尻ぬぐいのエリダヌス~駆け抜けて聖戦~   作:丸焼きどらごん

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※本日二回目更新


29,決着!教皇の間~裏人格の正体~

 アテナ神殿の前に存在する、十二宮を抜けた先……教皇の間。

 ついに最終決戦であるが、現在五感を失った星矢は床に倒れ伏している。その星矢に代わりフェニックス一輝と双子座(ジェミニ)のサガの戦いが始まった。

 直接攻撃での戦闘に加え、双方が幻朧魔皇拳(げんろうまおうけん)鳳凰幻魔拳(ほうおうげんまけん)という精神に働きかける技を習得しているため、それによる我々の目に見えない攻防も行われる。

 そしてどうやらそれについての勝敗は一輝にあがったようで、戦いを見守る面々からも感嘆の声が出た。

 

「流石だな、一輝は」

「とはいえあれはサガが、術中にはまった一輝に最初に自身の腕を打ち抜く指示を出したからこそ正気に戻れたのだ。……サガめ、やはり恐ろしい男よ」

「アイオリアも先ほどまで幻朧魔皇拳の術中にあったしな。……シャイナよ、お前の弟子には助けられた。感謝する」

「……あの射手座のアイオロスにそう言われるとは、あの子もまだ捨てたもんじゃないね。小宇宙に目覚めたようだし、ことが終わったらまた一から鍛えてやるか」

 

 黄金聖闘士をも惑わす魔拳の威力に眉根を寄せるミロ殿と、それに同意しながらもシャイナに礼を言うアイオロス。

 ……今さらだが、本当に大所帯だな。一応気配に気づかれぬよう小宇宙を用いて偽装は行っているが、この距離で気づかなくてよいのかサガよ。こちらとしてはありがたいが、そういうところが詰めが甘い。実に結構なことだが。

 

 ……さて、そろそろ仕込みを始めるか。

 

「ムウ殿、頼めますか」

「ええ。準備は出来ていますよ」

「? 何をするというんだ? 戦いは最後まで見守るのだろう? ……俺としては、今すぐにでも飛び出して奴にスカーレットニードルを撃ち込んでやりたいところだが」

「ああ、申し訳ない。ミロ殿にはまだ話せていませんでしたね」

 

 あらかじめ決めていた作戦ではあるが、タイミングとしては戦いで奴が高ぶっている今しかないだろう。

 途中から説明する暇が無くなってしまったが……いや、あるにはあったがシュラに妹と認識されたことで私の心の余裕が……いやよそう。

 気絶している面々以外には口裏を合わせるようムウ殿やアイオロスから頼んでもらってある。あとは口達者なムウ殿と、彼から説明をうけているシャカ殿がうまくやってくれるはずだ。

 シャカ殿が演技などしてくれるか不安であったが、そこは流石ムウ殿。うまく説得してくれたようである。

 

 

「なに、ほんのお芝居ですよミロ殿。高慢ちきな奴の背中をちょいと押してやるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 夜のとばりが落ち無数に煌めく星の下。電気などない聖域にはぽつぽつと炎がともり始め、昼間動いていた動物たちの気配も静かになりをひそめて夜独自の静寂が聖域にも訪れた。

 おそらく階下では女神(アテナ)沙織(のふりをする辰巳殿)を守る青銅聖闘士達と雑兵がまだ争っているだろうが、その喧騒は十二宮までは届かない。

 天に向かい聳える岩壁に這う白亜の階段と美しい宮。……その風景を割り、ひとつの思念が舞った。

 

『ムウ、君は知っているのか!?』

『何をだね、シャカよ』

『もちろん、今星矢達が戦っている教皇の正体だ……』

 

 こんな内容で始まったムウ殿とシャカ殿のテレパシー。そしてそこに金牛宮のアルデバラン殿、獅子宮のアイオリア殿、急遽私から説明を受けて会話に入るミロ殿が加わって、離れた場所同士での会話が行われた。

