異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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拾伍、禊(後編)

 

 

「あの……私の厄が、どうかしましたか?」

 

この場に似合わぬ穏やかな声が介入する。

緑の髪に赤いドレス……雛だ。

渇ききっていない髪に、上気させた頬。

何かを感じ取って、走ってきたのだろう。

 

俺と白蓮の間に入り込んだ雛に、白蓮は笑顔を向ける。

 

「ええ、迷惑な厄は消してしまおうと思いまして」

 

笑顔が怖い。目が笑ってない。

 

「……困ります」

 

「困る? 困っていたのはあなただと伺っていたのだけれど」

 

聞いてた話と少し違うようね……。

そうつぶやく白蓮は、値踏みするように俺と雛を見比べている。

 

「私は……別に……」

 

「けれどね。周囲の人たちは困っているんじゃないかしら?

その厄が何をしてきたか、あなたは知らないわけではないはずよ」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「あなたはその厄が無くなったところで、何も困ることはない。

日常が戻ってくるだけよ」

 

「……」

 

「さぁ、そこをどきなさい」

 

「……」

 

何ごとかを雛がつぶやく。

 

「どきなさい」

 

諭すような口調の白蓮。

 

「どきません」

 

両手を広げ、俺を守るように立ちはだかる雛。

白蓮は少し驚いたようで、小さくため息をついた。

 

「どうしてかしら?」

 

「厄は……人を不幸にするものです。

でも彼は……少なくとも、誰も不幸にはしなかった」

 

「それはあなたの主観よ。

彼は悪さを働いた。それが全て」

 

「そんなことは……」

 

「なぁ、おい。尼さんさ……」

 

溜まらずふたりの会話に口を挟む。

別に雛が俺の価値を認めないなら、消されてしまっても仕方がないとは思っていた。

が、こうなると話は別だ。

なにより、この化け物じみた尼僧から、雛に危険が及ぶことは避けなければならない。

この際、ハッタリだろうがなんだって構わない。彼女の気を変えなければ……。

 

「気にならないか? 俺という存在が生まれた理由が」

 

「さして気にはなりませんが……

それはあなたがこのまま存在していた方がいい理由になるのですか?」

 

冷徹な目に、俺を……俺という存在を見透かされているようだ。

 

「少なくとも、まだ消えない方がいい理由くらいにはなるかな」

 

「それは……」

 

雛と俺を交互に見比べる白蓮。その値踏みするうな目線が心臓に悪い。

 

シャン。

再び錫杖が大地に打ち付けられると、俺の拘束が解かれる。

 

「……わかりました。

どのみち、あなたの厄の使い方は煩悩に塗れてはいるけど邪悪ではない。

あなたには、それ以外なかったのでしょうね」

 

小さくひと言、不器用な方ですね、と付け加えて、白蓮は踵を返す。

 

「あ、あの……」

 

恐る恐るといった感じで雛が声をかける。

振り返りもせずに白蓮がそれに応える。

 

「今日は見逃してあげます。

度し難い厄のお方、仏門に下る気になりましたら、いつでもおいでください。

歓迎しますよ?」

 

そう言い残して、妖怪の森の暗闇へと白蓮は消えていく。

 

後に残されたのは茫然としている俺と雛。

 

「大丈夫?」

 

雛が振り返る。拘束されていた俺を心配してくれているのだろう。

 

「ありがとう。結構本気で消されるところだったよ。

……けど、よかったのか?」

 

彼女は俺という存在から解放されることだってできたのだ。

どうしようもなく、度し難い厄という存在から。

 

「あなたはちょっと困った人だけど、悪い人じゃないもの。

だから、居なくなると……さみしい」

 

「雛ぁぁぁぁぁぁ、怖かったよぉぉぉぉ」

 

ここがチャンスとばかりに、泣きながら彼女の胸に飛び込む。

火照った身体からは石鹸の香りが濃く漂っており、彼女に抱き着いているという実感が、胸に歓喜の雨を降らせる。

(うっひょぉぉぉぉぉ、ここは天国じゃああああああ!!!!

もう俺はここを住まいにするぞ!! 誰にも渡さんのじゃああああ!!!!)

 

「そうね……怖かったわね」

 

慰めてくれる彼女の手は震えていて……。

 

もしかしたら彼女も気づいているのかもしれない。

集約された厄というものは、本来散らさなければならない。

それを濃厚な密度のまま集約し続けるリスクというものに。

 

俺は悪事を働く。大なり小なり、何か悪いことをしていなければならない。

それは厄くない厄に存在価値はないからだ。

 

厄を纏わぬ厄神様を存在させておくほど、幻想郷は甘くない。

だから、俺は厄であり続けなければならない。

 

けれど……

 

けれど……

 

もし、彼女の厄が、誰をも不幸にすることのない未来があるのなら……

 

もしも、彼女とともに歩める、そんな道があるのなら……

 

 

 

頭を振る。

希望なんて抱かない方がいい。

俺が誰のために、何のためにここに在るのか、ゆめゆめ忘れるな。

 

俺はただ彼女の幸せを祈り、願い、行動するだけだ。

 

 

 

「帰ろう?」

 

どこか寂しそうにつぶやかれた雛の言葉。

その意味に俺は気づいていなかった。

 

 

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