機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

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コンセプトは『王道・新約』です。

※キャラ・機体は『GENESIS』に登場するものまで。


I.魂の生還

人はなぜ戦うのか、と問われたとき、何と答えたものだろうか。

 

 

いつだろうか、人が戦いを始めるようになったのは。

 

 

人は、この大宇宙の中では小さな一つの種でしかないはずなのに。

 

 

なぜ、人は戦いで、自らの世界を滅ぼそうとするのだろうか。

 

 

 

人が猿から進化して、自らの足でこの大地に立った時、すでにその運命は決まっていたのかもしれない。

 

 

 

頭脳を持ちえたからこそ、他より優れていることを望み。

 

文明を持ちえたからこそ、飽くなき欲望のままに、自らの世界を広げることを望み。

 

知能を持ちえたからこそ、自らが自らの正当性を証明したがり。

 

理性を持ちえたからこそ、その手で他の命をたやすく奪うことができ。

 

記憶を持ちえたからこそ、過去の過ちを知り、なお繰り返し。

 

 

 

人が人という存在である限り、戦いから逃れられることはできないのだと。

 

 

そして、人は戦いという愚行を繰り返すことで、歴史を重ね、その先に再び、戦いの火が灯る。

 

 

 

ならば、戦い無き世界という理想のため、この世界から戦いをなくすため。

 

 

 

人類の歴史を、この手で変えてやろうではないか。

 

 

ヒトという愚かな生き物は、自らという種が途絶えなくば、戦いを捨てることはできないのだ。

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 目が覚めたとき、自分が覚えている天井とは、その部屋は明らかに違っていた。

 

 

 今まで負傷して病院送りになったことがないと言えば嘘になる。誰だって怪我を乗り越えてエースになってきたようなものだ。

 

 だが、今そのようなことを、自分の頭はさっぱり考えていなかった。何より、今自分が置かれた状況がさっぱり理解できなかったからだ。

 

 くどいようだが、今覚醒した自分が目線の先に見つめていた天井は、少なくとも自分の覚えているどの天井でもなかった。そもそも自分は、先ほどまで漆黒の宇宙にいたはずではなかったか。

 

 

 まだ半分ぼやける頭を無理やり動かし、それまでの状況と今の状況を、脳内でどうにかして辻褄を合わせようと試みる。

 両手を動かし、自分の手を見つめてみる。指は十本ちゃんと揃っていた。同時に、おぼろげながら、つい数分前のことであったかのように、操縦桿を握っていた感触がよみがえる。

 

 記憶がうっすらとよみがえってくる。自分は……俺は、故郷のため、国の勝利のため、機動兵器のパイロットだったはずだ。人型機動兵器モビルスーツのパイロットだったはずだ。

 

 

そうだ、俺の、名前は―――。

 

 

 

 

「目が覚めましたか、ジョニー・ライデン」

 

 名前を呼ばれ、声の方向を向くと、そこには一人の女が立っていた。見た目は自分とそう年齢が違わないであろう、若い女性士官だった。切れ長の目に、整った細い顔立ち。凛としたその立ち姿に似合わない紺色の長髪を腰近くまで伸ばしている。

 しかし、着用しているペールのアンダースーツとグレーの上着という制服は、既視感を覚えこそしたが、自分が知っている何処の隊の制服とも違っていた。

「あんたは……」

「貴方はア・バオア・クー宙域で機体を撃墜され、ここに運び込まれました。身体の調子はどうですか?」

 名前を聞いたつもりだったが、返ってきたのは半ば一方的な説明の言葉だった。

「……なんとか、五体満足ってことだけは、たった今把握したところだ」

「そうですか。それならば、数日もあればまたモビルスーツに搭乗できるでしょう―――」

 喜ばしさを伝える言葉ではあったが、彼女の顔には喜びの表情は浮かんでいなかった。その次に彼女の口から出てきた言葉に、俺は耳を疑うことになった。

 

「もっとも『真紅の稲妻』としてではなく『ジョニー・ライデン』という、名もなき戦士として、ですが」

 

