機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

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Ⅷ.世界の呪縛

「へっ、ようやくお出ましか、砂漠の虎さんよぉ!」

 戦慄と同時に、ラナロウは高揚感を抑えきれずに叫んだ。その声に、バルトフェルドはあくまでも冷静に返す。

「君たちがどれほど我々を損耗させようが、止まるわけにはいかんよ! 足つきと、その中に後生大事に抱え込んでいる、新型を倒すまではな!」

 ラゴゥの頭部から、まるで猛獣の牙のようにビームサーベルが伸び、同時に猛獣が襲い掛かるかのごとく突進してきた。

「うぉっ!?」

 ラナロウは不意を突かれ、とっさにビームサーベルで受け流す。今まで出てきたバクゥとは違い、近接戦にも長けた機体であることを直感し、同時に一筋縄ではいかないことを察する。

「ラナロウ!? あっ!」

 クレアは援護に入ろうとするが、残っているバクゥがそれを邪魔し、動きを止められる。

「戦力は確実に消耗させてるはずだぜ!なんなんだアンタは!」

 苛立ちと焦りを、ラナロウは目の前の通信機に吐き出す。

「戦力の消耗はお互い様だ。だが、目的を達するまでは終わるわけにはいかんのでね。ここで潰させてもらうぞ、アークエンジェル!」

 バルトフェルドのその答えには、損害など気にも留めず、例え部隊を壊滅させてでも、目的を達成するという意志が宿っていた。

 それはまさしく野獣。獲物を確実に仕留めるという、執念と殺意そのものであった。

「くそったれが!」

 二機の激しい鍔迫り合いが続く。

 何としてもアークエンジェルをここで墜とす強い意志が背後に透けて見えるようだった。

 ゆえに、一見互角の戦いではあったが、執念の差か、はたまた性能差か、少しずつトルネードガンダムは追い詰められていく。左腕のガトリングの弾が底をつき、ビームライフルの予備エネルギーパックも残りひとつ。機体の推進剤は残り半分を切ろうかというところだった。

 それでも、ラゴゥの大回りな動きの隙を見出し、そこにビームライフルを叩きこもうとした刹那、コクピットに警報音が鳴る。

 ラナロウが警報の示す方角に視線をやった先には、青い機体。

 あとワンステップで届こうかという距離まで、グフが接近していた。ラゴゥに気を取られ、戦闘の砂煙に紛れて接近を許してしまったのだ。

 そして、グフにはもう一つ利点がある。

「なに―――!」

 ラナロウが防御の姿勢を取る間もなく、グフの右腕から長いものが伸びる。隠し武器であり、同時にサーベル型の近接武器よりリーチの長いヒートロッドだ。たとえサーベルでは届かずとも、ヒートロッドは相手の近接武器の範囲の外から、一手先に攻撃できる。 

「遅いな」

 ラルのその言葉とともに振り下ろされたヒートロッドが、トルネードガンダムのビームライフルを勢いのまま真っ二つに叩き割り、一拍ののちそれが爆発する。

「ちぃい!」

 トルネードの右腕のガトリングが反撃の火を噴く。しかし、グフはまるで空中ステップでもするかのように機体を捻り、それをやすやすと回避して見せた。そして、その回避行動が終わった時、今度はグフの左手、五連装七五ミリバルカンの銃口がトルネードに向けられていた。

「遅いと言っているのだよ!」

 五門のバルカンが一斉に発射され、トルネードの右腕ごとガトリングが小爆発を起こし、使い物にならなくなってしまった。

「ぐぅう!」

 そして、バランスを崩したトルネードの隙を見逃すグフではない。先に握られていたヒートソードが、がら空きのトルネードの胴体めがけて振り下ろされ―――たが、その刃がトルネードに届く前に、横から突っ込んできた何かが、グフを力ずくで弾き飛ばしていた。

「……へっ、待たせやがってよ」

 ラナロウはそれを見てほくそ笑んだ。

 二機の間に割って入った、白と赤の機体。フェニックスガンダムが、今度は狩る側―――鷹のような目つきで、グフを見据えていた。

 マークはコクピットで、不敵な笑みを浮かべて言う。

「今度はこちらの相手もして貰おうか!」

「む……!」

 その機体を目にした時、ラルの頭が奇妙に痛んだ。思わず頭を押さえたが、先ほどの衝撃で頭部を怪我した訳では無かった。血も流れていない。

 だが、この言葉にならない既視感と恐怖は何だというのだろうか。まるで、目の前にいるその機体が、運命にしたがい()()()()()()()()()()のようにさえ感じられた。

