機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

5 / 10
II.醒めぬ剣

「ようこそ、『明けの砂漠』へ。サイーブ・アシュマンだ」

「ジョニー・ライデンだ。しばらくの間、世話になるぜ」

「同じくシン・マツナガだ。彼ともども、暫しの間よろしく頼む」

 

 ゲリラの基地に到着したジョニーとマツナガを出迎えたのは、サイーブと名乗る壮年の男だった。角ばった顔に深いひげをたくわえ、頬には深い傷跡が残っている。

 

「早速で悪いが、情報を交換したい、サイーブ殿。今の状況を教えてはもらえまいか」

「ああ、元からそのつもりだ。地球軍もザフトも気に食わん連中ばかりだが、あんたたちになら教えてやってもいい」

「なに?」

 サイーブの含みのある発言に、思わずジョニーは握手しようと出した手を止めてしまった。

「正規の軍はだめで、俺たちならいいってのかい?」

 ジョニーやマツナガも、ニキから説明を受けただけではあるが、この時代のおおよその対立の構図は知っていた。すなわち、地球を至上とするナチュラルによる地球連合軍と、宇宙で独立をもくろむ遺伝子操作による新人類コーディネーターを擁するプラントの独立部隊ザフトである。

 普通に考えれば、ここは地球軍の領地であり、地球軍によって砂漠の虎すなわちザフトに対しては防衛を行っているように思うものだ。

「ああ、このアフリカは、もともとどちらかといえばザフト寄りでな」

「そうなのか?」

「まあ、だからってザフトに与した方が得なんて大っぴらには言えねえし、言ったら言ったで地球軍からは目の敵にされちまう。最終的には服従か鎮圧か、どっちに進んでもいいことはないがな」

「…………」

「つい2日半前に、ビクトリア宇宙港がザフトに落とされたばかりだ。地球軍の奴ら、奪還作戦をするのかと思ったら、早々にアフリカを見捨ててトンズラしちまった」

「……なるほどな、あちらさんからすれば、あんたらは別になくても困らない程度のものって訳か」

「おそらくはな。あれからの地球軍の動きといえば、同じ日に宇宙から落っこちてきた、あの新型の戦闘艦ぐらいだ」

「っと、それだ、俺たちが知りたいのは」

「ん? あのアークエンジェルって艦の情報もか? なんでだ?」

「詳しいことはこれから話すが、取り敢えずはあちらにも我々の味方が向かっているのだよ。故に、不測の事態にだけはならぬように、な」

 一瞬なんと言ったものかジョニーは答えに窮しかけたが、マツナガがあらかじめ答えを用意していたと見えて、横からフォローを入れた。ジョニーは表情に出さなかったが、内心ほっとしていた。

「なるほどな、だいたい理解できたぜ、あんたらがどういう組織かってのは。だったらなおさら教えてやらなくちゃあな」

「……すまねえな、恩に着るぜ」

「礼をするのは俺たちの方だ。俺たちからすりゃザフトも地球軍も、支配と略奪ばかりで同じにしか見えねえからな。情報の対価だけで心強い援軍が得られるんなら、あるだけいくらでもくれてやるさ」

「感謝する。そこでだが、まずその艦には戦力と呼ばれるものはあるのか?」

 マツナガはさっそく話題を切り出す。

「戦力というか、あの艦自体が最新技術の塊と聞いているぞ。少なくとも、性能だけならザフトの艦を上回っているって話だ」

「少なくとも、というのは?」

「俺たちにも判断しかねるのさ。2日前、あの艦が降りてくる直前に、軌道上で戦闘が発生してな。護衛していた艦隊は全滅したが、あの艦だけは地上に降りてきたってわけだ。最新鋭の戦艦なら何とでもなりそうなもんなんだが……」

「ふむ……」

 そこまで聞いたとき、マツナガはわずかに引っ掛かりを覚える。そしてそれは横のジョニーも一緒だったようで、マツナガと同じ顔をしていた。

「貴官も引っかかるか?」

「ああ、同じくな。言葉にできねえが、どこかでそんな話を聞いたことがあるような気がするんだ」

 もどかしい顔をしながら、ジョニーは頭をかいた。二人は、全く知らない世界の話であるはずなのに、何か得体のしれない既視感のようなものを覚えていたのだ。

「まあ、心配はいらねえ。実態はそのうち明らかになるだろうさ」

「なんだって?」

 

