「う~ん、死屍累々って感じだな」
「いや、まだ死んでないからな」
「わかってるさ」
笑顔で不謹慎な事を言うアイオロスに突っ込んでから、私は目の前に転がっている回収済みの白銀聖闘士の面々を見渡す。
端から白鯨星座のモーゼス、猟犬星座のアステリオン、ケンタウルス星座のバベル。先にジャミールのムウ殿の元へテレポートで送ったミスティを除く、星矢達に最初にさし向けられた白銀聖闘士の刺客達だ。
モーゼスは星矢に、バベルは氷河に……そしてアステリオンは同じく刺客として差し向けられたはずの白銀聖闘士の魔鈴によって倒され、今ここに並んでいる。
魔鈴はアステリオンを倒すなり気絶した星矢に「アテナを守りなさい」と書置きを残して何処かへ立ち去ろうとしたが、そこは私とアイオロスで引き留めた。魔鈴は現時点でかなり聖域の真実に近いところまで感づいている。私の記憶違いでなければ、この後彼女はスターヒルに侵入し前教皇の遺体を発見するはずだ。しかしその件に関しては、すでに私、アイオロス。そして私から事実を話した老師……五老峰に座する
サガに怪しまれぬため前教皇シオン様のご遺体を長らく野ざらしにしてしまっているのは誰もが心苦しく思っているが、その真実は魔鈴が苦労してスターヒルに赴かずともすでに知られている事だ。わざわざそんな苦労をさせるくらいなら、人手不足であるしここは協力を求めた方がいいだろうという結論に至った。
星矢達と戦う予定の黄金聖闘士の面々にも今のところ事実を伏せている状態だが、魔鈴なら問題ないだろう。もともと彼女はムウ殿や老師のように星矢達を助けてくれる立場だ。物語が動きだした今、協力を求めるにはいいタイミングだろう。姿を現したら開口一番に「あんた今まで何処行ってたんだい!」と問答無用で頭をひっ叩かれたが、彼女が味方として動いてくれるなら心強い。
とりあえず魔鈴へ詳しく説明している時間もなかったので、彼女にもジャミールへ向かってもらった。申し訳ないが、説明役はムウ殿に丸投げだ。
事情を説明しながらさっそく一緒に行動してもらってもよかったのだが……それよりも、出来れば魔鈴にはムウ殿からの説明でしっかりと事実を把握してから聖域へ戻ってもらい、あちらの動きを探ってほしいのだ。スターヒルへ侵入してしまえるほどの立ち回りが出来る魔鈴なら、身を隠しながらもその程度可能なはず。
味方に引き込んで早々に危ない役目を背負わせるのは気が引けるが、私は私の曖昧な記憶を裏付ける、又は把握できていない分の生の情報を欲している。もしそれを魔鈴が果たしてくれるなら、これほど助かる事は無い。
魔鈴は大雑把な私の説明と要求に仮面の下で顔をしかめたような雰囲気だったが、最終的には深いため息とともに了承してくれた。あとで私の口からもしっかりと説明しろと釘をさされてしまったが……うむ……女になってから世話になることが多かった分、魔鈴とシャイナにはあまり頭が上がらんからな……。どこまで話していいものか決めかねるが、心せねば余計なことまで洗いざらい話してしまいそうだ。
ムウ殿に白銀達へ説明してもらう内容は教皇の正体とアテナ沙織に関してだけ。その情報の出所である私の前世だ漫画などのことは、話しても信憑性を揺らがせるだけなので話すつもりはない。無いが……ついぽろっと何かの拍子で言ってしまわないよう、気を付けねば。
さて、それでは実働部隊の私たちは残る白銀達の救命と確保に努めるとするか。
砂浜に横たわる三人の白銀聖闘士。浅いながらも呼吸を繰り返す彼らはまだ生きてはいるが、それもかろうじて、といったところ。早く手を施さねば命は無いだろう。
更にはその横に、もう四人。
「掘り起こしたはいいが、こっちはまだ生きているのか?」
「いや、もう死んでいるな。しかし今後のためにも出来れば助けてやりたい。試してみたいこともあるから、協力してくれるか」
「私は構わないが……。出来るのか?」
「どうだかな。駄目もと、くらいの確率だ」
言いながら視線を向けた先には、先ほどまで砂浜に青銅達の身代わりとして葬られていたブラックスワン、ブラックドラゴン、ブラックアンドロメダ。そして先に星矢本人がミスティと邂逅してしまったがゆえに、偽装が間に合わなかったのか埋められてこそ無かったが星矢の身代わりにと連れてこられていたブラックペガサス。その計四人。ちなみにブラックペガサスは少し離れた物陰に横たえられていた。
彼らの呼吸はすでに止まってから長いため蘇生は不可能に近いが、そこから生き返らせることが出来れば今後の選択肢は増える。言い方は悪いが、彼らには実験台になってもらおう。
「では、こちらからやるとするか。まだ息があるから、うまくいけばミスティみたいにすぐ目を覚ますだろう」
