機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

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Ⅶ.砂煙を抜けて

 ガンダム。

 その機体の名を口にした瞬間、反射的にラルはグフをその機体に向けて加速させていた。得物を振りかざし、グフはそのツインブレードの機体に斬りかかる。

 ガンダムの肩アーマーには「01」のナンバリング。ラナロウが乗るトルネードガンダムである。

「うおっ!」

 とっさにビームサーベルを抜き、トルネードは一撃を受け止める。

「ほう、これを防ぐとは、できるな……!」

 敵の有視界通信が混線したのか、目の前のガンダムに乗っていると思しき若い男の声が聞こえてくる。

「へっ、アンタが誰かは知らねえが、俺の方に来るとは、嬉しいね!」

 鍔迫り合いのさなかでも、一方のラナロウは早速の強敵との邂逅に喜びを隠せないでいた。

「その声、若いな……!」

「そいつはどうも!」

 お互いに戦闘のプロフェッショナルである者同士、すさまじい戦いが始まった。斬りかかっては受け止め、撃てば機体を捻って躱し、すぐさま返しの一撃を叩きこむ。

「はははっ! 久々だぜ、こんなに本気になれたのはよぉ!」

 ラルは次々と状況を破るための手を繰り出すが、ラナロウはそれを悉く《機体に届く寸前で》受け止め、返しの一手を叩きつけてくる。

「ぐっ……!」

 只者ではない。

 ラルの戦士としての直感が警鐘を鳴らしていた。

 相対しているのは間違いなく、いくつもの死線を潜り抜けてきた人間……()()()()()()()()が持つ、一撃必殺の技術と、相手の先の先を読み、いかなる手を使っても貪欲に勝利をもぎ取る執念を持つ者なのだ、と。

 

 一方で、バクゥとザウートの混成部隊をトルネード一機で相手取るクレアは対照的に、気を抜けば逃げて行ってしまいそうになる、勝利という結果をもぎ取るのに必死だった。

「やってくれちゃって!」

 奮戦の甲斐あって、バクゥは残り三機、ザウートは一機まで減っていた。だが、此方のエネルギーと弾がいつまでも持つわけもない。既に両腕のガトリングのうち片方の弾が底を尽き、ビームライフルのエネルギーは残り半分を切ろうかというところだった。

「!」

 とっさに直感で回避行動をとったその脇を、バクゥのレールガンの弾がかすめていった。

「バカは来る!」

 言いながら、一連の回避動作と同時に放たれたビームライフルの一撃が、バクゥの一機の背面に命中し、ミサイルポッドが爆発する。

「あと二〇分……マークもエリスも、無理難題をおっしゃる! まったくもう!」

 悪態をつくクレアだったが、彼女の目は決して、希望という光を失ってなどいなかった。

 

 

「あれが、モビルスーツ戦……!」

 マリューはようやくその一言を絞り出す。その戦闘を間近で見て、アークエンジェルのブリッジクルーは全員が、ともすれば戦場にいることをうっかり忘れそうになるほどに呆気に取られていた。

「傭兵とは聞いていたが……まさかこれほどとは」

 メンバーの中では一線での軍経験が一番長いナタルですら、画面越しにでも伝わる殺気と気迫の応酬に、周囲への索敵指示が一瞬頭から消え失せてしまう有様だった。

「ナタル!」

「っ、そうだ、レセップスは!」

「あ、き、距離四五〇〇〇、依然としてこちらに向かってきています!」

 マリューの一声で我に返るナタル。理解の追い付かない出来事が眼前で繰り広げられているとはいえ、一瞬でも戦場にいることを忘れてしまった自分が恥ずかしかった。

「アーガイル二等兵、SOSの送信元は? 逆探知は続けているんだな?」

「はい、ですが、やはりNジャマーのノイズがひどく、まだ拾えません」

「そうか……ともかく、チャンネルは全部開けておけ。いつまた来るか分からんからな。デュエルとバスターはどうなってる?」

「動きありません、まだレセップスの艦上です」

「……砂漠の虎は、何を考えているの?」

 マリューは不可解な状況を訝しんだ。ここでデュエルとバスター、二機のガンダムを投入し、その火力をもってすれば、アークエンジェルを叩くのはたやすいはずだ。

 だが、砂漠の虎はあえてそれをせず、出方を窺うように、謎のモビルスーツと量産機レベルの戦力で此方の相手をさせている。今の敵の動きには、戦闘を有利に運ぼうとするような意志が感じられない。