「このまま、砂漠の虎が黙っているわけがねえ、ってことだ。俺の勘が正しけりゃ、「虎」は数日以内にあの艦に攻撃を仕掛けるだろう」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「見えた……あれが、アークエンジェル……」

 

 同じころ、マリア・オーエンス率いるセカンドチームは、その艦、アークエンジェルへ接触するため移動していた。

 彼女らの目に飛び込んできたのは、全身を白亜に染め、前にせり出した対のカタパルトデッキと、天使の羽のごとき尾翼を兼ね備えた、見たことのないような美しい戦艦であった。

 しかし、その姿に見惚れる間もなく、エターナとキリシマは妙な胸騒ぎを覚えていた。

「噂に違わず、美しい艦ですこと。とはいえ、妙に嫌な予感がするのは何故なんですの……?」

「……私も同意見です、キリシマさん」

 二人には、なぜかこの艦が、この世界の何かをおかしくさせている、という直感のような感覚があったのだ。しかし、それが何を根拠にそう思えるか、二人は言葉では言い表すことができなかった。

「艦からの許可がありました。皆さん、カタパルトデッキへの着艦準備を」

 アークエンジェルからの許可を受け取ったマリアが、無線で全員にそのことを知らせた。光学センサーが誘導ビーコンを受信し、自動で機体を着地姿勢にさせる。右側のカタパルトデッキの扉がゆっくりと上昇し、中で整備員が誘導灯を振っているのが目に入ってきた。

 

「…………」

 

 キャリー・ベースより三割は広いカタパルトデッキに足をつける。最初は敵対する勢力のモビルスーツでうまく接触できるかと誰もが心配していたものの、フタを開けてみればここまですんなり進んだことは意外だった。

 

 機体はコクピットハッチを開くと同時に、オートで腕部マニピュレーターを作動させ、パイロットをその掌に載せて地上へ下す。しかし、安堵を遮る金属音……銃を構える音が格納庫に響いたのは、四人がモビルスーツから降りた直後のことだった。

 

「動くな!!」

 

 女性の士官がふたり、銃を構えて四人を見据えていた。その後ろにメンテナンスクルーと思しき男たちが数人。叫び声が耳に入ったと同時に、四人は戦士としての条件反射で手を上げる。

「セカンドチーム、というのは、あなたたちのこと?」

 質問を投げかけてきたのはもう一人の女性士官だった。背は低かったが、少々ウェーブがかかった柔らかな栗色の長髪で、見た目は物腰の優しそうな人物にも見えた。

「ええ、そうです。マリア・オーエンスです」

「同じく、フローレンス・キリシマと申します。貴女方は、私どものことをご存じなのではありませんこと? 来て早々、銃を向けられるのは少々心外ですわ」

「……地球に降下できた直後に、匿名で通信があったのだ。補充戦力が到着するから、迎え入れろとな」

 最初に叫んできた女性士官が答える。細く吊り上がった目に、黒髪をショートに切りそろえ、隣の女性より少し背が高かった。いかにも軍人向きという出で立ちではある。

「我々にとって戦力の補充はありがたいが、まさかその補充がジンとは予想外だったからな。念のためこうしているまでだ」

 確かにもっともではあった。むしろうまく行き過ぎたというべきか。敵として嫌ほど見た機体が自分たちの艦に乗り込んでくるというのだから、恐ろしいことではある。

「……確かに、地球軍はまだモビルスーツの開発には至っていませんでしたわね。戦力として運用するならば、敵側のモビルスーツでも、喉から手が出るほど欲しがっていらっしゃると思っていたのですが」

「そうだな。だが、ザフトの勢力圏内で、ザフトのモビルスーツにも縋り付くほど、我々も見境がないわけではない。当然の予防策を取ったまでのことだ」

「冷静に考えてみれば、浅慮でしたわ……とにかく、銃を下ろしてくださいませんこと? これではまともに話もできないではありませんの」

「なら、まずはこちらも確かめたいことがある。艦長室まで同行願いたい」

「…………」

 マリアが三人に無言で目線を送り、三人もそれに頷く。格納庫の四方八方から好奇と恐怖と疑惑の混じった目線を向けられているのがわかったが、四人ともそれにはあえて気づかないふりをしたまま、二人の女性に付いて行くことにした。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 結論から言うと、サイーブという男の勘は的中した。「明けの砂漠」と合流してから半日も経たないうちに、ザフト軍に動きがあったのだ。