「時間がないんでね、とっとと墜とさせてもらうぜ!」

 言うが早いか、フェニックスはグフに向かって斬りかかっていた。感じていた恐怖に縛られていたラルは、その動きにとっさに反応できなかった。

「やらせはせんよ!」

 だが、寸でのところで一撃を止めさせたのはラゴゥだった。危うくラゴゥのビーム砲の直撃を食らいそうになったフェニックスは、どうにか体勢を立て直す。

「ええい!」

 マークは苛立つが、さらにその間に割って入る機体があった。

 フェニックスと同じシルエットをした、水色の機体。

「エリス! もーぉ、待たせてくれちゃって!」

 フェニックス・ゼロの姿を見て、クレアは思わず目を輝かせて叫んだ。

「クレア、ラナロウ、二人とも無事ね!」

「ああ、おかげさまでな。……と言っても、首の皮一枚だけだけどな。機体はもうボロボロだ」

 ラナロウの声には疲れが見えてこそいたが、軽口を叩ける程度にはまだ余裕があることはエリスにも察せた。

「今度は私たちが相手をするわ! 二人は、早くアークエンジェルに戻って!」

「えっ、でも……!」

「いいから! 今は全員揃って、キャリー・ベースと合流することを優先するのよ!」

「わ、わかった! 行くよラナロウ!」

 半壊状態のトルネード01の手を引くように、クレアの02が飛び立つ。

「今度の相手は君たちかね?」

 バルトフェルドは、次々と新手が現れるこの状況でも、なお平静さを失っていなかった。

「砂漠の虎、貴方は……!」

 エリスの眼が、相対するラゴゥを睨みつけた。その眼には、嘆きと悲しみとが綯交ぜになった静かな怒りが燃えていた。たちまち、ラゴゥとフェニックス・ゼロの鍔迫り合いが始まる。

「貴方はまだ、この消耗戦を続けるつもり!?」

「ナンセンスな質問だな。決まっているだろう、目的を達するまでそうするとも。他に何がある?」

「そんな……仮にも指揮官である貴方が、無駄に犠牲を増やすようなこと……!」

「犠牲など最初から承知の上だ。そもそも、戦争で、犠牲などと悠長なことを言う意味があるのかね?」

「そんなこと!」

 エリスは詰め寄るが、バルトフェルドはあくまでそれが当然であるという姿勢を崩さない。その態度が、ますます彼女の怒りを逆撫でする。

「指揮官なら、人の命を無駄にしないことを考えるべきではないの!?」

 怒りに任せ、フェニックス・ゼロのビームライフルが矢継ぎ早に撃たれるが、ラゴゥは機動力で回避し続ける。

「随分とこの戦争を甘く見ているものだね、君は」

「……えっ?」

 バルトフェルドの声色がわずかに変わる。そこに篭った、殺意よりもおぞましい何かを感じ、エリスは一瞬身震いした。

「これは戦争だよ。人の命などというものを、いちいち考えている余裕があるかね?」

「くっ……!」

 エリスを翻弄しながら、バルトフェルドはビーム砲の照準を定めていた。そして、彼は言い放つ。

「戦争に明確な終わりのルールなどありはせんよ。今からそれを教えよう!」

 まるで咆哮を挙げたかのような動きが見えた次の瞬間、ラゴゥは獲物へと飛びかかった。

 

   ◇   ◇   ◇

 

「ええい、こいつら、しぶとい!」

 二機のガンダムの進路を徹底して妨害し続ける二機のゲルググ。競り合いはもはやどちらのエネルギーが先に尽きるかの持久戦に突入していた。

 そして、状況は反対側も同じであった。

「ゲルググがパワー負けしてる! どんな機体なんだこいつら! これだけやりあっても、まだ動けるなんて尋常じゃないぜ!」

 ジョニーの焦りと苛立ちは募るばかりであった。

 もとより、相手はガンダムだ。おいそれと簡単に墜とさせてくれる相手ではないことは最初から承知の上だったが、相手が限界を迎えるより先に自分たちの限界が訪れそうな事態になっていることが、こと更に彼を焦らせていた。