 いかにも教皇の正体もろもろを今知りましたと言わんばかりの会話内容。演技や嘘があまり得意でなさそうな面子からはどうしてもぎこちなさを感じるが、それをカバーして余りあるのがしれっと迫真の演技をしてみせるムウ殿とシャカ殿だ。

 

 そしてこのテレパシーであるが、わざとサガにも聞こえるようにしてある。

 奴の事だ、わざわざそんな配慮無くとも聞こえていたかもしれんがな。

 

『あ、あの消えたと思っていたサガが……』

『この十三年間、教皇に成りすましていたというのか……!』

『し、信じられん。で、では真の教皇はいったいどうしたのだ……』

 

 段々と二人の演技に引っ張られてきたのか、アルデバラン殿、アイオリア殿、ミロ殿の演技もなかなかよくなってきている。……どうやらアフロディーテ殿は、黙って聞いていてくれてるようだな。

 

 そして。

 

『殺したのはこのサガよ!』

 

 釣れた。

 

「よし、テレパシーを聖域全土に拡散。……そんなことせんでも、サガの(テレパシー)は無駄にでかいようだが」

 

 アイオロスの言う通りこちらが何をせずとも、自らの強大な小宇宙を見せつけたいのか裏サガの声は拡声器でも使っているかのように聖域中に響き渡っていた。

 うむ……そうだった。たしか漫画でもこんな感じだったな思い出してきたぞ。それにしても、自己顕示欲の塊かこいつ。憶測を立てている裏サガの"正体"がもし当たりであればそれも納得なのだが。

 

『あ、ああ……これはいったい……』

『ま、まるで神の声のような……』

 

 おっと、拡散の影響かテレパシーを使っていない者の声まで聞こえてきたぞ。

 

『そうだ、俺は神だ!! これよりのち聖域はおろか地上の全てを支配する大地の神となるのだ! このサガがなぁ!!』

「律儀に拾うのだな……。さて」

 

 アイオロスが私を見る。……説得力で言えば私などよりアイオロスか女神(アテナ)に話してもらった方がよいのだろうが、どちらもまだ声を出すにはタイミングが悪い。聖域を余計に混乱させてしまうだろう。

 ここは腹を括って、私が出しゃばらせてもらおうか。

 

「んん゛ッ! あ゛~あ゛~」

「おっさんみたいな咳ばらいをしていないで早く言え。何を言うかは知らんが」

 

 せっかちなミロ殿にせっつかれ、喉の調子もろくに確かめられないままであるが私は緊張しながらも口を開く。どっちにしろテレパシーでは喉の調子など関係なかったが、ここで失敗は出来ないため張り詰めた気を多少緩めるためにそれくらい許してほしかったが。

 ……そして準備が整うと、私は頭の中で練り上げた台本を読み上げ始めた。

 

『ついに正体を現したか、(よこしま)なる神よ!』

『誰だ? 神と崇めるのは許すが、この私を邪などと評する不届き者は』

 

 一輝を相手取りながらだというのに、会話に応えるとは随分と余裕なものだ。

 だがその余裕もすぐに狼狽に変えてくれる。

 

『私の名など、どうでもよいことだ。……聖域の者たちよ、今このサガを名乗るナニカは墓穴を掘ったぞ。声高らかにみずからの罪状をあらわにし、愚かな大望を宣言した。いくら力があろうとも、このような馬鹿についてゆく阿呆はよもやいまいな!?』

 

 最初が肝心とばかりに、沙織ちゃんの勢いを見習って強い語調を使う。言う方としても勢いに任せてしまった方が言いやすい。

 それに対し、裏サガは当然のごとく不愉快そうだ。

 

『ずいぶんと好き勝手言ってくれる。……思い出したぞ。この声、エリダヌスのリューゼだな』

『ふん、気づいたか。まあ気づいたところでどうという事もないが……どうせならば、名乗らせていただこうか。私の名はエリダヌス星座のリューゼ。先代リュサンドロスより、教皇の正体を探る任を引き継いだ者だ!』

