正義執行   作:ラキア

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第05話

 

 

 一度更衣室にて訓練用の動きやすい服装に着替えてからティアナ、エリオとキャロと合流し、素早く隊舎の裏手の湾岸方面に出る。細い通路が湾の上へと続いており、そこには人工島のような空間が見える。この広い空間で、普通に訓練するには良さそうな場所が見える。しかし遮蔽物は何も無い為、この訓練場では様々な状況下での訓練は出来ないだろうなと判断する。ただの平面では基本の動きしか訓練出来ないからだ。

 並んで走り、海上の道へと降りる階段の手前───訓練場らしき場所の入り口が見えてくると、既にそこにはヴィータが教導官の制服姿でその場に立っている。その横には技術官らしき人物が居て、ヴィータと何か会話をしていた。その技術官の傍にあるケースの上に自分達のデバイスが置かれてある。着替える前に預けたのだ。

 

 ヴィータは此方へやって来て構える自分達を見渡し、そして頷いてくる。

 

「皆揃ってるな。遅れたら少し指導しなきゃいけないところだったが、そこまでトーシロじゃねーか」

 

 ヴィータは言って此方を見ると、ケースの上に置かれたデバイスを此方に返してくる。エリオとキャロは待機中のデバイス故に小型だが、自分とティアナの場合は形そのままである為、ティアナはともかく自分のデバイスは少しばかり持ち運びが大変だ。その為普段は装備したまま行動する。

 

「とりあえず始める前に紹介だ。こっちはお前らのデバイスのメンテやデータ取りをしてくれるシャーリーだ」

 

 そう言われ茶髪ロングで眼鏡が特徴の女性が笑顔と共に挨拶してくる。

 

「通信士とメカニックを兼任しているシャリオ・フィニーノ等陸士です。皆からはシャーリーって呼ばれているので皆さんもそうお願いしますね」

 

【挿絵表示】

 

 そう言ってウインクを送ってくる彼女に明るい印象を持ちつつ、視線をヴィータへと移す。余り畏まる必要は無いと言われても、相手は文字通り次元の違う相手だ。見た目に反して歳も実力も階級も、全てにおいて格上の人物。内心少しだけ緊張しているという事実は拭えない。

 

「お前らに返したデバイスの中にはこっちでデータが取れる様に少しだけ弄ってあるから、少しだけ大切に扱え。あと機能に関しては別に損なっている訳じゃねーから」

「そこら辺は自信を持っているので安心してね」

 

 軽くリボルバーナックルとローラーブーツを装備して調子を見る。自分が使う分には特に違和感は感じられない。だが、ティアナに目線を向けるとどうやらアンカーガンの内蔵データにチップが追加されていたらしく、アイコンタクトでそれを伝えてくる。だが自分と同様、他の皆も特に問題はないので背筋を伸ばしてからヴィータの方を向いて言葉を待つ。

 

「うし、やる気は十分のようだな。じゃあシャーリー頼む」

「了解!」

 

 そう言うとシャーリーがホロウインドウを複数表示させ、素早くそこに様々なシステムを展開させ、そこに数字や文字を入力して操作する。そのスピードは凄まじく、彼女のその分野においての優秀さを確認して一流の人物なのだろうと思える。

 

「ふふふ、八神総隊長考案とヴィータ教導官、フェイト執務官監修の機動六課自慢の空間シミュレーター、ご覧あれ!」

 

 言ってシャーリーが入力を完了させた瞬間、湾上に浮かび上がる光景があった。

 平らで何も無かった湾上の訓練空間。そこに突如として廃棄都市が出現する。ゆっくりと出現し、そして確かな形を生み出すそれは完全に普通のシミュレーターの範囲を逸脱した現象だった。それには自分を含め全員が驚いて目を丸くする。

 しかしいつまでもそうしている訳にはいかず、ヴィータが水の上に浮かぶ通路を歩いてシミュレーターへと向かうので、その後を追っていく。

 

 

 

 

 

 

 到着したシミュレーター空間。遠くから見た外観はホログラムのように見えたが、こうして内側まで来るとそれは現実のものと相違ない。

 恐らく、デバイス等が展開してくれる仮想空間の練習プログラム。その進化型の最新型である空間一体型神経伝達バーチャルリアリティシステムを使用しているのだろう。軽く床やビルに触れるが、そこにはちゃんと感触などが存在していた。ビルの壁を軽く殴れば相応の強度を感じるし、破片を取って軽く舐めれば普通に味覚にも感じる。システムで偽りと分かっていても、味覚が残ってしまうので口に入ったものを吐き捨てる。

