正義執行   作:ラキア

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第07話

 

 

 六課自慢の大型輸送機に乗って移動する。場所は機動六課の隊舎から大きく離れたミッドの外れの方へ。ヘリに乗船しているのは新人達四人とヴィータとフェイト、そしてツヴァイだ。スバルやティアナは大分落ち着いている様に見えるが、エリオとキャロは見た感じ緊張の表情を見せている。二人に大丈夫と声をかけると、二人は声を張ってはいと答える。訓練で絞られたこともあって逞しくなったなと微笑みを浮かべると、新人たちの向かいに座るヴィータがブリーフィングを始めた。

 

「それじゃあブリーフィングを始めっぞ。今回、場所はミッド北部ベルカ自治領へと向かっている列車の一つが急に暴走を始めたって報告が入った。線路上にあるカメラから様子を見た結果、原因はガジェットドローンだと判明し、中にはおそらく密輸物にロストロギア・レリックがあるみてぇだ。そうなればあたし達の出番って訳だ」

 

 既に資料は全員に渡されており、チェックも済ませてある。ガジェットドローンはレリックに引き寄せられる性質がある。その事件を迅速に解決する理由の一つとして機動六課が設立された訳だ。ヴィータの言うように、あの列車にレリックがある、という事なのだろう。

 現在出動できたメンバーは自分たち七名である。はやてやシグナムは聖王協会にて騎士カリムと会談中だった為、現在こちらに向かっている最中だ。

 

「まあ現状把握している敵戦力を見ても、特に問題は無いだろうし、作戦とかに関しては初出動という事もあってお前らに頑張ってもらう感じで。航空戦力であるガジェットの二型はあたしとフェイト隊長で霧払いするから、お前らはこのままヘリで列車に突撃かませ。スターズ分隊はガジェットの殲滅、ライトニング分隊はレリックの確保だ。最初に言ったが基本現場の判断に任せる。が、あたしらが命令出した時は即座に従え。わかったな?」

 

 言うと揃ってはいと答える新人四人。すると操縦席からヘリパイロットのヴァイス陸曹が声を上げる。

 

「姉さん方、そろそろ到着ですぜ!」

 

 ヘリの扉が開いて、そこからミッド郊外の景色が視界に入ってくるのと同時に、暴走して走り続ける列車の姿が見える。だが列車に降りるにはまだ距離が開きすぎている。故に先に自分とヴィータが飛んでいるガジェットドローンを殲滅しなければならない。

 椅子から立ち上がるのと同時にヴィータ、そしてツヴァイが一瞬でバリアジャケットを展開し装備する。それに続いて自分もバルディッシュに声をかけてバリアジャケットへ姿を変化させる。

 

「じゃあ、屋根の上に降りられるように道を作るから、合図に従って降りてね? 決して無理しちゃ駄目だよ?」

 

 スバル、ティアナ、エリオとキャロにそれぞれ視線を向けながら笑顔でそう言うと、皆は笑顔ではいと答える。そしてヴィータと二人でヘリの扉前に立って、次の瞬間には落ちるようにして出撃する。

 

 空中に浮いたと同時に飛行魔法を展開して体勢を整えると、ヴィータが既にシュワルベフリーゲンを複数展開してガジェットドローンの群れに向かって弾き飛ばす。グラーフアイゼンのハンマーヘッドの衝撃とヴィータの魔力で強化されたそれらは無数のガジェットドローンを一瞬で破壊して、空を瞬く間に赤に染める。ヴィータのシュワルベフリーゲンは物理の特性を持つ攻撃である故にAMFを通すことが出来る。だが、この程度のAMFであればこちらの魔力の攻撃も関係なく貫通できるのだ。

 

 直ぐ様ヴィータが生んだその爆発の中に突撃するように一直線に飛びつつ、バルディッシュをいつも通りの対艦サイズのザンバーにしておいて、それを構える。爆発の向こうに浮遊して襲い掛かるガジェットドローンに向けて、ザンバーを横に振るう。

 

「はあああああぁぁぁぁーーーーーーーッッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 叫び、勢いを増加させる。ザンバーを振りぬきつつ、その刀身を砲撃のように伸ばして横一直線になぎ払うことで、無数のガジェットドローンが爆散する。途中で岩山も同時に斬ってしまったが、非常事態故に仕方が無いだろうと無視して、今度は上に跳躍して高く飛んでからザンバーを縦に振る。それにより付近のガジェットドローンは粗方片付く。それによって下方に存在した谷が崩れるが、仕方ない。これもガジェットドローンが悪いのだ。

 

