尻ぬぐいのエリダヌス~駆け抜けて聖戦~   作:丸焼きどらごん

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6,一人目回収

 私とアイオロスは星矢達を助け富士からテレポートしたムウ殿と、その後を追った白銀聖闘士を更に後から追いかけた。

 

 途中でムウ殿はテレポートの行き先を複数に分散させ、それと同時に彼は白銀聖闘士達にある幻覚を施した。それが何かといえば、富士で星矢達が倒した暗黒聖闘士(ブラックセイント)を星矢、紫龍、氷河、瞬に見せかけるもの。テレポートを使っている途中でそのような芸当が出来るのは、おそらくムウ殿くらいだろう。……彼が味方で良かった。味方であれば頼もしいが、ひとたび敵にまわせば恐ろしい。そんな方だ。

 だからこそムウ殿を牡羊座(アリエス)黄金聖闘士(ゴールドセイント)と知らず、無礼な口をきくミスティにはハラハラさせられた。ムウ殿が白羊宮の守護を離れジャミールに引きこもってからずいぶん経つため、当時まだ聖域に居なかった若い奴らが知らんのも無理はないが……それを抜きにしてもムウ殿は現在唯一の聖衣修復師。敬意を払うべき相手だというのに、愚かな。

 

 ムウ殿を追いかけていたミスティ以外の白銀たちは幻覚にまんまとはまり、瀕死の暗黒聖闘士達を葬って任務を達成した気になったようだ。まあ、おそらくこのままでは終わらんだろうが。人数的にも多分こいつらが青銅達の踏みだ……試練第一号だからな。青銅にはこいつらと戦って、強くなってもらわねば困る。

 

 そして私たちの戦いも、ここからが本格的に始まるのだ。

 私たちは青銅と白銀の戦いを見守り、決着がつく直前で白銀の命を助けなければならない。

 

 

 

 

 

 そう思って気合いを入れていたというのに、まさかの同志の暴走である。

 

 アイオロォォォォォォス!!

 

 

 

 

 

 アイオロスと話し合い、最初は他の白銀と青銅の気配を富士の時と同じ要領で探り、場合によっては二手に分かれようという算段だった。しかしミスティ以外の白銀はまだ青銅とぶつかっていないようだったから、とりあえず現在戦っているミスティと星矢を見守って様子見していたのだが……。

 

 ミスティあの馬鹿。あの馬鹿者め!! 血が体についたからと言って、生死の確認も出来ていない相手を前に全裸になって海水浴をする戦士がどこに居る!! いや居たな目の前に! だから馬鹿と言ってるんだったな私は! ああそういえば確かにこんなシーンはあったよ!! 一ページまるまるぶち抜きであいつの裸体だったな漫画だと!! あんなに嬉しくないサービスシーンは初めてだったぞ今思い出したわ!!

 

 確かにミスティは訓練生の中でも優秀だったが、まさかその弊害がこんなところで出るとは。下手に今までの任務で敗北や苦戦を知らなかったばかりに、慢心が酷い。そしてその慢心でもって、一人の男をブチギレさせた。

 結果としてミスティを殴らんと勢いよく飛び出したアイオロスを止めるために私まで隠れていた場所から出ていく破目になり、その上であっさり私の変装がミスティに見破られるというまさかの事態に陥ったわけだ。

 …………私はあと何回、初動でコケればいいんだ? もうすでに教皇暗殺とカノンのスニオン岬大脱出を何もせず見送るという大失態を犯しているんだが。なんだ、女になるだけでは足りんのか。これも呪いだろう。むしろ呪いでなければなんなんだ。勘弁してくれ。

 

 思わずムウ殿に助けを求めて視線を向けるが、鉄面皮と評判(?)だった昔の私以上に冷ややかな顔で一切こちらに視線を向けようとしてくれなかった。……分かる、分かりますとも。テレパシーなど使わなくても「自分達でどうにかしろ」という意思がひしひしと伝わってきますとも。そうですな! まったくもって正論です!

