機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

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III.猛る砂塵

「バクゥ1機大破! 敵部隊の損害はわずかです」

「ふむ、できるやつがいるねぇ、あっちにも」

 自らの母艦『レセップス』のブリッジで、バルトフェルドはつぶやいた。

「モビルスーツ部隊、苦戦中です! 撤退命令出しますか?」

 ダコスタがそう言ったその時、

『撤退だと!?冗談じゃない!』

 通信士が思わずヘッドホンを投げ捨てそうになるほどの大声が割り込んだ。 

「……イザーク」

 

 大声の主は、釣りあがった眼に銀色の髪をなびかせた少年、イザーク・ジュールだった。

 

『バルトフェルド隊長、出撃の許可を!!』

『そうです、手練れがいるなら、機体性能で勝る俺たちの方が!!』

 追うように、柔和な顔つきに金髪をバックでたくわえた少年、ディアッカ・エルスマンも続く。

「だが、敵の詳細がわからない以上、闇雲に出撃命令を出すわけには……」

『後方支援だけしていろと言うのか!? 1機やられてるんだぞ!!』

 ダコスタが応じると、イザークはそのままモニターカメラのレンズをたたき割りそうな勢いで噛みつく。

「やめたまえイザーク。君たちの機体は『まだ』砂漠仕様ではないだろう?」

『しかし、これ以上奴らの好きにさせるわけには!』

「聞こえなかったか? 機体性能だけでカバーできる問題じゃないと言っているんだ」

『…………!』

 バルトフェルドのその一言だけで、ワニのごとく噛みついてきていたイザークが一瞬で黙ってしまった。

「確かに君たちの機体性能は折り紙付きだ。だが、だからと言って、それがイコール無敵などと保証できるのかね? フェイズシフトだって無限じゃあない」

『なら、そうなる前に、奴らを叩くべきです!』

「それも一理ある。だが、今まで歩兵戦力しか用意できなかったゲリラが、バクゥ1機をこれほどまでに早く撃破できるのは、少々怪しむべきだと思わんかね?」

 バルトフェルドは、自らの推理をしかし淡々と語る。

 

「思うに、彼らにはモビルスーツ、あるいはそれに匹敵する戦力が加わったとみて間違いなかろう」

 

『なっ、しかし、ならなおさら、モビルスーツの相手は自分たちが!』

「だから早まるなと言っているんだ、イザーク・ジュール」

 それでもなおも食い下がるイザークを、バルトフェルドはやんわりと制止する。

「連合にモビルスーツがあったとして、だ。少なくとも、砂漠での機動性なら砂漠戦仕様のジンよりもバクゥの方が断然上だろう。だが、バクゥがすでに1機大破している以上、奴らはバクゥを上回る機動性か、あるいはバクゥの攻撃に長時間耐えて反撃できるくらいの耐久力を有している、という可能性は十分考えられるのではないかね?」

 語り終えたバルトフェルドは手元のコーヒーを一口飲む。

「まあ、だからと言って、君らに何も指をくわえて見てろなんて言うつもりはないぞ。性能で上回れていても、地の利はこちらにある。砂漠戦をそう簡単に性能だけで制覇できるのなら、俺が砂漠の虎なんて呼ばれたりするわけがないだろう?」

 

 虎の瞳は、まだ暗闇で静かに光をたたえていた。その爪を研ぎ澄ましながら。

 

 

「ダコスタ君、B部隊に出撃命令を出せ。バクゥだけでは、おそらく手詰まりになる」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「よし、1機墜とした! 残りは……!」

 砂煙を上げて走る車上から、カガリは周囲を見回し、残敵を確認する。

「見えてるぜ! 四足型2、武装ヘリ3だ!」

 ビームナギナタを拾い上げながらジョニー。

「こちらもヘリを2機墜とした。ヘリはゲルググにはさしたる脅威ではない。モビルスーツに集中した方が良いだろう」

 マツナガからも追って通信が入る。

「いや、こっちの射程外から撃ってきてる砲撃部隊をなんとかしねえと、消耗が増すぜ!」

 切羽詰まったジョニーの通信がそれを遮った。

 