 

 戦力は砂漠対応の地上戦艦3隻と、四足歩行型モビルスーツ『バクゥ』が少なくとも6機、更に砲撃型支援モビルスーツ『ザウート』が数機である。数でいえばそれほどの規模ではなかったが、何より砂漠戦に特化した機動兵器ぞろいの部隊だった。

 

 そして、さらに悪いことには、その部隊の向かうであろう先はアークエンジェルの降下地点。彼らはまだ知らぬことではあったが、迎撃できる機動兵器を持たない、今まさに丸腰の大天使を狙って、砂漠の獣の群れが、一斉に襲いかかろうとしているのであった。

 

「明けの砂漠」はすぐさま行動を開始した。地対空ミサイルを装備した砂漠用のジープを中心に、ロケットランチャーや対戦車用地雷など、考えうる限りの対機動兵器用武装を手に、アークエンジェル防衛のため飛び出していった。

 そして、ジョニーとマツナガの二人も、モビルスーツを駆りそれに同行する。

 宇宙という場所で生まれた戦艦にとれば未知の領域であるし、砂漠というのは足場の不安定さや地面から発せられる熱対流が、機体のパラメータを容赦なく狂わせる場所である。ゆえに汎用機にとれば不得手な環境であり、事実、二人は昼間との外気温の違いから生ずる環境パラメーターの違いに戸惑うしかなかった。

「右足関節のアポジモーターの動きが硬い……潤滑油が冷えちまってるぜ」

「こちらも、左足のスラスターの出力が安定せん……やはり、コロニー内の戦闘とは些か以上に勝手が違うようだな」

 温暖なコロニーから寒暖の差が激しい地球圏環境、それも寒暖差と砂埃が絶え間なく襲ってくる砂漠という環境下へいきなり放り出され、二人のモビルスーツは、当然のごとく駆体の節々から悲鳴を上げ始めたのである。

 

「予測ではもうすぐ件の艦がザフト軍と会敵する時間だな。もう片方のスラスター推力を絞ってバランスを取るしかなさそうだが、これで間に合うかどうか……」

 マツナガは無事なもう片方の足のスラスター推力を弱めて推進剤のバランスをとることにし、コンソールをたたいて出力を絞る。

「精々、その艦の直擁機がそれまで持ち堪えてくれることを祈るしかないな」

 

『大丈夫だ、あの艦も、搭載されているモビルスーツも、そんなにヤワじゃないぞ』

 

「なに?」

 通信に割り込んできたのは女の声。二人の足元を付いてくる車のレジスタンスメンバーからのものだった。声の主は、先頭を走る車の助手席、金髪のショートヘアに吊り目の鋭い顔つきをした少女。その名をカガリ・ユラといった。

「お前さん、そのアークエンジェル……といったか、そこのモビルスーツを見たことがあるのか?」

『ああ、少し前にロールアウトするところを、偶然な』

 ほんの一瞬、少女の声が陰ったが、誰もそれに気づくことはなかった。

「そういえば、我々も機体の情報をまだ聞いていなかったな。問題なければ貴殿の口から教えてはくれまいか?」

『わかった、私も、全ての情報を知っているわけじゃないが、教えてやる』

 

 星が輝く空に、流れ星が一筋、流れて行った。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「改めて、このアークエンジェルの艦長を務めています、マリュー・ラミアスです。手荒な歓迎をして、悪かったわね」

「副長のナタル・バジル―ルだ。先ほどは他のクルーの手前、ああするしかなかった。いきなりの非礼、お詫びしたい」

 

 艦長室に入るなり、二人は打って変わって態度を軟化させた。どうやら、先ほどは格納庫にいた多くのクルーたちを不安にさせないため、あえて強気に出ていたようだ。

「いえ、此方の事情が伝わっていたのなら、それで問題はありませんわ。では―――」

「本日〇〇三〇をもって、マリア・オーエンス、フローレンス・キリシマ、エターナ・フレイル、シェルド・フォーリー、計四名、地球連合軍強襲揚陸艦アークエンジェルへの着任許可を願います」

