地面を蹴って跳躍しビルの側面を滑って翻弄するように仕向けるが、一気に戦闘レベルが上がった大型のガジェットドローンはそれに惑わされる事無くこちらに向けて強烈な砲撃を放って来る。それをローラーブーツのスピードをあえて落とすことによって、側面を走っていた自分の身体が重力に引っ張られて下へと落ちる。故にガジェットドローンの砲撃を下降することによって回避した。しかし直ぐ様卵型のガジェットドローンの通称一型によって追いつかれ、細い砲撃を此方に放って来る。着地点に狙って来る為、防御するのが一番無難である。ここでウイングロードを出して避けようとすれば相手の思う壺だからだ。
故にプロテクションを張って砲撃を耐える。だが、その奥からガジェットドローンでは無い存在が襲い掛かってくる。
「どりゃぁぁーーーッッ!!」
叫び、ヴィータがアイゼンを上に掲げて肉薄し、それを振り下ろして来る。それによってプロテクションが破壊され、鉄槌の重い攻撃が直撃し、衝撃で吹き飛ばされてビルの壁へと突っ込む。もろに攻撃を受けたせいで身体が動かず、頭がくらくらする。ここで意識を手放したいが、そうすれば水をぶっかけられて鉄槌をぶち込まれるのが想像できる為、歯を食い縛って何とか意識を保つ。皆に申し訳ない気持ちで一杯になりながら立ち上がると、訓練服の姿のままグラーフアイゼンを肩に乗せたヴィータが口を開く。
「スバルが撃墜したから五分リセット……って言いたい所だが、これで各一人ずつ撃破されたからオールリセットだな。シャーリー、ガジェットの数もリセットで」
「うがぁぁああああああーーーーッッ!!」
叫ぶしかなかった。もう本当に叫ぶしか無い。あのティアでさえ撃墜された時はキャラを無視して叫びだしたのだ。元から元気が取り柄の自分が叫んだって別にいいだろう。
初日の対ガジェットドローンとの戦闘はまだ良かった。一型の追撃から正面からの戦闘。そして飛行型の二型、大型の三型へとタイプが変わり、それが徐々に戦闘レベルが上がっていく。初戦の戦闘がGだったらしく、初日の終日にはCまでレベルが上がっての戦闘だった。速いわ攻撃も容赦ないわAMFもかなり強力になっているわで、こちらも結構心が折れかけ、ティアナやエリオ、キャロがグロッキーになった。だが、翌日からの訓練ではヴィータとの模擬戦となり、そこで自分らはまるでゴルフボールのようにフルスイングされ、ヤード単位で飛ばされたので完全に心が折れた。
ヴィータ曰く、此方の実力を調べる為に戦闘訓練を行ったのはいい。此方がチームとしてどれだけ動けるかを調べたのもいい。しかし、その後の痛みに耐性をつける事と、戦闘中に意識を落とさないように魔力ダメージをある程度受け慣れておくことというものが悲惨だ。しかもこれはここ数日の訓練で常日頃に行われていることでもある。
魔力ダメージは別にいいのだ。問題はヴィータが時折完全物理で攻撃を繰り出してくることだ。非殺傷というものは、当たり前だが魔力ダメージにしか適応されない。物理ダメージにそんな便利なものは無い。故に此方が魔法で身体を強化していなければ最悪命を落とす。魔法で強化して折れないレベルで調整している。それでも骨に衝撃が伝わって一時的に神経が麻痺するが、痛がったりしては追撃が来て医務室送り確定になってしまう。
そうやってひたすらボールになる訓練が続いた後、本日はヴィータに撃墜されないように用意された全基戦闘レベルBのガジェットドローンを一時間の間で撃破する。又はヴィータに攻撃を当てれば即終了という訓練だ。一人撃墜されれば五分リセットされ、先ほどヴィータが言ったように全員が一度撃墜されればまた一時間からやり直しという鬼畜内容である。一○分ごとにガジェットドローンを八基以上撃墜しなければならないというノルマがある為、ガジェットドローンをガン無視してヴィータから逃げるという事は出来ない。本当に現実逃避したくなる。
ティアが立てた作戦は一人や二人撃墜されるのはもはや仕方ないという事で、分散してガジェットドローンを破壊してなるべくヴィータに撃墜されないようにするというもの。これならば各一人が時間を稼いで他のメンバーがガジェットドローンを撃破できるという狙いだったが───。
開始一分でエリオがホームランされたことで全てが狂った。
そこからキャロ、ティアナ、そして自分とあっさり撃破されたという訳である。だがこれで時間制限でこの訓練を終わらせることが殆ど無理だという事が確信出来る。ティアと念話で話をすると、目標を変更して何とかヴィータに攻撃を当てるというものになった。
