異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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拾肆、禊(前編)

前回のこともあり、脱衣所・浴室に例のスプレーを散布されまくった俺は、雛の入浴時間を一人で悶々と時間を潰している。

(いや……正面からがダメなら、外から回り込めば……或いは!!)

そう思い、ふたりの愛の巣から外に出て、浴室の窓から中を覗き込もうとした途端……

 

ガンッ!!

 

頭に大きな痛みが走った。

 

「いっつぅぅぅ」

 

頭を抑えながら、頭上から落ちてきたものを見ると、カッパの絵の描かれた巨大な板であった。

瞬時ににとりのニンマリとした顔が脳裏に浮かび、妄想の彼女が「どうよ、河童のマークの征厄板の威力は!!」などとほざいている。

……ファンファーレが聞こえてきそうなネーミングセンスだ。我が妄想ながら頭痛が痛い。

 

「なにしてるの?」

 

見上げると、ジト目をした雛が窓から顔だけ出してこちらを覗いていた。

 

「なにって……散歩ですよ、散歩。ついでに不審者がいないか見回りをですね」

 

なぜか敬語の俺。決してやましいことがあるから礼儀正しいわけではないぞ。うん。

 

「ふぅん」

 

相変わらずジト目の雛(超絶かわいい)がピシャリと窓を閉める。

鍵もかけてしまったようで、摺りガラス越しには何も見ることができない。

しかしパシャパシャと流れる水の音に妄想は否応なく膨らんでいく。

これはこれで……アリだな。

 

先ほどの雛の表情を思い出す。

普段とは違った雛の表情を見られたことに、少しだけ満足して、夜の森へと歩を進める。

彼女にああいった手前、少しくらい散歩してから帰った方がいいだろう。

そんな暢気なことを考えていた。

 

「あなたが厄ですか?」

 

突然背後から声をかけられた。

振り向いてみれば、笠を被った僧侶がひとり。

月の光を弾くように輝く髪は、金から紫へとグラデーションがかかっており、あふれ出る魔力の強さが滲み出ているようだ。

 

聖白蓮。

 

できれば対峙したくない相手であった。

摂理を利用しながらも、現象を超える力を引き起こすのが魔法であるならば、摂理の内側にある厄には抵抗し難い。

 

「あなたが厄ですね?」

 

先ほどと同じ質問には、今度は有無を言わさぬ迫力があった。

ヒリつく空気の中、首を縦に振るのがやっとだった。

 

「博麗の巫女から聞いています。

たいそう……その、煩悩に溢れる行いをしているとか……」

 

ここでいつものような”挨拶”でもするべきだったのかもしれないが、そんな冗談が通じる相手にも見えない。

いや、今まで冗談が通じた人なんていなかったけど。

 

「俺は厄だから、誰かを不幸にしなければならない」

 

喩え自我を持ち、集約された厄であろうと、そこからは逃げられない。

こればかりは厄の厄たる所以なのだ。

 

「自我のある不幸ですか。それは摂理に反します」

 

「摂理を曲げる魔法使いが面白いことを言う」

 

精一杯の皮肉を言うと、女僧は優しく微笑んだ。

 

「ええ。だから巫女は私に依頼したのかもしれませんね」

 

白蓮の手に持った錫杖が大地に落とされ、シャンと一際大きな音が鳴り響く。

 

――私は、あなたを、消しに来ました。

 

白蓮の顔から笑みが消えた。

彼女の綺麗な髪がブワッと逆立ったかと思うと、空いた方の手がゆっくりと前へ伸ばされる。

放出された魔力は呪文すら唱えなくとも俺の身体を束縛していた。

こんなのは魔法ですらない。ただの力だ。

動けない。

 

「俺は現象だ。消し去ったところですぐに復活できる」

 

恐怖を隠すように強がってみせる。

 

「いいえ、あなたという概念はもう集約されません。そのようにします」

 

ゾクリと背中に冷たいものが走る。

本気だ。この僧は本気で摂理を捻じ曲げようとしている。

魔法とはかくも世界に干渉できるものなのか。

いや、彼女が特別なのだろう。魔力濃度の濃い魔界に封印されても正気を保ち続けたというのだから当然か。

 

「あなたは欲のままに生きる度し難い存在です。

それとも……あの子を本当の意味で救えるものだと思ってるのだとしたら……」

 

「思い知らされてるよ。

俺は……俺では、彼女を、救えない」

 

ここで終わりか……。俺は諦めて目を閉じた。

まだ何も果たしてはいないが、そうあるべきなのかもしれない。

少なくとも、俺は……。

 

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