『正体? ククッ、何を言うかと思えば。先ほど俺自ら教えてやったではないか。俺は双子座(ジェミニ)のサガ。最強の黄金聖闘士だ』

『それはその体、本来の持ち主の名前だ。軽々しく名乗らないでいただこうか! ……ふっ、見た目だけでなく言葉遣いも一人称も何もかも違うな。まったく、教皇としての実務はサガに任せておいて、こういう時だけ自分に酔いながら好き勝手振舞うなどと……よいご身分だな。貴様のせいでサガの毛根がどれだけダメージを負ったかわかっているのか!』

『も、毛根だと? ふ、ふん! この美しく豊かな髪のどこにダメージがあるというのだ!? でたらめを言うな!』

 

 おい、自分でもなぜ今それを言ったと思ったが何故貴様少し動揺しているんだ。自覚あったのか。

 それならそれで、もう少し言わせてもらうが。

 

『何ィ!? 気づかぬとはおめでたいな貴様は! もう少し宿主を労わらぬか!!』

「リューゼ、軌道修正なさい。サガの毛根については痛ましく思いますが、今は話の本題を」

 

 裏サガがいちいち律儀に返してくるものだから、知らずヒートアップしていたようだ。ムウ殿に肩を叩かれてはっと我に返る。

 ……いかんいかん、本題を述べねば。脱線している場合ではない。

 

『と、ともかくだ。……サガは貴様の事を、二重人格のもう一人の自分だと思っているらしい。だが、それは違う』

『なにを言い出すのかと思えば……。では俺は誰だと言うつもりだ? …………ぐお! フェニックス貴様ぁ!』

『戦いの最中に悠長に話をしている方が悪いのだ! 舐めているのか貴様!! くらえ、鳳凰の羽ばたきを! 鳳翼天翔!!』

 

 ナイスだ一輝。いちいち話に水を差されていては適わんからな。ここで一気に言わせてもらおうか。

 私はここ一番の大勝負とばかりに、大音量でテレパシーを流すべく集中力を高めた。……さあ、言わせてもらおうか!!

 

 

 

 

 

 

『サガを名乗る邪悪の化身よ! 貴様の正体は、軍神アーレスだな!!』

 

 

 

 

 

 

『…………。は?』

 

 心底、本心から困惑しているような間抜け声が聞こえた気がするが、すでに今口にした事実は真偽問わず黒にするつもりだ。白でも無理やり塗りつぶす!!

 そして私が発した言葉に、聞いていた者全てに波紋が広がる。

 

『軍神……アーレスだって!?』

『た、たしか神話じゃゼウスを父に持つ女神(アテナ)の異母兄弟……オリュンポス十二神の一人!!』

『そんな高位の神が!? た、たしかにサガといえば神のような男だと言われていたが……!』

『いやでも高位の神とはいえ、伝承ではわりと人間に負けてたりあまりいいところがないような……』

 

 ……うむ。聖域に属するだけあって、ギリシャ神話に詳しい者もいるようだな。ちょくちょく文献整理をしている文官の声も混じるため、なかなかよい塩梅で説得力が出てきたぞ。

 それならそれでと、ここぞとばかりに畳みかける。一息に言い切ってしまえ!