 

 

 現在私が羽交い絞めにしている男、射手座(サジタリアス)のアイオロスは自分にも他人にも厳しい男だ。しかし頭が固いかと言えばそうでもなく、柔軟な思考や厳しくもおおらかな性格はかつて聖域でも多くの人望を集める要因となっていた。

 だがそんな彼にも欠点はある。その一つが、真っすぐすぎるくらい真っすぐな性格と行動力だ。それは本来美点であるが人とは時に長所が短所に、短所が長所になる。今回は前者のパターンだ。

 

(だとしても、いよいよ我々の大事な任務が始まるぞって所でこんな暴走するような男でもないはずなんだがな本来なら!!)

 

 ミスティめ、何て男だ。第一の踏み台のくせに我々の前に全裸でもって障害として立ちふさがるとは……! 私もまた、油断していたということか。

 しかも奴め、私の変装まで見抜いてきた。これは完全に予想外だ。間抜けな格好であることを承知でフルフェイスのヘルメットを身に着けていたというのに。

 

 そして私がアイオロスを押さえつける腕に力を込めて踏ん張っていると、ミスティがしびれを切らして再び問いかけてきた。

 

「黙っていないで答えたらどうだ? エリダヌス。もう一度問うが、何故君がここに居る。それと、その男は誰だ」

「やかましい!!」

 

 しかし私としては、答える義理などありはしない。こっちは必死になって黄金聖闘士を押さえつけているというのに、なおも問いかけてくるミスティ(バカ)が憎い。貴様、今私がどれだけ体力と精神力を消費して貴様の命を守ってやっていると思っているのだ。下手したらお前なんぞアイオロスの拳ひとふりで死ぬぞ。死ぬからな。本当に死ぬからな。クソが。

 

 

「えーっと……。リューゼさん? なんだよな」

「そして君は普通に話しかけてくるのだな!!」

 

 何やら主人公が話しかけてきた。

 こっちはもう一杯一杯なんだが、しかしかといって無視も出来んか……。む、むう……! 正直後で回収する予定のミスティだけでなく、彼に目撃された方が痛いぞ。どうしたものか。

 

 しかし私の苦悩をよそに、星矢は訝しみながらも単純明快に自分の意志を伝えてきた。

 

「あんたも俺達を抹殺に来た……って感じじゃねぇよな、見た感じ。ならさ、戦いの邪魔しないでくれないか? そのいけ好かないナルシスト野郎をぶっ飛ばすのは、俺だぜ」

 

 星矢の言葉を聞いて、ようやくアイオロスの動きがピタリと止まる。

 そしてミスティもまた、星矢の言葉を聞いてこちらに向けていた意識を彼に戻した。

 

「フンッ、ボロボロの体でよくそんな大口を叩けたものだ。私に勝つつもりなら、奇跡でもおこさねば無理だぞ?」

「はん! だったらその奇跡って奴をおこしてやるまでだ!」

 

 ミスティが言うように星矢は連戦に次ぐ連戦で立っているのもつらいだろうに、瞳に宿る力強い光はなおも衰えない。それを見たアイオロスは深く息を吸って吐き出すと、かすかな笑みを浮かべた。

 

「すまない、無粋だったようだ。この戦いは、君のものだったな」

「ああ。加勢してくれようとしたのは嬉しいけど、気持ちだけ受け取っとくぜ。誰だか知らないけどさ」

「そうか」

 

 アイオロスは星矢の言葉をきくと、満足そうに頷いて未だ体を押さえつけている私を振り返った。そして悪びれなく言う。

 

「では岩陰に戻って見守るか!」

「何事もなかったかのように言うなお前!!」

 

 おじさんビックリだ! ほんともう、お前。お前アイオロス!! 本当は内心「やってしまった」とか思ってるだろ! 自分への厳しさは何処へ行った! いや厳しいことは厳しいんだが、こういうところばかりちゃっかり者になりおってからに!!

 

「待て! 星矢を片付けたら次はお前たちに用がある。そのまま待つがいい!」

 

 そしてミスティは頼むからもう放っておいてくれ! せっかく星矢が軌道修正してくれたんだから!!

