尻ぬぐいのエリダヌス~駆け抜けて聖戦~   作:丸焼きどらごん

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38,アテナとポセイドン

 城戸邸の庭……朝露が光る色とりどりの薔薇に囲まれた噴水が、陽の光を受けてキラキラと水しぶきを輝かせている。鳥たちが囀り、空気は澄みながらも花の香りを含んでどこか甘い。

 そんな爽やかな朝の景観に負けないほどの美しさを誇る、本から抜け出てきたような美青年が言葉を発した。

 

「そこの者。厠はどこだ」

「迷子ですか、海皇」

 

 問いかけの内容が予想外すぎて思わず素で返してしまったが、許してほしい。どこの世界でついこの間まで敵対していた……いや、言ってしまえば今だって敵対している勢力の頭目に、トイレの場所を聞かれると思うんだ。

 しかも律儀に日本語に翻訳するのはいいが何故古風にも厠……いや、古風どころか相手は太古の神だったな。いやしかしそれでも何故に。

 

 私の返しに対して海皇……ジュリアン・ソロの体に宿るポセイドンは軽く眉根をよせた。

 

「このポセイドンに向かって迷子とは不敬な奴だ」

「事実でしょう。というか客人……いえ客神であるあなた様には、お付きのものをつけているはずですが? 聞くならその者に聞けばよいでしょうに。というか客室にトイレは備え付けられているはずです。海闘士も、確かソレントでしたか。彼も海界側の護衛としてあなたの側近くについていたはず。何故お一人で庭にいらっしゃるのか」

「…………。人の体とは不便なものだ。こうして直に香気を楽しむには良いが、それ以上に不自由が過ぎる」

 

 優雅な動作で庭の薔薇に顔を寄せる様はたいへん絵になるが、私は察した。思わずこめかみをほぐす。

 

「トイレの場所をきくのが恥ずかしかったのですかもしかして。部屋にあるのも気づかないほどに。いいんですよ神だからってそんな意地張らなくて。どんな美女も美青年もうんこするんです。むしろ神だってうんこすると思ってますよ私は。ここ日本の神には姉の神殿で脱糞して罰を食らった神だっているんです。つまり自然の摂理ですから、恥ずかしがることないんですよ。こうしてどうせ聞くことになるのならば、最初から尋ねればよろしいのです」

「今この手に三叉鉾が無いのが口惜しいな」

 

 刺そうとしている。この神、私を刺そうとしている。

 だが朝っぱらから神にトイレの場所を聞かれた方の身のもなってみろ。むしろフォローしてやったくらいだぞ。ちゃんとトイレには連れて行ってやるからその物騒な考えをひっこめろ。

 

 …………本当なら体の持ち主であるジュリアンにこのジジ……ごほん。神のお守りをしてもらいたいところなのだが、彼の意識は今現在体の奥底へ沈んでいるのだ。ポセイドン自身が起こそうとしたが、どうやら神が表層に出てきたことは依り代である彼に予想以上の負担を与えているようで。

 現在、ポセイドンは女神(アテナ)とハーデスの戦いを依り代の奥に引きこもって高みの見物を決め込むことも出来ず、渋々とジュリアンの体の管理を行っている。

 

 

「そういえば昨日の朝に食した供物はなかなかの味だった」

「お腹もすいているんですね……」

 

 さりげなく朝食の要求までしてきやがる。うんこして飯を食ってと健康的なことだな。ジュリアンの体なのだし、衰弱するよりよほどいいが。しかも昨日の朝食は確かメインはパンケーキ……食の好みが可愛らしすぎんか? ジジイにそんなギャップ萌えなど求めておらんわ。

 いやだが、待て。もしかしてここにきて初めてトイレの場所を訪ねたという事は城戸邸に滞在して数日間、神の矜持にかけて排泄を我慢していたというのか? …………もしそうなら涙ぐましいが、これ以上考えるのはやめておこう。私とて朝食はこれからなのだ。

 

 

 はあ……本当に何故、朝っぱらから神相手にこんな会話をせねばならないのか……。

 

 

 数日前は数日前でカノンに十三年前のことを話して疲れたし、損な役回りばかりまわってくるな。いや、これも必要なことと思えば我慢できなくはないが。この間シュラと共に食事できた記憶が癒しである。

