尻ぬぐいのエリダヌス~駆け抜けて聖戦~   作:丸焼きどらごん

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※)本日二回目更新


21,天秤宮

 私が救命用に作り出した技であるライフストリームエナジー……聖闘士星矢らしくするなら漫画の吹き出しの関係でLSEとでも略されていただろうが、自分の小宇宙を用いて相手の小宇宙を誘爆、無理やり燃焼させて回復を促す技である。

 しかし今思えばこの技、瞬がイメージの元だったかもしれんな。

 

 現在天秤宮に居るのは瞬と、先ほどまで氷漬けにされていた氷河の二人。星矢と紫龍は瞬に促され先に進んでいる。

 瞬が今何をしているかと言えば、氷漬けにより著しく生命力が低下している氷河に寄り添い自らの小宇宙を激しく燃焼させ、体温を取り戻させようとしているのだ。

 だがその燃焼は自分の命を顧みない、優しすぎるがゆえの自己犠牲ともいえる精神で行われている。瞬にしてみれば先ほど兄が死んだと思い込んでいるのだ。これ以上犠牲を出したくないのだろう。

 

 師であるカミュ殿によって天秤宮にて……特大の氷の棺に納められていた氷河。現在天秤座(ライブラ)の聖闘士である老師は五老峰から動けないため無人の宮には天秤座の聖衣のみが鎮座していたが、老師の弟子である紫龍が見事に天秤座聖衣の武器を使いこなし、黄金聖闘士数人がかりでも破壊困難であるらしい棺を破壊してみせた。

 今は救出した氷河を瞬が助けようとしているわけだが……回復のために小宇宙を使った経験が少ないのだろう。見ていてその使い方があまりにも危うい。

 

「事が終わったら、私の技を教えてみるか……」

「相手を攻撃するのでなく、回復させるための小宇宙の使い道。瞬には相性がいいかもしれんな」

 

 ぼそりとつぶやけばアイオロスが同意する。私も白銀連中から始まり、実戦で技の精度を磨いてこられたわけだしな。誰かに教えられる程度の練度は身に着けられたことだろう。

 

「そ、それにしても本当に見守るだけというのは歯がゆいですね……! リューゼ、ちょっとだけ。ちょっとだけですから、小宇宙を氷河と瞬に送ってはいけませんか?」

「私も出来ればそうしたいのですが、これも彼らの試練の一つです。今は抑えてください」

「でも……」

 

 ハラハラと氷河と瞬を見ていた沙織ちゃんが私の服のすそを引っ張って問うてくるが、ここは間違いなく瞬と氷河の成長のファクターとなるため我慢していただこう。巨蟹宮の時、紫龍の魂を呼び戻すのには協力していただいたが……むう、難しいな……。

 

「いざとなれば私がどうにかしますから、女神(アテナ)は自分たちの戦士を信じて見守ってやってください」

「自分たちの戦士といえば……魔鈴と辰巳殿のところに、そろそろ他の青銅達は到着しただろうか」

「む、そういえば」

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、十二宮階下にて。

 

 十二宮に挑む無謀な反逆者達の情報が広がったことによって、女神(アテナ)を騙る者の命を自分たちこそが狩ってやろうと雑兵たちが集まってきていた。とはいえそのほとんどが魔鈴の流星拳によって吹き飛ばされていたのだが。

 そこにようやく、女神(アテナ)沙織の許可をとり各地修行地にて再び己を鍛えた青銅聖闘士達……ユニコーン邪武、ライオネット蛮、ヒドラ市、ベアー激、ウルフ那智が到着した。

 

「あんたたち、遅いよ! 事情は後だ。ここでお嬢さんを守りな」

「お、遅い……!? い、言われずとも! そのつもりで来たのだ! お嬢様の髪一本にも触らせんさ!」

 

 来るなり「遅い」と言われ一瞬ひるむも、自分たちも覚悟をもってこの場に来たのだ。すぐさま邪武が言い返し各自表情を引き締める。

 だが場を彼らに任せ何処かへ走っていく魔鈴を見送った後、改めて倒れ伏しているお嬢様を見て固まる一同。

 

「お前たち、護衛は頼んだぞ! 今は俺が……いや、わたしが城戸沙織ヨォ! これはお嬢様の命令でもあるワ! わたしをお嬢様というていで守るのですワヨ!」

「………………」

「お、おい邪武、しっかりしろ!」

「これはいったいどういう……!?」

「お嬢様が化け物になったぞ……」

「くッ、なかなか美しいじゃないか……!」

「市!?」

 

 使命を胸に再び終結した銀河戦争経験者である青銅聖闘士達。

 彼らは徳丸辰巳扮する巨漢お嬢様を前に約一名が気絶しかけたり、約一名が美しさについて新たな道を見つけそうになったりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 もう一方、ところ変わってギリシャ聖域(サンクチュアリ)から遠く離れた中国五老峰にて。

