異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
……最近、雛の様子がおかしい。
遊びに来たにとりが一人になったタイミングで打ち明けてみる。
「は?」
相変わらず冷たい反応だ。だが、無言で続きを促してくるあたり、雛のことを心配しているようだ。
「どうも、避けられているみたいだ」
深刻な声音でそう告げたのだが「は?」と同じ反応が返ってくるばかり。
直後ふっと鼻で笑う辺り、馬鹿にされてる感じが追加されている感がある。
イラっとしたのでお返しに靴下のゴム紐を厄の力でゆるめてやる。
よれよれになってしまった靴下を、椅子に座るにとりが嫌そうな顔をして脱ぐ。
そうそう、これ!! これが見たかったのだよ!!
すらりと綺麗な三角を描く脚線。悪態をつきながら苛立たしげな顔をして伸ばされる手。
靴下を脱ぐために上げられた足はスカートの奥の禁足地を容易に……。
「甘いっ!!」
あとちょっと、というところでにとりの投げたスパナが俺の顔面にクリーンヒット。視界が黒く染まった。
なんでそんなもん常備してるんだ。普通の人間だったら流血沙汰ですよ??
「全く、油断も隙も無い」
「はいはい。悪うございました」
そう言いながらスパナを拾い上げ、にとりに返す。
「ん。ありがと」
スパナを手渡しするその瞬間に生じた隙を、俺は見逃さない。
にとりが反対側の手に持っている靴下を、スパナと交換で奪い取る。
「あっ」
くんかくんか。
まだ温もりの残るそれは、長靴のゴムと油の混じったような、独特の匂いをしていた。
そしてその奥には雌を感じさせる女の子独特の……。
「ふむ。やはりちょっと汗の匂いが染み込んでいるな」
「ちょっとぉ!! なにしてんのよ!!」
「テイスティングだ」
なんならこの後、口の中で酸素と一緒に転がすまである。
「きもっ、返しなさいよ!!」
「捨てるものを有効活用して何が悪い」
「悪いに決まってんでしょ!!!!」
にとりは俺の手から靴下をはぎ取ると、ポケットに仕舞い込む。
自宅で処分する気か。くそっ、こんなことならここのゴミ箱にでも捨てさせておくべきだったか。
「それで、あんた元々避けられてたと思うんだけど?」
にとりが例のスプレーをこれ見よがしに自らに振りかけている。
うーん、この恥ずかしがり屋さんめ。
「にとりが居ない時は、いつもイチャイチャパラダイスしてるんだぜ」
「はいはい、妄想おつおつ」
ぐぬぬ……。間を置かずに否定されると、ちょっと寂しくなってくる。
ただでさえ最近雛が構ってくれないって言うのに……。
「あと、なんか辛そうだ」
「そう……やっぱりあんたもそう思う?」
それきり、にとりが黙り込む。
何かを考えるのだろうか。
……明確に避けられていると気付いたのは、あの尼僧の件以降だったように思う。
雛なりに何か考えがあるのだろう。あれ以来、雛は厄を流そうとしなくなった。
恐らく、そのことが彼女に無理を強いているのだろう。
時折隠しきれずに表に出てくる苦悶の表情が、それを明確に物語っている。
その後雛が戻ってくると、この話は切り上げられた。
「悔しいけど……今回は力になれないわ」
帰り際、ぽつりとにとりがつぶやく。
「これはあんたたちの問題だから」
あわよくば無理やりにでも流してもらおうと思っていたのだが、こうも冷たく突き放されてしまうと落胆を隠せない。
「まぁじっくり話し合ってみなさい」そう告げるにとりの顔には無理やり作られた笑顔が浮かんでいて、元気づけようとしてくれているのだろう。
「そうしてみるよ。あんまり真面目なのは性に合わないんだけど」
「だろうね」
クスリと笑った彼女であったが、すぐに真剣な表情に戻る。
「けど、私は彼女の味方だから……。いざとなったら、躊躇わずに彼女を選ぶわ」
「ありがとう」
「全く。バカなんだから」
吐き捨てるようにそう言うと、にとりがとぼとぼと帰っていく。
彼女なりに気を遣ってくれているのが身に染みる。
そうだ。これは俺と彼女の問題だ。
誰かがどうこうしたところで、救われようがない。
やるせない気持ちが、胸の奥に轟々と渦巻いている。