「……なんだと?」

 その言葉に、俺は間抜けにも聞き返していた。その言葉では、まるで俺の二つ名『真紅の稲妻』を捨てることになると言っているようなものじゃないか。

「……意識を取り戻したばかりのあなたには少々辛いことかもしれませんが、伝えなければならないことがあります」

 彼女はそう言って、ベッドの横にあった椅子に座った。切れ長の目から見える瞳は、美しいアメジスト色だった。

 

 

「っと、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はニキ・テイラー。この戦艦『キャリー・ベース』の副長を務めています。以後お見知りおきを」

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

「……そうか、やはり、公国は……」

 

 ニキの話を聞き終わったとき、ジョニーの胸には、不思議と悔しさは浮かんでくることはなかった。かわりに浮かんできたのは、安堵にも似た空虚感だった。

 

 

 ジョニーに対し、ニキは淡々と語った。

 彼がすでにMIA認定され軍籍抹消されたこと、功績に対して永世中佐の階級を与えられたこと、そして、ジオン公国が一年戦争に敗北したこと。

 

 自分はジオンという国の最後の砦、ア・バオア・クーという宇宙要塞を守るため出撃し、そこで乗機を破壊され、戦火またたく宇宙の闇を漂っていた。瀕死の重傷を負っていた彼を、偶然にも近くを通りがかったこの戦艦『キャリー・ベース』のメンバーが発見し、母艦へ収容したというわけだ。

 

 ジョニーはその、今はまだ顔を知らない命の恩人に心の中で感謝したが、胸中は複雑だった。

「貴方が消息不明になったその日、ア・バオア・クーは陥落しました。翌日、終戦協定が結ばれ、共和国制となり、ザビ家に与していたものは国政から排除されたのです」

「ああ……しかし、それとあんたたちが俺を助けたことに、いったい何の関係があるっていうんだ?」

ずっと聞きたかった疑問を、ジョニーはぶつけた。状況から見れば、故国が戦争に敗れ、エースとしても泥まみれとなった自分を彼らが助ける意味は一見して皆無に思えたからだった。

「貴方はすでに、歴史の上では死んだ人間です。そのほうが、私たちにとっては都合がいい。むしろ、そういった『忘れ去られた人間』でなければ、引き入れられないのです」

「死んだことになってる人間のほうが都合がいい……あんたがた、何者なんだ? 連邦でもジオンでもないのか?」

「それはいずれご説明しますが、どちらでもないというのは肯定しましょう」

 ニキの言い方にはわずかに含みがあったが、ここで詮索したところで、まず返答はもらえないだろうとジョニーは思った。

「まあ、今日のところはごゆっくりお休みになったほうが良いでしょう。まずは貴方に引き合わせたい人物がいます。この艦のクルーも、まだ紹介していませんし、貴方も命の恩人の顔を、一度くらい見ておく必要があるでしょうから」

「あ、ああ……」

 柄にもなく、ジョニーは戸惑っていた。ジオン軍人に、ここまでクールな物言いをする女性士官はいなかった。軍人という境遇においては何処まで行っても徹底的な男社会で、出会った女性軍人など数えるほどしかいなかったからだ。

 

「では、私はこれで。何かあれば、備え付けのコールボタンで呼び出してください。ブリッジに直接つながります」

 ニキが指さした先には、確かにそれらしきコンソールがついたパネルがあった。しかし、それを見てジョニーが再度彼女の方を振り返ったときには、彼女はもう出ていこうとしていくところだった。

「……あんたは、何処の人間なんだ? コロニーか? それとも地球か?」

 ジョニーは思わず引き留めるかの如く、そんな言葉を発した。

「……どちらでもない、とだけ言っておきましょう。いずれわかる時が来ます」

 ニキは少しの間をおいてそれだけ言い、そのまま扉の向こうへ消えた。答える直前、彼女の瞳がわずかに下を向いたことに、ジョニーは気づくことはなかった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 翌日、ジョニーはニキの案内で、ブリッジにつながる通路を歩いていた。とはいえ、重力はないので地に足はついていなかったが。しかし、時折窓から見える外の風景は、漆黒ばかりで星は見えず、宇宙であるのかすらわからない空間だった。

