「───さてと、突然ですまんなー」
「いえ……」
自分の記憶が正しければ、自分達はランク昇格試験を受けたはずだ。そして結果は考えられる限り最高の結果だった。ミスはしなかったし、問題は起こさなかった。問題なのは今の状況だ。ガラスのテーブルを挟んで相対するのは現在の管理局でもかなりの有名人、現在大活躍中のエース。茶髪のショートの女性、八神はやて。その実力と経歴は見る者を認めさせるしかないものであり、歩くロストロギアと呼ばれている程の人物だ。彼女の肩の上の小さな存在がリインフォース・ツヴァイでユニゾン型デバイス、今回の試験を受け持ったのが彼女だ。
丁寧にコーヒーを入れてくれて、それを自分とティアナの前に出してくれる。それに礼を言うとはやてはコップを手に取りコーヒーを一口飲む。それに合わせて自分もコーヒーを飲んだ。こういうのは相手に合わせたタイミングで一口飲むのが一番礼儀が良いと思っている。飲み終わってから一息つき、はやてが自分達を呼んだ理由を説明してくれた。一つ一つの説明を頭で整理しながら聞いていく。
「───っと、そういう訳で私としては二人を私が設立する部隊に来て貰いたいと思ってるんよ」
「正式名称は古代遺物管理部・機動六課。古代遺物、つまり主な業務内容はロストロギアの探索と確保です。と、言っても探索が任務内容では無いので見つかったら確保しに行く感じになります。二人にとっては部隊に入ることによって経験は勿論、昇格への近道にもなるです。悪い条件は無いと思いますが、どうですか? 何か疑問があれば質問に答えますよー?」
ツヴァイが補足しながら説明を引き継いでくれる。スカウト。それが今、自分達が受けているものだ。それも八神はやて程の人物が設立しようとしているものにだ。まず間違いなく多くの経験と昇格をするためのチャンスだ。それに関しては全く疑う必要は無い。ただそこには色々と情報が抜けていると自分でも感じる。
隣のティアナに視線だけ向けると、彼女も疑問を浮かんでいるのが分かる。
「八神二等陸佐」
「なんや?」
ティアナが視線を真っ直ぐはやてに向けてから、ふぅと軽く息を整えてから、口を開く。
「では質問させていただきます。古代遺物を確保する為の部隊とお聞きしますが、正直な話それに対して我々をスカウトする意味が解りません。私達は八神二等陸佐とはあまりにも実力が離れ、足手まといも良いところです」
「そんな事ないで? 未来の貴重な戦力を迎えてもこっちには損は無いんよ」
はやてが笑みを浮かべつつ答えるが、ですがと言葉を挟んでから言葉を続ける。
「八神陸佐の事については自分達も色々と知っています。そして調べました。八神陸佐にはヴォルケンリッターという強大な戦力を個人保有しています。それを己の部隊から外す理由が見つかりません。その時点で一部隊で保有できる戦力としては十分です。それにわざわざ自分達をスカウトする理由が不明だと思います」
ティアナが言うように、そんなエリート部隊にわざわざ自分達を迎える理由が見つからない。確かに自分個人と、ティアナの評価をするならば、才能はあるほうだと思う。自己評価を認識することは、自分には何が出来るのかと認識するためには先ず大事な事だ。それに己が出来ることを把握できていれば、状況判断。分析。それら必要なものが把握できる。だから自己評価は正確に認識しなければならない。下手な謙遜など不要だ。だが確実に発展途中の魔導師だ。
部隊に引き込んだとすれば、部隊に入ってからの成長という事で部隊の強化が行える。それが理由だとしても───。
はやてが設立する部隊には、恐らく管理局執務官、そしてエース・オブ・エースのフェイト・T・ハラオウンも入隊すると考えられる。そうなれば部隊の保有としては確実に過剰なレベルだ。その旨を伝えた上で、ティアナは正確な任務と業務内容を伝えてくれないとスカウトには自分共々答えられないと宣言し、自分もそれに答える。
自分には細かい、高いレベルの交渉など行えない。考えが直ぐに表情に出てしまうからだ。だからティアナに任せて、自分は頭を整理しつつなるべく言葉を口に出さない。此方がある程度強気に出ないと、交渉を対等に行えないと考えているのだ。そうしてはやての反応を待ち、相手が笑みを浮かべる。
