異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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拾柒、――顛末

 

 

厄を流さなくなってからの雛の体調は、見るからに悪そうだ。

妖怪としての役割に背いているためなのか、はたまた俺という存在が厄を溜め込みすぎた影響なのか。

 

厄を溜め込む厄神様と、人格を持ってしまった厄。

 

わけを話して、にとりに無理やり流してもらうことも可能だったろう。

けれど、それではダメなのだ。

応急的に厄は散らしたところで、雛が「厄を流さない厄神様」という存在であることに変わりはない。

この幻想郷というカラクリの内側において、雛が危険な状態にあるのは明白であった。

 

 

雛の寝室の前に立つ。

ここのところ、彼女はずっと引きこもっている。

今すぐに中に入りたい気持ちを抑えながら、扉越しに優しく声をかける。

 

「雛、調子はどうだい?」

 

「……別に」

 

今にも消えてしまいそうな声が、やっとのことで扉を越えてくる。

 

「やっぱり、俺を流さないから……」

 

「……関係ない、よ」

 

弱々しく返された言葉が、かえってその関係を肯定しているようだ。

できるだけ焦った感じが出ないように、優しい声音を心がける。

 

「な? 俺を流してくれ。そうしたら……」

 

「ダメよ。あなたはもう流さない」

 

この話はここで終わり、とばかりに言葉を遮られる。

 

「けど、このままってわけにはいかないだろ?

なぁ、雛。話を聞いてくれ」

 

語尾がどうしても強くなってしまう。

彼女の真意がわからない。俺を流せばいいだけの話なのに……。

 

「ダメよ。私には、もうあなたを流せない……」

 

「……雛?」

 

「あなたは流されている間も、意識があるのでしょう?

何百何千にも分かたれて、自らの意志とは関係なしに人々を不幸にして、たくさんの辛い思いをして帰ってくるのでしょう?

 

……だから、私はあなたを流さない」

 

静かに、けれどはっきりとした意志でもって、彼女が告げてくる。

 

「ごめんね……ごめんね。

私の厄なのに、ずっと辛かったのでしょう?」

 

そう告げる彼女の声が震えている。

……雛が泣いている。

俺なんかの為に、彼女が泣いてくれている。

 

あぁ、俺は一体何のために……。

 

もうガマンなんて出来ようはずがない。

元々実体のない俺に、扉など意味を為さない。

 

「入るよ」

 

扉の向こうに声をかけると、返事も聞かずに俺たちを隔てる板を通り抜ける。

眼を充血させた雛が、ベッドに腰かけていた。

 

一瞬こちらを見る雛であったが、すぐに目を逸らす。

つかつかと彼女の前に歩いていくと、俺は彼女を正面から優しく抱きしめた。

 

「ありがとう。けど、もういいんだよ」

 

親が子を説き伏せるように、優しく頭を撫でる。

 

「よくないわ」

 

雛が声を荒げる。ワガママを言う子どものように、感情的に。

流れる涙を拭おうともせずに、嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。

 

「きっとこのまま、私は役割を放棄してただの人形に戻るのかもしれない。

あなたも、もしかしたら、ただの厄になってしまうのかもしれない。

 

間違っているのかもしれない。

けど、こうすることでしか、私はあなたに……」

 

 

不器用な娘だと思う。

いや、それは俺も変わらないか。

 

彼女にとって俺は彼女の生み出したモノであり、

俺にとって彼女は……

 

 

「思えばずっと、あなたは私のためだけに存在してくれていた。

だから、私もあなたの為に、なにかしてあげたかった。

 

けど、何をしてあげればいいかもわからないの……。

 

ごめんなさい」

 

 

涙ながらに彼女が告げる。

違う。俺が欲しかったのはそんな言葉じゃない。

 

……俺は、君に幸せであって欲しかった。笑っていて欲しかった。

 

 

完全に詰んだ。

彼女の幸せを願えば願う程、彼女を苦しめることになる。

 

彼女を守ってあげたかっただけなのに、

俺がしたことは結果として彼女を苦しめてしまっている。

 

 

……自我など持たなければよかった。

彼女を見守るだけにしておけばよかった。

 

後悔が募る。

 

 

「けど雛……俺は、君を幸せにしたいと願っている」

 

「誰も……そんなの頼んでない」

 

「あぁ、俺のワガママだ。

だから、君が抱え込むことはないんだ。

 

「だったら、これは私のワガママ。私はこれ以上私の為に誰かが苦しんで欲しくない。

あなたに苦しんで欲しくない」

 

――たとえ私が死んでしまったとしても。

 

小さく彼女がつぶやく。

厄を流さないことがどのような結果をもたらすか、どうやら身体で理解しているのだろう。

 

 

「……ごめん」

 

「どうしてあなたが謝るの?

あなたは何も悪くないわ」

 

「雛……正直俺は、もうどうすればいいのかわからない。

けど、このままじゃダメだ。君も、俺も、幸せにはなれない」

 

そうだろう? と囁きかけると、コクンと雛が首を縦に振る。

 

「だからさ……一緒に考えよう

もうお互い、ひとりで抱え込むのはよそう。

俺は君の厄なんだから……」

 

一呼吸おいて、そして俺は彼女に一つの提案をすることにした。

 

「だからこうしよう。問題の解決の糸口が見つかるまで…………」

 

 

 

 

 * * * * * 

 

 

かくして俺は今日も彼女に流される。

 

問題の先送り? そう言われればそうなのかもしれない。

けど、前と違うことは確かにある。

 

 

彼女がよく笑うようになった。

 

 

にとりもそれにすぐ気づいたようで、「なにをしたのさ」と目を丸くして聞いてきたぐらいだ。

 

「たいしたことじゃないさ」

 

そう言って、帽子ごしににとりの頭を撫でてやる。

一瞬だけ意外そうな顔を見せたにとりだったが、すぐに俺から距離を取って帽子の位置を直す。

 

「変なイタズラしなくなったのはいいけど、なんだか、それはそれで気持ち悪いね」

 

「まぁ、その必要もなくなったからね。

けど、して欲しければ、いつでも……」

 

「結構よ!」

 

「結構して欲しい?」

 

「結構って言ってるでしょ!!」

 

「こけこっこ?」

 

「こけーーーっ!!!!」

 

そんな俺たちを見て、雛が心底可笑しそうに笑っている。

 

「もうっ、本当にバカなんだからっ」

 

 

 

 

不幸は誰にも平等に訪れる。

もしかしたら、それは厄を流さなくっても変わらないのかもしれない。

だとしたら、厄とはなんだろう。

俺は、なんなのだろう。

 

俺は様々な人を不幸にする。

けれど、全てが悪いことばかりではない。

 

俺が厄である限り、何度でも彼女のもとに帰ってこれる。

 

 

「おかえりなさい」

 

 

 

 

 * * * * * 

 

 

「問題の解決の糸口が見つかるまで……

 

たくさん話をしよう。

 

 

心の距離を埋めていこう。

 

どんなことがあっても、俺は君に帰る。

 

 

お互いが、お互いを支えあおう。

 

 

 

 

親子のように。

 

 

……恋人のように。

 

 

 

 

 

 






これにてひとまず完結です。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
(1話のみのつもりだったんですorz

前編やって後編やってないやつとか、過去編とか、紫苑ちゃん編とか、
諸々まだやりきれてないことは残っているので、
折を見て書いていきます。

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