機動六課の隊舎がある駐屯地エリアからヘリに乗ってミッドの街の上空を移動する。ヘリには自分たち新人四人とフェイト、ヴィータ、シャマル、そしてはやてが搭乗している。ヴィータとシャマルが自分たちの向かいの席に座り、はやてとフェイトが操縦席手前に出現する立体ディスプレイの前に立って説明を始める。
「ほんなら改めて、ここまでの流れと今回の任務のおさらいや。今まで不明だったガジェットドローンの製作者及びレリック収集は、現状はこの男……」
言って、立体ディスプレイにウインドウを追加し、そこに白衣を着た男が表示される。
「違法研究で広域指名手配をかけられている次元犯罪者───ジェイル・スカリエッティを中心に捜査を進める方針や」
ジェイル・スカリエッティ。名前だけなら聞いたことはある。はやての言葉を続けるようにフェイトが口を開く。
「こっちの捜査は主に私が進めるんだけど、皆も一応覚えておいてね」
揃って返事をすると、はやてはさて、と言葉を挟んでウインドウを切り替えていく。
「んで、今回の任務はホテルアグスタで行われる骨董品オークションの会場警備と人員警護。それが今日のお仕事や。現場には昨夜からシグナム副隊長、ザフィーラ他、数名の隊員たちが見張ってくれてる。私とフェイト隊長は会場の警備に回るから、前線はヴィータ隊長とシグナム副隊長たちの指示に従ってな」
「「了解!」」
再び揃って返事をしてから、これから出動する現場を確認するために資料に目を通した。
◇
「おお、結構大きい所だねー。森の中にあるって聞いたからどんなものかと思ったけど、私のイメージの想像の上を行ったね!」
「まあミッドでも有名なオークションだからね。たまにテレビカメラが入ったりしているところだし、この会場事態も他のテレビ番組とかで使われたりしているから。あ、今日はカメラとか得にないらしいから気楽にしてていいよ」
車に乗って数時間で目的地のホテル・アグスタへと到着し、外観を見て感嘆の声を漏らす。帝国ホテルにイベント会場が併合した施設であり、結構な大きさである。ユーノと共に早速ロビーに入ってから、受付まで後ろに付いて歩くと本人確認と入場許可証の提示を求められた。予めユーノから必要なものを渡されていたので、それを提示し、ユーノ自身からもなのはの事は自分の護衛だと係員に伝える。
まだオークション開催まで時間がある為、会場を回るようになっている広い廊下、そこにある休憩スペースのソファに座る。通り過ぎる人たちを見ると、さすが富裕層が集まるイベントだけあって服装も高そうなスーツやドレスを着た婦人が多い。対し自分は就職用に買った黒のリクルートスーツであるが、見た目的には特に問題はないだろう。
「あ、ちょっと待ってて」
ユーノは自分にそういうと、向こうのロビーに居た人たちに向けて歩み寄っていく。どうやら仕事上の知り合いらしく、社交辞令じみたやり取りをしているのが遠めでも分かる。
「(そういえばユーノくん、考古学者だっけ。……無限書庫の司書長やっているのに大変だなぁ……)」
様子を見ながら某としていと、どうやら連れはいないのかという話になったらしく、こちらに手をむけて自分を紹介している。一応立ち上がってから丁寧に挨拶はしておく。そんなやり取りをしてからユーノはこちらに戻ってきた。
ため息を吐いて隣に座るユーノに質問する。
「今の人たちって?」
「あー……今回のイベントに僕を呼んだ張本人達で、分かりやすく言うと役所の【元】お偉いさんだ。今は天下ってこう言う所に出席しているんだよ。……ハハ、必死に作り笑いして愛想よくしたけど、内心こいつら汚職でもバレて人生終わらないかなーって思ってた。良いよねー、定期的にハンコ押すだけの楽な仕事してたのにも関わらず、老後はこういった地方で踏ん反り返れるんだからさー……なんてね!」
周りから見て心象を察せられないように、ポーカーフェイスで表情は優しい笑みを浮かべて結構な事を言っているユーノを見ると、良い空気吸ってるなと思う。司書長補佐だった頃はまだ純粋な少年だった筈だが、やはりブラックな職場は人を変えてしまうのだろう。
そういえば、とユーノがこちらを向いて口を開く。
「なのはは今も相変わらずな感じ?」
「うん、趣味でヒーロー感覚で魔導師やってる。やっぱミッドって広い割に治安維持の人員が足りてないからちょくちょく事件が起こっているよ。よほどの災害レベルにならないと動かないのかな管理局は」
「ああ、確かにそういった中小の事件は嘱託の魔導師に任せているって話聞いたことあるなー。……まあそれでもクラナガンを中心としたエリアでしか成果は出てないみたいだけど。スラム街とか特に犯罪とか起こっているからね……。そういう所には幼い局員とかは回せないから難儀な事だよねー……」