 

 一応星矢達もこの邸にいるのだが……アイオロスの訓練にしごかれている彼らに、神の日常のお守りをさせるのは流石にかわいそうだしな。ソレントや一般人である城戸邸の人員がカバーできない部分は私がやるしかないか。はあ。

 

 

 

 現在城戸邸には聖域と海界の間に位置する存在として中継役、使者の役割を担ったカノンが。そして……建前としては盟友をもてなし今後の話を詰めるため、こちらがわの本音としては監視も兼ねて海皇ポセイドンが滞在している。あとその護衛としてセイレーンのソレント、クラーケンのアイザックとスキュラのイオ。主にポセイドンの身の回りの世話をしているのは気配りが上手なソレントだ。

 他の海闘士は海底神殿で留守番である。聖域側も似たようなもので、カミュ殿のようにアスガルドの監視に赴くなどの役割がある者以外は聖域で留守番がほとんど。

 

 

 ここは女神(アテナ)城戸沙織の実家だが、勢力図としては現在城戸邸は中立地帯として機能している。

 

 

 これもトップである神同士が納得し、部下たちに言い含めてあるからこそ実現しているのだ。

 

 …………どういった話運びでこうなったのか。

 この私、エリダヌス座のリュサンドロスはポセイドンをトイレに案内しながら、数日前の会合を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、改めまして。お久しぶり、そして今世では初めましてですね? ポセイドンおじさま」

「白々しいものだな、アテナよ」

「まあ、事実ではございませんか。だって貴方はわたしの神としての父……ゼウスお父様の兄上ですもの」

 

 ぴりりとした緊張感が走る中、しかし双方ともに優雅な佇まいは崩さない。両者の間の石のテーブルに紅茶でも用意されているかのような錯覚さえ覚える。

 その指の先まで洗練された動作は神の気ゆえか、それとも上流階級で育った生い立ちゆえか。

 

「して、ならば我が姪よ。古来より争ってきた我らの間に話し合いなど、どういった風の吹き回しだ?」

「いつもいつも戦いを仕掛けてくるのは"あなた方"の方ではありませんか。わたしはお父様に管理を託された地上を守っているだけ、いわば正当防衛です」

「防衛、か。甘いあなたが人間をのさばらせ腐敗した世界に、守る価値があるとは思えぬが。あなたが戦いを正当な防衛と称するのであれば、私の地上への侵略は好意から来るものだとでも言わせてもらおうか? 愚かな人間はいずれこの大地だけでなく、大いなる宇宙までをも汚すであろうからな。この醜い世は一度まっさらに均した方がよいのだ。そしてその後で再び海から新しい生命が生まれ、清浄な世界へと変わっていく。アテナよ、あなたはその美しい世界を再び守ればよいのではないか? 叔父からの贈り物は、喜んで受け取るべきではないかね。あなたも神ならば、考えを改めるのはそちらの方だ」

 

 

 滔々と語るポセイドンに対し、沙織ちゃんの返しはシンプルだった。

 

 

「あ、そういう話は今いいです」

「………………」

 

 

 受容も激昂もされず、あまりにもばっさりと切り落とされたからか……さしものポセイドンも少々言葉を失ったようだ。そこに女神(アテナ)沙織は畳みかけるように言葉を続ける。

 

「問答の前にこちらの要件を述べさせていただきますわ。先ほどあなたが目覚める前に、海龍の彼には話してある内容ですけれど」

「……いいだろう」

 

 せめてもの叔父としての威厳なのか、鷹揚に頷くポセイドン。そこで気のせいでなければきらりと女神の目が光った。そして唐突に名前を挙げられたカノンはびくっと肩を跳ねさせていた。

 ……これから出汁として使わせてもらうのだから、この程度で驚いていては心臓が持たないぞ? と、ついつい、いらぬ心配をする。

 

「ふふっ、ありがとうございます。さてポセイドン。先ほどあなたなりのご高説を拝聴させていただきましたが、今まさにあなたの支配する海をも含んだこの世全てが……冥界の侵略の危機にあることはご存知でしょうか?」