 大気に含まれる水蒸気は、プラズマの集合体であるビームの熱量を容赦なく奪う。主兵装がビーム兵器であるゲルググは、ジェネレーターの出力でそれをカバーしてはいたものの、宙間戦闘よりも明らかにエネルギーの消費量が悪化していることに気が付いた。

 

 もちろん、ゲルググのメインエンジンはヘリウム3を主体とした核融合であり、滅多なことではエネルギー切れを起こさないのだが、生み出されるエネルギーにも限度というものがある。兵装だけではなく、スラスターの燃焼にもエネルギーは消費されるのだから、パイロットは常にエネルギー配分には気を使わなければならないのが常識だった。

 ゲルググは汎用性の高い機体であるが、バクゥのような局地戦に特化した機体には、対抗できないというほどではないが、上回ることができるわけでもない。

 支援砲撃は実弾であり、時間がたてば、息切れでどのみち数の少ないこちらが磨り潰されるだろう。

 

「ビームの減衰率が高い! 威力を上げるっきゃないが、エネルギー効率が落ちちまう。このままじゃ」

「ならば私が後方の相手をしよう。貴公は地上部隊の護衛を頼む」

 言うが早いか、マツナガの機体はスラスターを吹かして飛び去って行く。

 

「くそっ! 2対1かよ!」

『いや、焦るな! 2機ならトラップで処理できる! 誘導するぞ!』

 

 いたって冷静なカガリの声で、一瞬血が上ったジョニーの頭は冷静さを取り戻した。ゲリラが最も得意とする戦術。

 砂漠に巧妙に仕掛けられた落とし穴と、モビルスーツを撃破するに足るだけの大量の爆薬を用いた、『明けの砂漠』の対モビルスーツ戦における最後の切り札である。

 

「よし、引き付けるぞ!」

 ディスプレイに表示されたトラップポイントを確認し、ジョニーは操縦桿を引いた。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「……システムの予想通りに、事は進んでいるようですね」

「ええ、今のところは」

 エターナは、マリアの問いに、三七・五ミリ超高初速ライフルのスコープから目を離さずに答えた。蒼穹の青を落とし込んだような瞳が見つめるその先には、今まさにバクゥと激戦を繰り広げる2機のモビルスーツの姿が捉えられていた。

「これは……コズミック・イラの機体ではありませんわね?」

「ええ……データベースを見る限り、このワールドに符合する機体はありません……ですが」

「ライブラリには、合致するものがありました。MS-14 ゲルググ……宇宙世紀〇〇七九年、ジオン公国軍が投入した、当時最新鋭の量産型モビルスーツです」

 

 キャリー・ベースとそこに所属する機体にのみ取り付けられている特殊装備。

 

 ジェネレーション・システムを介して、モビルスーツと呼べる機体が存在しうるすべての世界――システム用語で『ワールド』と呼称される、一般的に並行世界と呼ばれるもの、そこにあるモビルスーツの情報を閲覧できる、いわゆるライブラリと呼ばれるものである。

 

「宇宙世紀……この世界に存在しえない機体が、なぜここにいるんですの?」

 ライブラリの検索結果は、その機体が、このコズミック・イラの過去・未来の時空に存在する事実がなく、その存在が登録されているワールドは『宇宙世紀』――少なくとも、今自分たちがいる世界とは全く別の時空に存在するモビルスーツであることを示していた。

「恐らく、キャリー・ベースが言っていた、救助したパイロットの機体でしょう。一週間前に、確かそんな内容を送ってきていた記憶があります」

 モニターには、そのゲルググと呼ばれる機体の情報がまさに映し出されているところだった。

 

 

 形式名、MS-14。

 

 全高は一九・二メートル、機体重量は四二・一トン。

 

 出力一四四〇キロワット。スラスター総推力六一,五〇〇キログラム。

 

 