 砂漠の虎は、何かを待っているのではないか。

 マリューはなぜか、確証はないもののそんな考えを抱いていた。そして、直後、その可能性といえるものに思い当たる。

 

 イージスとブリッツだ。

 

 砂漠の虎は、ここで確実にアークエンジェルを沈めるためには、ガンダムは二機ではなく四機必要だと考えているのではないか。不意にわずかな恐怖とともに、そんな考えがマリューの頭をよぎる。

 そして、その裏付けともいえるものは、ついさっき取れているではないか。

 こちらのジョニーとマツナガを呼んだ謎の通信。その通信を発したものが追われているのは、まさにその二機、イージスとブリッツなのだ。

 技術士官の出であり、戦術というものには些か疎いマリューでも、容易に理解ができる。

 

 モビルスーツの数と性能にものを言わせて、相手を圧殺する。それは、戦の常識を超えた鉄則であり、シンプルにして最も恐ろしい戦術だ。

 

「まずいわ、イージスとブリッツに合流されたら、いくらこっちに戦力があっても……!」

 アークエンジェルが攻め落とされるのが先か、味方がこちらに戻ってくるのが先か。賭けに等しい状況に、マリューはただ祈るほかなかった。

「全エンジン、臨界出力に達しました!」

 操縦席のアーノルド・ノイマンが告げた。

「これよりプランCに移行! アークエンジェル、発進! 敵軍を中央突破します!」

 大天使の翼に、再び火が入った。

 マリューは万が一の時に備えて、打ち合わせておいたサブプランというカードを切ることを決断する。

 それは、防衛が不利だと認められれば、直ちにアークエンジェルは発進させ、敵の中央を突っ切って北米大陸へと抜ける。文字通り強行作戦だった。

 

   ◇   ◇   ◇

 

「見えた、あれだな!」

 ゲルググのメインカメラが、高速で飛行してくる赤と青のモビルスーツを視界にとらえる。

 ラナロウとクレアがトルネードとともにアークエンジェルに持ち込んでいた飛行メカ「フライター」を借り、全速で飛ばすこと三〇分余り。ようやくレーダーに反応があったのだ。

「あれは……フェニックス、そして追手は……あれもガンダムか!」

 マツナガも、同時に後方から飛来する機体に目が留まる。機体色や細かい造形は違っているが、どちらもツインアイとV字型のアンテナを持っている。それは紛れもなく、ガンダムの特徴で間違いはなかった。

「フェニックス、聞こえるか! ジョニー・ライデンだ、聞こえたら応答しろ!」

「ああ、よかった、通信が届いたんですね!」

 通信機からはエリスの安堵した声が聞こえてきた。

「その声は、エリスか! 無事だな?」

「ええ、マークも私も何とか……でも、追手が振り切れなくて……っ!」

 二機の後ろから、なおもビームの追撃が飛んでくる。

「ここは我々が時間を稼ぐ! 貴官らはアークエンジェルへ急げ!」

「悪い! 頼んだ!」

 フェニックスとフェニックス・ゼロを行かせて、二機のゲルググは後方のガンダム二機に向き直る。こちらもSFS(ゲタ)を履いているとはいえ、相手の実力は未知数だった。

「なんだ、あのモビルスーツは!?」

「ジンじゃ、ない……シグーとも違う……! ライブラリにない機体です、アスラン!」

 驚きは相対するアスランと二コルも同じであった。

 目の前には、真紅と白に塗装された所属不明のモビルスーツが二機。ザフトのモビルスーツ、ジンに似てはいたが、幅の広いスカートや脚部スラスターカバーの造形は見たことのないタイプだった。