これを済ませたらすぐにグラードコロッセオに戻らねばならない。白銀の気配を感じ様子を見てきたアイオロスによれば、どうやら他の白銀聖闘士がグラードコロッセオの破壊活動を行っているようだからな。そうとなれば次の戦いの場はグラードコロッセオで、彼らと星矢達が接触した時。ここであまり時間をかけてはいられないのだ。
私は一瞬、意識を集中すべく目を瞑った。そして研ぎ澄まされた精神が、白銀達の体に存在する聖闘士の弱点ともいえる星命点の存在と、弱弱しくも未だ燃える命の輝きを……小宇宙を絡めとる。感知するだけでなく、細部まで把握し一本一本指を絡めるようにして捕捉するのだ。これがなかなか神経を使う。
以前はこの作業に半日ほどかかっていたが、十三年積み重ねた研鑽によってその時間はここまで短縮した。その過程で自身の聖闘士としての資質がワンステージ上がり、以前の私に劣るばかりだったこの体が、ある意味では前の自分を越えたのだから人生とはよく分からないものだ。
意識を深く、素早く、彼らの中へ無遠慮に踏み入れる。そして私は振りあげた拳を三人の腹部に叩き込むと同時に、自身の小宇宙を爆発させた。
瞬間、雷でも身に受けたかのように勢いよく跳ねるモーゼス、アステリオン、バベルの体。
「がっ、は!?」
「うぐっ」
「あぐぅ!!」
「おお、跳ねてる跳ねてる。打ち上げられた魚みたいだな」
「おい、少し静かにしてくれないかアイオロス」
「おっと、失礼した」
茶化すアイオロスを横目でじとりと睨めば、奴は悪びれなく笑って軽く両手をあげて降参の意を示す。……一応まだ技は完成しきっていないのだから、集中させてほしいものだ。
私は改めて気を取り直すと、三人の様子を窺った。
モーゼス、アステリオン、バベルの体内へ叩き込まれた私の小宇宙。それによって彼らの小宇宙が強制的に燃焼し始めた。そして私はそれを彼らの体外から操り、一気に全身へと巡らせる。
”ライフストリームエナジー”。
完全に語感と分かりやすさでつけた名前であるが、一応私の聖闘士としての必殺技だ。恥ずかしいので技名を叫ぶようなことは無いのだが、一応分かりやすいように命名だけしてある。
この技を使うためには、まず自身の小宇宙と対象の小宇宙をリンクさせる。その後自身の小宇宙を燃焼し爆発させ、リンクした相手の小宇宙を誘爆させ強制的に小宇宙を高めさせるのだ。
その後の使い方で効果は二つに分岐するのだが、今回使用した効果は強制的に燃焼させた小宇宙を激流のごとく星命点を起点として体内に巡らせ、それに伴い自己治癒能力を向上させる、というもの。
もともと小宇宙を用いた超能力としてムウ殿などがヒーリングを扱うのが得意だし私とアイオロスも使えるが、今後の救命活動にそれだけでは不十分だろうと考えた結果編み出した技だ。せめて私が聖闘士を回復させるという
ちなみに本当に一時的な効果ゆえに、高めさせた小宇宙をそのまま外因的な力で維持させることはできなかったりする。そのためこの技によるドーピングまがいの事は出来ないのだが、それは本来目的としている効果では無いから別に構わない。……構わないが、これをきっかけにセブンセンシズやらエイトセンシズに目覚めてくれたら味方の強化になって助かるんだけどな~と、考えたことはある。これもまた無い物ねだり、というものだが。
ちなみにこの技、第二の効果として攻撃に転じさせることもできる。だから私の"必殺技"なのだ。
「よし、大丈夫そうだな」
ライフストリームエナジーの効果で強制的に回復が施された三人は、先ほどまでの弱弱しさが嘘のように元気に体を跳ねさせている。ああ、とっても元気そうだ。
…………………。いや、これ痙攣だな。
白銀の三人は回復こそしたものの、白目をむいたまま体だけビクビクと動いているという見た目的に大変よろしくないことになっていた。先ほどのミスティもそうだったが、どうにも不気味だ。
しかし気絶したまま痙攣する三人と違い、ミスティはその痙攣からすぐに意識だけは目覚めさせたのだからたいしたものだ。実力だけなら、やはり白銀の中では突出していると言ってもいいのかもしれんな。実力だけなら。全裸は駄目だ。
「う~む、しかし死の淵からの回復となると、やはり反動が大きいようだな。これではしばらくまともに動けまい」
「おい、白目をむいている相手を面白半分に突きながら言うんじゃない」
「ああ、すまんすまん。つい」
悪びれなく笑ったアイオロスは、アステリオンの額を突いていた手を引っ込めた。……今度サトリの法とやらで、アステリオンにこいつの頭の中をのぞいてもらおうか。十三年前と比べて随分お調子者になったふしがあるが、それはもとから素養があったのか外の世界を知ったからか是非知りたいところだ。