 あまつさえ、このキャリー・ベースという艦の構造自体、少なくともジョニーが馴染み深いジオンの艦艇のどれとも違うものであることだけは確かだった。どちらかというと、わずかに見覚えがあったが自らの敵であった地球連邦軍の艦艇のほうが構造的に似ていた。

 聞きたいことは山ほどあったが、ニキが纏うその雰囲気のせいで、ジョニーはとても彼女に質問することはできそうになかった。任務に真摯、それでいてクールで近寄りがたい、ジョニーが彼女から感じたのはそんな雰囲気であった。

 

「こちらがブリッジです」

 気づけば目的地にはあっという間についていた。それなりに大きな艦であるはずだが、意識を別のところに向けていたジョニーには一瞬のことのように感じられた。

 古いエアー式の扉をくぐった先には、見慣れない、それでいてどこか懐かしくもある光景が広がっていた。艦の中で最も広く、それでいて最も緊張する場所、ジョニーにとって艦橋とはそういうものであった。

 

「待ちわびたぞ、ジョニー・ライデン」

 

 上から降ってきた男の声。見上げると、その艦長席と思わしき場所には、老齢の紳士が座してこちらを見下ろしていた。年齢はジョニーの軽く倍以上はあるだろう。その顔に刻まれた皴には、しかし多くの戦いの傷跡が混じっていることを、ジョニーが気付かないはずもなく。

「あらためて、ライデン少佐……いや、一人の戦士、ジョニー・ライデン」

 男はゆっくりと席から立ち上がり、彼の前にふわりと降り立った。

「儂はゼノン・ティーゲル。この隊のキャプテンを務めさせてもらっている」

 ゼノンと名乗ったその紳士は、鋭い目つきとは似つかわしくない柔らかな笑みをその口元に浮かべ、右手を差し出した。

 

 

「ジョニー・ライデン、ようこそ、キャリー・ベースへ。我々は、君の復帰と加入を心より歓迎する」

 

 

 差し出された手に、一瞬の沈黙の後、ジョニーはおずおずとそれを握り返す。手の平に触れたその感触は、ジョニーがよく知っている、間違いない歴戦の勇士のものであった。

 

「……ひとつ、教えてくれないか」

 ジョニーの口から出たのは、そんな疑問の言葉だった。今まで聞く機会を逃していたその疑問を、ジョニーはここで口にする。

「何だね?」

「あんたたちは、俺の力を必要とする理由があると聞いた。それは、正義なのか? それとも悪なのか?」

 ゼノンは一瞬神妙な面持ちになったが、彼が口にした言葉は驚くほど簡潔で、そして意外なものであった。

 

「今は信じられんかもしれんが、儂らは世界のために行動している。お前の世界だけではなく、もっと多くの、数限りなく存在する世界をな」

「…………」

「正義か悪か、と聞かれれば、それは時と場合によるな。世界を救うために、必要悪という存在にならねばならんこともあるだろう……君は、元の世界ではもうすでに死んでしまった人間かもしれん。だが、儂らは今、この瞬間にも、一人でも多くの戦士の力が必要なのだ」

 そう言い切るゼノンの目には、未来を憂う、確固たる意志が静かに燃えているようにも見えた。

「だからこそ、あえて言おう。ともに戦ってはくれないか、ジョニー・ライデン」

「…………」

 何と答えたものか、言葉を紡げないでいたジョニーの背後から、その時、突然男の声がした。

 

 

「ジオンとして戦えるかどうかではない、彼らは戦士としての誇りが残っているかと聞いているのだよ」

 

 

 そこにいたのは、短く刈り上げられた髪に、濃いひげを口の周りいっぱいに蓄えた男であった。そして、その男の異名を、ジョニーはいやというほど知っていた。

「あんたは……!!」

「久しいな、真紅の稲妻」

 