 四人の敬礼に、向こうも同じ動作を返す。

「許可します。扱いとしてはあくまでも現地協力者だけれど、今の私たちにとっては、正直を言えば戦力はひとりでも多いほうがいいわ」

「……ひとつよろしくて? この艦の直擁機は、私たちの掴んでいる情報通りなら、ザフトの量産機程度、余裕で撃破できるスペックをお持ちだったのではありませんこと?」

「えっ?」

 マリューが目を丸くした。驚きはもっともである。なにせ、彼女から見れば、キリシマはあくまでもいち民間人である。それを、軍の機密たるモビルスーツの情報を掴んでいるとなれば、驚くなという方が無理な話であった。

「……え、ええ、その通りよ。だけど、なぜ貴女がそれを?」

「デュエイン・ハルバートンの伝手で、少し『G』のプロジェクトに協力をさせていただいただけですわ。まあ、正直なことを申し上げれば、いつか交渉材料として使うために念のため握っておいた、というところでございますが」

「……言いたいことはあるが、この際それは置いておこう。機体の性能の話だったな」

 ナタルがそれた話題を戻し、制帽の下から、その切れ長の瞳をのぞかせて言った。

 

「結論から言えば、性能的に勝っているのは事実だ。だが、今の我々には、あの機体のスペックを十全に発揮できるだけのパイロットが居ないのだ」

 

「どういうことです?」

 今度はマリアが疑問符を浮かべたが、ナタルがすぐに付け足した。

「いや、いないというのは違うか……正確には、いるにはいるが、動ける状態にない、と言うべきだな」

 言いながら、ナタルは抱えていた書類の束から、一枚の紙を抜き出し、マリアに手渡した。

「……これは?」

「あの機体……X105ストライクの、パイロットのパーソナルデータだ」

「!」

 その一言で、マリア以外の3人が慌てて同時にその書類を覗き込んだ。

 

 書類には、一人の少年の個人データが事細かに書かれている。

 

 キラ・ヤマト。それが少年の名前であった。

 

 添付された写真の彼はまだ幼さを残した顔立ちであったが、マリューの話によれば、モビルスーツの操縦OSの基礎プログラムを一瞬で構築できるだけの、優れた情報処理能力とプログラミング技能を持つということだった。

 一瞬全員がさらに疑問符を生じさせたが、書類に書かれていたひとつの事実を見て、その疑問は一瞬で氷解した。

 

 普通の人間では成し得ない、短時間でのプログラム構築。

 

 先天的に遺伝子操作で優れた能力を生まれつき持っている人種。

 

 地球連合と対立するプラントの住民であるコーディネイターであるからこそ、彼は常人離れしたそれを可能にしたのだ。

 

 

 そして、マリューの口から告げられたのは、先行き不透明なこの艦の現実。

 

 ザフト軍の追撃からアークエンジェルを守ってきたその少年、キラ・ヤマトが倒れたという事実だった。

 

「いくら彼がコーディネイターと言えど、モビルスーツ単体での大気圏突入は無茶が過ぎたのだろうな。突入自体を無傷で成功させたのはいいが、それからずっと、意識は戻らないままだ」

「他のパイロットを充てようにも、彼が組み上げたOSは高精度過ぎて、ナチュラルが処理できるものじゃないのよ。正直、第八艦隊の犠牲を、ここで無駄にしたくはないのだけど……」

 マリューもナタルも、その表情は重かった。すぐそこにガンダムという最強無比の機体があるにもかかわらず、誰一人としてそれを操縦できる者がいないのである。宝の持ち腐れとは、まさにこのことだった。

 

 

「単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用統合性システム」

 

 コズミック・イラにおいて、このOSを保有する機体こそ、そのシステムの名称の頭文字をとってすなわちガンダムである。モビルスーツ生産を行っているプラントですら、最近になって製造ラインが軌道に乗ったばかりで、地球連合軍ではまだ宇宙用モビルアーマーや戦車が大半というありさまだった。

 そんな中で、地球連合軍が極秘に他国からの技術供与を受けて製造した5機のモビルスーツ。それこそがこの「ガンダム」と呼べるOSを搭載した機体であり、ザフトのモビルスーツよりも数段上の性能を持つ、地球連合軍の切り札となるはずであった。