「これじゃ、メインエンジンが先にダウンしちまう!」

「どうするのだ? このまま、ファーストチームとの合流を優先するか?」

 マツナガが聞く。平静を装っていたが、その声には同じく疲れの色が滲み始めていた。ジョニーは手元のコンソールで機体の状態を確認する。

「ビームライフルの残量も少ない、スラスター燃料は残り四十三パーセント……となりゃ、後はそれしか手段がないが……!」

「左だ!」

「っ、ちぃっ!」

 マツナガの声で、反射的に防御態勢を取ったジョニーは、あわやというところでイージスのビームサーベルをシールドで受け止めることに成功する。だが、息つく間もなく、ブリッツがその後ろから急襲してきた。

「うわっ!?」

 今度は操縦桿を全力で引き、機体を後退させ何とか致命的な損傷は避けられたが、シールドは上から三分の二がブリッツのビームサーベルによって斜めに切り裂かれ、もはや防御装備の体をなさなくなった。

「よし!」

 二コルは小さくガッツポーズする。

「畜生、行くしかなさそうだな!」

「そのようだ、急ぐぞ!」

 もはや防戦では此方が不利と悟った二人は、フライターの全スラスターを全開にし、機体が大揺れになるのも構わずアークエンジェルめがけて猛スピードで後退を始める。

「なんだ!? 後退か?」

 アスランはいっそ鮮やかなまでの転進に呆気にとられてしまう。しかし、二コルはその真意をすぐさま悟った。

「あの方角……そうか! あの敵は足付きの援軍だったんですね!」

「なっ!? なぜそう言える!」

「彼らの向かっている方角です!」

「……アフリカ北東方面! 確か、足付きを今追撃しているのは……!」

「ええ、レセップスのバルトフェルド隊です!」

「くそっ、手負いとはいえ、あれと合流されたら……!」

「いえ、あちらにはイザークとディアッカがいます! こちらも合流して、僕たちとレセップスの戦力とでかかれば、何とかなるはずです!」

「そうか! その手があった!」

 言うが早いか、追いかけるように二機のガンダムは追走を始める。アスランは誰にも聞こえないような声でつぶやいた。

 

「キラ……お前もそこにいるんだな……!」

 

 つい先日、まさに今乗っている試作モビルスーツ、イージスを奪取するため潜入したコロニーで、居合わせた敵の軍人の中に、民間人であるはずのその少年、かつて親友だったキラがいた。

 身なりは民間人のそれだったが、偶然でもそうでなくとも、あのとき自分は確かに親友に向けてナイフの刃を向けていた。

 その事実をもって、あの日あの瞬間、二人の間にあった親友という二文字は、敵という一文字に変わってしまったのだ。

 

 結果的に、モビルスーツの奪取には成功したし、あれ以来幾度か交戦もし、そのたびにプラントに戻るよう説得をもした。

 だがそれでも、結局キラは逡巡しつつ首を決して縦に振らなかった。

 

 もはや、戦うしか道は残されていないのだと、半分諦めもしている。だが、最後に交わした言葉は、なぜかアスランの脳裏に残り続けていた。

 

 ―――あの艦には仲間が、友達が、守りたいものがいる。

 それを聞いた直後、戦場でその意味を考える暇などなく、アスランはキラに言い放っていた。

「次に会うときは、俺がお前を討つ……!」

 そして、それに対する彼の返答。

 

 ―――僕もだ。

 

 

 

「……ラン、アスラン? 何か言いましたか?」

 通信がかすかに聞こえてしまったのか、二コルの心配する声がアスランの意識を引き戻した。

「ああ、いや……何でもない」

「大丈夫ですか? ヘリオポリスの作戦が終わってから、浮かない顔が多いと思っていましたが……」

「……すまない、そうかもしれないな」

 自分でも人づきあいが上手い方ではないという自覚は、アスランにもあった。時々、悩みが顔に出ていると言われることもある。

「何か、気にかかることでも?」

「ああ、まあ……」

 言ってしまうべきか、アスランは悩んだ。ここで言ってしまうのは簡単だろう。士官学校時代の幼馴染など、いない方がおかしいくらい有り触れている。ただの思い出話で片づけてしまえば済む話である。

