機動戦士ガンダム Gジェネレーション(仮題)   作:北野ミスティア

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Ⅵ.虎狩りへ

「なるほど……正規のパイロットはおらず、これまで何とか場をしのいできた民間人パイロットも今は意識不明……身動きが取れないというわけか」

 アークエンジェルの艦長室で、事のあらましを一通り聞いたマツナガは頷く。

「ええ。ですから正直言って、ストライクを動かせるパイロットが来てくれたのは、渡りに船、ということね」

 マリューはクレアを見ながら答える。クレアは必死に頬が緩むのを隠そうとしているのがバレバレだった。

「それで、俺たちは、これからこの艦をアラスカまで護衛する、ってことでいいんだな?」

「とりあえずはな。貴官らの母艦……キャリー・ベースと言ったか? 今のところ、ワシントンの沖合百五十キロで合流すると聞いている」

「そこまでの時間は?」

「すぐに発って二日、アラスカまでは四日ほどだろう」

「悪いな。それまで世話になる」

「気にしなくていいわ。こちらこそ、改めてよろしく」

 マリューは、柔らかな微笑みを浮かべて頷いた。

 

 しばらくして、ジョニーとマツナガは、現状の保有戦力の説明を受けるため、クレアとともにMS格納庫に出向いた。

「よう、待ってたぜ」

 そこにいたのは、すっかり意気投合した整備リーダーのコジロー・マードック軍曹と、ラナロウ・シェイドであった。

「貴公も来ていたとはな」

「まったくだ。クレアの野郎、勘が先走って俺を置いてくたぁ、いい度胸してやがるぜ」

 ラナロウは仕返しをすると言わんばかりの意地悪な笑みを浮かべながらクレアを見る。

「もう、それは言わない約束!」

 クレアはふくれっ面をしながらラナロウの肩を叩いた。

 一方のマードックは、無精ひげを生やした色黒の大柄な男で、どこからどう見ても整備士のそれとわかる空気を纏っている。

「あんたらが、艦長さんの言ってたパイロットかい?」

「ああ、しばらく世話になるぜ」

 ジョニーとマードックは握手を交わす。ごつごつした手には、整備士特有の油と砂、それと鉄くずのにおいがしみ込んでいた。

 格納庫には、ストライクと呼ばれる機体と、ラナロウとクレアの乗機であるトルネードガンダム2機、それに、地上での補充戦力という戦闘機・スカイグラスパー2機が整備の真っ最中であった。

「……見れば見るほど、白い奴にしか見えないな」

 ジョニーはストライクを見上げながら呟いた。

 色合いは全く同じというわけではなかったが、白を基本にボディを赤と青、ところどころに黄色をアクセントとして使うカラーリングは、まさしく自分たちが「ガンダム」「白い奴」と呼んで忌んだ機体とそっくりだった。

 ストライクは、状況に応じて近接・高機動・砲撃の3種の装備、ストライカーパックと呼ばれるものを換装することで様々な状況に対応することをコンセプトに作られていた。そのどれもが、既存のモビルスーツを凌駕する高性能を有している。

 さらに、地球連合は、ストライカーパックの活用を目的に、2機のスカイグラスパーと呼ばれる戦闘機を補充していた。一機しかない機体に対してストライカーパックは三種類あるのだから、必然的に二つは使わない状態となってしまう。そこで、遊んでしまっているストライカーパックを活用し、戦闘機ながらモビルスーツに匹敵する性能を得るという、一挙両得の戦闘機として開発されたのだ。

「それで、この機体を動かすプログラムってのは何なんだ?」

「ああ、こいつだよ」

 マードックが差し出した端末。覗き込んだジョニーとマツナガは目を丸くした。

 そこに表示されていたのは機体の制御プログラムなのだが、二人に理解できたのはスラスター推力とメインジェネレーターの出力制御くらいまでで、そのほかに局所戦闘パラメーター、フェイズシフト装甲電力の分散最適化プログラム、運動ルーチン、メタ駆動、ニューラルリンケージなどという、意味のわからない内容がずらりとプログラミングされていた。もはや、自分たちが士官学校で学んだモビルスーツ工学や基礎理論などが、幼稚園の遊びに見えるレベルだ。