 その別名を、ソロモンの白狼。そんな異名をとり、その名の通り全身を白く塗装された専用機に乗り、まるで狼のように戦場を駆け、多くの敵を屠った、エースと呼ばれた男。

 

「シン・マツナガ大尉……!!」

 

 

「意外な再会といったところか、ジョニー・ライデン少佐」

「……あんたも、この艦に拾われたのか」

「ああ、この通り、ようやく満身創痍の傷から立ち直りかけてきたところだ」

 マツナガの手や足には、ところどころまだ包帯がまかれていた。ジョニーは、彼の名前こそよく知っていたが、一大決戦を前に本国へ呼び戻されたというところまで噂で聞いていたものの、そのあとの行方はわからないままだった。

 

「……あんたは、協力することにしたのか」

「そうだな、私も最初は戸惑った。命を救われたことは感謝すべきだが、いきなり同胞に加わらないかと言われれば、貴官のような反応は至極当然のことだろう」

 いぶかしむようなジョニーの質問にも、マツナガは真剣なまなざしを崩さなかった。

「……理由があって、協力するんじゃないのか、あんたは」

 ジョニーは眉間にしわを寄せたが、マツナガはフッと笑って答える。

「元の世界ではすでに死んだも同然だと言われて、落胆するわけがないといえば、それは嘘になるだろう。だが、戦士としての誇りがまだ残っている限り、この身が必要とされることがあるなら、私は戦う。マツナガの名にかけて、人のためになることをする。その矜持を汚すことだけはできぬからな。理由とするなら、それで十分だ」

 マツナガの表情は笑っていたが、その目には真剣な戦士としての炎がまだ燻っていた。それは紛れもなく、ソロモンの白狼として名をはせた男のものに相違ないことを、ジョニーの戦士としての感覚が告げていた。

「……戦士として、国を救うことはできなかったし、もうできないやもしれぬ。だが、救うべきものがどこかにあるのなら、戦士として見ぬふりをするわけにはいかぬのだ。戦場で掲げた、白き狼を裏切ることはできない」

 マツナガの心はすでに決まっていた。ジョニーは、自分が知る以上の消息を聞きたくもあったが、それはまた別の時に聞くことができると思い直した。

「……世界を救う、か……」

「……そのうえで聞こう。戦士として、貴官はその胸に弱者を救うという意志と誇りはまだ持っているか」

「…………」 

 ジョニーは空を仰ぐように、天井を見上げた。

「…………俺だって、単騎で戦況を変えられると思っているほど自惚れちゃいない……そう思ってたんだが……な」

 見慣れていた星空が見えるわけはなかったが、そこには何かがあるような気がした。

 ジオンの戦士としてのジョニーはすでに死んだ。しかし、ジョニー・ライデンという戦士は今、ここに確かに在るのだ。

 戦士という肩書きが、まだこの世界でなすべきこと、なせることがある、そう告げているような気がした。

 

 

「……俺に、力になれることがあるのなら……わかった、やってみせようじゃないか」

 

 ジョニーの瞳に、消えかけていた戦士としての炎がわずかに戻った瞬間だった。そして、ブリッジ内にいた数名のクルーから拍手が起こった。ジョニーは次々と自己紹介とともに握手を求められる。

「操舵士のエルンスト・イェーガーだ。ま、一蓮托生ってことで、よろしくな」

「同じく、通信士のラ・ミラ・ルナです。あなたと共に戦えること、うれしく思います」

 操舵席にいたシニカルな印象の男、そして、通信士席にいた生真面目な印象の女性。どちらも聞き覚えのあるジオン訛りの言葉ではなく、顔だちを見てもコロニー育ちの人間ではないようだった。

 

 そして、その拍手の中に、今までブリッジにいなかった者が、それも二人ほど混ざっていることに、ジョニーは気が付いた。

 振り返ると、そこにはふたりの男女。これまた、ジオン(ふるさと)では見たことのない顔立ちの人間だった。一人は漆黒のボディースーツを身にまとった長身で細身な顔立ちの男。もうひとりは金髪で大きなエメラルドの瞳を持つ女だった。たったいまモビルスーツから降りたばかりなのか、青紫を基調としたパイロットスーツを身につけていた。