 それに、二コルは隊の中でもひときわ思慮深く、他人の機微には聡い。そんな彼がイザークやディアッカに口外するとも思えなかった。

 

 アスランの口が何かを言おうとしかけた、その時だった。

「あっ、待ってください、九時方向に未確認熱源1……大きいです!」

 遮るように二コルが叫んだ。同時に、イージスのセンサーも同じ熱源を感知する。

「なんだ!? この熱量は……戦艦か?」

 イージスのメインカメラが、その熱源の正体を捉える。距離が離れていてまだ画像は粗かったが、モビルスーツより明らかに大きな物体で、茶色とベージュの塗装を纏っていることだけは認識できた。

 ブリッツも同じものを見ていたが、二コルは明らかに動揺していた。

「戦艦? でも、地球軍に、大気圏を飛行可能な戦艦がまだあるなんて、そんな情報どこにも……!」

「ライブラリに該当がない……地球軍でもザフトでもないぞ! 一体どこの艦だ、あれは?」

 何もかもが見たこともない艦だった。形状はザフトの宇宙戦艦に似ていたが、角型を基調としたフォルムは地球連合に近い。しかし、砂漠用でもないのに茶色を基調としたカラーリングの艦など、二人は聞いたことも見たこともなかった。

「……偶然、にしては少しできすぎている感じもしますね。」

「ああ……とにかく、まずイザークとディアッカに合流する!」

 出かかった言葉を飲み込んで、アスランはイージスのスラスターを踏み込んだ。

 

   ◇   ◇   ◇

 

「レセップス、艦砲の有効射程に捉えました!」

「よし! モビルスーツ隊、聞こえるな? ファーストチームの収容とレセップスの無力化、猶予は15分といったところだが……できるか?」

『簡単ではありませんが、やります』

 艦長席からのゼノンの通信に、マリアはそう答えた。

『まったく、人使いが荒い艦長様ですこと……』

『フローレンスさんったら、もう……』

 周りを気にもせず愚痴をこぼすキリシマと、それを苦笑しながらたしなめるエターナ。

「空間歪曲率は?」

「通常空間座標との相転移率六十八パーセント。理論値の限界予想まで、あと〇〇二四です」

「可能性は五分、か……余裕はないな……モビルスーツ隊、発進だ!」

 ルナの報告を聞いたゼノンは、躊躇いなく命令する。

「発進許可! 進路クリア―、セカンドチーム、発進を許可します。」

『了解、マリア・オーエンス、発進します!』

 

 

 一方のマークは、青い機体、グフとの激しい格闘戦を繰り広げていた。

「くそっ、いい加減に!」

 マークは苛立っていた。機体の性能では此方が上回っているはずだ。が、向こうはそれを承知の上でか、あえて攻めの手を緩め、動きの隙を狙って的確に反撃を返してくるのだ。

「墜ちろ!」

「むっ!」

 ビームライフルの一撃は、またしても空振りに終わる。

「動きが鈍ってきているぞ? モビルスーツの性能はよくても、パイロットが未熟ではな!」

 モビルスーツの動きは目で追えている。戦況もこちらが優勢だった。しかし、全身の見えない弱点を少しずつ突かれ、いつの間にか相手に優位を奪われていたのだ。

「機体の性能頼みではな!」

 ヒートロッドが、フェニックスの左手のビームライフルをもぎ取ると同時に破壊する。

「ぐっ!?」

「その程度か! ()()()()!」

 続けざまに振り下ろされたヒートソードの一撃は、まっすぐコクピットの胴体ブロックを狙っていた。

「墜ちるのだな!」

 とっさに爆発の防御姿勢を取っていたフェニックスに、その攻撃を回避する間は残っていなかった。

 マークが気付くのと、斬撃がコクピットの眼前まで迫るのは同時だった。機体を動かそうとしても間に合わない。そのまま斬撃が命中する、かと思われた時だった。

 コンソールに突如としてノイズにまみれた途切れ途切れの文字が浮かび上がる。それと同時に、フェニックスの機体は、誰も気が付かないような動きで、しかし僅かに後ろに動き、急所を確実に突いていたはずのヒートソードの切っ先は、代わりにフェニックスの左腕を切り落としていた。

