射手座の黄金聖衣が
その間私とアイオロスは、
私たちがこれから何をしようと考えているかといえば、その内容そのものは単純である。
出来るだけ自身が知る「聖闘士星矢」の物語通りに話を進めながらも、その裏で主人公勢たる星矢達に倒される聖域の戦力を死なせない……というのが目的だ。
十三年前、
サガは現在表の人格で裏に抗いつつ、なんとか教皇として勤めている。己の罪に苛まれながら。
私は「聖闘士星矢」という漫画とアニメを知っているが、正直詳細まで思い出せるかと言えばそうでもない。前世の時点でさえ何年前に読んだ漫画なのだと思っている。転生してその記憶を何かに記す事も無く前世の年齢を超えるほど生きてしまったのだから、最早記憶はおぼろげだ。
だがインパクトが色んな意味で強い作品だったため、おおまかな流れとネタ的な部分、個性の強いキャラクター自身などはかろうじて覚えていなくもない。だからこそ実際にこの世界で生きてきた経験と合わせて、わずかな知識を活かして慎重に行動する必要がある。
そしてその結果出来るのが、聖戦へ向けての戦力の確保なのだ。
これから戦う神々、海王ポセイドンと冥王ハーデスはその配下含め強敵だ。その戦いは常に紙一重であり、たとえ運よく黄金聖闘士を全員生存させ戦いに臨んだとしても勝てるかどうかは未知数。それほどの敵だ。それは聖闘士星矢という作品の派生作品のひとつを読んだ時、前世の私が抱いた感想である。
その作品では黄金がそろっている状態でさえ戦いは厳しいものだった。更に補足するなら、実際にこの世界でも二百年前の聖戦でその事実は証明されている。以前教皇シオン様に前回の聖戦について聞く機会があったのだが、二百年前は黄金がちゃんとそろった状態でハーデスと戦ったそうだ。その結果が、壊滅的な被害を受けた聖域とたった二人だけ生き残れた黄金聖闘士。……個々の強さや運があるとはいえ、このことから容易に勝てる生易しい相手では無い事は理解できるだろう。
しかし私が知る物語では黄金や白銀をこれから起こる聖域内の身内争いで多く欠いた状態で、勝利するのだ。アテナが勝利の女神たるニケの黄金杖を所持しているとはいえ、奇跡のような確率で。
しかしその結果、冥界の王であるハーデスを討ったことで他の神々がしゃしゃり出てくる。これは劇場版の話だったか。
もしこのルートに進んだ場合、世界は一回滅び一巡する……そしてアテナと星矢が普通の少年少女として出会うみたいな終わり方だったはず。はっきり覚えてはいないが、ともかくだ。重要なのは、ハーデスを完全に倒してしまうと厄介極まりない他の神々が出て来てしまうということ。正直言って、戦いに終わりが見えない。
そのため最もベターなのは、アテナにはっきりと力を示してもらい冥王、出来たら海王とも互いに支配する世界への不可侵条約を結んでもらう事。そうしてもらえれば少なくとも私と息子が生きている間は世界の均衡は保たれるだろう。その後は知らんが。
ともかくそのためには、黄金や白銀連中にポンポンと死なれては困るのだ。戦力はいくらあっても足りない。
だがここで重要なのが、ただ彼らの死を未然に防ぐだけでは不十分と言う事。
言い方は悪いが、彼らには物語の中心である青銅たちが強くなるための踏み台になってもらいたいのだ。
主人公であるペガサス星矢を始めドラゴン紫龍、キグナス氷河、アンドロメダ瞬、フェニックス一輝。この五人こそ、聖戦を勝利に導くキーポイントとなる。そんな彼らが作中と同じ成長を遂げ、更に他の聖闘士も生き残っていたならば戦力だけなら十分だ。そこにアテナご自身が、最初からアテナの聖衣を纏って戦いに臨めば勝利は確実。…………そう、思いたい。