 

『そうだ! 十三年前に神のように清らかだった双子座のサガに目をつけ依り代とし、アテナに代わり地上の支配を企てた神こそがアーレス! 我らは十三年ものあいだ、騙されていたとはいえ別の神を奉じていたことになる! この大罪を犯させた敵を断じて許すわけにはいかない! 証拠として奴の目と髪はもとのサガとは正反対の色に染まっている。これは文献に残されていた限り、二百五十年前にハーデスの依り代とされた少年の特徴と同じ! 二重人格の人格が入れ変わるだけで髪の色がそうコロコロかわってなるものか! 奴自身もまた、先ほど「自分は神だ」と証言した! これはもはや疑いようのない事実! この愚か者を倒し聖域を奪還すべく……そして高潔な聖闘士たる双子座のサガの肉体を取り戻すために、この度我らが女神(アテナ)こと城戸沙織様は、聖域にご帰還なさったのだ! 今ここに全ての真実はつまびらかに開示された!!』

『ま、待て! 貴様何を言って……』

『ほら見ろうろたえているぞ! 正体を暴かれ動揺しているな馬鹿め!』

『だから違』

『鳳翼天翔ぉぉぉぉぉ!!』

『ぐわああああ!? くそ、一輝、この死にぞこないめ! ギャラクシアンエクスプロージョ』

『一輝、すまない待たせた! ペガサス流星拳!!』

『ぐおおおおお!? な、ペガサス貴様! 五感を奪ってやったというのにまだ動くか!!』

 

 …………。すぐ近くに居るから全部見えているのだが、大分混戦となっているな。

 ふと横を見ると、沙織ちゃんがさっと目をそらした。……女神(アテナ)よ、あなたこっそりと星矢に回復の小宇宙を送りましたね……。ここまで我慢しただけ、褒めるべきなのかもしれないが。

 

『ま、まあそんなわけだ。この度の戦いは女神(アテナ)が聖域と自分の聖闘士を取り戻すための神との戦い。いわばこれもまた、紛れもない聖戦である!! 階下の雑兵どもよ、すみやかに女神(アテナ)にむける鉾をおさめよ!』

 

 その女神(アテナ)は辰巳さんなんだけどな。

 

 とりあえず言いたいことは言い切ったので、無理やりまとめてテレパシーを終了する。

 大事な詰めだったため流石に緊張を強いられた。…………ふぅ。

 

「…………なあ、今のは本当なのか? サガに乗り移っているあの人格が軍神アーレスなどと」

「……あてずっぽうだ」

「はあ!?」

「今の話の目的は、奴を倒した後のサガのメンタルケアが目的だ」

 

 一瞬話すかどうか迷ったが、下手に嘘を重ねるよりは巻き込んでしまえとミロ殿達にもある程度の裏事情を話しておくことにする。

 まあサガの裏人格については十二宮編で消えてしまうのでその正体は定かではないのだが、これまで見てきたことを総合するとあながち間違ってはいないのではないかとも思うのだ。アニメでサガは教皇でなく、教皇の弟として"アーレス"を名乗っていたしな。

 荒ぶる軍神としての小宇宙でシュラ、デスマスク、アフロディーテを力に固執するよう仕向けていた、とも考えられる。どちらかというと、これに関してはそうであってほしいという私の希望なのだが。

 

 今後もしかすると本神が出てくるかもしれんが、どちらにしろその性質的に敵になることは間違いない。だったら今回の責任全部押し付けてしまえばよいのだ。

 私たちは散々神々に迷惑をこうむっているのだから、こうしてたまには逆に利用したっていいではないか。でなければとてもじゃないが、やってられん。

 

「め、メンタルケア……だと?」

「でなければこれほどの大罪だ。周りはもとより、サガ自身が自分を許せるはずもあるまい。おそらく自ら命を絶つ。そういう男だ」

 

 かつて次期教皇にも選ばれた、唯一サガと対等にあったアイオロスの発言にミロ殿も押し黙る。

 ……これについては、ムウ殿は複雑だろうな。本当に神が乗り移っていたのであればその支配に耐え、地上の侵略を抑えていたサガは称えられるべき英雄だ。だが裏人格がサガの心の弱い部分が露出して生まれたのなら、それはサガ自身の罪。これからの戦いにサガの力は必要ゆえにこんな作り話をねじ込んでみたが、師を殺されたムウ殿の心境を思うと申し訳ない。

 そんな私の視線に気づいたのか、ムウ殿は笑みではないものの目を細め柔らかい表情を作る。

 