「これを……こんな複雑なプログラムを、民間人が、数分かからずに組み上げたっていうのか」

「正確には、民間人の()()()()()()()()の坊主、だがな」

 マードックの言葉に、二人はハッとする。

「そうか……これが、優良種ってやつなのか」

 コーディネーター。

 遺伝子改良を加えてこの世に生を受けた、生まれながらにして優良を約束された人種。

 話を聞くだけでも冷や汗をかきそうなものだったが、実際にその能力の片鱗を見せられ、ジョニーとマツナガは頭を上から叩かれたような衝撃を受けた。

 ジオンが唱えていた、スペースノイドが優良種たる人類の救済論など、もはや口先だけの薄っぺらいものなどと呼ぶことすら烏滸がましい。コーディネーターとは、既存の人類では太刀打ちできない、真の優良種という存在なのだ。

「どうかしたか?」

 思わず頭を抱えてしまった二人に、マードックが声をかけた。

「ああ、いや……何でもねえ」

 自分たちの国が、そんな薄っぺらい理想論を抱えて戦争をし、挙句に負けたなどと、まさかそんなことを言えるはずもない。ましてや、それはこことは違う、別世界の話である。二人は適当に誤魔化すことしかできなかった。

 クレアとラナロウも、空気を読んで余計な口出しはしないでおくことにした。フォローを入れれば、ぼろが出て、逆に怪しまれそうだった。

「それで、この複雑すぎるプログラムが組まれた機体を、どういう訳か動かせたのが―――」

「このクレア・ヒースローってワケよ」

 皆が視線をクレアに遣る中、ラナロウはまたしても皮肉たっぷりに言った。

「あ、あはは……どうといわれましても、あの時は夢中だったとしか……」

「まさか、このプログラムの意味、理解してるわけじゃねェよな、え?」

「そんな訳ないじゃん……」

 詰め寄るラナロウに、クレアは苦笑いすることしかできなかった。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 同時刻。

 

「くそっ、話が違うぞ! あいつら、まだ宇宙(ソラ)にいたんじゃなかったのか!?」

「マーク! 五時の方向!」

「ぐぅッ!」

 先行したラナロウとクレアを追いかけて、キャリー・ベースを発ったマークとエリス、フェニックスガンダムとフェニックス・ゼロの二機は、攻撃を回避しながら必死にアークエンジェルの待つアフリカの砂漠へと歩を進めていた。

 場所はアフリカ大陸の入り口、エチオピアの北方約七〇キロ、アンドリュー・バルトフェルドが指揮を執るザフト北アフリカ方面軍の勢力圏まで、あと少しという紅海の真上だった。

「だめだ、振り切れる気配が無い! あいつらピッタリとくっ付いてきてるぞ!」

 マークは飛行というフェニックスガンダムの得意分野に張り合うモビルスーツがいることに焦るばかりだ。

「落ち着いて、マーク! あと〇〇二〇(フタマル)あれば合流地点にたどり着ける! それまで……!」

 エリスはフェニックス・ゼロを、フェニックスガンダムに追従させるので精一杯だった。何しろ慣らし運転もろくにせず、いきなりモビルスーツと遭遇戦をやっているのだ。想定外の動きをして被弾しないか、エリスはヒヤヒヤしっぱなしだった。

「こっちからも通信で呼びかけろ! アークエンジェルの通信圏内にはまだ入らないのか!」

「やってるわ! でも、Nジャマーのノイズがひどくて……!」

 さらにビームが飛んできて、エリスは通信もままならないまま慌てて回避する。ありとあらゆる回線を開くが、そのどれもがことごとくノイズまみれだった。

 今はとにかくフルスロットルで飛ぶしか、アークエンジェルにコンタクトできる道は残されていなかった。

 

 そのビームの飛んできた方向。二つのフェニックスの後ろを、数百メートルほど離れて追いかける、二機の機影があった。

 片方は赤、もう片方は黒。どちらもサブフライトシステム・グゥルという、空中移動に乏しいモビルスーツの飛行を補助するサブメカに搭乗している。二機のカラーリングは正反対だが、二機には、どちらにも共通する、ある特徴があった。

 黄色の二又のアンテナと、青白く輝くツインアイ。

 