先ほどは魔鈴に心を無にされることでその力を発揮できなかったアステリオンだが、日常の中で相手が油断してる時なら多分覗きほうだいに違いない。多分。
それにしてもアイオロスが言うように、これはしばらく思うように動けんだろうな。どうもこの技は私がいくら調節しようとも負傷の規模によって技を受けた後、体に返る反動が違ってくるらしい。
まあ当然と言えば当然だ。本来なら治癒するまでに長い時間をかけるべき傷を無理やり治すのだから、それなりにリスクはあるだろう。しかも強制的に小宇宙を燃焼させられた後では、特にな。ただの自然治癒とは疲労度が違う。
しかし今までは致命傷を負った相手に試す機会なんぞ無かったからなぁ……。まさかここまでとは。この技で致命傷を負った相手でも最低限命は繋ぎ止められるだろうと老師からのお墨付きは貰っていたが、こうなるとは思っていなかった。こいつら、しばらく戦力としてはあてにできんか。
……即座に回復させる技としては、あまりよろしくないのが惜しい所だ。これは今後戦いの中で使う場合は、ヒーリングと分けて使わなければ。
「さて、お次はこちらか」
そう言いつつ、視線を向けた先は四人分の遺体。こちらは本当に駄目もとだ。
「アイオロス。これから彼らにも技を叩き込むが、私が誘発させるべき彼らの小宇宙はすでに消えている。だからお前が彼らの代わりになってくれ」
「……うん? いまいちよくわからんのだが……」
「例えるならお前は止まった心臓を手動で動かす役目。私はそれで押し出された血液を全身に巡らせる役目だ。まあ心臓マッサージと人工呼吸を小宇宙でやろうって話だよ。先ほどまで似たような事をやってたわけだが、それは相手にわずかでも自力で心臓を動かす力が残っていた場合。完全に止まっているなら、他の誰かの協力は不可欠だ。……成功しても、経過した時間的に厳しいかもしれんが」
「なるほど、了解した。しかしこれが成功すれば、今後心強いな」
「ああ。だから私も成功することを願っているよ」
すでに体の機能が停止してから短くない時間が経過している。もし体の蘇生に成功しても、脳死している……という可能性が捨てきれないどころか大きい。だが普通の方法ではなく、我々が扱うのは小宇宙。願わくば奇跡でも起きてほしいものだ。
これから実際にその技を使う者としては無責任な考えかもしれんが、全てを救えるほど私の手のひらは大きくない。
……一番大切なものを取りこぼさないために、私は生きている。
とまあ、色々考えもするが下手に考え込むよりも行動した方がわりと結果は出るものだ。考え過ぎて身動き取れなくなってもかなわんし、私としてもそうなるつもりはない。
結果として蘇生の試みは半分成功した。
ブラックペガサスとブラックドラゴンの二名のみ息を吹き返し、残念ながらブラックスワンとブラックアンドロメダは蘇生が叶わなかったが……駄目もとの試みとしては十分な成果だろう。
ちなみに身代わりにとテレポートで連れてこられたブラックドラゴンは、どうやら盲目の兄ではなく弟の方だったようだ。遅くなってしまうだろうが、いずれ富士の地下に埋まってしまった彼の兄とブラックフェニックス達も供養してやらねばな。
しかしミスティたち以上に体への反動が強かったらしい彼らに関しては、蘇生以降の回復は望めそうになかった。今以上に体に無理を強いて小宇宙を燃やさせては、回復する前に燃え尽きてしまう。
そのため彼らに関しては病院に任せる事にして、先ほど急いで近くの病院まで搬送してきたところだ。奇跡の後は、現代科学に頼ったっていいだろう。
「しかし成功例が出来たとはいえ、確率が半分となるとこの方法は最終手段にするしかないな」
「ああ……」
アイオロスの言葉に深く頷く。つまり死ぬ直前での一本釣りはまだこの後も続くと言う事だ。白銀の後には十二宮で黄金に対しても同じことをしなければならないため、少々憂鬱である。
誰も死なせるつもりは無いし特に息子に関してはまず何があっても死なせるつもりは無いが、もしそれが成功したとしてその後の説明やらが……いや、これは今考えるべきことでは無いな。思考にとらわれ過ぎてはならないと、先ほども思ったばかりではないか。まずは行動だ。説明する際に他の誰に何を言われようが構わないが息子にこれ以上嫌われたらどうしようという考えなど今は考えてはならない。ならないのだ。
私は余計な考えを振り払うように首を振ると、アイオロスと共にグラードコロッセオに戻る星矢達の後を追った。
さあ、次の白銀共は誰だ! 片っ端から死なせんから覚悟しろよ!!
進まん……!