「ああ、ご心配にはおよびませんよ。その分たっぷり働いてもらうつもりですから」

 

 あ、大丈夫だなこの方は……。ちゃんと自分の中で折り合いをつけている。頑張れサガ。

 

「一応信じるに足る根拠は示したつもりだが、決定的な証拠はない。だが、例えばだ。もし女神(アテナ)神殿にあるアテナの聖なる盾で、奴がサガの体から出たとしよう。それは何者かに憑依されていた証拠になるのではないか?」

「まるでそうなることが、はっきり分かっているような言いようだね」

 

 どうも居心地が悪かったので捕捉して言えば、魔鈴が鋭く切り込んでくる。……女性の勘は時として非常に鋭いので恐ろしい。

 

「あんたたち、くっちゃべってる場合かい! それもこれも星矢達が勝たなくちゃ意味が無いだろう! あとリューゼ、腑に落ちないことは後でまとめて聞くからね! 覚悟しな!」

「お、おう」

 

 星矢が心配でしょうがないらしいシャイナにまた怒られてしまった……。なんというか、彼女には怒られることが多いな私は……。

 

 シャイナに言われずとも戦況には目を向けていたが、先ほどまで元気に動いてた一輝が倒れふすところだった。サガの必殺技……宇宙をも砕かんとする、壮大な名前にふさわしい威力を誇るギャラクシアンエクスプロージョンを二度も受けたのだ。無理もない。

 

 しかしその一輝が必死になってかばった星矢は未だ五感を失いつつも、二本の足でしっかりと立っている。

 

『い、未だよくわからんところはあるが……星矢ぁ! お前は今も戦っているんだよな!? なら、オレの命をお前にやる!!』

『そうだ、オレたちの小宇宙を! オレ達の小宇宙を全部お前にくれてやる星矢ー!』

『だから勝て! 相手が神だろうがなんだろうが、お前なら出来る! だから、勝ってくれ!!』

 

 そんな星矢のもとに最初に届いたのは、階下に居るユニコーン邪武、ライオネット蛮、ヒドラ市、ベアー激、ウルフ那智の声。

 

『そうだぞ星矢! お前が死んだら悲しむ人がいると言っただろう! 負けるなんてゆるさねぇ!!』

 

 続いて、これはカシオスか。

 

『星矢……あなたは希望……。今全ての人々の。あなたは希望なのです……星矢……』

 

 沙織ちゃんが下で倒れながらも意識だけ送っているていでちゃっかり混ざっている。

 

『星矢……。わずかに……わずかに? 残ったオレの小宇宙を……』

『星矢……消えそうなオレの命を……いや思ったより消えそうでないな……? いや、それならばその分のオレの生命力を……』

『そ、そうだよ星矢……。かすかに……でもないような気もするけど、残ったボクの命を……ボクの小宇宙を全て君にあげるから……だから……!』

 

 これは紫龍に、氷河に、瞬か。それぞれ下の宮で倒れていたはずの三人から、星矢に小宇宙が集まっていく。

 そして

 

『だからもう一度立ち向かえ! 正義のために、女神(アテナ)を救うために……! 星矢、お前は今、たったひとつのみんなの希望なのだ!!』

 

 全ての想いがこめられた小宇宙が、星矢に集った!

 この瞬く星の下で、星矢は再び拳を握る。

 

「な、なにぃ!? なんだ、星矢の後ろに浮かんだあのオーラは……! むう、こ……これはペガサス!! いや、それだけではない! 星矢のうしろに無数の小宇宙が浮かんでいる!!」

 

 可視化されるほどに高められた小宇宙を前にサガの顔色が目に見えて変わった。

 ……というか、その可視化されたオーラの中に射手と羊と蠍と鷹と蛇使いと琴まで混ざっているような……。

 

「最後くらい協力させろ。このくらい、いいだろう。大丈夫だ。ちゃんと死なないくらいにおさえてある」

 

 アイオロスの言葉にため息が出る。……まあ、ここまで戦いをただ見守るだけではフラストレーションが溜まっていただろうしな。本当は全員、自分の拳で裏サガを殴ってやりたいところだろう。

 それなら最後に星矢を支援するくらい、いいか。

 

「さ、サガよ……。確かに五感を奪われたオレは何も見えないし聞くこともできない……。だが見る以上にそれらの感覚を超えて、全てのものを感じることが出来るのだ…………え?」

 

 一瞬星矢の顔がこっちに向いた。い、いかん!