 別世界の暦で宇宙世紀〇〇七九年。ジオン公国が総力を挙げて開発した決戦用機体で、エース機に匹敵する出力を誇り、量産機ながらビーム兵器を搭載する量産型モビルスーツである。

 装備はエネルギーCAP式を採用した大型ビーム・ライフルと、ツイン・エミッター式の双刃型ビーム・サーベルであるビーム・ナギナタ、超硬スチール合金で構成され、ビーム兵器の直撃も防御できるシールド。

 

 国の威信を賭けて開発された機体だけあり、その互換性はそれまでの下位機体のアダプターをまんべんなく網羅し、ビーム兵器のみならずマシンガン、バズーカ、ロケット砲など実弾兵器も手を加えることなく扱える高い剛性と汎用性も獲得している。

 

 

 のちに一年戦争と呼ばれる戦いにおいて、ゲルググの制式量産型が戦線に投入されたのは、クリスマスを間近に控えた、この年の十一月の終わりごろのことであった。

 しかし、ゲルググが量産体制に入ったとき、ジオン公国はその高いスペックを十全に発揮できるエースパイロットの多くを失った後であり、追加召集された学徒兵は折角の性能を生かす場もなく、宇宙に消えたという。

 あと一か月戦場に来るのが早ければ、戦争の結末は変わっていた…………後年、ある歴史学者がそう評したほど、ゲルググは完成された機体だった。

 

 

「あの戦い方……普通じゃないように見えるけど、姉さんはどう思うの?」

 シェルドの瞳は、火花散る戦場をまっすぐ見つめている。

 ゲルググがいかに高性能といえど、尖ったところのない汎用的な機体であり、局地戦用モビルスーツであるバクゥを一筋縄では攻略することは簡単ではない、というのがその場の全員の見解であった。

 が、目の前のゲルググは、卓越した動きでバクゥを逆に翻弄し、あまつさえ撃破している。少しばかりモビルスーツの戦闘経験を積んだ者ならば、その動きが豊富な経験に由来するものであろうことは明白であった。

「……さすがに、パイロットが誰かまでは、ライブラリにはないわ。だけど……」

 マリア機のコクピットにも、その戦場の光景がズームインで映し出される。ライブラリが提供する情報は機体スペックばかりで、搭乗しているパイロットが誰かまでは絞り込めていない。

 

 そして、マリアは、

「……敵にしたくないことだけは、事実ね」

 と一言、呟くように言った。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「くそっ、ポイントまで、あとどのくらいだ!?」

 迫りくるミサイルの弾幕を間一髪かわしながら、ジョニーは叫んだ。

『もう少しだ!! この調子なら、あと二分でエリアに入る! 持ちこたえてくれ!』

 少し離れて足元を走るカガリからの雑音交じりの返信。すでに慣れない地上戦闘で少なからず精神力がすり減っていたジョニーとマツナガには、二分という時間は、短いようで長いと感じられるものだった。

 

 ゲルググの推進剤は残り五〇パーセントを切ろうかという数値だった。いくら汎用機とはいえ、大きなセッティングを行わず、現地で突貫作業を行って、砂漠という局地で戦闘を行ったゆえの結果である。しかし、同じ戦闘時間なら、いつもは推進剤の残量はまだ七割はあるはずだ。少なくとも、ジョニー自身の時間感覚では今はそう思えるほどに、重力が自分とモビルスーツの動きを縛っているかのような感覚がした。

「……ええい、やってやるぜ!」

 ここまで来たら、あとは出たところ勝負、というやつだった。自機のスラスター推力の絞った数値を元に戻し、バクゥと逆方向、まさに正面切ってぶつかるかの如く、真紅のゲルググは砂埃を舞い上げて突撃を敢行する。同時に、腰にマウントしていたロケットランチャーを、ビームライフルと持ち替える。バズーカは弾速が遅いのが弱点だが、自機と敵が相対していて、猛スピードで接近しているなら、そんなことは関係なくなる。

 