「時間を稼ぎつつ、アークエンジェルまで後退、か……考えてみりゃ随分と難題だな」

「弱音は後だ。そういえば、私も、撤退の殿を務めたのはソロモン以来だったか」

「ああ……まあ、護衛対象がない分、こっちの方が楽かもしれねえが」

 ジョニーの表情には焦りこそあれ、その口元には笑みすら浮かんでいる。 

「思い出すぜ、ア・バオア・クーの死線を!」

 二人の脳裏には、あの日、あの時、宇宙で雨のように降り注ぐ砲撃をかわしながら、敵艦に一撃を見舞った戦いの光景が、鮮明に蘇っていた。

 忌々しき記憶ではあったが、それだけで操縦かんを握る二人の両腕に力がこもる。

「墜ちるなよ、真紅の稲妻!」

「そっちこそな、白狼!」

 タイミングを合わせたわけでもないのに、二機はほぼ同時にビームナギナタを取り出し、そして同時に斬りかかっていった。

 それこそはジオン宇宙機動大隊仕込みの、電撃白兵戦術。

 相手に準備させる隙を与えず、的確に手持ち火器や手足だけを最小の動きで斬り飛ばし、一撃の下に戦闘不能にする。ジオンの名だたる二つ名を持ったエースパイロットたちによって編み出された、数や性能で劣る相手と互角に戦い得ることのできる不敗の戦闘技術であった。

「ぐぅっ!」

 だが、そこは遺伝子操作の下に生まれたコーディネイター。イージスは、並のパイロットなら回避が間に合わない一瞬の攻撃を、寸でのところでシールドで受け止めた。

「アスラン!」

「余所見をしている場合か、黒いガンダム!」

 イージスに食らいつくジョニーのゲルググを引き剥がそうとするブリッツに、今度は別の角度からマツナガの一射が飛んだ。

「うあっ!?」

 ブリッツの頭部すれすれをビームがかすめていった。

「いい反応速度だ、やるではないか!」

「……只者じゃありませんね」

 通信機から雑音交じりに聞こえてきた声に、マツナガは驚く。まだ声変わりも間もないような、無邪気ささえも感じられる、うら若い少年の声だった。

「……随分と若いな、ガンダムのパイロット」

「でもっ!」

「っ、なんと!」

 ブリッツの右腕のシールドからビームサーベルが伸びた。マツナガは不意打ちに近い一撃を、間一髪シールドでいなすことに成功する。

「ええい、くそっ!」

 一方のアスランはイージスのパワー任せに、鍔迫り合いする紅いゲルググを振り払った。

「ちっ、さすがはガンダムだな!」

 ジョニーは横目でコンソールの距離計を見る。

 アークエンジェルの通信識別圏内まで、距離一八〇〇〇、だんだんと距離の減っていく数字だったが、普通に飛べば十五分とかからない距離が、今はとても遠く感じられた。

 

   ◇   ◇   ◇

 

「バクゥ、三番機大破! 四番機、武装小破! ヘリ部隊の損耗率、四六パーセント!」

 レセップスの艦上では、次々と入ってくる損害報告が読み上げられる。しかし、バルトフェルドは顔色一つ変えずに、ただ状況を座視していた。

「隊長、敵モビルスーツは二機のみです! 今なら足つきを叩けます! デュエルとバスターに攻撃させた方が……!」

「……いや、このままだ。残存部隊は、時間いっぱいまで敵モビルスーツの足止めに専念しろ」

「えっ!?」

 ダコスタの驚きも無理はなかった。バルトフェルドの言葉の意味するところは、このまま敵を消耗させることだけに専念せよ、ということだからである。撃破せよ、ではないのだ。

『隊長、どういう事なんです! 今なら足つきを!』

「慌てるなと言ったろう、イザーク。今飛び出しても、砂に埋もれて的になるのが関の山だぞ。それに……」

「二時方向、戦闘車両が多数接近!」

「……来たな。ゲリラ集団」

 レーダーに小さな熱源が多数映る。防衛ラインを突破された「明けの砂漠」が、全戦力をもって迎撃に出てきたのだろう。

「隊長、自分たちが迎撃を!」

 イザークに続き、ディアッカも通信に割り込む。はやる二人を見かねてか、バルトフェルドは小さく息を吐いた後に言った。

「……いいだろう。奴らの相手は任せる。ただし砂に埋もれても、助けてはやれんぞ?」

『わかってます! 敵に遅れは取りませんよ!』

 言うが早いか、デュエルの視線はとうに敵の方に向いていた。

「あの、よろしいのですか、隊長?」

「好きにさせてやればいいさ。こちらの目的には、支障はない」

 バルトフェルドはまだ余裕という表情だった。

「目的……?」

「忘れたかね? 宇宙から、あの戦艦がほとんど無傷で降りられたのは、あれと第八艦隊のおかげだけではあるまい?」

「あっ!」

 ダコスタは思い出す。宇宙でザフト艦隊、それもGの4機を投入した戦闘でもあの戦艦は墜とせなかった。アークエンジェルを無傷で守り切ったのは、たった1機のモビルスーツだったのではなかったか。