 GAT-X303・イージス、そして、GAT-X207・ブリッツ。

 

 それはザフトが連合から強奪した四機の『ガンダム』、今まさにアフリカにいるそのうちの二機、デュエルとバスターに加わるべく、北アフリカへ向かっていた、残るもう二機の『ガンダム』だった。

 

 

「どうなってる! 連合に、他にもあんな機体があるなんて!」

 そのイージスのコクピットで、パイロットのアスラン・ザラは苛立つ。

 ビームが当たらないこと、自分たちが把握していなかった未知の『ガンダム』の存在。そんな敵と予想外に接敵した事実。

 そのすべてが、アスランに焦りを(もたら)していた。

「焦らないでくださいアスラン! 油断すれば振り切られます!」

 一方のブリッツのコクピットには、アスランよりひとまわり幼さを残した顔立ちの少年、ニコル・アマルフィが座っている。二コルはあくまでも敵を撃墜するのではなく、追跡を続けることを重要視しているようで、無理な攻撃はせず、スラスターを吹かし続けながら、二機の『フェニックス』から目を離さないようにしていた。

「あの飛行能力……普通のモビルスーツとは違う……!」

 二コルは目の前の二機を訝しむ。二機は、自分たちが乗るグゥルのようなサブフライトシステムに頼ることなく、かれこれ数十分は飛行を続けている。それも、飛行に特化したサブフライトシステムの速力に比肩するスピードで、である。

「とにかく、引き離されないことを最優先にしましょう、アスラン!」

「ああ、わかった!」

 二機のモビルスーツははさらに速度を上げたようだった。

 グゥルの推進剤とて無限ではない。まして、モビルスーツが単体で移動できる距離など限られているはずだ。なのに、サブメカの補助なしで、前の二機は大空をずっと飛び続けている。

 その姿はまさに、翼がある限り、永遠に飛翔し続ける鳥だった。

 

 

 ……そういえば、()()()に、むかし渡した鳥型ロボットがあったっけ。あいつは、それをまだ、持ってるんだろうか。

 アスランは頭の片隅で、ふとそんなことを考えていた。

 

 

 ヘリオポリスに運び込まれていた新型機の情報をつかみ、強奪に成功するところだった、まさにその時だ。

 

 そこにいるはずのない、一番の友達だった、あいつがいた。

 

 気弱で、内気。そのくせ友達はたくさん作れるくらいには、人当たりもよかった。そんなあいつに、鳥型のロボットを渡したのは、戦争が始まる数年前。

 戦争になることはないだろう。そんなことを言って別れたのを、まだ昨日のことのように覚えていた。

 

 なのに、再会したあいつは、自分がモビルスーツを強奪する相手―――地球連合の工廠にいた。地球連合の技術士官と一緒に。

 友達のまま、別れたはずだった。だが、戦場で再会したその瞬間、敵になってしまった。

 

 そして、最後に刃を交えたとき。

 

 

 俺はあいつに、次に会った時、必ずお前を討つと宣言した。

 

 

 迷いがないと言えば嘘になる。それでも、俺は軍人だ。

 敵であるのなら、やられる前に倒すのみだと。

 

 願わくば、目の前の機体のパイロットが彼、あるいはその友人でない事を、アスランは無意識に願っていた。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「熱性ショックによる意識不明……回復できるかは不透明、か」

 医務室のガラス越しに、ベッドに横たわる少年、キラ・ヤマトの顔と医療班の診断書を交互に見ながら、ジョニーはつぶやいた。

「もとより、モビルスーツ単体での大気圏突入など、誰もやったことがなかったからな。最悪、死んでいてもおかしくなかっただろう」

「それを、昏睡だけで済んでるのは、やっぱり、彼がコーディネーターだからという事なのかしら」

 ナタルとマリューは、無事であることを喜ぶかたわら、彼がコーディネータゆえに不可能を可能にしてしまったかもしれない、という、いくつもの感情が混ざった複雑な顔だ。

「…………」

 ジョニーは、またキラの方に顔を戻す。

 見た目は人間となんら変わらない。どこにでもいるような、普通の少年だ。だが、その身体は強靭で、脳や精神は普通の人間を凌駕する能力を持つ。

 そんな事実を、まだジョニーは信じられずにいた。ましてや、この少年に、この華奢な肩に、この戦艦に乗っている多くの人間の命を背負わせていたなど、そんな事はいくら能力が高かろうが、戦場を知らない人間には酷という以外の何物でもない。

