尻ぬぐいのエリダヌス~駆け抜けて聖戦~   作:丸焼きどらごん

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二章 十二宮の戦い編
11,十二宮の戦い、序章


 某日、夜。自家用のジェット機で女神(アテナ)と彼女の側近の辰巳と、青銅聖闘士(ブロンズセイント)四名は聖域に向けて出発した。

 

 テイクオフを見送った私とアイオロスは互いの顔を見て頷きあうと、仕込みと最終確認のため先んじてテレポーテーションで聖域へと向かう。

 ちなみにこのテレポーテーション、私とアイオロスは中継地点を介して複数回繰り返す必要がなく大抵の目的地までは一瞬だ。十三年、ムウ殿の指導の下で超能力関連の力を磨いた成果は伊達ではない。……いつか平和になって金でも出来たら、世界中仕事ではなく観光で巡ってみたいものだ。実質、前世で憧れだったどこでもドアを手に入れたようなものだからな。まあ全て不法入国になるわけだが。

 

 

 

 そして移り変わった景色の中で、私たちを待っていたのは魔鈴だ。あらかじめ連絡は取っていたが、実際に無事な姿を見ると安心する。……どうやら、教皇ことサガにはバレずに行動出来ていたようだ。

 しかし思いがけない人物が魔鈴の横に居たことに、私もアイオロスも一瞬動きを止めた。

 

「そう緊張してくれるな。僕はあなた方の味方だ」

「その通りだよ。安心しな」

 

 魔鈴からのお墨付きをもらい、私たちは肩から力を抜く。……だが魔鈴も人が悪い。こんな頼もしい味方が出来たのならば、連絡した時に教えてくれたらよいものを。

 

「久しぶりだな、オルフェ。……君が味方になってくれると言うのなら、こんなに心強い事は無い。だが今までどこに姿を消していたんだ?」

 

 そう。魔鈴と共に私たちを待っていたのは、白銀聖闘士……琴座(ライラ)のオルフェ。白銀でありながら黄金聖闘士をもしのぐ実力があるとさえ言われた、聖域の生きる伝説だ。

 

 基本的に聖闘士同士での私闘は禁じられているが、オルフェが伝説と言われるようになった話の元ネタに関しては……まあ仕方がないよなぁと、彼と同じく愛する者が居た私としては納得している。当時彼に下された私闘の刑罰に関して、ついついかばいだてしてしまったしな。

 何があったかといえば、オルフェの恋人であるユリティースを馬鹿にしたというか、彼女をネタにオルフェを軟弱者だと罵ったとある黄金聖闘士がオルフェに完封されたのだ。その時垣間見せた彼の真の実力が凄まじいものだった、というのがオルフェが伝説と呼ばれるゆえんである。実際彼は地力もさることながら、有する技がとても強力だ。彼の奏でる琴の音色の前では、時に黄金聖闘士ですら抗うのが難しい。

 

 

 そんな彼が味方になってくれるのはとても頼もしいのだが……。

 実はこのオルフェ、数年前から行方知れずとなっていたのだ。

 

 

 私が知る知識の中で彼が登場したのは冥界。……オルフェは亡き恋人のそばに留まるため、一度は冥界側についた聖闘士だったのだ。

 オルフェに関してのエピソードは神話のオルフェウスと酷似していたため、前世の記憶を今世で思い出そうとしていた時に比較的容易に掘り起こす事ができた。そのため彼の恋人であるユリティースが毒蛇に噛まれて死ぬことが無いように、よくよく忠告していたのだが……。これは贔屓、と言われても仕方がないだろうか。

 自分たちの都合のために、私たちは星矢達の兄弟を始めすでに幾人もの命を見捨ててきた。だが愛しい人を失い、冥界にまでおもむき恋人を取り戻そうとしたオルフェの気持ちを、私は痛いほど理解できる。私自身今こうして運命に抗おうなどと大それたことをしているのは、愛する息子と亡き妻のためなのだから。

 だからこそ原作の流れを極力変えないという方針に逆らって、彼にだけは忠告をした。それでダメだった時は仕方がないと諦めるつもりだったし、それならそれで冥界の内部に先に強力な白銀聖闘士を送り込めるのだと……歯噛みしながらも打算的な事を考えた。

 

 姿を消したと聞いた時、やはり駄目だったのかと悔しく思ったものだ。

 だからこそ、こうして彼が目の前に現れたことが味方になってくれた以上に嬉しい。何故ならそれは、彼が愛しい相手を失わなかったことを示唆している。

 