 

 しかし結果としてもう完全にバレてしまっているので、この戦いに限り私たちは正面から見守ることにした。私とアイオロスが仁王立ちする眼前で再び星矢とミスティの戦いが始まる。……私は知らんぞ。遠方よりムウ殿が発する威圧感など、知らん。少なくとも私は悪くない。だからムウ殿、後で怒るならアイオロスだけにしてくれ。

 

 

 

 その後のミスティと星矢の戦いだが、まず星矢が一矢報いた。今までミスティが発生させた空気の壁で全て阻まれていたペガサス流星拳を、一発命中させたのである。その時の「男の体に傷一つないのは自慢にはならない。男にとって体の傷は勇気の証! いわば男の勲章だ! 傷の痛みを一つも知らないお前なんかに、勝利はありえないぜ!」という星矢の台詞には、アイオロスが「よく言った!」とでも言うように非常に嬉しそうに頷いていた。……なんというか、こいつとしては射手座の後継者になるかもしれない星矢が気になるのだろうな。なんとなく、彼に対するリアクションが大きい気がする。

 更にはそこからの戦いでは星矢が巻き返し始め、流星拳を一点集中の技に昇華させたペガサス彗星拳を放った後、ミスティのマーブルトリパーをもはじき返すまでに至る。そしてミスティの後ろをとった星矢は、ミスティを羽交い絞めにすると「ペガサスローリングクラッシュ!!」と叫び自分もろとも宙に飛び上がった。

 あれは自分ごと相手を地に叩きつける技だろう。今回向かう先は海だが、この周辺の海底は浅いし岩も多い。危険な行為だが、星矢は相手を倒さんと己の命をかけてその技を使ったのだ。

 

「これで決着だろうな」

「ああ」

 

 私とアイオロスは言葉を交わすと、頷きあう。

 この戦いで星矢が並の青銅(ブロンズ)以上の強さを発揮する場面は十分に見せてもらった。つまりこの戦いでの星矢の成長は無事成ったと見るべきだろう。ならばミスティの踏み台第一号としての役目は終わった。となれば、私たちがやることは一つ。

 

「私が行こう。アイオロスは別の場所を見回って来てくれ」

「わかった。任せたぞ」

 

 交わす言葉は短い。そしてアイオロスがテレポートで移動するのを見送ると、私は多量の血で水面が赤く染まる場所を目指して海に飛び込んだ。

 視界の端で貴鬼が慌てたように砂浜を駆けてくるのが見えたが、彼が心配しているであろう星矢は無事だ。彼の小宇宙は海中に沈んだ今も未だ力強く燃えている。しかしもう一方……ミスティが発する気配はひどく弱弱しい。ずいぶん強いダメージを受けたようだ。

 しかしそれでもなんとか体を動かし、ミスティの気配は海面へと向かっている。……これも奴なりの矜持か。無様に這いつくばったまま死ぬまいという。

 星矢が言う通りナルシスト野郎ではあるが、そこまで貫けるなら立派なものだ。

 

 そう思いながら海中をかき分けて進む私の前で、ミスティがついに海中から立ち上がった。その表情はどこか清々しい。

 

「星矢の言う通り、私は戦いにおいて傷つくのを恐れていたのかもしれない。しかし星矢は傷どころか、命と引き換えにしても勝利を求めた。……フッ、それが星矢の勝利につなが」

「何やらスッキリしている所悪いが、このまま死なれては困るぞミスティ!」

「あぶッ!?」

 

 誰に向かって言っているのか知らんが、何やらいい表情で死にそうだったミスティ。私はそのミスティの前に姿を現すと、応急処置として血止めのツボである真央点を突く。からの間髪を容れずに顎へのアッパーだ。綺麗に決まった。

 

「よし!」

 

  ミスティはうまいこと一発で気絶してくれたので、思わずガッツポーズをしてしまった。そんな私の脳内に、海岸の方でこちらを見ていたムウ殿の声が響く。

 

『助けているのか止めを刺しているのかどちらなのですか』

「わざわざテレパシーを使ってまで言わないでいただきたい。いいのです、今はこれで」

 

 ムウ殿の言う事ももっともだが、とりあえず魂が体から離れない程度でいいのだ今は。

 あとはこの後の処置でどうとでもなる。ほんの少しでいい、命が繋ぎ止められていればそれでよいのだ。

 