 

「ジョニー・ライデン、お初にお目にかかる。俺はマーク・ギルダー。この艦のモビルスーツパイロットだ」

「同じく、パイロットのエリス・クロードです。改めて、よろしくお願いします、ジョニー・ライデン」

 握手を交わし、しかしながら状況を半分くらいしか呑み込めずにいたジョニーに、ゼノンが声をかけた。

「モビルスーツの関係については、彼らとメカニッククルーから聞いてくれ。三日後には、最初のミッションを開始せねばならないのでな」

「三日後?」

 また急な話だな、とジョニーは思わず眉間にしわを寄せる。が、ゼノンの次の言葉で、そのしわはすぐに消えた。

「怪我人使いが荒くてすまんな。むろん、それまでに、君のモビルスーツの整備は完了させる」

「ゲルググが!? 三日で使えるようになるってのか!?」

 自分の記憶が確かなら、自分のモビルスーツはあの時、原形をとどめないほどに大破したのではなかったのか、とジョニーは思わずにいられなかった。満身創痍で、おぼろげな意識の中での記憶だったので、間違いはあるかもしれないが。

「無論だよ、この艦のメカニックは優秀だからな。当然、シン・マツナガ、君の機体もすぐに出撃できるよう手配するとも」

「なんと……!!」

 さすがのマツナガもこれには驚いた様子だった。

「そのあたりのからくりも、後々メカニックから説明してもらうとして、とりあえずは三日間、十分に英気を養ってくれ。三日後には、君たちはまた、戦いのさなかに飛び込まねばならなくなるからな」

 ゼノンはそう言って艦長席に戻る。入れかわりに、エリスが声をかけてきた。

 

「では、お二人とも、格納庫にご案内します」

 

 

 

    ◇   ◇   ◇

 

 

 

「答える手間を増やすようで悪いんだが、聞いていいか?」

 格納庫への通路の途中、ジョニーが口を開く。

「何でしょうか?」

「この艦は、連邦のものか?」

「……そうですね……半分はそうで、半分はそうではない、というべきでしょうか」

 エリスは少々戸惑いながらも、そう答えた。

「どういう意味だ?」

「……それを説明するには、俺たちの立ち位置も説明しなけりゃならないんだが、いいか?」

 萎縮気味のエリスにマークが助け舟を出した。

 

 マークの口から語られたのは、にわかには信じがたい事実ばかりだった。

 

 

 この艦は、いわば、世界を渡り歩く艦。

 

 全ての世界は『ジェネレーション・システム』という統合型管理システムによってその存在を管理されており、時折それらの世界で起こる争いを解決するのがこの艦の仕事であること。

 そのシステムには、過去、未来、すべての世界の結末や出来事が記録されており、この艦にも限定的ながらアクセスする権利があること。

 アクセスすることによって、その時代の兵器や人々をある程度自由に手元に置くことができること。

 

 そして、今、このシステムが何らかの異常をきたし、本来とは異なる歴史をたどっている世界が多数あること。

 

 

「俺たちがやっているのは、言ってしまえば歴史の改変に他ならない。だからこそ、なるべく世界の基礎データ、と言えばいいのか、人や物にはあまり手を付けたくないのさ」

「……なるほど、だから俺たちみたいな、元の世界ではとっくに死人同然の人間を連れてきたってわけか」

 納得した様子のジョニー。

「ええ、乱暴な言い方ですが、正しい歴史の流れによってその世界で消えた人間なら、たとえ生き残っていたとしても、歴史に与える影響は少なくてすみますから」

「ふむ……逆に言えば、我々は、この先、元の世界に戻ることはない……いや、出来ない、という解釈で良いのか?」

 マツナガは、目線はエリスの方に向けず、しかして言葉で刺して感触を確かめるような口ぶりで聞き返した。

「……ええ、極端な話をすればそういうことです」

「…………」

 