「とにかく、キャリー・ベースと合流次第、ストライクのOSの最適化作業を最優先で進めさせましょう」

「ああ、そうしてくれ。こっちには、モビルスーツを操縦できる人間だけはいるからな。動かせる奴は、一人でも多い方がいい」

 ジョニーもマツナガもその意見には賛成だった。キャリー・ベースの整備班なら、もう少しOSを扱いやすいものにしてくれるだろう。

「だが、厄介なのは『虎』の方だろう」

 マツナガは腕を組みながら言う。

「それなりの損害を与えることはできた筈だ。だが、時間がたてばいずれ補充の戦力は来るだろう」

「だろうな。そうなれば、また連中は攻めてくるに違いないだろうぜ。それに、俺たちが気になるのは補充の戦力だけじゃねえ」

「ああ、貴官らの報告だと、()()()()()()()()()()()()()がいると言っていたな」

 ナタルはジョニーとマツナガに視線をやる。

「ああ、さっき話した通り、な」

「戦力としては、脅威といえるものか?」

「ん……ああいや、まだ確証は持てないが……」

 あのモビルスーツの性能は、この中なら自分たちが一番よく知っている、が、まさか知っていると言う訳にはいくまい。どう説明したものか、ジョニーとマツナガは内心困ってしまう。それを察したのか、ナタルがさらに問いかけてきた。

「では、貴官らのモビルスーツは?」

「…………どういう意味だ?」

「言葉の通りだ。貴官らのモビルスーツも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 内部構造はジンと似通ってはいたがな。少なくとも、ザフトにビーム兵器を扱えるモビルスーツは、強奪された4機以外には、まだなかったはずだ」

「…………」

 二人にとって、少なくとも今は隠しておかなければならない事実を的確に指摘してくるナタル。ジョニーは優秀な軍人だと思ったが、答えるべきかどうか、判断がつかない。

「だからこそ聞いておきたいのだ。貴官らの機体は、一体どこのものだ?」

「…………やはり、我々がまだ信用できないと?」

「前にも言ったはずだ。我々とて、戦力が増えるのはありがたい。が、出自もよくわからない人間とモビルスーツを、我々もそういつまでも載せておくわけにもいかないんだ」

 事情はジョニーにもマツナガにも理解できた。

 艦隊ひとつを犠牲にしてまで地球に降り、いざ味方の本拠地へ着いた時、民間人だけならまだしも、出自不明・所属不明のパイロットを乗せていたとあっては、あちらのお偉いさん方から総出で詰めよられる事態は、二人とも想像に難くなかった。

 この艦が今置かれた立場を考えれば、早めに答えを出すべき問題ではあった。

「…………少し、考える時間を貰えないか」

 ジョニーはようやくそれだけを絞り出したように言うが、ナタルが何かを言う前に、マリューがその間に入るようにやさしく答えた。

「ええ。急ぐ必要はないから、そのうち、話してくれたら助かるわ」

「しかし、艦長……」

「いいのよナタル。誰しも、簡単に話したくない身の上はあるものよ」

「……恐れ入る、艦長殿」

 マツナガは小さくマリューに頭を下げた。軍人としてはらしくないし、然程も必要のない寛容さではあったが、今はそれがこの上なくありがたかった。

 

 そのとき、医務室の艦内電話が鳴った。ナタルが電話に出る。

「どうした?……何? よし、すぐ戻る……ああ、わかった、準備をさせる」

 途中からナタルの目がにわかに緊張感を帯びたのを見て、マリューもジョニーもただならぬ事態ということを察する。医務室ににわかに緊張した空気が走った。

「何かあったの?」

「所属不明機から、救援を要請する通信を傍受したと、ブリッジからです。Nジャマーの影響がひどく、内容は一部しか聞き取れなかったようですが……」

 ナタルは少しの間をおいて告げた。

「はっきり聞き取れたところはふたつ……まず、追われているのは、赤と黒の機体色をした、モビルスーツ二機だと」

「!」

 それを聞いて、マリューの表情も硬くなる。それは明らかに、その追っ手に心当たりがあるという顔だった。

「赤と黒のモビルスーツ……イージスとブリッツだわ……!」

「ええ、まず間違いないでしょう。発信源は、概ねここから北に七〇キロ、紅海の辺りです。それともう一つ」

 ナタルの視線がジョニーとマツナガに移動する。

 