 その後私は星矢が海中から上がってくる前にと、一瞬でミスティを抱えて移動し砂浜の岩陰に隠した。更に私はそのまま踵を返し再び海へ飛び込んで一直線に星矢の方へ向かう。幸い海から出てきた星矢は出血のためなのか、まだフラフラしているようで私に気づいてはいない。そして私はそんな星矢に近づいて……。

 

 

 

「!?」

「すまん!」

 

 星矢の腹に重い拳を埋めた。

 

 

 

 

「星矢ー!? なにやってんのさリュサンドロス! 星矢が死んじゃうよ!」

 

 駆け寄ってきていた貴鬼に突っ込まれるが、私としてはこれしか方法が思い浮かばなかったのだ。私はこちらもまたいい感じに気絶してくれた星矢を抱きとめると、困った時の真央点を突いてから、少々狼狽えつつ言い訳する。

 

「す、すまない。しかしやはり、今色々聞かれては困るのだ。すまんが星矢が気絶しているうちに、私は再び裏に潜まさせてもらう。悪いが彼には「ミスティは海底へ沈み、リューゼはいつの間にか姿を消していた」と伝えてもらえないか? あと星矢を殴り飛ばしたのは他の白銀聖闘士の仕業だとうまいこと言ってくれると助かるのだが」

「ええっ、オイラが言うのかい? というか、自分がしたこと白銀に押し付けるつもりかよ」

「それくらい構わんだろう。こちらは奴らの命を助けるために苦労しているのだから」

「……あなたまだ苦労らしい苦労はしていないでしょう。そんな調子でこれから大丈夫なのですか? たしか私の記憶違いでなければ、十二宮はともかく白銀に関しては自分達に任せろとアイオロスと共に豪語していたはずですが」

「ぐ……! それは、その。申し訳ない」

 

 貴鬼の後ろからゆったりと歩いてきたムウ殿に痛いところを突かれてうめく。

 確かに私とアイオロスは、十二宮の戦いまではムウ殿に力を借りるつもりはなかった。というのも、彼にはジャミールで生き残らせた白銀達の預かり先兼、説得、説明役になってもらう予定だったからだ。その負担を考えた結果、実働部隊は私とアイオロスの二人で頑張ろうという事になったのである。だというのにこの体たらくでは、苦言を呈されても仕方がない。なにしろふたを開けてみれば、初っ端からムウ殿に世話になってしまっているからな……。

 無い物ねだりをしてもしかたがないが、私が完璧にストーリーラインを覚えていれば、もっと違っただろうか。

 

 私が気まずくなって言葉を探していると、ムウ殿は深くため息をつく。

 

「……今回はまだ一人も引き取っていないからこそ来られましたが、あなた達が本当に無事白銀をジャミールに連れてこられたなら私も忙しくなる。手助けはしばらく不可能ですよ」

「ほ、本当に申し訳ない。肝に銘じておく」

「だといいのですが」

 

 そんなムウ殿の手厳しい言葉に耳が痛くなりつつ、私はとりあえず星矢を二人に預け岩陰に横たえた瀕死のミスティのもとへ行く。このままでは死んでしまうからな。

 

 そんな時だ。他の青銅の様子を見に行っていたアイオロスからテレパシーで連絡が入る。

 

 

『今そちらにキグナス氷河とケンタウロスのバベルが向かったぞ。まだ到着するまで少しかかるだろうが』

「! わかった。お前はどうする?」

『一回合流する』

「そうか」

 

 私はテレパシーの声に頷くと、ミスティの前に膝をついて覗き込んだ。その顔からは血の気が失せて今にも死んでしまいそうだが、まだしっかりと生きている。

 

 

「さて、お前たちは若いんだ。まだまだ楽には死なせんぞ」

 

 

 もしかすれば、今死んだ方が彼らにとっては楽なのかもしれない。しかしそう思わせないような希望のある未来が、私は欲しいのだ。

 ……そのために苦労を強いることになるだろうから、彼らにとっては身勝手で迷惑な話かも知れんがな。

 

 

 私は自嘲の笑みを浮かべつつも、それでも亡き妻の死後の安寧と息子との未来が欲しい自分の欲のために勝手に、身勝手に。

 ミスティへの治療を施すべく、小宇宙を高めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




聖闘士星矢のテレポートはトベルーラみたいな感じ
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