「…………ハーデスだろう。ちょうど二百有余年前にあなたが争っていた相手だ」

「話が早くて助かります。では単刀直入にお聞きしますけれど、今私たちが争った場合……どうなるかなんて、お分かりですよね? 戦いで弱った陣営を潰してらくらく侵略成功! の漁夫の利です!」

「ぎ、漁夫の利……らくらく……?」

「ああ、日本の諺なのでわかりませんよね。いえ……元は中国の古典でしたか。ふふっ、失礼いたしましたわ」

「いや、意味は分かる。分かるが……他に言いようはなかったのか? それにらくらくなどと、アテナよ。あなたは知恵の女神だろう。語彙力を何処に捨ててきたのだ。なにやら前に会った時と性格も違う気がするのだが」

「わたしは女神でありながら人間ですもの。人間は愛を得て日々成長するのですわ!」

「今度は愛と来たか」

「なにか?」

「いや……」

 

 

 

 神々の話し合いを眺めていた私は、ついに我慢できなくなってつつつとアイオロスの側に移動すると、彼の脇を肘でつついて注意を促した。

 

「……なあ、アイオロス。気のせいでなければ、少々ポセイドンが押され気味ではないか?」

「ああ、流石女神だ。早くもペースを握っている」

「た、確かにさすがだ。だがな、気のせいでなければペースを握るというよりも……いや握っていることは確かなのだろうが、相手がちょっと引いているような……」

「アテナの熱弁と握り拳にこめられた情熱は海皇をも圧倒する、ということではないか?」

「その握り拳に並々ならぬ小宇宙が込められている気がするのだが……」

「あまりの圧に海闘士も動けぬようだな。我々もだが」

 

 そう。いつの間にか沙織ちゃんの小宇宙が攻撃的でこそないものの、凄まじい高まりを見せているのだ。相手のフィールドであるはずの海底神殿に満ちるそれは、互いに警戒し牽制しあっている聖闘士と海闘士の注目を、完全に沙織ちゃんへと集めて余りある。

 私はつい不安になってそのままこそこそ声でアイオロスに尋ねた。

 

「…………。あ、アイオロス! 女神は非常に頼もしいが、やはり私たちどこかで間違っていないか!? それか何もしなさ過ぎたのではないか!? もっと女神の教育と成長に関わるべきだったのでは……。あまりに、あまりに力押し。海皇に「知恵の女神だよね?」と確認までされているぞ!」

「なに、ここまで来たのだ。我らもアテナを信じてお任せすると決めただろう? これも話し合いの結果だ」

「確かに会議はしたものの、最終的な弁の内容は場慣れしている沙織ちゃ……アテナに委ねたが」

「そう心配するな。いざという時は私たちが体を張ればよいのだ。今は信じて見守るのみよ」

「……その胆力、羨ましいぞ。私はどうも肝が小さくて情けない。お前たちよりずっと年上のはずなのだがな」

「それがお前の良いところでもあるだろう」

「…………はあ。敵わんな。お前が居てくれてよかったよ、本当」

 

 実に堂々とした態度で返されてしまった。

 海界に来る前の会議では他黄金を圧倒した、沙織ちゃんのこれまた力押しな弁に共にうろたえていたはずだが……わずかな時間で成長する男だな。慣れたというのか……すでに……。

 となれば自分も腹を括るしかあるまいと、私は丹田に力を入れなおす。

 

 そしてその間にも沙織ちゃんの熱弁は続いていた。

 

 

「ともかくですね、わたしは今回あなたに対し同盟の申し込みをすべくこうして訪れたのです。海と陸地という違いこそあるものの、ハーデスの進行が叶えば海界とて無事ではすまないはず。協力し合うべきでは?」

「私がハーデスの軍勢ごときにどうにかされるとでも?」

「思ってますよ」

 

 再びバッサリである。これには海界を舐めていると海将軍勢がいきり立ちそうになったが、沙織ちゃんは動じることなく人差し指をたてて左右に振ると続けた。

 

「だって、()の神とずっと戦ってきたのはわたしなのですよ? 神話の時代から直接軍勢をぶつけ合うことは、あなたたちの間にはなかったことでしょう。冷静に戦力分析できるのは、このわたしです。そのうえで申し上げさせていただくと、戦士の質ではけして劣らぬでしょう。直接目にさせていただいて、海将軍達の小宇宙の強さには目を見張るものがあります。でも、その……申し上げにくいのですけどね?」