本来アテナご自身が身に纏う聖衣については、冥王編で死したはずの聖闘士が聖域を裏切り敵となったふりをして冥界の先鋒として送りこまれた際にアテナに伝えられる事。だが幸いにも私はアテナの聖衣の場所も、その入手方法も覚えているため必要ないだろう。折を見て前教皇に聞いたと、アテナにお伝えすればいい。
平和をつかみ取ってもらうために、アテナに完全なる勝利を。
私は愛する妻と息子のために、アイオロスは世界とアテナのために。そう割り切って、他の何かしらを切り捨てながらもここまで来た。あとは実行していくのみだ。
「まあ正直、ここからどう転ぶか分からんのだがな」
「おい、ここにきてそれを言うかお前は」
アンパンとパック牛乳を手に青銅たちの様子を窺いつつ、私はアイオロスにぼやく。
「だってだな、漫画だぞ。アニメだぞ。あまりにも知る通りに話が進むからそれ前提で動いているが、どこまで当たるかなど分からん」
「元も子もない事を……。ムウや老師とも話しただろう。我々が何か物語を読むように、我々の様子が書物になった観測世界があること自体はあり得ないことではないと。予知と言われた方が信じやすくはあるが、どちらも信憑性という面ではどっこいどっこいだ。一度信じると決めたのだから、今さら漫画だあにめだという知識の出所など関係あるまい。私達はなすべきことをするだけだ」
「肝が据わった男だ」
この十三年の中で、私は自分の前世や知識の出所について協力者たちに話していた。隠し事があっては、真の信頼関係は結べないと思ったからだ。最初から信じてもらえたわけでは無いが、しかし今はこうして受け入れられている。ありがたい事だ。
……けどなぁ……。
「しかしだな、聖闘士星矢という作品自体が派生作品多すぎて全てを把握しきれておらんのだ。そもそもお前らの髪の毛がカラフル過ぎるからアニメなのだか漫画なのだか判断がつかん。それぞれ話が相当変わってくるからな。まずここが重要なのだぞ」
「……たしかあにめ版とやらでは、北欧の神まで関わってくるのだったか」
「ああ。その場合カノンは二柱の神をたばかる欲張りセットになる」
「うわぁ……」
「素で引くな。まあその辺はサガにうまいことやってもらおう。せいぜい双子には生き残ったうえであくせく働いてもらおうではないか」
そう。聖闘士星矢という作品、原作である漫画とアニメでかなり話の内容が変わってくる。最終的に行きつく場所は同じだろうが、それによってこちらがかける労力も変わってくるのだ。一応サガは前教皇の弟アーレスとかいう謎の存在を名乗って教皇しとらんし、参謀長やらヘラクレス座でもないくせにヘラクレス猛襲拳なる必殺技を持つ聖闘士だかなんだかよくわからん奴も居ないから、多分近いとすれば漫画の方なんだろうが……。完全にそうだと思い込むのは危険だな。場合によっては戦うべき敵が増えるのだから。
とにかく今は、細心の注意を払い展開を見極めつつ、目的を遂行せねば。
そして戦いが終わった暁には聖闘士を引退して、いずれはその、息子とも穏やかな親子としての時間を過ごして、あとあと、息子にも嫁とかできたりして、孫とか生まれたりとか……!
「妄想している所悪いが、どうやら星矢達がいよいよ一輝達との戦いに向かう用だぞ」
「む、悪い。あと危なかった。この思考は完全に死亡フラグだった」
「不吉な事を言うな。我々が死んでどうする」
「あ、ああ。それにしても……いよいよか。たしかこの戦いの後で聖域からの刺客として白銀が来るはず。我らの出番というわけだな。……ないとは思うが、体はなまっておるまいな?」
私がにやりと笑いつつ問いかければ、アイオロスもまたニヤリと笑う。
「無論だ。では参ろうか、尻ぬぐいのエリダヌス殿」