 すれ違う瞬間、ゲルググは小さく機体をひねると同時、超至近距離からのロケットランチャーが、バクゥの背中のミサイルポッドに命中し、爆発音とともに機体の背中から炎が上がった。こうなれば、近接武器を持たない猛犬は牙を折られたも同然だった。もう1機の2連装レールガンを装備したバクゥが、フォローしようと急いでジョニーの機体めがけて照準を旋回させてくる。

 だが、今度はマツナガがそうはさせない。自分たちの動きを上回られたことに動揺しているのか、一瞬動きがもたついたタイミングを逃さず、マツナガ機のビームナギナタが2機目のバクゥの右前脚を斬り飛ばした。

「白狼から目を背けてもらっては困るな」

 マツナガが呟く。右前足を失ったバクゥは、まだかろうじて動けてはいたが、その動きは大きくバランスを欠いていた。これならば、撃破の優先順位は数段落ちる。ジョニーが武装を破壊して丸腰になった一機を除いて、火力を残しているバクゥは、残り四。

 ポイントまでの残りの距離を確かめ、なんとかいける、とマツナガが思った次の瞬間だった。

「むっ!?」

 彼の直感が警鐘を鳴らし、反射的にマツナガは操縦桿を引いた。直後、マツナガの機体があったところを砲撃がかすめていった。

砲撃機(タ ン ク)か!」

 マツナガは盾を構えなおし、砲撃の来た方向をにらんだ。砂煙の中から、それは姿を現した。

 新たなバクゥが2機と、キャタピラーにモビルスーツの上半身をくっつけたような、橙色のキャタピラ付きの機体。

 

 TFA-2・ザウート。戦車と同様のキャタピラーによって、足場の不安定な局地でも、火力支援を行うことを目的とした砲撃戦用モビルスーツである。

 むろん、脚部がないところからジンよりは旧式の機体であることは疑いようもなく、もちろん動きは鈍重だが、両肩にそれぞれ連装キャノン2基、左腕に副砲2基を搭載し、右腕はモビルスーツタイプのマニピュレーターを残して、ジンと同型の五七ミリ重突撃機銃の銃身短縮タイプモデルを装備可能で、支援機としては十二分、一機のモビルスーツとしては侮れない火力を有する機体であり、遠距離の反撃手段を持たない、即ち今のジョニーやマツナガにとっては厄介なことこの上ないものであった。

 

『相手にするな! スピードは大したことない! 今なら、こっちが先にポイントに到達できる!』

 マツナガはどうするか一瞬迷ったが、タイミングよくカガリの通信が割り込む。

「振り切るというのか? しかし、あの火力を放置しては、貴公らが!」

『アレくらいなら、音が聞こえれば避けられる! 牽制だけしてくれればいい!』

 その通り、飛んでくるのは砲撃だけではなく、誘導ミサイルまであった。着弾範囲の広い火力を見て、ジープには脅威ではないかとマツナガは食い下がったが、カガリは強気に叫んだ。

「意気は買ってやろうじゃないか!」

 ジョニーもそれに乗じた。ザウートの手前を狙って、ロケットランチャーを数発、砂地に撃ち込む。大きな砂煙が舞い上がり、ザウートの姿が見えなくなった。

 

 ―――味方を撃つリスクがあるならば、砲撃機は迂闊に動けない。

 砲撃支援機最大の弱点が目である事は、ジョニーもマツナガも経験で知っていた。僅かな時間ではあるが、ポイントまでの距離を考えれば、時間稼ぎとしては十分だった。

「四本足が来るぞ!」

 ジョニーが叫ぶとほぼ同時、砂煙から3機のバクゥが飛び出してきた。ミサイルポッド装備が2機、レールガン装備が1機。

「こっちも時間がないのでな、手早く墜とさせてもらう!」

 言うが早いか、白いゲルググのビームライフルがばらまかれ、3機のバクゥの行く手に無数の穴を穿つ。すんでのところでブレーキが間に合ったバクゥであったが、その時には後ろから真紅のゲルググが飛びかかっていた。

「足を止めるのは、命取りだぜ!」

 ビームライフルの照準が、バクゥの頭を正確に捉える。熱砂の熱対流を考慮せずとも、停まっている敵の頭部を狙い撃ちするくらい、ジョニーにはたやすいこと。

 