 元の世界には帰れない。

 

 予想していたこととはいえ、その事実を改めて聞くとジョニーもマツナガも、その言葉の重さに気が重くならざるを得なかった。自分たちは今こうして五体満足で生きながらえているにもかかわらず、元の世界ではとうに死んだか行方不明となった人間であり、今さら戻ることもできないのだ。

 

「この艦、キャリー・ベースも、宇宙籍0100年代に使われていた地球連邦軍のクラップ級という戦艦を改造した練習艦を基本にしたものです。ベースがこの型の戦艦になったのも、単にそこに歴史から消えつつ残っていても問題のない戦艦があったから、というだけに過ぎません」

「……なるほど、戦士が死人同然なら、メカも死人同然ってわけか……まるでゾンビ集団だな」

「ああ、よく言われるよ」

 ジョニーが苦笑いとともに言い、マークも肩をすくめた。

 

「……それで、戦いが終われば俺たちはどうなる? 別の世界で、名前を偽って暮らす、っていう選択肢でもあるってのかい?」

 思い出したようにジョニーが聞いた。

「ないわけじゃないが、できるかどうかは時と場合によるだろう。元の世界にいなかった人間を新しくそこに放り込むのも、それはそれで影響はゼロじゃない」

 マークがそう答えた。

 ならば自分たちはこのまま、世界を渡り歩く時空の放浪者にでもなるのか。さすがにこれ以上問いただすのはジョニーにも憚られた。ならば何を聞いたものかと考えたが、幸いにも、それを思いつく前に、一行は目的地に到着していた。

 

「到着しました」

 

 エリスの案内で足を踏み入れたそこは、ややこじんまりとはしていたが、機動兵器部隊を二個小隊ほど運用するのに十分な広さのある格納庫だった。彼らがジオンにいたときに見たものとは違っていたが、整備に必要な道具や機器は、それらしきものが一通りあるようだった。

 ハンガーには数機のモビルスーツが係留され整備を受けていたが、メカニックスタッフはこぢんまりとした格納庫であることを加味しても明らかに人数が少ないように思えた。

 

「……やけに静かだな」

「ええ、この艦に残っているメカニックスタッフは、今のところ6名です」

「なんと……それだけの人数でこの整備を回しているとは。これは素直に称賛せざるを得んな」

 感嘆のような溜息とともに称賛の意を示すマツナガ。

「そして、あそこにいるのが、この艦のメカニックチーフのケイ・ニムロッドです」

 

「……ん? ああ、あんたがたがジオンってとこのパイロットさん方か」

 

 そこにいたのは、おおよそメカニックには似つかわしくない、金髪で頬にそばかすを付けた、腕っ節の強そうな女性だった。

 

「紹介に預かったケイ・ニムロッド。この艦のメカニックだよ」

 かぶっているキャップのつばをクイっと持ち上げて彼女は言った。

「驚いたぜ……ジオンじゃ女のメカニックなんて見たことがなかったからな……」

「フン、何度も言われてるよ、そんな台詞」

 ジョニーの言葉に対し、もはや慣れっこだというようなケイの口調には、どことなく諦観のようなニュアンスも感じて取れた。

 

「ところで、()の機構、解析は進んでるのか?」

「いいや、まったく。外部からのアクセスもさっぱり受け付けやしない。つまるところ、あいつは完全なブラックボックスってやつさ」

 

 ケイが肩をすくめて反対を見上げ、それにつられてジョニーとマツナガもその視線の先を見、そして思わず目を丸くした。

 

「これは……!!」

 

 

 二人はその機動兵器モビルスーツに見覚えがあった。

 

 

 ふたりの記憶にあるそれと細部は違っていたが、輝きを放つV字型のブレードアンテナ、鋭い目つきのツインアイ、一切の無駄を排除したボディ構築、そして何より、白をメインカラーとしたその機体色。

 

 それを見たとき、二人は同時に言葉を漏らしていた。そしてそれこそ、この機体の名前。

 

 

『――ガンダム……!!』

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