「なんと!」

 確実にコクピットを切り裂いたと思っていたラルは思わず叫んだ。

「ちくしょう!」

「マーク!」

 機体が勝手に動いたことに気づかないまま、マークは後ろにスラスターを吹かす。窮地に気づいたエリスがビームライフルを撃つが、これまた上半身の動きだけで躱され、空しく砂煙が上がるだけに終わった。

「砂漠ではビームで致命傷を与えるにはパワーが必要なのだよ。そろそろエネルギーが心許ないのではないかね?」

「……っ!」

 そこにバルトフェルドのラゴゥが合流した。バルトフェルドの言葉は、エリスの焦りを見透かしているかのように余裕を含んだものだった。

 二対二の状況になり、これまでにない緊張感が走る。

 

 どちらが先に動くか。戦場を忘れるような静寂にも似た緊張が四機の間に漂った。

 

「マーク、そっちは……」

 エリスは小声でフェニックスのマークに呼びかける。

「エネルギーはそんなに持たねえ……せいぜい、あと十分ちょっとってとこだな」

「……キャリー・ベースがもう少しで有効射程距離に入るわ。フルパワーでいいから、五分は持たせて。四本足は、私が相手するわ」

「へっ、上等だぜっ!」

 言うが早いか、マークはもう一本のビームサーベルを取り出し、グフに向かって斬りかかる。

「悪いが、もうちょっとだけ付き合ってもらうぜ、青いモビルスーツ!」

「ほう、まだやる気かね?」

「貴方の相手は私よ! 余所見をしないで!」

 サイドウイングに懸架していたもう一つのビームライフルを左手に持ち替え、フェニックス・ゼロから二条のビームがラゴゥに飛んだ。

「焦っているようだね、奇妙なモビルスーツ?」

「時間がないのはお互い様よ! 私は命を無駄にさせないためにこうしているだけ!」

「ふむ、心がけは殊勝だが、情けは通じんよ。少なくとも、今ここではな!」

「何を!」

 二人の意地が舌戦となってビームサーベルに乗り、そしてぶつかり合う。

「このまま続けたって消耗戦になるだけよ! 無駄な犠牲が出る前に、撤退しなさい!」

「言ったろう、戦争に明確な終わりのルールなどないと!」

「そんなこと!」

 互いに躱しては撃ち、それを躱しては斬りかかる。その攻防が数限りなく繰り返されていく。

「では、こちらも聞こう。この戦争はどこで終わりにすればいいのかね?」

「……何ですって?」

「君は何故戦争が起こるか、考えたことがあるかね?」

 諦観とも怒りともとれる、静かなバルトフェルドの問いかけ。それにエリスは戸惑う。

「命がどうという君の言い分は正しい。だがね、この世界には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないかね?」

「指揮官が……沢山の命を預かる貴方が、そんなエゴを!」

 フェニックス・ゼロのビームサーベルが、ラゴゥの右前足を落とす。だが、ラゴゥはそれをまるで意に介さぬように、砂の上を走り続ける。

「エゴと笑うかね? だが、我々コーディネーターの怒りは、善悪だけで計れるほど簡単なものではないのだ!」

 お返しとばかり、ラゴゥのビームサーベルが、フェニックス・ゼロのウイングバインダーの一枚を半分斬り落とす。

 不死鳥と虎、まさに獣同士の戦い。互いの角を折り、羽毛をむしり、肉を食いちぎるような戦闘が繰り広げられていた。

「そうだとも! この戦争は人のエゴで始まり、我々はエゴで戦っている!」

「そんなことじゃ、永遠に戦いは終わらないわ! どうして、そんなに軽々しく、命を奪う理由を作れるの!」

「それを証明したのはナチュラルの方だよ。我々は、ナチュラルのエゴによって生まれ、ナチュラルのエゴによって宇宙に追いやられ、ナチュラルのエゴによって核の炎に消えた!」

「なっ……!」

 エリスの脳裏に、キャリー・ベースでされた説明の一端が蘇る。

 