 本当に途方も無い金額が使用されている感覚に頭が狂いそうになる。

 

「よしお前ら。とりあえず基本的にあたしの目標としてはお前達をこの一年の間に最低でもあたしらの後ろや、空いた一角のカバーに回せるまでの実力の魔導師まで引き上げることが目標だ。最低でもそれくらいの実力がないと安心することが出来ないし、お前らも死ぬ気でそれだけの実力をつけてもらう。いいか」

 

 ヴィータが此方から十歩ほど離れた位置でそう問いかけてくる。四人全員で息をあわせ、はいと答える。

 

「新人っつうのは返事だけは一人前だからな。重要なのは相応の実力をつけることだ。……っと、無駄話もしてらんねーな。先ずは準備運動だ。始めるぞ」

 

 言うと、ヴィータは飛行魔法を使ってシャーリーの身体を抱えると、そのまま遠くのビルの屋上まで移動する。そしてビルの上から通信で此方に指示を出す。

 準備運動───指示されたのは腕立て伏せ一○○回、上体起こし一○○回、スクワット一○○回。そして終わったらランニング一○キロという内容だった。その普通なトレーニングメニューに若干戸惑いつつも、基本が大事という事だろう。

 ランニングを終わらせて再び集合すると、ヴィータが口を開く。

 

『じゃあ、早速訓練開始だ。先ずは主にあたしらが戦う敵と戦闘シミュレートして貰う。シャーリー』

 

 ヴィータがそう言った瞬間、床に、道路に魔法陣が浮かび上がる。そこから卵型のロボットのようなものが現れる。卵のような姿をしたその機械を目にして、皆首を傾げていた。

 

『あたし等が任務の都合で敵対する事になるのがこの機械だ。通称ガジェットドローン。動きは素早いし、攻撃も中々鋭い。とりあえず今回はこれを逃げるように設定するから、自分らで工夫して全機撃墜してみな』

 

 その言葉を合図にガジェットドローンは四方八方に分散して結構な速さで逃走していく。エリオとキャロが慌てて後を追おうと走り出すが───。

 

「待って!」

 

 ティアナがそれを声で制止させた。振り返るエリオとキャロにティアナは近寄って、自分もその輪に入る。

 

「ただ追いかけて簡単に撃墜できるなら訓練になる筈は無いわ。ヴィータ教導官は工夫して撃破してみろと言った。つまりただごり押ししては駄目なのは既に分かっているのよ。先ずは落ち着いて動きと出来る事を話し合いましょう。そうすれば問題なく達成できる筈よ」

 

 エリオとキャロは今日初めて会って組むことになる。だから先ずはお互いに息を合わせ協力していく必要がある。自分はティアナに影響されてか、ティアナの言う事が理解できた為、普段どおりティアナの指示を受けてから行動を起こすというスタンスを取っている。

 

「エリオ、貴方速さには自信ある?」

「は、はい!」

 

 エリオは強く頷いて、ティアナは次にキャロに視線を向ける。

 

「キャロ、貴女は確か召還魔導師だったわね。その竜……フリードとで、あの素早いガジェットドローンを確実に仕留める策はある?」

「あ、えと、はい! 試してみたいものがいくつか!」

 

 その言葉を聞き、ティアナは笑みを浮かべると、早速作戦を立てた。

 

 

 

 

 

 

 ローラーブーツを全開で走らせて廃棄都市と変わった訓練場を見渡し、走行する。その後をエリオは生身で付いて来る辺り、速さに自信があるかどうかに元気良く返事しただけはあると思いつつ、目標のガジェットドローンを探す。先ずは目標を見つけることが優先であるが、二人で組んで探すというのが現状の基本だ。一人ではどうしてもあの素早さを追うには限度がある。だが二人であればそれをカバー出来る。

 キャロにより、このだだっ広い廃棄都市のどこにガジェットドローンがいるかの大体の位置を教えて貰いつつ、その地点にまで向かう。すると三体ほどのガジェットドローンを肉眼で確認し、その事をティアナに報告する。ティアナはキャロを抱えてビルの上を飛ぶようにして移動し、自分たちからある程度後ろに配置するようにしている。

 見つけたら作戦通り、先ずは誘導だ。そう遠くない地点に誘導するように追いかけると、ティアナが手始めにガジェットドローンに向かって狙撃を行う。回避予測したものでティアナの得意とするものだ。だがその魔力弾は確かにガジェットドローンに当たるが、見えない何かに防がれ、そして魔力が消滅する。

 

「……ッ!? バリア!?」

 

 その機能に驚いていると、ヴィータが通信で声を発してくる。

 