「成る程なぁ……。調べた通りに、ランスター二等陸士はなかなか賢いなぁ。それに黙って思考整理しているナカジマ二等陸士も流石や。目をつけただけはある。十分やね」
はやての言葉から理解するに、これも試されてやられていたのだろうと確信する。相手が部隊を指揮する立場なので部下になるかもしれない人間は試しておきたい所だ。はやては一度コーヒーを一口飲んでからテーブルに置き、口を開く。
「なら試すんはここまでや。ここからは正直に話すで」
情報を整理しつつ、話を聞く。はやての話からは自分達が保有する戦力だけではせいぜい部隊の手伝い程度しか出来ないと思い、いざという時に行動できる自分たちの部隊を設立し、目的を確実に達成したい。それがざっくりと話した内容だ。その目的とは何なのかとティアナは質問をするが、はやてはそれに平和への貢献と答える。ティアナは呆れそうになるのを堪え、具体的にと話す。
「最初に言ったように、私たち機動六課の目的はロストロギアの確保って言ーたけど、そのロストロギアが結構大変な代物でな。ここだけの話、うちらが集めるロストロギアは悪意ある誰かが狙っている代物なんよ。つまりこのロストロギアを追うことは、この犯人に確実に近づく事になる。既に相手の戦力と衝突している現状や。だから、戦力はなるべく多く保有したい。それが戦力の過剰保有の理由や」
その説明を聞き、自分の思う疑問は粗方片付いたように思える。そのロストロギアの事、既に起こっている事件の詳細なども聞かねばならないが、それは部隊に入ってからでないと知ることは難しいだろう。ティアナも思考を固めている最中だ。
ここで仮に部隊に入ることになれば、それは普通に陸士部隊にいるよりも確実に前に進める。それは確かなんだ。
「……まあ、ここで決めてと言われても無理な話や。また改めて答えを聞かせてな」
はやての言葉を合図に、交渉の場は幕を閉じ、次にツヴァイから試験の結果を告げられる。合格の通知だったので安堵出来た。
◇
広場にある休憩スペースに足を運び、全身の力を抜くように溜息を吐いた、やはり自分にはあのような頭を使う場は合っていない。少しでも油断すると話に付いていけなくなる。その様子を隣で見るティアナは依然として難しい表情を浮かべていた。彼女の中ではまだはやての言う内容に気がかりを感じているのだろう。
確かにはやての言葉にはまだ明かされていない思惑があるのは確実だ。機動六課事態も怪しさ抜群である。まだ自分だけの部隊を作ってドンパチしたいと言われた方が楽に思考できた。
広場の一角にあるベンチにティアナが腰を下ろし、自分が自販機に向かって飲み物を買ってくる。それをティアナに渡すとありがとうと礼を言われてから自分もベンチに腰掛けて、買った炭酸飲料を飲む。スカッとしてそれが脳を刺激するように爽快感を与える。これで少しは疲労が取れた気がする。
「八神陸佐が作る部隊、機動六課。ティアはどうする? 確かにまだ不審な点は残っているけど」
「……そこなのよねぇ……。明らかに情報が不足している。信用するには情報が抜けている。はっきり言って信用して身を置くには不安要素が在り過ぎるわ」
溜息を吐いて、ティアナが顔を手で覆って軽く俯く。たまに情緒不安定になるのがティアナの悪い所だ。その点については自分も心配しているところだが、まあ、いつもの事として無視することにした。
八神はやてとフェイト・T・ハラオウン。彼女らはかれこれ十年ほど前から管理局に所属する魔導師であり、子供の頃から高い魔力を保有する人物として有名である。フェイトに関しては過去に大きな事件を幾つも解決していることから、若手ナンバーワンとしてエース・オブ・エースの称号を得ている。
自分が彼女達の事を調べたのは、彼女達が過去に起こった四年前の事件。空港で起こった火災の時に彼女達が緊急出動したからだ。だから彼女達を調べれば、自分を助けたあの魔導師について何か分かるかと思ったのだが、管理局の公開データベースには魔導師の手がかりは一切載っていなかったのだ。
ジュースを飲んで思考を切り変えつつ、改めて今回のスカウトについて考える。もし部隊に入ってはやてやフェイトと接する機会が増えれば、彼女達の口から直接その事に付いて何か手がかりが掴めるかもしれない。そう思ったからこそ、自分は既に入る方向で思考を固めている。
