古代遺物管理部機動六課。通称機動六課が正式に設立した事により、今まで自分達の使っていた寮から引越しする必要が出来た。なぜなら機動六課には専用の隊舎と寮が与えられているからだ。普通ならば新設の部隊にそう簡単に隊舎が与えられる事なんて無い。これに関しては協力してくれた義兄クロノと、聖王協会代表である騎士カリムに感謝しなければならない。
内装を見て感嘆の声を漏らしつつ、見かける局員に挨拶していく。今日から自分と共にここで働く仲間になると思うと感慨深いと感じる。そう思いつつ、自分が使う部屋にまで来た為、早速部屋の状態を見る。新設とあってかなり綺麗な内装である事に軽く感動しつつ、予め準備をしていた転移魔法による引越しサービスに預けていた荷物を取り出し、予め生活品を詰めていたダンボールを部屋に置いていく。この転移魔法による引越しサービスは結構値段がかかる為、普通に車やトラックでの運送業者に頼んだ方が安くてメジャーだ。だが、この費用も六課持ちである為、はやてには悪いが活用させて貰おう。
荷物が全て部屋に置かれ、後は部屋の片付けをしたいところだが、今日は色々とやることが多く、一日を部屋の片付けの時間に回せない。何より設立初日なのだ。六課の皆や、地上本部並びに本局に赴いて挨拶と、これからについてのブリーフィング。そしてその他執務業務が残っている。片付けは深夜に帰ってから、もしくは最悪休日まで持ち越しとなるが仕方無い。今日一日のスケジュールの多さに溜息を吐きつつ、意識を切りかえる為に腕を組んで上に伸ばし、背を伸ばす。そして息を吐き出したところで深呼吸をしてから部屋を出た。
課長室は自分の部屋からそう遠くない所にある為、数歩歩いた先には課長───八神はやての部屋がある。正しくははやてとツヴァイの部屋となるが。執務官の制服から陸士部隊の制服に着替えは済ませてある。扉の前で軽く服装を整えてからインターホンを鳴らすと、スピーカー越しにはやてがどうぞと案内してくる。失礼しますと声をあげつつお辞儀をしてから入室すると、はやては別段身分関係無しに、友達としての関係で此方に歩み寄ってくる。
「フェイトちゃん、制服似合ってるなー。こうして同じ制服着るのも、中学校以来とちゃうか?」
「そうだね、はやて」
互いに笑みを浮かべつつ言葉を返してから、同じく室内にいるツヴァイのほうへと顔を向ける。彼女ははやての机の横に置かれた専用のデスクの上で、恍惚とした表情を浮かべている。余程自分の専用の仕事場が用意されたことが嬉しいのだろう。確かに借りの仕事場ではツヴァイははやてたちが用意する専用の鞄の中でオフィスワークをしていたので、嬉しいのも理解出来る。
直ぐに意識を戻し、フェイトのほうへ寄ってきてはやて同様に挨拶を交わす。そして改めて正式に上司と部下として挨拶してから、はやてやツヴァイと共に課長室から出る。この後は朝礼と共に設立の挨拶があるのでロビーへと向かい歩いていく。廊下を歩く途中で指揮系統の副官の立ち位置でもあるグリフィスと会い、握手を交わして挨拶を交わし合う。
ロビーには既に六課の隊のメンバーと、バックヤードスタッフが姿勢を正して整列していた。その中にはスカウトした新人のスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター二等陸士が居る事を確認し、目線が合ったので軽く微笑みを返すと、お辞儀を返される。視線を変えて、もう二人の新人の姿を確認する。と、そこには小柄な少年と少女の姿がある。新人とは言っても、彼等は自分が保護責任をしている者であり、身内のような者だ。
赤毛の少年がエリオ・モンディアル三等陸士。桃色の少女がキャロ・ル・ルシエ三等陸士。前線ではエリオがガードウィングで、キャロがフルバックを担当する事になる。彼等の真剣な眼差しや姿勢を見ると、どうも保護者として微笑ましく思ってしまう。だが、それはこの場では失礼に当たる為、軽く微笑むだけにしておく。エリオは軽く頬を緩ませたが、まだ子供故に仕方ない。
ロビーの中央に、先ずはグリフィスが全員に整列をし直させてから、はやてに話を移す。皆の前の中心にはやてが立つと、その横にフェイト、グリフィスが並び、そしてその更に横にヴォルケンリッターが控える。新人たちから見れば凄まじい顔ぶれだと思われるだろう。
一度気をつけと指示してから礼をして、休めと指示する。全員が半歩程足を開いたのを確認してから、はやては全体を見回すと笑みを浮かべて頷く。壇上に立ったはやてを機動六課に参加するメンバー全員が視線を向けている。誰もが一字一句逃さないように視線をはやてへと注ぎ、その言葉へと集中している。恐らくそれをはやては理解している。だから直ぐに言葉を喋る訳でもなく、ゆっくりと考える時間を与えるように短い時間を置き、口を開く。
「皆さん、おはようございます。私がこの隊の総隊長であり、課長の八神はやてです。この隊の正式名称は古代遺物管理機動六課。通称機動六課って私は呼んでます。この隊は古代遺物ロストロギアの確保を目的としている専門の部隊でありますが、これは私が前から思っていた迅速に行動できる部隊を理想として設立した部隊となります。ですが理想を掲げてばかりでは設立できなかったのもあり、その目的以外にも様々な思惑、本局の意向もあり、設備を融通して貰いました」
そこで一息つき、皆の表情を見る、中には表情を不安げに歪めている者も確認できる。しかし直ぐにそれも切り替わっていく。その様子に優秀なメンバーが揃ってくれた事にはやては感謝しつつ、言葉を続けた。