「発信者はこうも言っていたそうだ。『()()()()を、此方に寄越せ』……とな」

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 砂漠の虎が動いた。

 

 その情報が入ったのは、タイミング悪く、ジョニーとマツナガがアークエンジェルを発った数時間後のことだった。

 事に備えて『明けの砂漠』はいくつものアンブッシュを砂漠に仕掛けていたのだが、ザフトの部隊はそれをすべて突破し、モビルスーツによる強襲攻撃をかけてきたのだ。

「敵の数は分かるか?」

「確認できるだけでモビルスーツ……バクゥ五、戦闘ヘリ八!それと……熱紋の規模から、レセップスです!」

 ブリッジ階下のCIC、オレンジのメガネをかけた少年のサイ・アーガイルが状況を報告する。

「砂漠の虎の母艦か!」

 アンドリュー・バルトフェルドの母艦であるホバー型の陸上戦艦レセップス。敵はついに、本丸を最前線に駆り出してきた。それは、なりふり構わず、此方を殲滅にかかってきたということだ。

「それと……レセップスの艦上にモビルスーツ三! これは……デュエルとバスター、それに、不明機が一機!」

「なんだと!?」

「光学映像出します!」

 ブリッジのスクリーンに、デュエルとバスターとともに映し出されたのは、ジンに似た青いモビルスーツ。

 ジンと同じモノアイを頭部に持ってはいるが、細い角、棘のついたショルダーアーマー、機体のあちこちに露出した動力パイプなど、それは明らかにジンとは違う見た目であった。

「なんだ、あれは……!?」

「あれが、彼らが言っていた、謎の機体……!?」

 ブリッジのクルー全員が呆気に取られていたが、次の瞬間、その静寂を打ち破るがごとく、青いモビルスーツが大きく跳躍した。

「なっ!?」

 その場にいた全員が驚愕した。青いモビルスーツは、砂に着地したかと思うとそのままアークエンジェルめがけて猛スピードて突っ込んできたのだ。

 それも飛んでいるのではない。文字通り、まるでそこが砂でなくコンクリートで固められた地面であるかのように()()()()()のだ。

「対モビルスーツ戦闘用意! 急いで!」

「イーゲルシュテルン、バリアント起動! 対空ミサイル発射管、ウォンバット装填!」

 ただ者ではないということを感じ取ったマリューが、急いで体制切り替えを指示する。ナタルもそれに合わせ、艦のあらゆる火器を起動させるよう叫んだ。

「不明機、突っ込んできます!」

 通信士席の少女ミリアリア・ハウが悲鳴にも似た声で告げた。向かってくるスピードはもはやバクゥに匹敵している。砂漠仕様のジンであっても出せる速度ではないのは、誰の目にも明らかだった。

「モビルスーツ隊はどうなっている!」

『こちらフラガ機、今準備が完了した! 出るぞ!』

 遠距離砲撃戦用のランチャーストライカーを装備したムウのスカイグラスパーが発進していく。続いて、ラナロウの乗るトルネードガンダムがカタパルトに乗った。

「カタパルト接続確認、火器管制システム、同期完了、システムオールグリーン」

『そんじゃ、いっちょやりますかね! 敵さんとの距離予測は?」

「会敵予想まで〇〇〇八です。進路クリア、トルネード01(ゼロワン)、発進どうぞ!」

「ラナロウ・シェイド、トルネード、出るぜ!』

 スカイグラスパーとは違う、カタパルト特有の鉄がこすれる甲高い音とともに、トルネードが飛び出した。

「続いてトルネード02(ゼロツー)、クレア機、発進位置へ!」

『こちらも各部異常なし! えーと、とりあえず、時間稼ぎってことでいいんですよね?』

「ヒースロー機は、シェイド機とともにアークエンジェルの防衛だ。とにかく時間を稼いでくれればいい。ライデン少佐とマツナガ大尉が戻れば、数でそのぶん此方に有利になる」