ユーノは苦笑いしつつ言うと、立ち上がって休憩スペースにあった自動販売機に向かう。コップに注ぐタイプだ。コップにコーヒーを淹れてからそれをこちらに渡してくる。ありがとうと礼を言ってからそれを受け取り、再び隣に座る。
「そういえばはやてが部隊を立ち上げたって話は聞いてる?」
「うん、六課だっけ? ロストロギアの収集を専門とした部隊って聞いたけどね。フェイトちゃんからは一応誘いは来たけど、管理局で働くと色々と堅苦しいから、それは嫌なんだよねー……。はやてちゃんの信頼する人たちしか居ないって言っても、私は自由に生きたいって決めているから、局入りはちょっと……」
「まあ、なのはらしいけどね……。僕もいつか脱局して喫茶店でも営もうかな。……まあ無理な話だけど」
「喫茶店開いたら一緒に働こうよ。父さんや母さんから一応仕事教わっているから」
「あはは、心強いね。その時は頼むよ」
そんな会話をしつつ、時間を確認する。結構な時間が過ぎた為、そろそろ控え室にて待機しなければならない。コーヒーを飲み干すと、コップを捨てて二人で関係者用の入り口へと向かう。そこには係員が立っており、ユーノを確認すると中へと案内してくれる。
護衛はここから先に入る必要はないので、ここで一旦お別れだ。ユーノに手を振ってから扉が閉められる。さて、と声を上げてから、オークション開始までどこかで時間潰していようかなと考える。レイジングハートに時間を確認して貰い、適当な場所で時間を潰していくことにした。
◇
はやてとフェイトが会場内へドレスを来て入って行き、ヴィータは中央のエレベータ前を見張って、シグナムとザフィーラはエリオとキャロと共に地下駐車場の見回りをしている。地下駐車場は入庫口と繋がっており、何か異変があるとしたら地下だからである。
現在自分とティアはイベント施設の大きな休憩スペースに居る。ガラスの天井に、所々が吹き抜けで天井が無い、屋外の休憩所になっている場所だ。ティアはその外側の場所で警備に当たっている。
『……スバル、聞こえる?』
『うん、どうしたのティア?』
見回りをしていると、念話でティアがこちらに話しかけてくる。
『あんた、今のところ機動六課をどう見てる?』
『どうって、厳しいけど優秀な部隊って感じ?』
『───そう、そうなのよ』
そこで一呼吸置いてから、ティアは続ける。
『あまりにもエリートが揃いすぎている。最初の説明の時にも言ったけど、八神課長と、ヴォルケンリッター、そしてフェイト隊長。私たちとエリオとキャロ、その他スタッフだって皆優秀な人材ばかり』
自分を過小評価しないティアに流石だなと思いつつ、次の言葉を待つ。
『でも、正直ロストロギアの回収の為だけに作られた部隊としては、戦力が強すぎる。今回との犯人と衝突することになるかっていっても、一犯罪者の集団に対してもハッキリ言って過剰よ。───それこそ、どっかと戦争できるくらいに』
『ティアは八神課長がどっかと戦争でもすると思ってるの?』
『……まだ分からないわ。でも、この先にある【何か】に備えているってのは間違いない筈よ』
確かにティアの言うとおりに、現状集めているロストロギア・レリック。それに集まるガジェットドローン。そしてその収集を目的としている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。だが、普通に考えればこのスカリエッティを逮捕すればそれで解決する事件だ。果たしてここまでの戦力が必要か否かと問われれば、必要は無いように思えてくる。
それこそ、何か災いの予言でも無い限りは。
『……くだらない話だったわね。ごめん、任務に集中しましょう』
『いいよ、気にしないで』
いずれにせよ、どういう真相があるのかは分からない。今は目の前の任務にだけ集中しようと意識を切り替えた。
◇
ホテル・アグスタの周囲は大自然に囲まれている。これは次元運輸施設が近くにある事と、ホテルの利用客に景色を楽しんでもらう為に建てられた為だ。その大自然の森の中に、複数の山がある。その一角にある場所で、フードで姿を隠している男の姿と、隣に少女の姿が確認できる。
遠めで見てもかなり大きな建物だなと思う。それこそ何か裏金や黒い背景でもあるように思えてくる。だが、それにしては外観のバランスが自分的にかなり悪い。もう少し見栄えを考えて建てれるだろと思うが、その思考は一度置いておこう。重要なのはあの建物にロストロギアが複数存在しているということだ。その情報を元にここまで来たのはいいが、デバイスで検索した結果、レリックは存在しないと判明する。
「ファ○ク!」
「……あまり汚い言葉は使うな、ルーテシア」