 しかし、そもモビルスーツの基礎理論すら完成していない地球連合では、機動プログラムの完成度はお粗末というほかなく、モビルスーツを危なっかしく歩行させるのが精一杯。

 数奇な運命の巡りあわせによってその場に居合わせたキラ・ヤマトが倒れたのは、持ち前の能力で十数秒でパラメータを書き換え、漸くザフト製モビルスーツと渡り合えるようになった矢先の出来事だった。乱暴な言い方をすれば、凡人であるナチュラルが、非凡人であるコーディネーターの組み上げたOSで動く機体を操縦するのは、とてつもない訓練量を必要とするレベルだったのである。

 無茶、というレベルをはるかに超え、無理とまで言う方が正しいレベルである。

 

「……そのモビルスーツについては、後で我々のメカニックに見せることはできますか?」

 マリアがふと口を開く。

「手だてがあるというのか?」

「100パーセント、という保証はできませんが。一応それなりにモビルスーツには精通している者ばかりですから、手も足も出ない、とはならないと思います」

 マリアのその一言は、ケイをはじめとしたメカニッククルーを信頼しているからこそ出るものだった。

「……確かに、貴官らの機体をカスタムしたメカニックなら、何かできそうだな……わかった、その点は、整備班に話を通しておこう」

「ありがとうございます。それで、この艦は今からどこへ?」

「北米アラスカ。地球連合軍本部だ。とはいっても、ここからでは最短で五日はかかるところだがな」

「わかりました。私たちの母艦は、トロント上空で待機するように要請しておきますから、後々合流することにしましょう」

「そうね。戦力としては、今後補充の戦闘機は届く予定だけど、モビルスーツは今の地球連合軍には無いものね」

「そちらの機体も、後でアークエンジェルのデータベースに登録をしておくとして、今はまず、今後の作戦を考えなければな」

 ナタルは制帽をかぶり直しながら言った。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「なるほど、モビルスーツ初のビーム兵器に、実弾ダメージを軽減するフェイズシフト装甲……なかなかの代物を作り上げたもんだな、地球連合さんとやらは」

 カガリからひと通り「ストライク」なるモビルスーツの話を聞かされたジョニーは、ただ呆れるほかなかった。カガリが「ヤワじゃない」と表現したそれは、この世界における最新技術の塊であった。それも、自分たちのモビルスーツが霞んで見えかけるほどの。

「まったく、『白い悪魔』なんて、よく言えてたもんだ。こんなんじゃ、あっちの奴の方がまだ優しく見えるぜ」

 溜息を隠そうともしないジョニーに、マツナガが笑いながら声をかける。

「まだ戦ってもいない先から気をもむとは、真紅の稲妻らしくないのではないか?」

「やめてくれ。エースパイロットと言ったって、挑むべき敵を間違えるなんて有り得ねえよ。そういうのは勇気じゃなくて無謀ってんだぜ」

 ジョニーは勘弁してくれという口ぶりだった。

「ルウムの時のあの高揚感が嘘みたいだぜ……操縦桿を握る手がこうまで竦むなんて、俺はどうしちまったんだ」

 ジョニーは小さな声で誰にも聞こえないようにつぶやいた。高揚ではない、恐怖でもない。えも言われえぬ感情が、真紅の稲妻の手を少しだけ、しかし確かに震わせていたのだ。

 

「……ん、レーダーに機影……奴さん、いよいよ姿を現したな」

「熱源8、うち大きいものが3つ……これはモビルスーツか。それに護衛の戦車かヘリがいるというところだろう」

「2対3か……くそ、勘が戻りきってないってのに、なかなかきついぜ」

「恐れることはない、ゲルググのポテンシャルを信じれば、勝機は十二分にある……来るぞ!」

 マツナガが言うが早いか、正面から小型ミサイルが蜂のように向かってきた。

 

