは違い、今は生き生きとしていると感じる。それもこれもヴィヴィオのお陰なのだろう。ある意味、なのはの心を救ったヴィヴィオはヒーローなのかもしれない。

 

「じゃあ、頑張らないとだね、なのはママ」

「あ、フェイトちゃんにからかわれたー!」

 

 言って互いに笑い合った。こんな風に素直に笑い合えるのも久しくも感じる。蟠りが消えたのが大きな要因だろう。力やそれに伴っての孤独感や疎外感に振り回されて無気力になっていたものが無くなり、素直な感情が出てくる。

 

 ───だからこれでハッピーエンドとして締めてもいいだろうと、今までの戦っていた自分に対し、なのははそう思った。

 

 

 

 ───ONE PUNCH-GIRL END

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

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