「だってここまでやっと来たのにレリックは無いって訳でしょ? 不満も言いたくなるわよ」
ため息を吐きつつ、人差し指を親指で押して鳴らす。ポキっという音が小さく鳴る。すると隣に立つ男───ゼストが眉根を八の字に曲げて口を開いた。
「これまでだって似たようなことはあっただろう」
「今までは割りとイライラを周囲にぶち撒いてストレス発散していたけど、今回はそれも出来なさそうじゃない。なんか管理局が警備に当たっているっぽいし……」
そう言って、手に装備したデバイスで反応を出さないように検索をかけると、周囲を監視する魔力反応がある。結構大きいことから、民間の警備ではないことが分かり、おそらく管理局が張っていると考える。
「面倒だなぁ……。ドクターからなるべく騒ぎは起こすなって言われているし、憂さ晴らしも出来ないなんて。あの馬鹿でかい高級ホテルを潰せば貧富の差別テロを起こすいいきっかけになると思ったのに」
「俺からも騒ぎは大きくしたくないし、そんな事しても無駄な犠牲が出るだけだ。何の意味も無い。今回はおとなしく撤収するぞ」
言って、ゼストが踵を返すが、丁度その時デバイスに反応が出る。
「ん……あれって……ガジェットドローン?」
ルーテシアが反応を元に、肉眼で森の奥からホテル・アグスタに向かって接近する機影を発見する。ガジェットドローンがホテルを囲う様にして接近してきている。レリックが無いのにどうしてと疑問に思ったが、同時にデバイスにドクター・ジェイル・スカリエッティから通信が入る。
応答し、ホロウインドウを表示させる。
『やあルーテシア、それに騎士ゼスト。ごきげんよう』
「ごきげんようドクター。というか、相変わらず顔色悪いわね。ちゃんとご飯食べてる? たまにはウーノさんに手料理でも作って貰えばいいんじゃないかしら?」
白衣を着た紫色の髪の男、スカリエッティは馴れ馴れしくこちらに話しかけてくる。この男のノリは初めからこうなので、こちらも気にせずに舐めた対応を取るのがデフォルトになっている。ゼストは明らかにスカリエッティに嫌悪感を出しているが、気にせずにガジェットドローンのことについて訊ねておく。
「んで、あのガジェットの数はどうしたの? レリックはあのホテルに無いようだけど?」
『その事なんだが、あのホテルに紛れ込んでいる密輸品に私が欲しいものがあってね。出来れば二人にも協力して欲しいんだが、どうかな?』
なるほどと納得する。オークションに出品されるのは許可が取れた安全なロストロギアだが、あのホテルを通して危険な密輸品があるという情報があった。レリックでは無いにしろ、スカリエッティが欲しいものがあるのだろう。
どうするかと悩むと、ゼストが即答で断る。
「断る。レリック関係でなければ、互いに干渉しないと決めた筈だ」
鋭い双眸でウインドウを睨み付けるゼスト。たしかにこの人の事情を知ればスカリエッティを敵視するのが普通だ。しかし、現在は目的があり、それに従って互いに協力している以上は、自分は好意的にしていきたいと考える。
「私は引き受けていいよ。ここでドクターに貸し作れば色々便利そうだし」
『優しいねぇ、ルーテシア。今度お茶とお菓子でもご馳走させてくれ。あ、それと今デバイスに目標の物のデータを送っといたよ』
「あ、それで貸し無しには出来ないから。そこん所よろしく」
言ってサムズアップしてから通信を切る。デバイスに届いた情報を確認してから、早速ガジェットドローンに仕掛けをしようと思い、フードつきのコートを脱いでバリアジャケットを露にさせる。黒のドレスを基調とした露出の高い衣装だ。個人的には好きなデザインだが、寒いんだよなと思いつつ、デバイスを機動する。
「……本当にいいのか?」
ゼストが心配するように声をかけるが───。
「だってこれで派手に憂さ晴らしが出来るんだから、暴れたほうがいいじゃない?」
満点の笑みをゼストに向けると、彼は困ったように額に手を当てた。気にせずに召喚魔法を展開して、足元に術式を展開させる。これで管理局にこちらの位置がばれてしまうが、ガジェットドローンの大群が既に前線に出ているのだ。こちらまで簡単に来ることは無いだろう。
「アスクレピオス───インゼクト」
デバイスの名を言ってから、召喚を行う。と、背後の術式から縦状の繭が出現し、そこから指の関節程の大きさの羽虫が飛んでいく。偵察などに用いられ、時には集団を相手に纏わせて翻弄させるという存在だが、この場合は少しだけ特殊だ。
インゼクトの何体かがガジェットドローンに衝突する。するとインゼクトがガジェットドローンのシステムを操作して有人操作に切り替わる。インゼクトは機械ではなくて召喚によって呼ばれた生きた存在だ。故にそれぞれ独立した行動を取ることが出来る。
「さて、ドンパチと行きますか!」