 

「な、なんだと。それではお前は六感全てを超えたセブンセンシズに目覚めたとでもいうのか!」

「……!?!?!? あ、ああそうだ! 今みんな……みんなが? このオレに力と勇気を与えてくれた! オレの小宇宙よ、セブンセンシズよ! 今こそ究極まで燃え上がれ!!」

(終局だというのにものすごい困惑顔をさせてしまった……)

 

 多分星矢は研ぎ澄まされた感覚によって、私たちに気付いたのだろう。気まずい……気まずいが!

 どうせバレたなら、隠れている意味はもう無い!!

 

「ええい、ままよ! 頑張れ星矢!」

「星矢、頑張るのです!」

「悪を撃ち滅ぼすのだ星矢よ! お前の正義を示せ!」

「お前の活躍、このミロしかと目に焼き付けようぞ!」

「星矢、負けたら修行のしなおしだよ! きばんな!」

「星矢……! 頑張るんだ、あとちょっとだよ!」

 

 ムウ殿とオルフェを除いた全員が、もう隠れている意味は無いと物陰から出て大っぴらに声援を送る。

 すると星矢と裏サガがそろって目を白黒させるが、そこは流石主人公である。ごちゃごちゃ考えるのをやめたらしい星矢がいち早く立ち直り、拳を振るった。

 

「あああ、もう! よくわかんねーけど、とにかくこれで最期だ、邪神アーレス!!」

「な、なにぃ!? いやだからそれは違」

 

 

 

 

 

『ペガサス彗星拳ーーーー!!』

 

 

 

 

 

 問答無用の天翔けるペガサスの一撃が、最強の男を吹き飛ばした。

 それと同時にいつの間にか手に盾を携えていたムウ殿がそれをサガに向けてかざす。……え、いつのまに!?

 

「こうなっては、わざわざ星矢が盾を取りに行く必要はないでしょう。丁度幕引きです。……我が師の仇には、魂の欠片一つ残さず退場してもらいましょうか」

 

 星矢の攻撃とほぼ同時に、全ての邪を打ち払う女神(アテナ)の盾からほとばしった聖なる光。それに飲み込まれたサガから、なにやら黒い影が断末魔をあげて抜け出ていく。

 高く天にむけて殴り飛ばされ、落下し派手に床に打ち付けられたサガ。……その髪色は眩い金色へと戻り、表情は元々の清らかな青年のものとなっていた。

 

 

 

 

 ちょうど、十二番目の火時計が消えた。

 

 こうして十三年に及ぶ女神(アテナ)とその聖闘士の最初の戦いは、幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先日裏サガがクソかっこいいおニューの鎧を纏ってフィギュア化されてたので調べたのですが、セインティア時空では随分出世した様子。
私自身まだセインティアは読めていないので主人公も未読であることと、あらすじを見る限りセインティア翔はもしも聖闘少女という存在が居たら、という原作の再構成のようなので本作では完全に別の世界線として扱います。
セインティア可愛いし戦う女の子は大好きなので読む機会は狙っていますがね!
本作は派生作品知らなくても原作だけ知ってればOKくらいにしておきたいので。

なので本作では裏サガのジョブチェンジはありません。完全なる冤罪。アーレス冤罪。もしかしたら本当にアーレスだった可能性も捨てきれないけど基本的に冤罪。そのあたりはご想像にお任せします。
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