 血のバレンタイン。

 ザフトが本拠地とする国家コロニー群・PLANT。コズミック・イラ七〇・二月十一日。以前からのナチュラルとコーディネーター間の対立が深まり、この日、いよいよ地球からPLANTへの宣戦布告がなされ、両者間の戦争に発展した。

 だがそのわずか三日後の二月十四日。PLANTコロニーうちのひとつ、ユニウスセブンが、核ミサイルにより閃光とともに宇宙の闇に消えた。二十四万人余りのコーディネーターとともに。

 

 種族間の対立から始まり、核という禁忌による虐殺を経て、終わりの見えない戦争が続く。それがコズミック・イラという世界。

 そこまで聞いただけならば、エリスも心傷みはすれど、それ以外の感覚を抱くことはなかっただろう。

 だが、この世界には、それだけでは片づけられない―――正義だけでは語れない何かが潜んでいることを、エリスは直感し、同時に手先が震えた。

 

「貴方は……貴方の戦う理由は……」

「いや、私にそこまで深い理由はないさ。何かが敵となり、そこにその敵がいる、ただそれだけの事だ!」

「くぅっ!」

 エリスの動揺はなおも止まることはない。そして、それすら見透かしたかのごとく、とどめの一言をバルトフェルドは放つ。

 

「そうだ、だからこそ終わらんよ―――互いに敵である限り、どちらかが滅びるまでな!」

 ラゴゥは咆哮したかの如く、フェニックス・ゼロめがけて迫る。

 

 二つの種の間の埋めることのできない差。それでも、人という種が持ちうる知能ならそれを、平和の下に解決できると、エリスは信じていた。

 だが、この戦争は違う。

 (ナチュラル)は、自らの子を万能という頂により近づけるため(コーディネーター)を産み、優越という自己陶酔に浸った。

 だが、いつしか子は親を必要とせずに生きるようになる。

 ―――それは、字面だけ見れば自然の摂理で済む話だ。しかし、万能に近い種が子供を産めば、その子供はさらなる万能、完全無欠という高みへ近づくことになる。

 そして、(コーディネーター)がいつか親にとって代わり、決して追いつけない高みへと登り詰めたとき、自分たちは必要とされなくなるどころか、無駄な存在として駆逐される側に回るかもしれない。

 そうして人々は気づく。自らが生み出した(コーディネーター)は、人の頂を目指すものではない。やがてそれは(ナチュラル)に牙を剥き、自分たちの存在意義を奪い、駆逐するものなのだと。

 その瞬間、(ナチュラル)の愛は、叛逆に対する嫉妬に変わり、やがては叛逆への恐怖、そして逆恨みに等しい怨嗟にまで成り果てたのだ。

 コーディネーターという種の存続を許せば、我々ナチュラルは、やがて虫のように、いや、それ以下の塵にも等しい無価値な存在に成り下がる。

 ならば、そうなる前に駆除(ぜつめつ)させるしか、道は残されていない。

 

 この世界の裏に隠れた、人が作り出した越えられぬ壁に対する人の怨恨という、単純にして深すぎる闇を垣間見たような気がして、エリスは身体の底が凍るような感覚がした。

「……それでも!」

 だが、彼女の身体は、なおも機体を動かす。

 正義か悪かはこの際関係ない、少なくとも、誰かの命を奪う事は良くないこと、というのは間違っていない。そう自分に言い聞かせるかのように、エリスは操縦桿を強く握りしめた。

「それは、今ここで、命の奪い合いをしていい理由にはならない!」

 向かってくるラゴゥに、フェニックス・ゼロはビームサーベルを構える。

 

 だが、その刃が交錯することはなかった。

 刹那、一条のビームが、ラゴゥの胴体をまっすぐに貫いていたからだ。

 

 ビームの放たれた方向、飛来してくるのは二機のモビルスーツ。

 その先頭にいた真紅の機体。ジョニー・ライデンが放った、ビームライフルの一発が、砂漠の虎の心臓を撃ち抜いていた。

 

 一瞬、時が止まったかのような沈黙。直後、ラゴゥは力を失ってへたり込むように砂に崩れ落ち、閃光とともに爆散した。

 虎の唸るような、砂漠を走る無限軌道の重々しい轟音は、それきり聞こえなくなった。

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