『フェイト、あんま暴れるな。新人達に残すガジェットまで破壊する訳にいかねぇだろ。それと地図も変える必要が出てくるから地形ごとなぎ払うのはやめろ、マジで』

 

 ヴィータが念話で呆れたような声でそう言ってくる。閃光の如く体現する様な動きで空を飛び、次々とガジェットドローンを撃墜していく。だがそれでも列車の上に存在するガジェットドローンには触れないように気をつけている。

 今回の程度であれば新人達の初陣には丁度良く、実戦経験を積めさせるにはいい機会だ。経験を積むには早いほどいいので、こちらとしては非常に助かる。

 

 

 

 

 

 

 隊長たちが出撃したのと同時にあれだけ確認していたガジェットドローンの群れが一瞬にして爆散する光景を見て、改めてあの二人とは次元が違うのを実感する。その光景には思わずヴァイスがヒューと口笛を鳴らすくらいだ。

 さて、とツヴァイが言葉を漏らしてからこちらに向き直る。

 

「フェイト隊長とヴィータ隊長が道を作ってくれましたし、いよいよ実戦ですよー。この初陣をこれからの経験の糧にしてくださいね」

 

 ツヴァイの声に揃ってはいと返事をすると、ヘリの扉が開かれる。既に列車の真上に来ているので、問題なく飛び移ることが出来そうだ。ツヴァイはこのままヘリからこちらの援護をしてくれるのでありがたい話である。

 まずは列車の上に群れるガジェットドローンを撃破し、エリオとキャロの道を作ってあげなければならない。故に自分とティアが先行して出撃する。

 

「スバル・ナカジマ二等陸士、出撃します!」

「同じくティアナ・ランスター、出撃します!」

 

 飛び降りるのと同時にマッハキャリバーに合図を送り、真下に居るガジェットドローンに向けて拳を叩き込む。その爆発の上からティアがクロスミラージュで他のガジェットドローンを狙撃していき、破壊する。

 上空からキャロが既にAMF貫通支援魔法を付加してくれているので、楽に攻撃が通る。それこそ楽すぎるくらいに。

 

「訓練に比べるとかなり脆い! ヌルゲーだね!」

 

 言って一番近くのガジェットドローンに向けて接近し、一撃で確実にスクラップにする。それに屋根の上に配置されているガジェットドローンが一斉に此方を向く。ティアの立ち位置の付近にエリオとキャロが下りて、ティアが二人のカバーに入る。

 そのまま自分と共にエリオも列車内部に入れる地点まで目指し、敵陣へと踏み込んでいく。素早く確実に無駄が無いようにガジェットドローンを粉砕していく。訓練で覚えた事を確実に動きに入れてから、受け取ったばかりのデバイスを慣らすように戦闘する。

 

 はっきり言って、このガジェットドローンの戦闘能力は低い。脆すぎる。それも普段の訓練でこれ以上の戦力と対峙しているのだから、そう思っても仕方が無いだろう。攻撃も機械的でパターンも見切れる。レベルの高い相手をしているせいで、レベルの低い相手に違和感を覚える程だ。

 だが、そんな事は今考える必要は無い。前に出て自分とティアはガジェットドローン殲滅。そしてエリオとキャロがレリックの回収、それだけだ。自分とエリオが先行しているが、前に出ればその動きにティアとキャロがついて来る。時折自分らを避けたガジェットドローンをティアが確実に仕留める。

 

 直ぐに車両の境目まで到着し、エリオとキャロはここで内部へと突入する。ティアも二人の援護をするために内部へと入っていく。自分の役割は車両の外にあるガジェットドローンを破壊して、外から攻撃を三人に通さない事だ。車両の境目周辺をクリアリングしつつ、他の車両上に群れるガジェットドローンに向けて踏み込んで行く。

 正面からの踏み込みは集中砲撃を受けることになるが、それを突破して肉薄さえすれば一気にこちらの間合いで殲滅する事が出来る。が、唯でさえ足場に余裕が無い列車という場所で、しかも最高速で暴走している為かなり風圧もかかる。下手に飛び跳ねる事は出来ない。

 しかし、マッハキャリバーはこちらが意識した瞬間に疎通したかのようなタイミングでウイングロードを展開してくれる。そのタイミングに感謝しつつ、その足場を利用して砲撃を回避して肉薄し、リボルバーナックルで拳を叩き込んだ。そのまま数基のガジェットドローンを撃破して先頭車両に向けて踏み込んで行くと、二車両目の天井が突如爆発し、そこから巨大なアームを展開して這い上がるガジェットドローンの三型が出現する。