だが、ティアナは別だ。ティアナは用心深く、ましてや相手が有利に進めるこのスカウトに素直に受けるとは考え辛い。確かに昇格への近道であり、執務官として有名であるフェイトにも直接指導しても貰える機会もある。入っていて損は無い。
だが、リスクは大きい。
「……あんたは入るんでしょ? 調べていた本人たちに近づくチャンスなんだし」
「まあね。ティアは難しい感じ?」
「ええ。入るにしても情報よ。それが全てだわ」
ベンチの背に寄りかかり、空を見上げてからティアナは言葉を話す。それを顔をニヤつかせながら見ると、何よと訝しげにこちらに視線を送って来る。
「でもティア、内心フェイトさんにライバル意識向けているでしょ。負けず嫌いだもんねー、付き合い長いから大体分かるよー」
からかう様に言うと、ピクリと頬を強張らせたティアナが静かに自分の肩の皮膚を掴むと、それを引っ張ってつねる。結構痛いため、軽くオーバーリアクション気味に反応すると手を離す。
「まあ良いわ。これ以上情報を探ろうにも出てきそうにも無いしね。あんたが入るってなら、入ってやろうじゃない。どうせ私は何処にいたってあんたとコンビ扱いされるんだし」
「うん! だからティア愛してる!」
「はいはい」
リアクションを取りやすいように喜ぶと、ティアナはいつもの如く軽く流してから、缶に残るジュースを飲み干す。それに合わせて自分も飲み干し、二人でベンチから腰を上げて自販機の隣に設置された回収ボックスに入れる。
悩むのも程ほどにして置かなくてはならないと、ティアナも思ったのだろう。結論として、この世界はなるようにしかならない事ばかりなのだ。いくら思考を巡らそうが、結果がどうなるかなんて確実に当てられるはずも無い。そこそこにしておくのが一番だ。自分達は未熟と思考を補完しておく。
「何か食べにでも行きましょうか」
「え、ティア奢ってくれるの?」
「あんたに食事奢ったら、私の財布はおろか、口座から金を下ろすことになるわ」
軽くティアのローキックを受けつつ、その場を後にした。
◇
窓から見える中庭の広場。そこでスバルとティアナの様子を見て部隊の加入確定だなと思いつつ、計画通りに進んでいることに安堵しておく。すこし強引だったかも知れないが、折角見つけた原石を手放したくは無かったのが事実。教導官であるヴィータに任せれば立派に育つことだろう。
「いやー、でも年下を騙すようでやっぱり良い気分せーへんなー。もっと本音で話せて説得出来ればいいんやけどなぁ……」
ソファに体重を預けながらぼやくようにして言葉を零す。だが、それが愚かで子供だと言う事は数年前に叩き込まれたことだ。自分に交渉と仕事での効率など様々な知識と経験を積ませて貰ったゲンヤ・ナカジマに教わった事だ。彼から見れば、はやての交渉などヒヨッコと言われても仕方が無いだろう。
しかし、ティアナ・ランスターは情報通りに中々鋭いのは確かだが、スバル・ナカジマのほうも、ゲンヤの娘だからだろうか、内心では結構鋭い思考と判断をしていたのに気付いた。双方ともに優秀な人材だ。それが確保できたとして、今は安堵しておこう。
これで残る枠は二人。その二人はフェイトのほうの紹介であり、現在任務中のフェイトに変わってシグナムが迎えに行っている。あの二人とは違ってこちらは部隊に加入することが確定しているのでいずれにせよ心配は無い。
さてとと声を漏らしつつ、ソファから腰を上げる。昼飯でも食べに行くかと思った矢先に、一仕事終えたツヴァイが此方に寄ってくる。
「お疲れ様です、はやてちゃん。今フェイトさんから報告があって、ガジェットドローンのその三型に当たる機体が発見されたそうです。どうやら外観が大きく、AMFの範囲も一型、二型より広く、攻撃防御ともに飛躍的に増大していると。これはデータでも残してくれましたから、後で細かく分析しておくです。───あ、ちなみにフェイトさんはこれを初撃一振りで終了させたそうです」
「ん、了解や。相変わらずフェイトちゃんは規格外やね。何処かの誰かと比べたら可愛い方やけど」
昼飯を食べたらまた溜まっている仕事を片付けなくてはならないなと思いつつ、休憩モードにギアチェンジをして食堂に向かうのだった。