異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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拾陸、憂悶

 

……最近、雛の様子がおかしい。

 

遊びに来たにとりが一人になったタイミングで打ち明けてみる。

 

「は?」

 

相変わらず冷たい反応だ。だが、無言で続きを促してくるあたり、雛のことを心配しているようだ。

 

「どうも、避けられているみたいだ」

 

深刻な声音でそう告げたのだが「は?」と同じ反応が返ってくるばかり。

直後ふっと鼻で笑う辺り、馬鹿にされてる感じが追加されている感がある。

 

イラっとしたのでお返しに靴下のゴム紐を厄の力でゆるめてやる。

 

よれよれになってしまった靴下を、椅子に座るにとりが嫌そうな顔をして脱ぐ。

そうそう、これ!! これが見たかったのだよ!!

 

すらりと綺麗な三角を描く脚線。悪態をつきながら苛立たしげな顔をして伸ばされる手。

靴下を脱ぐために上げられた足はスカートの奥の禁足地を容易に……。

 

「甘いっ!!」

 

あとちょっと、というところでにとりの投げたスパナが俺の顔面にクリーンヒット。視界が黒く染まった。

なんでそんなもん常備してるんだ。普通の人間だったら流血沙汰ですよ??

 

「全く、油断も隙も無い」

 

「はいはい。悪うございました」

 

そう言いながらスパナを拾い上げ、にとりに返す。

 

「ん。ありがと」

 

スパナを手渡しするその瞬間に生じた隙を、俺は見逃さない。

にとりが反対側の手に持っている靴下を、スパナと交換で奪い取る。

 

「あっ」

 

くんかくんか。

まだ温もりの残るそれは、長靴のゴムと油の混じったような、独特の匂いをしていた。

そしてその奥には雌を感じさせる女の子独特の……。

 

「ふむ。やはりちょっと汗の匂いが染み込んでいるな」

 

「ちょっとぉ!! なにしてんのよ!!」

 

「テイスティングだ」

 

なんならこの後、口の中で酸素と一緒に転がすまである。

 

「きもっ、返しなさいよ!!」

 

「捨てるものを有効活用して何が悪い」

 

「悪いに決まってんでしょ!!!!」

 

にとりは俺の手から靴下をはぎ取ると、ポケットに仕舞い込む。

自宅で処分する気か。くそっ、こんなことならここのゴミ箱にでも捨てさせておくべきだったか。

 

「それで、あんた元々避けられてたと思うんだけど?」

 

にとりが例のスプレーをこれ見よがしに自らに振りかけている。

うーん、この恥ずかしがり屋さんめ。

 

「にとりが居ない時は、いつもイチャイチャパラダイスしてるんだぜ」

 

「はいはい、妄想おつおつ」

 

ぐぬぬ……。間を置かずに否定されると、ちょっと寂しくなってくる。

ただでさえ最近雛が構ってくれないって言うのに……。

 

「あと、なんか辛そうだ」

 

「そう……やっぱりあんたもそう思う?」

 

それきり、にとりが黙り込む。

何かを考えるのだろうか。

 

……明確に避けられていると気付いたのは、あの尼僧の件以降だったように思う。

雛なりに何か考えがあるのだろう。あれ以来、雛は厄を流そうとしなくなった。

恐らく、そのことが彼女に無理を強いているのだろう。

時折隠しきれずに表に出てくる苦悶の表情が、それを明確に物語っている。

 

その後雛が戻ってくると、この話は切り上げられた。

 

 

 

 

「悔しいけど……今回は力になれないわ」

 

帰り際、ぽつりとにとりがつぶやく。

 

「これはあんたたちの問題だから」

 

あわよくば無理やりにでも流してもらおうと思っていたのだが、こうも冷たく突き放されてしまうと落胆を隠せない。

 

「まぁじっくり話し合ってみなさい」そう告げるにとりの顔には無理やり作られた笑顔が浮かんでいて、元気づけようとしてくれているのだろう。

 

「そうしてみるよ。あんまり真面目なのは性に合わないんだけど」

 

「だろうね」

 

クスリと笑った彼女であったが、すぐに真剣な表情に戻る。

 

「けど、私は彼女の味方だから……。いざとなったら、躊躇わずに彼女を選ぶわ」

 

「ありがとう」

 

「全く。バカなんだから」

 

吐き捨てるようにそう言うと、にとりがとぼとぼと帰っていく。

 

彼女なりに気を遣ってくれているのが身に染みる。

 

そうだ。これは俺と彼女の問題だ。

誰かがどうこうしたところで、救われようがない。

 

やるせない気持ちが、胸の奥に轟々と渦巻いている。

 

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