 だが、三型の行動パターンは既に頭に叩き込んである。訓練と実践での違いを修正しつつ、間合いに入る。大きなアームで此方に攻撃を仕掛けるが、自分の機動力の前ではあまりにも遅すぎる。故に少ない動きだけですり抜けて、ガジェットドローンの中心にリボルバーナックルをぶち込み、粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 結果、無事にレリックを回収し、ガジェットドローンも全て撃墜。先頭車両にて壊れたシステムを止めて列車も緊急停止に成功した。初陣としてはかなり好成績で結果を残せただろう。帰りのヘリに乗せられながら、自分ら四人は早速今回の戦闘に関しての自己分析をそれぞれ行う。

 向かいに座るヴィータが熱心で何よりと笑みを浮かべる。現在ヘリに乗っているのは自分ら四人とヴィータと操縦者ヴァイスだ。フェイトとツヴァイは現場に残り、後から来た管理局の応援と共に事件の現場の収拾をし、同時にデータを集めている。

 

「しかし、簡単な初陣でよかったなお前ら。初陣ってのは一番危険なものだからな、訓練怠っている連中は結構これで使いものにならなくなる。ま、普段からの訓練に感謝するこった。つー訳で帰ったら前回より少しレベルを上げたガジェットとの戦闘訓練すっから、そのつもりで」

 

 それに苦笑いを隠せないエリオとキャロと自分。ティアはもう慣れて真顔で返事を返していた。定期的にティアのストレス発散に気をかけないとなと思いつつデータを纏めていると、ヘリの通信システムが起動し、そこにはやての姿が映し出される。

 

『やー、みんなお疲れさん。初陣は無事に終わったようやな。個人的には初陣でぼろ負けしてくれた方が心を折れたと思ったんやけど』

 

 笑顔で笑えない冗談を言うはやてに、データを弄っていた自分ら四人は姿勢を正してはやてに敬礼する。するとはやては手を下げて敬礼止めと指示し、腕を下げる。はやての背景が輸送機らしきバックなので、戻ってきている途中なのだろうと確信する。

 

『され、皆疲れていると思うけど、ここで朗報や。───近々また実戦あるで』

 

 その言葉に目を丸くしていると、ヴィータがはやてに質問する。

 

「八神課長、その事についての詳細は?」

『まだ資料は完全に出来てないんやけどな。今ここで簡易的に説明すると、防衛任務や。場所はホテルアグスタ。皆は聞いた事あるか?』

 

 はやての質問に自分とエリオとキャロは答えられずに眉根を八の字に歪めると、ティアがその答えを説明する。

 

「確かミッドでも富裕層の方が参加するオークション、その会場に使われているホテルですよね? 次元運搬施設が近くにある事から、周囲が森林に囲まれた環境にも関わらず、倉庫といった建物が多く集まる場所の施設だったかと」

『うん、そうや。そこでロストロギアが複数オークションに出品されるようなんよ。あ、ロストロギア言うても危険性は殆どないことから、管理局の許可も出ている安全なものや。いわばお宝感覚の代物やから、法的には問題ないんよ。たまにクラナガンでも有名な鑑定士さんとかもゲストとして呼ばれるくらいやしな』

 

 その知識を良く知っていたなと感心しつつ、その任務の詳細について耳を傾ける。

 

『ほんで、そのホテルで近日オークションが開催されるんやけど、今回は特にロストロギアが多く出品されるらしいんや。となると……言わんでも分かるな?』

 

 その問いに揃ってはいと答える。ロストロギアが大量に集まる。危険性の無いものであるが、ひとつの場所に集まるということは、それに釣られてガジェットドローンが現れる可能性がある。つまり万が一の事態に備えて、ホテルの防衛を行うという事で間違い無いだろう。

 

『まあ、帰還したらまた詳しく説明するんで、それまでヘリの中でゆっくり休憩しててな。帰ったらまた地獄やと思うし』

 

 言って笑顔なはやてに対し、思わず真顔になった自分らは揃って返事をした。通信が途切れ、何とも言えない空気になる中、ヴィータが此方の肩にやさしく手を当てる。

 

「……許可するから、着くまで寝てていいぞ」

 

 訓練では鬼のように思えるヴィータが、この時は天使に見えた。こちらの事をよく知るヴィータだからこそ内情を察してくれたのだろう。その言葉に甘え、自分たちは椅子に背を預けて身体を楽にした。

 来る所、間違えたかなぁ、と思いつつ、徐々に重くなる瞼を楽にした。

 

 

 

 

 

 

 昼ごろになっても静けさに包まれる廃棄都市であるが故に、目覚ましなどをかけないと本当に一日寝ていられる環境だ。昨日は深夜番組を見ていたせいで、この時間になっても布団に包まって寝ているなのはの姿がある。