 白いモビルスーツ、ストライク。そして、そのモビルスーツは今、目の前にはいない。

「まさか、隊長は……」

「わかってもらえたかね。その結果がない限り、あっちのモビルスーツをいくら削っても、勝ったことにはならんよ。()()()()()()()()()()、な」

「ですが……」

「心配いらんよ。ともかく、残りのバクゥに伝えてやれ。それと、万が一に備えてラゴゥの準備を頼む」

「わ、わかりました!」

 ダコスタは弾かれたように無線機にかかった。

 

「レセップスから各機へ、直接の戦闘は避けよ! 足つきから()()()()()()()()()()()()!」

 

   ◇   ◇   ◇

 

「それは事実か?」

 キャリー・ベースのブリッジで、ルナからの報告を聞いたゼノンは思わず聞き返していた。

「ええ、セカンドチームの機体の戦闘記録と、得られたサンプルを解析しましたが、間違いありません」

 ブリッジの大型スクリーンに資料が映し出される。

「サンプルは、ライデン機とマツナガ機に付着していた金属片です。これを分析したところ、高張力鋼の成分が検出されました。データを照合しましたが、コズミック・イラ世界には、この成分を持つモビルスーツの装甲部材は存在していませんでした」

「では、記録にない新開発の部材という事か?」

「いえ、それが、材質を調べた結果……ひとつだけ、成分の九八パーセントが一致する物質がありました」

「おいおい、それってまさか……!」

 イェーガーが横目でルナを見る。

「お二人の機体……MS-14・ゲルググの表面装甲材です」

「…………やはり、か」

 ゼノンは眉間に皺を寄せたまま呟いた。

 彼の長年の戦闘で培われた戦闘勘は、謎の青いモビルスーツが、明らかにゲルググの系譜に繋がる機体ではないか、ということをすぐに見抜いていた。

 そして、いまこの瞬間、その勘が確信に変わったのである。

「ジェネレーション・システムに、あの機体の出所はログとして残ってはないのか?」

「お二人の漂流していた時間軸を中心に調べていますが、まだヒットしません」

「そもそもまず、あの機体がこの世界にはじき出された原因が何か、見当がついているのですか?」

 傍らで話を聞いていたニキが切り出す。

「いえ、それもまだ……」

「ジェネレーション・システムは、それぞれの世界を完璧に管理できるよう、幾重にもウォールプログラムが張り巡らされています。それを潜り抜けるのは、我々のように対応できる認証プログラムの用意でもなければ、あり得ません」

 ニキらしい、セオリーを踏まえた、断定的な意見だった。ゼノンはルナの方に視線を戻す。

「…………これは仮定の話だが、他にまだ、()()()()()としたら、どうだ?」

「えっ!?」

「そんな!?」

 ルナとニキは同時に、信じがたい顔をしてゼノンの方を見やった。

「艦長、まさか意図的に、あの機体を()()()者がいるとおっしゃるのですか!?」

 そんなことがあり得るわけがない、と言うかの如く、ニキはゼノンに詰め寄った。

「儂も、突飛な考えだとは思うさ。だがなニキ、儂らはそれができるのだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうは言えんかね?」

「…………」

 真っ向からゼノンに穴を指摘され、ニキは唇を噛んで押し黙った。

「イレギュラーな時ほど、先入観は捨てんといかんぞ。心当たりができるのなら、その分だけ戦術も、それに対抗するすべも、見つかりやすくなるというものだ」

 ゼノンの鋭い眼光は、イレギュラーの背後にある「何か」を見据えているかのようだった。

 

 ブリッジの張り詰めた空気を切り裂くように、警報が鳴り響く。

「何……これ……!」

「どうした!?」

 ゼノンは警報の正体が理解できず、通信席のルナを呼んだ。

「ワールド0233の時間座標、相対値が……ともに急速上昇! 計測推定値の同調、取れません!」

「なに!? イェーガー、そっちはどうなってる!」

「こっちもだ! 空間座標、宇宙質量、存在理論値……どいつもこいつも、数値が安定しねえ!」

 突如として、キャリー・ベースのありとあらゆる機器が、有り得ない値を示し始めた。時間の進行、世界に存在する物体質量、生命存在の証明理論。座標をコズミック・イラ71に定めていた計測器は、そのすべての針が激しく上下し、あるものは計測可能値を振り切り、またあるものはゼロになる。