 ―――のはずだった。

 

「なんだとっ!?」

 そこでまたしても、彼の予想外の事態が発生した。

 背中のミサイルポッドが、ぐるりと一回転し、そこまで正確に狙い撃ちを食らわせようとしていたジョニーの機体に対し、逆に正確な弾幕をお見舞いしてきたのである。とっさに盾を構え、機体への直撃は避けられたが、それでも数回ほど爆発の衝撃が、機体を大きく揺さぶった。

「ぐぅあ!」

 真紅のゲルググは大きくバランスを崩し、危うく砂地に背中から突っ込むところだったが、寸前で体勢を立て直す。

「くそったれ!」

 冷静になってよく見れば、バクゥの武装はタレットタイプ。地面以外の三六〇度、全方位をカバーできる位置である。背中に武器があれば、死角はほぼゼロ。

 唯一、腹の下を除いて、である。

 

「トラップで墜とす……そういうことか!」

 四足歩行の動物にとって、死角は腹である。犬が腹を見せる服従とは、唯一にして最大の弱点である腹部を相手に晒すことによって、自身の無力さを相手に見せ、戦意を失った事を知らせるためという。

 勝てる望みがあるならば、獣は腹部を決して相手に晒さぬよう死力を賭して戦う。手や足の1本を失おうが、腹を食い破られなければ、生きる望みはあるのが大自然のルールである。

 

 そして、そのルールはモビルスーツとて例外ではない。腹部とは、大なり小なり機動兵器の心臓部が存在するところだ。コクピットであったり、メインジェネレーターであったり、いずれにせよ直撃を貰えば無事では済まない急所である。

 バクゥは、腹以外の部分の装甲を厚くし、がら空きの背中をハリネズミのごとく武装することによって、まさに自然に生きる獣と同じように、弱点を覆い隠しているのだ。

 そうとわかれば、こちらがとれる策は二つ。

 

 ひとつは、背中を覆うその針を、こちらのパワーがダウンする前に、力ずくでむしり取ること。もうひとつは、その針に刺し貫かれる前に、獲物を罠に嵌め、息の根を止めること。

 そして、目の前には得体のしれないモビルスーツ、そして数で劣勢に立たされた状況。今の自分たちからすれば、選択肢はほぼ無いも同然だった。幸いにして、罠が仕掛けられたポイントはもう目の前である。

 

「あと二五〇〇……誘い込め!」

「心得た!」

 紅白のゲルググが、射線をずらし、バクゥの足を、パイロットに気が付かれぬよう少しずつ、しかして巧妙にトラップの方向に向けさせる。

 その動きは、ともに戦火を潜り抜けてきた者のみが知る、互いの動き、癖、戦闘スタイルすべてを知っているからこそできる、強者の芸当である。

 無論、生物は、地だけでなく、空にも敵がいることを知り生きるもの。

「ヘリ残り四! 四本足、二時方向に1機、五体満足だ!」

「俺が逸れさせる!」

 バクゥの弾をかわし、眼前にお返しの弾を見舞う。目の前で爆発が起これば、生物は反射で避けるように動く。中身が生きたパイロットである限り、逃れようのない万有の法則である。

 

 そうして、気が付けば、3機のバクゥは、いつの間にか、即死の罠が仕掛けられたその真上に誘われていた。

 

「よし!」

 カガリが起爆スイッチを取り出し、一つ目のボタンを押す。地を震わす轟音と、大気を揺らす振動が数回起こり、同時にバクゥの足元から火柱が上がり、それは砂漠にまるで大穴が空いたかのように、砂が崩れ落ちる。

 さながらアリジゴクの巣にかかった蟻のごとく、3機のバクゥはそこに吸い込まれるように落下する。

 

 そして彼女の勝利を確信した笑みとともに、2つ目の起爆スイッチによって本命が炸裂する。大量のダイナマイトとナパームが同時に点火され、砂漠の真ん中に巨大な火球が発生した。