 

 ふっと息を吐く沙織ちゃん。

 

「わたしとしてはずっと封印の壺に引きこもってくれていて大変ありがたかったのですけれど、何千年も寝こけて偽の海龍(シードラゴン)に騙されるような方が。高頻度でわたしと争いその思想はどうあれ常に冥界という多忙な職務をこなしているハーデスに、わたしと戦った後で勝てるかどうかといったら……ね? ふふっ」

 

 ガタっと音がした。見ればカノンが顔色を悪くしたまま後ずさっている。そしてそのカノンにカッと目を見開いた海将軍達の視線が突き刺さっている。ついでに言うならたった今の発言でポセイドンの視線にも射られている。これは痛い。

 こちら側としてはすでに共有していた情報だが、彼らにとっては寝耳に水だったろうな……うむ。

 

 さてカノン、出汁としての出番だぞ。シードラゴン……丁度良い出汁が出そうな名前だなと、ついどうでもいい考えが過る。

 

「偽の海龍……だと?」

「まあ! まさかとは思っていましたが、本当に今気づかれたのですか? わたしより遥かに長き時を生きるおじさまが!?」

 

 沙織ちゃんここぞとばかりに煽りよる! 手振り身振りをまじえたオーバーリアクションの完成度が無駄に高い。この子実はバラエティ番組とか見ているのではないか!?

 

「そこのカノンはもとは聖域に属する者。この場にはいませんが黄金聖闘士、双子座のサガの弟……双子座のカノンです。この事はわたしも最近知ったのですが……彼が以前幽閉されていたスニオン岬の岩牢には、かつての戦いであなたを封印した際に同じく封印した三叉の鉾が納められていました。そして岩牢からカノンが消えた時期、寝こけていたあなたが再び起きた時期を考えれば誰の手により聖戦が近い面倒この上ない時にあなたが起こされたのかは明白。もちろんあなたの復活はわたしの本意ではありませんし、復活させたカノンの思惑はここで問いただしませんが、ともかくあなたが何年も彼を自分の部下と信じて疑わなかった事実をここに提示したいのです。そんなうっかり屋さんが場慣れしたハーデス相手に勝てると、そうおっしゃるのですか? 繰り返しますが、わたしと戦ったあとで? ふふふふふ」

 

 怒涛のセリフの最後はみなまで言わずに、笑い声にその意を含ませる。もともと聖域所属のカノンを野放しにした責任問題を問われたら面倒だし、ここまで言われては海皇とて激昂するだろうが……現在その注目は長年自分を謀っていた男へと向かっている。

 

「………………。海龍(シードラゴン)よ」

「…………はっ」

 

 顔色を悪くして膝まづくカノンに、ポセイドンは短く述べた。

 

「今すぐにその肉体八つ裂きにして宇宙にばら撒いてやりたいところだが、あとで詳しく話を聞こう。沙汰を待て」

「…………ッ」

 

 言葉もなく顔を伏せるカノンへの対応を意外にも寛容な態度ですませたポセイドンは、深く溜息をついた。

 

「……………」

「驚かれた事でしょう。わたしも少し言いすぎましたね、事実ですけれど」

 

 言い過ぎたと言いつつきっちり止めを刺している。……い、今さらだがこの物言いでは交渉は決裂するのでは……?

 だが私の心配をよそに、ポセイドンは沙織ちゃんにむけて煩わしそうに手を上下にふっただけだった。手にする(くだん)の三叉鉾から神の小宇宙が迸る様子もない。

 

「…………。やはりもう少し寝ていればよかったか。起きてさえいなければ、こんな面倒な話も持ち込まれなかった。事が住んだ後に起きて、ハーデスとの戦いで疲弊したあなたを倒せば楽だったものを」

「ですがあなたは起きているし、わたしの話も聞いてしまいました。いかがなさいますか?」

「ずいぶん得意げだが、少々勘違いしていないか? ハーデスの鉾の先が向いているのはあなただ。海界ではない。私はハーデスとあなたとの戦いを静観し、もしハーデスが勝った上で地上を海界ごと冥界の支配下に置こうとすればその時戦えばよいだけのことなのだぞ。あなたは私がハーデスに勝てるのかなどと危惧しているが、可能だ。これは先ほどあなたが話したことと順番が代わっただけの事。私はあなたとの戦いで弱ったハーデスに勝てばよい」