「空間震を観測! これは……!」

 キャリー・ベースを細かな震動が襲う。雷やハリケーンといった自然現象とは明らかに違う。ブリッジの全員が、これまで経験したことのない未知の事態に驚き慌てていた。

「亜空遮断隔壁を五番まで閉鎖!空間圧力防御数式を最大展開! 艦の防護を最優先にするんだ!」

 ゼノンは叫んだ。キャリー・ベースだけが持つ、ジェネレーション・システムの管理する数多の世界を隔てる壁、すなわち亜空間。本来物体が存在することのない、存在してはならない、システム内部の空洞ともいえるその壁を潜り抜けるため、キャリー・ベースに何重にも施された防御理論が展開される。

 艦体こそは旧式ながら、どの時間軸にも存在しないこの艦だからこそ許された、究極の特権である。

「ワールド0233の空間構成推論値がずれていきます! 宇宙質量、急速に増大中!」

「ありえねぇぜ……こりゃ明らかに()()()()()()()()()()()()としか考えられねえ……!」

 計器は有り得ない動きを始めていた。ワールドという一つの時空を構成する文明が持つ質量的存在―――即ち、生命や機械、建造物などの、ありとあらゆる物体のことだ―――が、急速に増大しているというのだ。

「バカな……何が起こっているんだ!」

 ゼノンの戸惑いをよそに、なおも計器は悲鳴を上げるように、エラーを叫び続ける。雪崩れ込む情報と格闘するルナが、上ずりながら叫んだ。

「時間座標あたりの空間質量、推定平常値の百八十パーセントを突破!―――これでは空間が()()()()()()()()()()! このままでは、()()()()()()()()()()()()!」

 ルナの言葉は、なおも増大するその質量、世界に許容された万物の存在量が、やがてそのワールドという単位の中に納まりきらないものとなり、ワールドはその重さに耐えきれず破壊される、ということを意味していた。

「ともかく、アークエンジェルと、一刻も早く合流だ! イェーガー、予測は?」

「距離はざっと二百キロ、全速で行って〇〇四三ってところだな」

「……確率は五分五分、か」

 システムから返ってくる予測はずっと同じ。この時代の分岐点のひとつである「砂漠の虎」の撃破、あいも変わらず、内容はそれだけだった。

「セカンドチーム、此方はブリッジのゼノンだ。機体の準備はできているか?」

『こちらマリア。あと少しです、今、ケイさんが弾薬の積み込みを行っているところで……!』

「急げよ! キャリー・ベースは、全速でアークエンジェルの降着地点に向かうぞ!」

『え、あ……り、了解!』

 普段はどっしりと構えるゼノンには珍しく急かすようなその声に、マリアの戸惑いの声が聞こえたが、了承の返答とともにすぐ通信は切れた。

「もってくれよ、アークエンジェル……」

 ゼノンの号令がブリッジに飛んだ。

「機関全速! 取り舵二十五度! 高度は九〇〇を維持! 進路は北アフリカ、ゴビ砂漠だ!」

 

   ◇   ◇   ◇

 

「見えた、あれがアークエンジェル……!」

 全速力で飛び続けること数十分、フェニックスガンダムのメインカメラは、砂漠の真ん中を、砂煙を上げて前進する白亜の艦を視界にとらえた。同時に、その周囲で次々に弾ける爆発とビームの閃光も映し出される。

「あれは……中央突破をするつもりか?」

「ええ、暗号通信にあったでしょう。最悪の場合は敵陣を力ずくでも突破して北米大陸へ抜けるって!」

「悪い方に転がっちまったって訳かよ、くそっ!」

「それより、ラナロウとクレアは……!」

 エリスが目を凝らすと、ディスプレイに友軍を示す識別表示がされ、見覚えのある機体が目に入る。肩に02のナンバリングが施されたトルネードガンダム。クレアの機体だった。

