異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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災厄は、忘れたころに帰ってくる(土下座
もうここまでの内容忘れちゃった? 大丈夫、私もです


拾壱、喪失感

 

件の厄が消滅してから2ヵ月が経った頃、鍵山雛は河城にとりのもとを訪れていた。

雛の姿を見て川の中から「やぁ」と手を上げて挨拶したものの、にとりの表情に覇気はない。

川の中にぽつんと佇む岩―雛の指定席―に腰かけ、スカートをたくし上げると真っ白な足を脚を水に晒す。

晩秋の水はさぞ冷たかろうに、その表情は一切変わらない。

 

「最近元気ないね」

「そんなことないわ」

 

なんとなしに、雛がにとりに話しかけたが、にとりは即答する。

その問いかけの意味することがわかっているだけに、意固地になっているのだ。

それから……少しだけ逡巡すると、にとりは諦めたようにため息を吐いた。

 

「まぁ、楽しかったよ。最低なヤツだったけど……暇しなかったのだけは認めるよ」

 

バツが悪そうに頭を掻くと、にとりは水から上がり雛の隣に腰かける。

 

「たまにね……あの人すごい優しかったのよ。本当よ?」

 

「嘘でしょ?」という反応を見せるにとりを気にせずに、雛は会話を続ける。

 

「喋るようになってからは、たくさんお話したわ。だいたい彼が喋るだけだったけど」

「それって迷惑だったんじゃない?」

「そんなことないわ。流されてる間に見聞きした、色々な楽しい話を聞かせてくれた」

そう言うと雛は、どこか嬉しそうに水の流れる先を眺める。

初めて見せた雛の表情に、にとりの胸が少しだけ重くなる。

(彼を祓わせたのは、あたしだ……)

私はもしかしたら、雛のことを理解していなかったのかもしれない。

本気で嫌がっていたわけじゃなかったのかもしれない。

もっと雛と会話してから動いても良かったのかもしれない。

――なにより、彼女の孤独を理解できるのは、悔しいけどあいつだけだったのかもしれない。

 

仮定に仮定を積み重ねた理論は、しかしながら研究者肌のにとりに考えれば考えるほど重く圧し掛かる。

 

「ごめん、雛……」

「なぁに?」

「悪いのは、あたしだ」

 

深刻な顔をして謝るにとりに対して、雛の表情は軽くて明るい。

 

「今となっては、もはや懐かしいわね」

 

努めて明るい雛の言葉に引きずられて、にとりも少しだけ明るさを取り戻す。

 

「あんなヤツでも、いなくなると寂しいものだね」

「あら、もう一度会いたいの?」

「…………うん」

 

「ついにデレたな!! このダブルパイスラーが!!!!」

 

懐かしがっていた声が、どこからか聞こえてくる。

どこからか? いや、すぐ近く……雛の影からだ。

 

「うわっ、いつの間に!! ってか、生きてたのか!? あぁ、もう、呼吸するようにブラのホック外すな!!」

「あら、にとり楽しそう」

 

くすくすと口許に手を当てて笑う雛。

 

「雛……もしかして知ってたの?」

「ええ、だって、私の厄だもの」

「あああああーーーー、ハメられたーーーー」

 

今しがたの自分の発言を思い出して、にとりは頭を抱え悶絶している。

 

「女の子がそんな下品なこと言っちゃダメです。ただちょっと今後の参考の為にそのハメられた経緯を聞いて」

「下ネタじゃねーよ!!!!」

「へいへーい、バッチこいバッチこい」

ぐにぐにと、厄が八の字を描くような奇怪な動きをして、にとりを挑発する。

(現世の皆様にもわかりやすく言うと『デンプ〇ーロール』のような動きです)

にとりは背中のリュックから釘バットを取り出すと、

「ピッチャーびびってるぅぅぅぅ」

掛け声とともに一閃、腰の入ったスイングを厄にお見舞いするのであった。

 

厄の霧散した後、川には厄神様のかわいらしい笑い声が響き渡る。

 

「もう雛、笑い事じゃないよぉ」

「ごめんごめん。嬉しくて」

「……そうだね。その気持ちは……まぁわからないでもないよ」

 

雛につられて、にとりも笑いだす。

日が暮れるまで、少女たちは語り合う。お互いの距離をもっと縮めるために……。

 

 

 

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