異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
「がってーむ!!
ようやく二人の仲が深まってきたっていうのに!!」
復帰早々、にとりの手によって流されていた俺は、数日掛けて再び実体化していた。
これでやっと……ぐへへ、と思わず天使のように清純な笑みが漏れる。
これでやっと、彼女の身体を撫でまわすように纏わりつくことができるのだ!!
厄神様の厄だから仕方ないね!! だって厄神様の厄なんだもん。
ビバ不可抗力!!
……というのに、だ。
どういうわけか一定の距離以上に彼女に近づくことができなくなっていた。
「あれ……おかしいな。あれ?」
まるで見えない壁でもあるかのように、俺の体が遮られてしまう。
「ふふん、甘い。
私がこの2ヵ月、なにもして来なかったと思って?」
不敵な笑みを浮かべてにとりがクッキーをむさぼっている。
テンション上がりすぎたのか、「げほっげほぅ!! ぐげぇ、変なところ入ったぁ」と女の子らしからぬ咽せ方をしている。
すかさず雛がお茶を淹れると、一気にそれを飲み干した。
「あんたが変なことしないように、私も日々進化しているってことよ!!」
相変わらずテンションは高いまま、にとりがテーブルの上に置いてあるスプレー缶を手に取った。
「これが河童の化学(ばけがく)力の総力を上げて作り出した一品、対厄スプレーよ!!
これを噴霧した相手に、あんたは近づくことができなくなるわ」
えへんと胸を張って掲げられたスプレー缶のラベルには『汚物は消臭くん』と書かれている。
……相変わらずのネーミングセンスだ。
けどその名前だと、スプレーをかけられる雛が汚物と言うことになりはしないか?
まぁ、なんか楽しそうだからそのあたりは黙っていてあげよう。俺、圧倒的大人の対応。
とはいえ、偉そうにふんぞり返っているにとりを眺めているとイタズラ心が芽生えてしまうのも事実で、俺はいつものようにブラのホックを……
「な、なんだと!!」
にとりにも近づけない、だと。
「当たり前じゃない。もうやすやすと私に触れることもできないんだから」
と、高らかな勝利宣言。
ぐぬぬ……かくなる上は……
「雛ぁぁぁぁぁぁぁ。俺は別に悪いことをしようと思って雛の傍にいるわけじゃないんだよぉぉぉぉ。
親を慕う子どもみたいな感じで……っていうか、俺は雛の厄なんだから正真正銘の子どもなんだよぉぉぉぉ、ばぶぅぅぅぅ」
奥義泣き落とし。
土下座の体勢からの上目遣いには、これまで落ちなかった女は居ない。なお、初めてする行為です。
「これぐらいの距離がちょうどいいのかな、って思わなくもない、かな」
困惑しながらノーセンキューを繰り出した雛。
俺の心はズタボロだよ……。
まさか、えんがちょマスターにえんがちょされる日が来るとは……
厄神様に近づけない厄とはなんなんだ……。
「いじいじ……」
言葉に出していじけていると、見かねて雛が助け舟を出してくれた。
「別にね、一緒にいたくないわけじゃないのよ……。それににとりも、適切な距離は必要だろうって、こういう風にしてくれたのだもの」
そうだ。今回にとりが作ったのは、厄を流す装置ではなく、距離を取る装置だったのだ。
それは一緒にいることを肯定してくれていることに他ならない。
もしかするとこの装置は雛の……俺の……悲願でもあるのかもしれない。
厄など纏っていなくったって……
そう、彼女は、鍵山雛だ。それでいい。
「なに笑ってるのよ。気持ち悪い」
クッキーを頬張るにとりの見下したような態度も、可愛く見える。
彼女は彼女のやり方で、いつだって戦っているのだ。
「……ねぇ」
「なんだ?」
雛がティーポットに新しいお茶を淹れに席を離れた隙に、にとりが話しかけてくる。
「結局、どうするのがいいのかしら」
「このまま厄という存在が独立する、……ってのは解決にはならないだろうな」
「そうね。だってあなた、現象だもの。
現象の発生には原因が必要。あなたは鍵山雛という原因を失うことになる。
それはあなたか彼女の消失に繋がるわ。
恐らく……消えるのは……」
「それでも、彼女が全ての恨みを買う必要なんてないだろ。
今、この瞬間だけでも……」
「そうね……あんた、優しいね」
なんかしんみりした話をしたけれども、
いや、そもそも俺が雛から離れなきゃいいんじゃね????
そう思いなおし、スプレーの効能が切れる瞬間を今か今かと待ち続けるのであった。