 しかし、すさまじい形相になったなのはが一瞬で飛び起きると共に叫びを上げる。

 

「はぅおおああああああーーーーッッ! ハナクソついた指で、あっち向いてホイ仕掛けてくるなぁぁぁあああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 目を覚まし、しばらくは部屋に視線を彷徨わせる。そこで夢だと分かって一気にクールダウン出来る。手元にあったリモコンでテレビをつけると、そこには既にお昼の番組が始まっており、疑問を感じつつ枕元の目覚まし時計を探す。

 と、そこで先日壊してしまった事に気がつき、やってしまったと思いつつ後頭部を手でかきながら立ち上がる。テレビが見える位置で歯を磨くため、ダイニングキッチンのシンクで歯磨きを行う。ブラシで歯を磨きながら、今日は時計を買いに行かないとなと思っていると、ふとテーブルの上に置いてあるレイジングハートが光った。

 歯を磨き終わり、口をゆすいでからコップとブラシを片付け、テーブルの前に来る。

 

「ねえレイジングハート、目覚まし代わりとかやってくれないかな?」

 

 『What!?』と返してくるレイジングハートのノリに笑みを浮かべつつ、具体的にお願いを頼んでみるが、レイジングハートは以前にも同じ事を言って私が起こしたら効果が無かったと言っている。そしてさり気無く目覚ましの役割をしたら命の危機などというが、それは無視しておこう。

 レイジングハートが断るのならしょうがない為、おとなしく時計を買いに行くことを決める。適当に身だしなみを整えつつ、財布といったものを確認して、レイジングハートを首にかけようとした時に、丁度通信が入る。

 表示される名前はユーノだった。珍しいと思いつつ、通話をオンにして立体ディスプレイを表示させる。そこには少年のころの童顔の面影を残しつつ大人になったユーノの姿がある。髪は伸ばして後ろで一つに結っており、その顔には眼鏡をかけており、仕事柄視力が落ちてしまったことが分かる。

 

『やあ、なのは、久しぶり』

「うん、久しぶりだねユーノ君。珍しいね、ユーノ君から連絡してくるなんて。……仕事落ち着いたの?」

 

 言葉を口に出した通り、ユーノとこうして連絡を取るのも半年ぶりくらいになる。その理由が主にユーノの仕事で時間が空かないというものであるが故に、無理にこちらから連絡する訳にもいかない。だがこうして連絡を取ってきたということは時間に余裕が出たということだ。

 だがユーノは苦笑いしてそれに答える。

 

『いや、実際にはまだ仕事は残っているんだよ。……っていうか終わる気配が無くてね、いつも泊り込みで無限書庫に引きこもっているよ……。あはは、仕事辞めたい……』

 

 そんな彼の職場である無限書庫という場所が思い切りブラックである事実に、なのははご愁傷様とだけ心の中で思った。ユーノは話を戻し、本題を話し始める。

 

『連絡した理由は、少し護衛任務を受けてくれないかなーっと思って』

「護衛?」

『うん。今度ミッド郊外にあるホテルアグスタって所でオークションが開催されるんだけど、そのイベントのゲストとして僕が呼ばれてね。本当は仕事も残っているし遠慮したかったんだけど、上からの命令だから断れなくて。まあ、切り替えて久々にゆっくり出来る一日と考えることにしたんだ。それで、一応護衛をつけなきゃいけないらしくて、それならなのはが良いなと思ったから……どうかな?』

 

 話を聞いて、腕を組みながら思考する。ユーノのお願いといっても、オークション会場という堅苦しい場所に行きたいとは思わないので、正直行きたくない。申し訳ないが、断ろうと口を開こうとした時───。

 

『───あ、ちなみに会場ではごちそうが出るから食べ放題だよ?』

「うん! 一緒に行こうかユーノ君! 任せておいて、どんな奴が襲って来てもワンパンで片付けるから!」

 

 見事に手のひらを裏返し、満点の笑みを浮かべサムズアップし、即答で引き受ける。最近食費をケチっていた為ろくな物を食べていなかったので、背に腹は代えられない為、ごちそうが出るなら食べたい。

 

「あ、でもそのオークションって結構上品な感じ? 私リクルートスーツくらいしか持ってないけど」

『うん、全然オッケーだよ』

 

 オークションは近日に開かれるらしいので、詳細は後ほどデータで送るという事だ。せっかくなのでこのまま会話もしていたかったが、今日も忙しいみたいなので直ぐに仕事に戻らなければならないらしい。

 じゃあまた、と言って通信を切る。

 

 しばらくは何も食わなくて平気かなと、少し思った。


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