 焼却、というよりは蒸発という言葉が正しいだろうか。砂漠の獣は、その身体を余すところなく灼熱に焼かれ、トラップの爆発から一瞬遅れて爆発を起こし、原型をとどめない鉄くずと化す。

「やった!」

 カガリが拳を握りしめた。

 

 だが、二度あることは三度ある、という。

 

 

「っ、違う、まだ何かいるぞ!」

 カガリの声がジョニーとマツナガに聞こえるとほぼ同時に、ゲルググのコクピットに警報が鳴り響いた。

「なっ!?」

 ジョニーが反応する間もなく、砂煙の中から何かが飛んできて、立て続けに激しいスパーク、それにジョニーの脳天を揺さぶるような爆発の衝撃が、ほぼ数秒のうちに襲った。

 一瞬ジョニーの視界がゆがみ、次に正常に戻った時には、ゲルググの右の手からロケットランチャーは消え失せており、そこには爆発したことを示す火の粉と煙だけがあった。

「なんだ今のは!?」

 カガリが叫んだが、双眼鏡をのぞき込んでもあたりに砂煙が立ち込めているせいでよく見えない。ジョニーは距離を取ろうとスラスターを吹かすが、今度は砂煙の中に何か赤く光るものが見え、ジョニーは戦士としての直感でとっさに盾を構えた。やはりというか、盾に甲高い命中音がいくつも聞こえ、ジョニーはそれが機銃のようなものの弾だと悟る。

「ええい、くそっ!」

 ペダルを目いっぱいまで踏み込み、強引に砂煙の中から脱出する。

 

 だが、砂煙の中からジョニー機を追って現れたのは、バクゥでもザウートでもなかった。

 

 ゲルググと同じく赤く光る、角の生えた一つ目の頭部。

 事前情報で掴んでいた『ジン』と呼ばれるモビルスーツと似てはいたが、コクピットの警報は、それがジンではないというエラーメッセージを吐き続けている。

 そして、その機体は、まるで歩きなれた地面という風に、ごく自然に砂漠の砂の上に降り立った。

「なんだ!? あんな色のジン、見たことないぞ!?」

 ゲリラの誰かが叫ぶ声が、通信機から聞こえてきた。驚きだったのは、その機体カラーである。

 

 バクゥともザウートとも明らかに意趣の違う、どこか深みすらたたえた、濃い青だったのだ。

 この場にいる誰もが未知の機体だった。ジョニーとマツナガを除いては。

「あれは!?」

 その機体には見覚えがあった。自分たちが搭乗したわけではないが、それでも知っていたのには理由があった。

「まさか……07か!?」

 ゲルググが自分たちの手元にやってくるより先立つこと数か月前、母国の仇敵、名を「ガンダム」と呼ばれるモビルスーツと渡り合ったという、一つの陸戦用モビルスーツの存在。

 ジオン公国のモビルスーツの標準モデルから、空間戦闘用装備を取り除いて軽量化し、砂漠用の防塵装備や左手マニピュレータと一体化した七五ミリ五連装機銃、近接格闘戦用のヒートサーベル、試作装備として搭載された電撃鞭「ヒートロッド」など、陸上白兵戦用に徹底してチューンされた武装を搭載したものであった。

 乗り手を選ぶ機体ではあったものの、一人のベテランパイロットが、その機体を乗りこなし、当時標準モデルの機体では敵うべくもなかった「ガンダム」と互角の戦いをしたという。

 

 

 そのベテランパイロットのパーソナルカラーこそ、青。

 

 

「青き巨星」と呼ばれた男の色を纏ったモビルスーツ。

 

 MS-07、その名を「グフ」と呼ばれた機体が、まさに今、そこに立っていた。

 

 

 そして、誰もわからなかったが、その機体のコクピットには、口ひげをたたえた壮年の男が座っていた。

 男は、静かに、しかし闘志を静かにたたえた目で、目の前の真紅の機体を見ながらつぶやいた。

 

「……フッ、これだ。この風、この肌触りこそ、戦争よ……」

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