直ぐ様ローラーブーツを全開で走らせてその場から離れる。同時にヴィータが此方に向かって飛んでくる。だが瓦礫や廃ビルの多いこの訓練場の状況だ。此方はローラーブーツで細かいところも高速移動が可能なので、ヴィータがぎりぎり通れないような所を走行し、引き剥がす。そうやって大分距離が開いてこちらの姿をヴィータの視界から外すことに成功する。
しかし道路を走行していると、背後のビルがシュワルベフリーゲンによって砕け、吹き飛んでいく。貫通した鉄球が勢いでその先のビルさえも吹き飛ばすのだから規模がおかしい。
目線を上方に向けていると、そこにはティアの姿が確認できる。だが見える姿は一人だけではない。同じくティアがビルの上や道路などの至るところに出現してヴィータから逃走している。自分の幻影を生み出す魔法フェイクシルエット。ティアが使う戦術の一つだ。しかしそのフェイクシルエットも次々と撃破されていく。まだ二○秒も経っていないのに殆どが撃破されていく。丁寧にフェイクシルエットを撃破しているのだからヴィータも手加減しているのだろう。
『スバル!』
「了解!」
ティアからの念話でティアの回収場所を聞いて、その場所へと向けて全力で走る。ウイングロードを展開してビルの壁に突っ込むと、そこにいたティアの腰を掴んで、そのまま身体を持ち上げて全力で加速し、ビルの反対側から飛び降りて着地する。次の瞬間には先ほどのビルがシュワルベフリーゲンによって貫かれていた。
「魔力の流れが見えて全然隠れてねーぞ」
「くそッ、人外だこの人!」
「あたしなんて普通レベルだ」
お前のような普通レベルがいてたまるかと思いつつ、ローラーブーツを更に加速させる。するとローラーブーツから異音が鳴り響いてくる。流石に訓練の内容が鬼畜過ぎるせいかガタが来ている。これが途中で壊れたりしたら今すぐ死ねる。なのでこの訓練だけ保ってほしい。
作戦の要はエリオとキャロなのだ。このまま自分達がヴィータの気を引き付けていれば何とか突破できる。
「何か企んでいるっぽいし、エリオとキャロを潰しに行くか」
「こんちくしょおおおおおおおおーーーッッ!!」
ティアが叫ぶ。気持ちは分かる。
ティアの指示で一旦ビルの上にティアを下ろして、自分は別方向へと走る。が、既にヴィータが此方の軌道を読んでおり、一瞬で肉薄されてしまった。グラーフアイゼンを構え、それを横に振る。完全に自分の反応速度では間に合わず、胴部に直撃したその攻撃は身体をくの字に曲げさせてそのまま一直線にビルの壁へと衝突する。これは完全にノックアウトだ。治療を受けない限りしばらくは動けそうに無い。
崩壊したオフィスの床に仰向けになりながら、ホロウインドウで状況を確認する。ティアナが屋上からヴィータを狙撃する。転移魔法と組み合わせたティアの必殺技である。極めれば相手の心臓を直接射抜くなんて物騒なことが出来る凶悪技であるが、ヴィータはそのオレンジ色の魔力弾を掴み、握りつぶした。
「嘘ぉ……」
まさにティアが思ったことを自分が口に出してあげる。当然独り言なので意味は無い。
『別段悪いやり方じゃ無ぇ。だが、それをするならデバイスじゃなくて自分で演算組めるようにしな』
言ってヴィータがお疲れ様と言わんばかりにティアに鉄槌を振り下ろす。それにより屋上から叩き落されて大地へと落ちていったティアの姿。もろに食らったなと心の中で合掌しつつ、ホロウインドウを引き続き見ていくと、ヴィータの死角からエリオが特攻する。アームドデバイスが放たれる魔力のジェット噴射で飛びつつ、槍の一撃を放つ。
しかし一直線が故にヴィータが回避するのは簡単な事だ。が、そうはさせないようにヴィータの頭上にフリードが炎を吐き出す。それと同時に下から銀色の鎖が出現し、それがヴィータの身体を拘束する。
『通します!』
エリオが叫び、ヴィータが展開したプロテクションに槍の先端をぶち当てる。魔力ジェット最大で、暴れるアームドデバイスを必死に押さえて攻撃を通そうとする。鎖の拘束を徐々に引きちぎるヴィータだが、槍の先端がプロテクションを通り、そこから突き破ってエリオがヴィータの身体に攻撃を当てた。
ヴィータに攻撃が当たった事により、今回の訓練はこれにて終了だ。しかし攻撃を当たっていてもその姿には傷らしきものが全然見えなかった。改めてヴィータの凄まじさを感じ、苦笑いしか出てこない。お家帰りたいと思ってしまった。
◇
午前の訓練が終了し、全員が応急処置を受けて何とか身体を動かせるまで回復する。こうして直ぐ様治せるのだから、シャマルの治癒能力は凄いと感じさせられる。そう考えるとヴォルケンリッターのメンバーは本当に凄まじい人たちだなと思い知らされる。その主であるはやても含めてだ。