『そうだ。ガジェットドローンには厄介な機能があってな。アンチマギリンクフィールド。通称AMF。これがあると効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化する。しかも効果範囲内では攻撃魔法どころか移動系魔法も妨害されっから、スバルのようにウイングロードとか使った時には途中結合分離されて空中で真っ逆さまという訳だ。ま、だからと言って何も出来ないんじゃ話になんねーから、どうにかしてみせろ』

 

 話を聞くととても面倒なものだと思い知らされる。つまりこっちは純粋な加速魔法以外と、射撃では普通に攻撃しても駄目という訳だ。だが、驚いたものの何らかの防御はしてくるだろうと予測はしていたので、魔力自体を消されるという点を除けば予定通りだ。

 逃げるガジェットドローンを再びこの周囲に寄せるように追いかけつつ、エリオが先回りして橋を切り崩し、瓦礫で道を塞ぐ。だが別段上などに回れば通れるため、ガジェットドローンはそのように動くが、そこで桃色の魔力光のネットのようなものが展開されて、ガジェットドローンはそれに捕まる。AMFでネットが消される前に、直ぐ様エリオがガジェットドローンを切り刻み、残った機体をリボルバーナックルで粉砕して破壊する。

 近接であれば魔力を通すことに苦は無い。一瞬だけ動きを抑えるだけならキャロの魔力も十分使える。もしそれが駄目なら物理で鎖を召還してそれを纏わせるという技もある。そう言った手段で次々とガジェットドローンを撃墜していく。

 

「どりゃッ!!」

 

 追いかけて行くうちにパターンも覚えた為、避けようとしたガジェットドローンを回し蹴りで地面になぎ倒し、拳を叩き込んで粉砕させる。いくら高知能の機械といって所詮は機械だ。覚えれば後はただのリピートでしか無い。そうなればティアナも狙撃することも楽になる訳であり、安定してガジェットドローンに魔力弾を当てる。無論AMFがあるが、キャロに予め弾丸に魔力を重ねるようにしている。その為狙撃が通る。

 そうやってガジェットドローンを全て撃破して、何とかこの訓練を達成することが出来た。しかし、思った以上にAMF相手に消耗する魔力が凄まじく、体力も比例して消耗する。荒い呼吸をしながらその場に座る。

 

 

 

 

 

 

「おお、結構早くクリアしましたね、ヴィータ隊長」

「そうだな、これくらいなら特に問題は無いと思ったが、スバルとティアナがしっかりしている分動きが良い」

 

 ホロウインドウを通して新人四人の姿を確認する。撃墜完了してから直ぐには声をかけずに、少しの休憩を与える。先ほどの戦いを見る限り、ティアナを司令塔として、サポートをキャロ、そしてアタッカーにスバルとエリオという風に役割でチームが動いている。実際の戦闘ではこんな分かれ方をしていたら悪手なのだが、今回は相手が逃げに徹している為問題は無い。

 

「AMFの対策も直ぐに組んだしな。ある程度の防御とかを予測してたんだろう。それならいちいちこっちが口を出す必要も無いし、解ってくれればこっちも安心だ」

 

 下位のガジェットドローンならば実戦でも戦闘は可能と評価しておく。だが、エリオとキャロが現状才能だけで先走っている感じがした。自分の知る人外な存在は例外として、あの年齢で身体を作ろうとしたら成長の仕方がおかしくなるから余り無理はさせられないが、先に言ったようにスバルとティアナが上手い感じに出来上がっている。

 

「とりあえず現状残っている癖を取り除いてから、そこら辺を調整しつつやるとして、先ずは実戦の経験不足をなんとかするか。実戦でいざというときにびびったり驚いたり痛がる奴とかは足手まといだからな。そうなら無ぇように魔力ダメージ、物理ダメージともに攻撃をもろに受けても気絶しないように育てるか」

「ヴィータさんの教導はスパルタですねー」

 

 シャーリーが苦笑いしているが、自分はこれでもかなり良心的なほうだ。実戦で変にトラウマが生まれればそれこそそいつの人生を狂わせちまう。だからある程度の残酷さを訓練の内にしっかりと叩き込めば、それだけ実戦での大抵の事は平然と受け流すことが出来る。

 エリオやキャロの指導は自分とフェイト。召還術に関してはシャマルからのデータを参考にしつつ指導する。スバルにはアタッカーとしてのほぼ全てを叩き込むとして、問題はティアナだ。良い動きもしているし、判断も良い。だが幼い。しかし自分では技術的指導をすることが出来ない為、ティアナに関しては他からデータを引っ張り出してくるとしよう。

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