「でも、そう言った事情は皆には気にしないで欲しいと思うんよ。最高のバックヤードスタッフにフロントという、たった一年だけの夢の部隊、それが私達や。この試験運用の僅かな期間やけど、皆で良い結果残せるように一丸となって頑張っていきたいと思います。……と、あんまり長い話は嫌われるんで、この辺で終わりにします。───機動六課は本日より発足です、今日から頑張っていきましょう。気をつけ!」
言うと、皆が体勢を整えて礼をする。はやてが壇上で頭を下げて降りてから、全体での安全目標を復唱し、挨拶兼朝礼が終了する。同時に周りが慌しく動き始める。それぞれの部隊へ、役割を果たす為に動き始める。新人達へと目線を向けると、既に四人集まっている所にヴィータが歩み寄る。基本的に新人達は出動がなければ訓練というのが平時における日常だ。主に教導官であるヴィータが指導するが、たまに自分も直接指導しようと考えている。
だが、今はやるべきことがある。一度書類を取りにオフィスへと向かう中、シグナムと共に廊下を進む。
「こうして一緒の部隊で働くのは久しぶりだな、テスタロッサ」
「そうですね。最後に一緒の任務になったのは、半年ほど前でしたよね」
「ああ、確かそうだな。……しかし、お前には驚かされるな。子供の頃から既に剣士として輝くものを魅せていたが、それが今では剣術の達人とはな。一角の強さでは私を超している」
「いえ、そんな……」
確かにシグナムの言うように、自分はあれからトレーニングとシグナムからの指導を元に鍛錬を続けた結果、一つの強さを極めることにした。それが遠距離攻撃を捨て、速さと大剣による一撃にのみ集中した、言わば一撃必殺型の剣士として確立することだった。自分の最大の武器である速さを生かし、バルディッシュを常に大型のザンバー状態にしておくことで、大抵の敵ならば横一閃の一撃で終わらせることが出来る。昔シグナムが教えてくれた【斬れる範囲まで接近して斬る】という戦術を極めたものである。
だが、シグナムもフェイトに劣らずの剣戟である。一意専心という心構えは勿論、初撃で仕留められ無かった場合のトドメの一撃に長けているのが、現在のシグナムだ。シグナムと戦うことになれば、恐らく自分は負けてしまうだろう。初撃で仕留められなければ自分が負けるからだ。そしてシグナムには初撃で仕留められないと気だけで察せる。
「そういえば、六課ではお前が上司、私が部下だったな。呼び捨てや【お前】と呼ぶ訳にはいかんな。ハラオウン執務官と呼び、敬語にしたほうがいいかな?」
「そ、そんな意地悪は止めてください。良いですよ、普通で、お前で」
「うむ。そうさせて貰おう」
シグナムと共に事務室へと着き、彼女はオフィスワークの仕事をする為にデスクに座る。自分も机に仕舞った書類を出して、ファイルを確認する。ちゃんと必要な書類が入っていることを確認して、それを鞄に入れてから、連絡事項を書く為に用意された立体ディスプレイの前で足を止める。そこには役職を持つ者の名が書かれており、何処か出回った時に等ここに行き先を書いたりする。自分の名前のところに地上本部・本局と書き込んで確定する。はやての名前を見ると、そこには既に自分と同じく地上本部・本局と書かれていた。
事務室から出て、外にある自分の車へと向かう。既にはやてとは駐車場前で待ち合わせしている為、軽く急ぎ目に廊下を歩く。既にバックヤードスタッフが仕事をしているのを見てお疲れ様と声をかけながら、隊舎から外へ出る。するとそこには既にはやてが立体ディスプレイで確認作業をしながら待っている。
「ごめん、待たせたかな」
「いや、私も今さっき来たところや」
そう言ってはやてと共に自分の車へと向かう。そこには黒いボディのスポーツカータイプの車両がある。緊急車両の役目もある為、かなり速い車を選んだのだ。鍵を開け、はやてと共に乗り込む。エンジンをかけて車両を走らせる。魔力エンジンで走らせるために音が静かなのが特徴である。
隊舎の敷地から出て、幹線道路へと合流して首都クラナガンへと向かう。するとはやてが助手席で窓の外を見ながら口を開いた。
「それにしても、結局なのはちゃんを六課に誘えんかったなぁ……」
「仕方無いよ。なのは、肩身狭いのと責任持つことが嫌いだから。嘱託でも嫌だってはっきり断られちゃったしね」
苦笑いし、そう答える。はやてとしては機動六課に高町なのはを迎えることで完成と思っていたが、そのなのはが局入りを断った以上無理強いは出来ない。最終切り札のカードとして温存できなかったのが本当に悔しいようで、溜息を吐いた。
「……やしかし、なのはちゃん今頃何してるんかなぁ。ちゃんとご飯食べてるんやろか……」
なのはの生活がきちんとしているかの心配をしつつ、はやては窓の外を眺めて言った。
◇
「───新人共、揃ってんな」
声に呼ばれて、その主を見れば先ほどまで副官の傍にいたヴォルケンリッターの一人、ヴィータが機動六課の制服姿で近づいてくる。素早く敬礼しようとすると、軽く敬礼を返しつつ、こちらに寄って来る。
「あたしはそう言った形式ぶったもんは苦手だから、あたしの前では基本的に楽にして構わねぇ。だがしっかりする時は礼儀ちゃんとしろよ。あ、それと一時間後に早速訓練開始すっから、荷解きするなり訓練用の服装に着替えるなりポジションの確認するなり、いろいろ準備しとけ」
その言葉に声張って返事を済ませてから、各々準備を済ませに行った。