 私がゆるむ口元を隠し切れず問いかけたことに対し、オルフェはふっと息を吐き出しながら答えてくれた。

 

「それはこちらの台詞だ。リューゼ、君もだが……。隣の貴方。まさか逆賊と名高い射手座(サジタリアス)のアイオロス様とこうしてまみえることになろうとは、驚きです」

「これは、耳に痛いな。魔鈴。私の事もムウから聞いたのか?」

 

 オルフェの言葉に隣のアイオロスが顔を隠していたサングラスを外す。ジャミールにてムウ殿からこちらの情報を聞いてオルフェに伝えただろう魔鈴は、アイオロスの素顔を見ると一瞬息をのむ。が、すぐに気を取り直して頷いてみせた。

 

「そりゃ、リューゼと一緒になって暗躍していた奴が誰だか気になるのはあたりまえさ。……本当にアイオリアそっくりだね。いや、アイオリアがあんたに似ているのかしらね」

「リューゼから聞いたが、十三年間……。私のせいで反感を抱く者が多い中で、君はアイオリアによくしてくれたらしいな。礼を言う」

「よしとくれよ。よくも何も、わたしは何もしちゃいない。……本人をよく見もせず兄と弟の事を切り離して考えられない馬鹿な連中には、ちょっと呆れていたけれど」

「それがきっと、アイオリアには救いだったはずだ。そう考えてくれる者が一人でも居るというのは、本当にありがたいことだからな」

「……こう、正面から妙な事で礼を言われると調子狂うね。さ、この話はここまでさ。本題に移ろうじゃないか」

 

 アイオロスに礼を言われたのがむず痒かったのか、魔鈴は手をパンパンっと二度ほど叩いて仕切り直す。

 

「ふっ、魔鈴は照れ屋のようだな」

「煩いよオルフェ。それより、もう一人紹介する相手が居るんじゃないかい?」

 

 不機嫌そうな魔鈴の言葉を受けて、オルフェは「ああ」と頷くと私を見た。

 

「僕が今まで何処にいたかと聞いたな? ……何のことは無い。教皇への不信は僕も年々強く抱くようになっていた。だからそんな聖域に、ユリティースを置いてはおけないと思ってね。安全に過ごせる場所へ彼女を住まわせるため、動いていたんだ」

「……じゃあ、ユリティースは元気なんだな?」

「ああ、お陰様でな。今はとある場所で預かってもらっている。リューゼ、君が何故予言するかのように注意を促してくれたのかは知らないが……。彼女は危うく強力な毒を持つ毒蛇に噛まれて死ぬところだった。それを未然に防げたのは、君の忠告のお陰だろう。だから個人的にも君には恩があるのだ。しかもこれから本物のアテナがご帰還されるというならば、僕がやることはひとつ。ユリティースとしばらく会えそうにないのは辛いが、役目を放棄してまで側に寄り添う事は彼女も望まなかった」

 

 ……きっとユリティースは本心ではオルフェに行ってほしくなかったのだろう。しかしそれを押し殺してオルフェを送り出した彼女の心に応えんとするオルフェの表情には決意が見て取れた。

 

「……だから僕も再び、聖域のために、女神(アテナ)のために戦おう」

「……感謝する」

「いや、聖闘士として当然の事。そして、戦う決意をしているのは彼も同じだ」

「彼?」

 

 オルフェが後ろを振り返ると、誰かが物陰から出てきた。怪我でもしているのか体を引きずっているその人物の顔が分かるほど近くまでやってくると、それが誰だか分かる。

 

「ダイダロス!? どうしたのだ、その怪我は!」

 

 現れたのは、アンドロメダ島で聖闘士候補の師を務めているはずの……アンドロメダ瞬の師でもある、ケフェウス星座の白銀聖闘士ダイダロスだった。その体には無数の傷が刻まれており、一応包帯こそ巻いてはいるがそれでは隠し切れないほどだ。

 

「……実は、教皇に不信を抱いて長年聖域の招集に応じなかった事で反逆者とみなされてな。黄金聖闘士、魚座(ピスケス)のアフロディーテに粛清されかけたのだ。寸でのところでオルフェに助けられ、こうして命を長らえることが出来たが」

「なんと……。そんなことが……」

 

 危ない。

 危なかった。

 

 ダイダロスは聡い男なので当然味方側に組み込めると思って後回しにしていたのだが、まさか黄金聖闘士が出向いていたとは。その辺まったく覚えていなかったから、本当に危なかった……!