「痛いところをついてくださいますね。ですがそれをどうにかできないまま、わたしがこの話をもってくると? もちろんそんな余力をおじさまに持たせる気などありませんわ。同盟が締結した暁には共に戦っていただきます。静観などさせません」

「………………」

 

 その堂々とした態度に、ついに海皇ポセイドンが黙る。そして深い深いため息をついた。

 

「やっかいな性質を得たな、アテナよ。いや昔から面倒ではあったか?」

「あなた含め他の神々ほどではありませんわ」

 

 きっぱりと言い切られたポセイドンは天を仰ぐ。その視線の先はオリュンポスあたりだろうか。

 

 しばらく沈黙が場を支配する。その時間は優に数刻を超えたかのような錯覚をその場にいたものにもたらしたが……実際は数分。

 沈黙を割ったのは、ポセイドンの諦念が滲んだため息だった。これで何度目のため息だろう。

 

 

「冥界との戦いが終わるまでだ」

「ぽ、ポセイドン様!?」

 

 そこに含まれた了承の意に海闘士たちに動揺が走るが、ポセイドンはそれを一瞥で黙らせる。

 

「ありがとうございます! ではしばらくの間、よろしくお願いしますね? ポセイドンおじさま」

「あまり調子に乗るものではないぞ、アテナよ。全面的に協力するつもりはない」

「ええ、わかっておりますとも」

 

 ポセイドンの答えに、しかし沙織ちゃんは満面の笑みで返す。強い。

 しかし……ふとその表情を引き締めた。

 

「……色々言わせていただきましたが、別にあなたを侮っているわけではありません。そもそも聖闘士は、太古の昔……ポセイドン。あなたと戦うために生まれた存在なのですから」

「ほう。浮かれた小娘に成り下がったと思っていたが、覚えていたか。してやったと自信満々にしているところを小突いてやろうと考えていたのだがな」

「うか……こほん。もちろんです。こうして了承を頂きましたが、あなたの意志自体が変わったわけでないことも理解しています。あくまでこれは仮初の同盟」

「当然だ。呆れた姪の提案に、余興のごとく乗ってやったまでの事」

「……。改めて、感謝を。ハーデスとの戦いが終わったうえで、あなたが戦いたいというのならその時は受けて立ちましょう」

 

 

 そこまでを凛々しい表情で言い終えた沙織ちゃんだったが、最後は再度愛らしい笑みを浮かべた。

 

 

「戦いが終わるまでに、あなたも人間の愛を理解して矛を収めてくれたらそれが一番良いのですけどね」

「ぬかせ」

「うふふ」

 

 

 女神と海神は互いに食えぬ笑みを浮かべる。

 

 ……こうして非常に危ういバランスの上ではあったが、歴史上初の聖域と海界の同盟は締結したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 ……そんな様子だったのだが、やはり……うむ。力押し。圧倒的にごり押し。

 

 それを思えばこそ、客として迎えているポセイドンには気分よく協力してもらうため、出来るだけ失礼が無いよう接するのが一番なのだが……。やはりどうにも慣れん。

 

「! ポセイドン様、こちらにおられましたか!」

 

 トイレから出てきて当然のように手をぬぐう布を要求するポセイドンに渋々とハンカチを渡していると、真・お守りが来た。おお、ソレント殿! はやくこの神を引き取ってくれソレント殿!!

 

「あなたは……たしか白銀聖闘士のリューゼだったか」

 

 私に気付いたソレントがわずかに目を細める。

 

「迷っていたようなのでな。僭越ながら案内させていただいた」

「それは」

 

 ソレントはポセイドンの後ろのを見て黙った。……うむ。トイレ、だな。

 

「……ともかく、あとは頼みました」

 

 私はそれだけつげるとさっさとその場を後にした。これ以上いまいち地雷の分からない神相手につきあってられるか。

 

 

 

 

 

 それにしても、冥界との戦いで海界は本当に手を貸してくれるだろうか。不安だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




挟む順番おかしくない?と思いつつ、テンポ重視で後回しにしていた神々のお話合いの内容でした。
ご、ごり押し……!
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