だが、はやて課長、流石に訓練の様子を見に来るついでに広域制圧魔法をブッパするのはやめて欲しい。あの時の絶望に染まる表情のエリオとキャロが忘れられない。
そんな事を思い出しつつ、着替えた自分らは現在食堂にて昼食を取る為に集まっている。自分はパスタを注文して新人が集まるテーブル席へと腰掛ける。するとそこには机に伏せてグロッキー状態になっている三人の姿がある。ティアは予め自分用に携帯食を持参していたので、それを食べて水で一気に流し込んでいる。
「ちゃんとご飯食べないと身体に悪いよ、ティア」
「……なんであんたは平気に食べられるのよ、しかもその量」
ティアが半眼でパスタを食べる自分を見て言う。確かに自分が食べているパスタの量はこの食堂でもかなり大きな皿に山盛りにされている形であり、世間からしたらかなり大食いなのかもしれない。だが昔からナカジマ家ではこの量が普通だったので自分にとっては普通だ。初めてティアと食事をした時にも驚いていたなと思い出し、ティアの言葉に返す。
「だってお腹減ったら食べるでしょ、普通」
「こいつありえんわ……」
言ってティアは机に伏せて動かなくなった。エリオとキャロも同じ状態だったので、流石に何も食べないことに対し問題があるので、軽めにでも食べた方が良いと教える。
「そうですね……何かあっさりした物注文して来ます……」
「私も……」
ぐったりした二人はそのまま食券販売機に歩いて行った。それをパスタを食べながら見届けると、此方に向けて近寄るヴィータの姿があった。休憩中なので畏まる必要は無いのだが、流石にうつ伏せているティアの肩を叩いて起こしてあげる。最初億劫に顔を上げたが、ヴィータの姿を見るやばっと起き上がって背筋を伸ばす。別段楽にしていろと手を上げてジェスチャーで伝えて、ヴィータはテーブルの前に立つ。ここにエリオとキャロがいないのに対し、辺りを見渡して受け取り口でパンを受け取るのを確認してから視線を此方に戻す。
「休み中悪いな。休憩終わったら一度デバイスのメンテナンスルームに来い。エリオとキャロにもそう伝えろ」
「了解です」
頷くとヴィータはそれじゃ、と言って席から離れていった。
◇
昼休憩後にメンテナンスルームに五分前には集合すると、既に室内に居たヴィータとシャーリーに敬礼しつつ室内に入る。そこから二人に向かうようにして整列する。一度気をつけと礼をしてから休めと指示が入り、半歩ほど足を開いて視線をヴィータに集中させる。
「───さて、ここ数日で地獄を見たと思うが、その中で経験したものは大きいだろ。これで実戦でもある程度は冷静に対処できる様になる。もう少し続けてみて、今度は実戦に近い戦闘訓練をやるからな。あ、それとさっき飯食っている時にシグナムがウズウズしていたから、ふとした時に適当に訓練にぶち込んで相手して貰うんで宜しく」
「もうマジ無理……」
そう言葉を放ったヴィータは笑顔だ。この人若干ストレス発散も兼ねて教導しているのでは無いかと疑いつつ、隣のティア、後ろのエリオ、キャロを見れば皆表情が真顔になっている。人間限界超えるとこうなるんだなと思って苦笑いしていると、何であんたは平気なんだとティアが言ってくるが気にしないでおこう。
「んで、本題に入るとするが───シャーリー」
「はい!」
ヴィータが声をかけると、シャーリーは笑顔で敬礼して後ろにあった台へと手を伸ばす。そこには何かを隠すように布がかけられており、シャーリーはタイミングを合わせるように一瞬間を置いてからその布を取った。
その台の上に、四つのデバイスが置かれていた。
「じゃーん! 皆のデータを参考に六課で新たに作った貴女たち専用のデバイスです! エリオ君のがストラーダ、キャロちゃんがケリュケイオン、スバルさんがマッハキャリバーで、ティアナさんのがクロスミラージュ。今皆さんが使っているデバイスと違和感が無いように作ったので、合わないという事は無いと思います」
満足感に満ち溢れた表情で言葉を述べるシャーリーを見て、この人は仕事を楽しくこなせるタイプだなと思いつつ、自分のデバイスとなるマッハキャリバーに視線を向ける。
「お前らのデバイスは既に限界だったしな、これを機に全員取替えだ。お前ら専用に作った六課特別製だ、大事に扱えよ。それと細かいメンテナンスは自分らがするのは当然として、定期的にシャーリーがメンテしてくれるそうだ。良かったなお前ら、素敵なデバイスマスターが居て」
それには本当に感謝だ。皆も先ほどのグロッキーだった様子から一変して嬉しそうに表情を緩めている。
「さて、じゃあ詳しい説明を受けてから、実際に慣らしとして訓練を再開したい所───」
と、ヴィータが午後の予定を説明した、その時だった───。
───室内にアラームが鳴り響く。