 私は全てを詳細に覚えているわけではないんだ。だからアイオロス、「お前マジかよ」みたいな目で私を見るのをやめろぉ!!

 

 冷や汗をどっと流している私に幸いにも気づかないオルフェは、ダイダロスの言葉を引き継いで話を続ける。

 

「同じく教皇に不信感を抱く者として、姿を消している間もダイダロスとは時々会って情報交換をしていた。幸いアフロディーテが来た時にも訪ねていたから、僕のデストリップセレナーデで奴の意識を奪ってから、その間にダイダロスの死を偽装した。……ジュネという彼の教え子には心配させて悪い事をしたが、傷が癒えほとぼりが冷めるまでユリティースのところでダイダロスをかくまう予定だったんだ。そんな時に多くの白銀聖闘士が日本へ刺客として送りこまれていると知り、不審な行動に教皇の悪としての尻尾を掴むチャンスではないかと考え聖域に帰還したのだが……」

「ちょうどその時、わたしもジャミールを経由して聖域に帰って来ていたってわけさ」

「そういうことだ。事情を話したらダイダロスも怪我を押してでも女神(アテナ)に関する一大事にじっとしてはいられないと言って、こうして来てくれた」

「……情けない事に、出来ることは少ないやもしれんが。少々事情があって、俺の聖衣は修復出来ておらんからな」

「いや、それでも助かる。心強い」

 

 ダイダロスの聖衣……アフロディーテとの戦闘で破壊されたのだろうか? 彼ほどの男の聖衣、おそらく並大抵では破壊できんだろうからおそらくそうだろうな。アフロディーテと戦う前に聖衣が破損していたとしたら、ダイダロスは聖衣無しで黄金聖闘士と戦った事になる。もしそうなら大変な事だ。

 

 ともあれ、聖域ですぐに動ける味方が三人もいるというのは本当にありがたい。

 

「……まあ、安心してくれ。直接戦う機会はおそらくほとんど無いだろうから、今のダイダロスにも出来る仕事をお願いすることになるだろう」

「何? 話によれば、これから女神(アテナ)が教皇の野望を砕かんと聖域に来るのだろう。我々は女神に加勢し、教皇を打ち倒すのではないのか?」

「いや、その件なんだがな。五老鋒におわす黄金聖闘士……天秤座(ライブラ)の童虎様とジャミールの牡羊座(アリエス)のムウ殿とも話し合ったのだが、この件は女神に与えられた試練だと考えるべきだという結論に至った。だからこそ今回戦うべきは、アテナが日本に渡ってから彼女自身が集めた聖闘士。彼らをアテナの代行者として女神……城戸沙織の命運を試すべく、戦いは彼らに任せようと考えている」

 

 あらかじめ用意していた理由を述べると、怪我をしているはずなのにひときわ大きな怒声がダイダロスから発せられた。

 

「馬鹿な! 女神の命運を我々が試すなど恐れ多い上に……その聖闘士達は瞬達……青銅(ブロンズ)だろう!? 青銅に黄金や教皇に挑ませようというのか!」

 

 すぐに傷に響いたのか呻きながら体を押さえたダイダロスを、アイオロスが支えた。

 

「気持ちは痛いほど分かるさ。だが、これから女神にはより強大な敵が立ちふさがる。この程度の試練は越えてもらわねば困るのだ。……それにいざという時に取り返しがつくように、我々が居る。難しいだろうが、理解してほしい」

 

 十三年前、逆賊の汚名を着ながらも女神を助け出した男の言葉にダイダロスも思わず黙り込む。

 

「それに、青銅達の力を信じて見てほしい。ダイダロス、君の弟子は瞬だろう? 彼の本当の力を一番よく知っているのも、君のはずだ。……どうか弟子を信じてみてはくれまいか」

「む、むう……」

「ダイダロス、その辺にしておいたらどうだ。もとより僕たちは出遅れている。十三年前から動いている彼らを信じてみてはどうだろう」

「オルフェ……」

 

 アイオロスとは反対からダイダロスの体を支えたオルフェの言葉に、ダイダロスはようやく頷いてくれた。ずいぶんな葛藤があったようだが、それも彼の誠実な性格ゆえだ。申し訳ないが、我々と共に裏方に回ってもらおう。

 

「話はまとまったようだね。ところで、リューゼ。あんたが言っていた通り、どうやら女神を襲撃する一番手に選ばれたのは矢座(サジッタ)のトレミーのようだわ」

「! そうか」

「ああ。……しかも、教皇から一本黄金の矢を賜っていた。あれは神殺しの道具か何かかい?」

「いや、正確なところは私も知らぬのだがな。そうかやはり……」

「……あんたさ、教皇の正体を知っている以外にもまだ隠していることがあるね? あとで洗いざらい喋ってもらうよ」

「うぐ!?」

 

 ま、まずい。確かにちょっと情報を出し過ぎた。……しかもこの後、ちょっとした小芝居につきあってもらいその仕込みも手伝ってもらうから余計にいぶかしまれそうだ。魔鈴は勘が鋭い。

 

 だ、だがもう時間もない。

 ええい、ままよ! 後の事は後だ! 今は目の前の任務を遂行するのみ!