「クレア! 見つけた! まだ踏ん張ってるわ!」

「よし! アークエンジェルの突破を援護するぞ!」

「待って! あれは……!?」

 エリスはそこでもう一機のトルネードを視界に捉える。それは勿論、01のナンバリング、ラナロウの機体だった。だが、相手の機体がおかしい。

「なんだ、あれは!?」

 ライフルを構えかけていたマークも、それに気づいて思わずその手を止めた。

 骨格フレームや見た目はジンに近いが、その青を湛えた厚い装甲は、今まで見たことがない。

「ライブラリ……ワールドデータに該当なし? そんな!?」

「ちっ、細かいことは後回しだ! 俺はクレアの援護に回る!」

「私もすぐに行くわ! 少しだけ、お願い!」

 フェニックスガンダムが、奮闘するクレアのトルネードガンダムめがけて飛翔した。一方のエリスは、視線を激しく動かしながら、コンソールと格闘を始める。

「レベル2、駄目……なら、ライブラリ接続レベルをレベル4まで広げて……!」

 フェニックス・ゼロに搭載されたサポート機能は、戦闘に特化したフェニックスのためのもの。

 内部機構はフェニックスの者を基本に、ジェネレーション・システムにアクセスできる独立端末と強化された通信機能、フェニックスと同様のビーム・ライフルやメガ・ビーム・キャノンといった豊富な射撃装備によって、高速戦闘を主とするフェニックスの後方支援を可能とし、かつ、フェニックスとの部品の共通化によるメンテナンスコストの縮減を両立した、キャリー・ベース独自開発の機体である。

 そして、その高速通信端末は、ジェネレーション・システムのライブラリからはじき出した検索結果をすぐに伝えてくる。情報の検索範囲をレベル4まで引き上げて、ようやく答えは出てきた。

「MS-07B グフ―――出所は……まさか、あのゲルググと同じ……!?」

 しかしその答えは、キャリー・ベースの機体として登録された2機のゲルググの系譜、それも、ゲルググ開発までに至る過程で製造された経路上にあるもの、という内容。同じMSという機体番号に続く、ゲルググの13に対し07という数字も、それを裏付けるものだった。

 だが、記録にあるということと、そのモビルスーツを実際に持ってくるというのは話が別だ。

 幾重にも施された、ジェネレーション・システムの「ウォール」と呼ばれるワールド間を隔てる壁。その境界をすり抜ける手段は限られている。キャリー・ベースでさえ、ウォールに対するアンチプログラムを重ね掛けしているのである。自分たちのように、システムの特性を知ったうえで、それに対応したプログラムを構築できる技術でもなければ、違う世界のモノをここに持ち込むのは不可能だ。

「あっ!?」

 エリスは目の前の検索結果が信じられなかったが、考える間も置かず、ゼロのレーダーが新たな機影を捉えていた。アークエンジェルの進軍する方向の斜め前二十五度から、明らかに速度の違う機体が接近してきている。

 機体の姿はズームでも砂煙でよく見えない、だが、少なくともモビルスーツの歩行速度とは比較にならないほど速い。

 そして、進む方向にいるのは、ラナロウとクレアの機体だった。それに気づくと同時に、エリスの直感が激しく警鐘を鳴らした。

 あの機体は―――まずい。

「間に合って!」

 フェニックスを追うように、フェニックス・ゼロは、まるでハヤブサの如く地面へ向かって急降下していった。

 

   ◇   ◇   ◇ 

 