「バクゥって奴か!」

 ミサイルの熱量に紛れて接近してくる影。青紫色の四つ足、ヒト型の機体にはない長い首。間違いなく、バクゥであった。

「……貴公らに恨みはないが、墜とさせてもらう!」

 マツナガ機のビームマシンガンが唸りをあげ、機銃のごとく放たれたビームが瞬く。凍てつく砂漠の静寂を、爆発音が、夜空にあがった花火のように破った。

「そこだ!」

 続けて接近するバクゥに狙いを定める。あくまでも対狙撃用として開発されたビームマシンガンである。そのガンスコープに映るものは間違いなかった筈だった。

 しかし、バクゥは最小限の動きで、まるで犬が「伏せ」をするかのごとく身をかがめる。同時に、今までよりも明らかに砂の上を移動する速度が上昇した。

 命中するはずだったビームは、むなしく地に落ち砂煙を上げただけだった。

「なにっ!?」

 マツナガもトリガーを引きながら機体を追う。しかし、バクゥが速すぎて、機体の動きに銃口補正が追い付けないのである。

「速い……くっ!」

 どうにか捉えられると思った矢先に、背後から砲撃の弾が飛んできて、マツナガは回避せざるを得なかった。長距離砲撃機であるザウートの肩部キャノンは、確実にゲルググのレンジ外から当てにきていると、マツナガは同時に確信した。

「ええい!」

「四本足は俺がやる! 遠距離はそっちの機体のほうが得意だろ!」

「すまぬ!」

 ジョニーの足は、そう言う前にすでにスラスターを踏み込んでいた。

「真紅の稲妻に機動力勝負か。受けて立つぜ!」

 ビームライフルは、今度は正確にバクゥをとらえていた。

「そこだ!」

 ビームマシンガン以上の初速で放たれた一本の光線は、直撃とはいかなかったが、1機のバクゥの背に乗るミサイルポッドを貫き、爆散させる。

「そいつがなきゃ、牽制はできないだろ!」

 すかさず別のバクゥが援護に入る。ビーム兵器が減衰しやすい大気がある地球上では、ビームより実弾兵器の方が有利であるはずなのだが、ジョニーの狙いの正確さに、パイロットに明らかに動揺が走っている動きだった。

「次はお前さんだ!」

 ジョニーは2機目のバクゥに狙いを定めた。しかし、放たれたビームは、今度は装甲表面にかすっただけだった。射撃戦の実力では分が悪いと見るや、すぐさまバクゥはその脚部にある無限軌道でもって、体当たりを仕掛けてきたのだ。

「ちぃ!」

 ジョニーはとっさに盾を構える。装甲同士が激しくこすれあい火花が散った。直後に、先ほどミサイルポッドを破壊されたもう1機のバクゥが、ジョニーの死角から急襲する。

「ぐっ!」

 背部に体当たりをまともに食らい、ジョニー機のコクピットが激しく揺さぶられる。一瞬視界が白く染まったが、ジョニーはスラスターを踏み込み、転倒だけは避けるべく体勢を立て直しにかかる。

「なんて装甲だ! ゲルググに傷をつけるなんて!」

 足元では「明けの砂漠」のメンバーが、持てる限りの火力を駆使し、バクゥに少しでもダメージを与えるべく奮戦していた。しかし、もとよりゲルググのコクピットを揺さぶるほどの装甲である。携行兵器程度では蚊に刺された程度のダメージしかない。

「深追いはよせ! モビルスーツの相手はモビルスーツがやる!」

 バクゥは車を見つけるなり、虫を踏みつぶそうとするかのように接近してくる。気を取られるあまり、モノアイの視線がゲルググから外れたのを、ジョニーは見逃さなかった。

「その機動性が!」

 バックスカートに懸架されたビームナギナタを手に取る。

「命取りだ!」

 そのまま、ビームナギナタを灼熱の砂めがけて投げつけた。直後、気づいたバクゥは回避を取ったがすでに遅く、次の瞬間、砂から突き立ったビームの刃に左の足を2本とも無限軌道ごともぎ取られていた。

 半身をこすりつけ、派手な砂煙を上げてバクゥは転倒した。いかに四足とはいえ、もはやこうなってはリカバリーの域を超えていることは明白だった。

 

 砂煙が収まった時、そこには腹部を上にしたバクゥの姿があった。獣が腹を見せること、即ちそれは成すすべなしという白旗の証である。

 こうなれば、もはや恐れるに足るものではなかった。

 

 ジェネレーターにビームライフルの直撃を食らい、四足の獣は爆散した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。