 

 天秤座の聖闘士である童虎は、デスマスクの攻撃的小宇宙で危うく死にかけた春麗を寝台に寝かせてから再び滝の前に坐していた。

 十三年前……共に前聖戦を生き抜いた教皇シオンが何者かに殺され、成り代わられた。それ以降童虎に幾度となく聖域から招集命令が下ったが、本物の教皇ならばそれが不可能であると知っているはず。……童虎が二百年以上もこの地で、ハーデスの魔星達の封印を見張っていることを知る本物の教皇ならば。

 偽の教皇について、その正体を確信をもって知ったのが数年前。自身と同じく聖域の招集に応じず、ジャミールへと引きこもり聖衣の修復師としての役目だけを果たしていたムウの来訪がきっかけだ。

 彼は二人の人間を伴っていた。一人は逆賊の汚名をかぶせられ死したはずの射手座のアイオロス。もう一人は見覚えのない女聖闘士であったが……事情を聞いて、その女がよく知る知人であることに驚いた。

 

 エリダヌス星座のリュサンドロス。

 

 彼はせわしなく他の聖闘士達を補佐しながら動き回る聖闘士であったが、ある時から年に一度ほど……この五老峰を訪れるようになった。丁度山で春麗を拾った頃だ。

 二百年以上も生きているとはいえ、幼い聖闘士候補生を世話したことはあれど流石に赤子まで面倒を見たことなどなかった童虎。拾って育てることまでは決めたものの、当時はかなり苦労したのを覚えている。多少の移動は可能なれど、滝から遠く離れられないのも子育てには障害だった。

 そんな時だ。聖域からの書状を届けに来たのがリュサンドロスであり、彼は春麗になんとか木の匙を使って牛の乳を与えようとしていた童虎を見て慌てて育児に必要な道具をそろえてきた。生まれたばかりの人の赤子に牛の乳は成分が違いすぎて駄目だと随分叱られたのは、今思い出しても笑ってしまう。とても助かったのだが、巨漢の強面(こわもて)男が哺乳瓶と粉ミルクを片手に二百歳以上年上の自分に真剣に説教してみせたのだ。本人は後になって恐縮していたが、童虎にとってそれは新鮮で喜ばしい体験だった。

 それから年に一度ほど、リュサンドロスは童虎に代わって生活に必要な道具を届けてくれるようになった。それまでも必要なものがあれば、シオンの指示もあったため時折訪れる使者に頼めば必要なものは手に入った。だがリュサンドロスが自主的にそろえてくれる品物は細かいところまで配慮が行き届いており、春麗を育てるのにずいぶん助けられたように思う。聞けば彼にも息子がいるようで、会える機会こそ少なかったが赤子の時よく妻に怒られながら世話をした経験があったらしい。

 

 その知人が何故女の姿になっているのかと聞けば、任務先で古代の神に呪われたというのだから不憫なものだ。死に直結するような呪いでなかっただけ、運がいいのかもしれないが。

 

 しかし彼らの本題はそのようなことではない。……驚くことに、シオンにとってかわった偽教皇の正体、そしてこれから起こりうる未来の可能性を話しに来たのだ。

 信じるまでに紆余曲折はあったが、最終的にリュサンドロスがもたらした未来の情報を活かし地上にとっても聖域にとっても最良の未来をつかみ取るべく行動していく方針に決まった。……童虎に施された不死の秘法、MISOPETHA-MENOSU(メソペタメノス)の名前まで出されては、未来の情報もとい彼の前世の記憶とやらを信じるしかあるまい。とはいえ、本人含め完全にその情報を信じ切るのは危険だという事で話はまとまっているが。

 

 先ほど遠く離れた聖域から天秤座聖衣(ライブラクロス)の波動を感じた。おそらく紫龍が、善悪をはかる要の役目を負った天秤座の聖闘士……童虎が認められる理由でもって、天秤座聖衣の武器を使用したのだろう。

 自分はここから動けないが、今後の女神の戦いを支える若き聖闘士……彼らの戦いは成長を伴いながら中盤に差し掛かっている。

 

 

 

「頼んだぞ、アイオロス、リュサンドロス、ムウよ。内乱などつまらぬことで、誰も死なせてはならぬ」

 

 

 

 天秤座の黄金聖闘士はそう祈りながらも、復活の兆しを見せ始めた遠方の巨塔……魔星の封印に鋭い視線を送るのだった。

 

 

 

 

 

 




春麗を育てる関係で流石に滝の前から一歩も動かないのはちょっと難しいかなと。多少の範囲内なら動ける、という解釈で書いています。
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