 CIC席のナタルがクレアに答える。少なくとも、モビルスーツ4機とスカイグラスパーなら、ガンダム2機と不明機(アンノウン)の相手に不足はないはずだ。

「ゲージ接続、カタパルトオンライン。トルネード02、発進どうぞ!」

『了解! クレア・ヒースロー、トルネード、行きまぁす!』

 二機目のトルネードが日の下へ飛び立つ。同時に、二機の視界には、砂煙を上げて迫ってくる、あたかも砂の山のごとき茶色の戦艦とモビルスーツ軍が視界に入る。

「見えたよ! 四つ足5、それとヘリが二個小隊!」

「へっ、上等じゃねえか! まとめて叩き潰してやるぜ!」

 言うが早いか、ラナロウはビーム・ライフルをバクゥに向けて撃っていた。

「モビルスーツはこっちで引き受ける! 戦艦の方を頼んだぜ、オッサン!」

『オッサンじゃねぇ! 言われなくてもわかってんだよ!』

 ムウはラナロウの呼び方に憤慨するが、すでにスカイグラスパーの進路を後ろの戦艦、レセップスに向けていた。そして、それを遮るかのように、クレアが叫ぶ。

「あ! ラナロウ、あれ!」

「へっ、来やがったな! 青いの!」

 バクゥの後ろから猛スピードで迫ってくる青いモビルスーツ。その右手にはすでにヒート・ソードが握られている。

「いいなクレア、合流予定は三〇分だ。それまで持ちこたえさせるんだぜ!」

「簡単に言ってくれるじゃん……!」

 クレアは無茶振りにそう言い返すものの、口元はそれとは逆に、笑みすら浮かんでいた。

「それじゃ、見せてもらおうか、砂漠の虎の実力とやらを、ってね!」

 聞きかじったような調子のセリフを口ずさみながら、クレアはスラスターペダルを踏み込んだ。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 自分の中の記憶には、まったくもって覚えがない光景だというのに、なぜか、目の前で繰り広げられる戦いは、妙に自分の頭をざわつかせている。

 濃い青を纏ったモビルスーツ、グフのコクピットで、男は眉間にしわを寄せていた。

 

 目が覚めた時、記憶にあったのは、自分がランバ・ラルという名前であるということと、このグフというモビルスーツの操縦技術だけだった。

 それ以外のことは、何一つ思い出せない。まるで軍人のような……いや、実際はそうであったかもしれないが、今まで自分が何をしていたのか、自分に家族が、上官が、恋人が、部下がいたのか……大穴が空いたかのように、思い出してはならないという呪いをかけられたかのように、記憶は暗闇の中だった。

 それでも、その手は、突き動かされるように、モビルスーツを前へと進ませる。それは意志などではなく、身体の内から湧き上がる、獣の本能のような衝動だった。

 同時に、諦観にも似た悟りすら覚える。

 戦場を前にして、こんな感情の昂りを覚えてしまう自分は、どうしようもなく戦士なのだと。

 

 メインカメラが、目標とする白亜の戦艦を捉える。

「足付き……あれか」

 なるほど、確かに美しい戦艦だ。撃沈するのが惜しいくらいに、美しい(ふね)だった。だが、自分に敵対する存在、脅威になりうるモノであるというのなら、蹴散らして進むまで。

 そう思った時、その戦艦から迎撃に出てきたモビルスーツが目に入る。そしてその途端、自分の脳裏に、まるで記憶という液体をそこから混ぜ返されるようなざわつきが走った。

 ツインアイ、赤、青、黄を基調としたトリコロールの機体色、そして、左右に伸びるブレードアンテナ。その姿は、男の脳裏に奇妙な既視感を抱かせる。

 それはあたかも、自分が依然、あれと戦ったことがあるかのような、恐怖と高揚とがごっちゃになった、言葉で言い表せない感情。

 だが、その理由を考えるより先に、男の口は無意識に、記憶にないはずのそのモビルスーツの名を呟いていた。

 

「―――ガンダム……!」

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