「接近する機影2……これは、キャリー・ベース搭載機の識別コードです!」

 アークエンジェルブリッジ階下のCICが、フェニックスとフェニックス・ゼロの機影を捉えていた。

「キャリー・ベース……マリアさんたちのところの機体ね!」

「ですが、この機体データはライブラリにありません!」

「構わん、味方には違いない! いいから進行経路と、現在の敵軍の情報を送るんだ! 急げ!」

「は、はい!」

 訝しむCICにナタルは一喝し、ミリアリアが慌ててコンソールを叩き始める。

「シェイド機、ヒースロー機、聞こえるか! こちらでキャリー・ベース搭載機の識別コードを捉えた! まもなくそちらに着くはずだ! それまで持ちこたえられるか?」

『へっ、やっとご到着かよ! あと十分くらいなら、言われなくても持ちこたえてやるぜ!』

『待ちかねました! 同じく、えーと……十、いや十五分、耐えて見せちゃうから!』

 二機のトルネードから、それぞれ答えが返ってくる。いずれにせよ、持ちこたえられる時間はそう残されていなさそうだ。

「艦長!」

「本艦はこのまま、方位角〇〇三五で直進します! 機関第三船速! 対空監視、敵部隊の位置把握は引き続き厳にして!」

「レセップスの位置は?」

「ゴットフリートの射程に入るまで四八〇〇!」

「よし。ミサイル発射管、三番から一〇番にスレッジハマー装填! ミサイルに続いて、バリアント両舷、発射角三〇度!」

「バリアント展開、ミサイル発射管装填!」

「目標、前方ザフト陸上艦! スカイグラスパー、射線に入るなよ!」

『言われなくてもわかってますよっと!』

 ナタルの一言に、ムウは少し苛立ちつつ答えた。

()ぇっ!」

 ナタルの一声と同時に、天使の両翼ともいえるアークエンジェルの両舷に装備された電磁カノン砲バリアントと、エンジンの付け根部分に装備されたミサイル発射管の対艦ミサイル・スレッジハマーが一斉に火を噴く。幾条もの白煙とともに飛翔体がザフト軍に雨あられと降り注いだ。

 あちこちで爆炎と黒煙が次々に上がり、ヘリは墜落し、バリアントが直撃した戦艦の砲台は真っ二つに折れて爆発する。

「ちぃっ!」

 とっさの判断で艦上の足場から飛んだデュエルとバスター。つい今までいた場所に、スレッジハマーが着弾し、大きな炎が上がった。

 だが、着地したそこはゴビ砂漠の砂地。脚部がめり込み、機体はバランスを崩す。

「うぉっ!?」

 足元がぐらつき、ビームライフルの照準が定まらないデュエルに、地上のゲリラ軍と空中のスカイグラスパーから火線が降り注ぐ。

 フェイズシフト装甲の前にはかすり傷以下の攻撃だったが、今までより明らかに早く、コンソールに表示されたフェイズシフトのエネルギー残量が減ってゆく。

「こいつら!」

「おっと!」

 イザークは苦し紛れにスカイグラスパーを撃ち落とそうとビームライフルを放つが、砂地、熱対流、大気という砂漠という場所が持つありとあらゆる自然界の脅威が、それを許さない。

「スレッジハマー、敵ビートリー級に命中! 火砲使用不能の模様! 炎上しています!」

「艦長!」

「機関最大! 左翼の穴に突っ込む!」

 目論見はうまくいき、アークエンジェルは敵部隊の一翼に穴をあけることに成功した。しからば、後はその穴を全力でこじ開けて突破するのみだ。

「ラナロウ機、クレア機、聞こえるか! 敵の陣形が崩れた、本艦は方位角二十五度で進路をとり、敵陣を突破する! 遅れるなよ!」

『オーケイ、砂漠で野垂れ死には御免だぜ!』

『やった! 退却退却~!』

 それぞれのトルネードガンダムから、疲れと安堵の混じった通信が返ってきたのとほぼ同時に、CICが叫んだ。

「待ってください、レーダーに新たな機影……ブルー4アルファ……速い!」

「気をつけろ、後ろから来るぞ!」

 付いてくる二機にナタルが叫んだ瞬間、砂煙を突き破って二発のビームが飛んできた。その一条がアークエンジェルの艦底をかすめ、艦に衝撃が走る。

「っ、ビームですって!? 新型!?」

「ライブラリに該当……ありません!」

 CICの焦った声が警報音とともに響いている。

 

 そして、その方角から砂煙が晴れるとともに姿を現したのは、バクゥに似たシルエットを持つ、しかしバクゥとは明らかに別種の機体だった。

 ボディはオレンジに黄色のワンポイントが入った鮮やかなカラーリングで、バクゥからやや鋭さを増したデザインだ。背には明らかにバクゥとは異なる材質で作られた二門の砲が載せられている。そして、頭部には、バクゥとは明らかに異なる白いアンテナブレードがあった。

 ラナロウとクレアは、その機体を見て指揮官機であることを見抜き、直感した。

 

 あれは―――虎だ。

 

 そして、同時に戦慄する。

 虎が、狩りに出てきたのだと。

 

「さてと、相手してもらおうか、奇妙なモビルスーツたち!」

 その機体、ラゴゥのコクピットで、アンドリュー・バルトフェルドは高揚した笑みを浮かべる。その瞳は、獲物を前にした獣のような眼光を湛えていた。

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