 

 

 

 

 

 

 

 その後私たちは一通り仕込みを終えると、アテナ沙織と星矢達が聖域に到着するのを待った。

 

 アテナ達を乗せたジェット機がコロッセオに降り立った後は、早かった。彼女らが到着するなり案内人のふりをしたトレミーが現れ、十二宮へ向かう途中で無数の幻の矢に黄金の矢を紛れさせてアテナ沙織を狙撃。本来ならここで女神は胸に矢を受け倒れ、その矢を抜くために十二の火時計に灯った火が全て消える前に教皇を倒すべく星矢達は教皇の間を目指す。しかしまさか女神に矢が突き刺さるのをみすみす見逃すわけにはいかないので、ここで私たちの出番だ。

 

 

 

 一番目に活躍するのは、高速の動きを誇る黄金聖闘士であるアイオロス。

 

 まず文字通り目にもとまらぬ速さでもって、黄金の矢を受け止める。すかさず振り向き、あらかじめ用意しておいた先っぽが吸盤になっている偽物の黄金の矢をアテナ沙織の胸に設置、そして退避。この間は一秒にも満たず、星矢達も気づくまい。というか私たちも見えなかった。流石だ。

 すかさずそこにオルフェのデストリップセレナーデが奏でられる。するとアテナ沙織はじめ、側近の辰巳、星矢、氷河、瞬、紫龍、ついでに星矢のペガサス流星拳で返り討ちにあったトレミーもぶっ倒れ夢の中へ。……もしオルフェが居なかったら私が気づかれないように近づいてアテナだけを気絶させる予定だったのだが、彼のおかげで手間が省けた。なにしろオルフェのデストリップセレナーデは、相手に自分が眠っていたことなど気づかせないからな。相手はせいぜい一瞬意識が飛んだくらいに認識する程度。……うむ。改めて考えても、強力もとい便利な技だ。

 アテナ沙織の胸に血のりをつけて、しばらく気絶していてもらうためにも眠りの効果のある薬草を嗅がせた。そうして偽装が完璧になると、オルフェの技が解除される。ぶっ倒れていた星矢達は私と魔鈴でもとの場所に立たせて配置し直しているので、たった今自分たちが気絶していた事など彼らは気づいていないだろう。そして星矢の反撃で早速死にかかっていたトレミーも応急処置を施した状態でもとの配置に。黄金の矢を抜くには十二の火時計が灯る前……十二時間以内に教皇をこの場に連れてくる必要があるという情報を吐かせた後、星矢達が去った後にフィッシング。回復処置を施す。

 火時計に関しては実際にはアテナ沙織に黄金の矢が刺さっていないため、灯るかどうか不確定ゆえに実際に灯す役目はダイダロスにお願いした。この後、サガの演出の通り一時間ごとに火を消してもらう予定だ。

 

 これで完璧。

 ……完璧な、原作再現のはず、だったのだ。

 

 

 

 しかしここから誤算が始まる。

 

 

 

 なんとしばらく気絶している予定だったアテナが、カッと目を見開いたのだ!

 

 驚く側近、辰巳にかまわず彼女は胸に刺さった偽物の矢を引き抜くと身を起こしてキョロキョロと周囲を見回し始めた。そしてその視線が私たちが隠れていた場所に突き刺さると同時に、アテナがこちらに向かってチュニックの裾を翻して物凄い速さで駆けてきた。驚きのあまり、動けない私たち。

 

 アテナ沙織が満面の笑みで、大きく腕を広げた。

 

 

 

 

 

 

「お会いしたかったですわ! お父様に、お母様!」

「「違う!?」」

 

 

 

 

 抱き着かれた私とアイオロスは、とりあえずその盛大な誤解に否定の言葉を返すしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オルフェ参戦にしたら連鎖して時系列的に無理だと思ってたダイダロス先生助かってしまった……。
ちなみに彼らはタメのぴちぴち19歳。



ダイダロス先生、19歳。




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