異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
「えーっと、そろそろ出ていってくれないかな」
路地裏の小さなテント。
そこが彼女と俺の愛の巣だった。
「ちょっと、勝手なこと言わないでよ。
ここは、私の、家だよ」
おっと、つい心の声を口に出してしまっていたらしい。
俺としたことが、初歩的なミスを犯すだなんてな。
むぅ。とこちらを睨んでくる青髪青眼の少女。
俺は今、この少女と切っても切れない関係になっている。
雛のもとに帰れないのと、まだ爛れた関係に至ってないのが悔やまれる。
「至らないから!!」
おっと、また心の声を(以下略)
……いや、正直暇なのだ。
自由に動き回れない上に、やることがない。
人ひとりがやっと横になれる大きさのテントの中には、
ボロボロの服を纏い、みすぼらしい恰好をした妖怪。
差し押さえの張り紙は、彼女の全ての持ち物――服に至るまで――に貼られている。
彼女の名は依神紫苑。貧乏神である。
「俺にだって本来帰るべき家はある。
けど、君のせいで帰れないんだよ」
「なんでさ」
「俺はこの幻想郷に漂う無害な自然現象、『厄』だ」
お兄さんは悪い厄じゃないよ。ぴょんぴょん。
「この間も言ったと思うが、俺は君に引っ張られているらしい」
「『ヤク』だったら、妹のところじゃないの?」
彼女の妹は疫病神。贅の限りを尽くし、相手を不幸にする捻くれた性格の妖怪であるらしい。
「正直、ああいうジャラジャラしたのは趣味じゃない」
「そんな理由で!?」
「大事なことだよ。君の方が可愛いし」
俺はキメ顔でそう言った。
「聞こえてるし」
……そう言うと彼女は布団の上で弱々しく笑った。
依神紫苑は弱りきっていた。
本来人に取り憑くことで、その信仰心や飢えを凌いできたのだ。
それが、こうして一人であることは、自殺行為に近い。
「水でも飲むか?」
空き缶に溜まった雨水を彼女の口に含ませる。
そして間の悪いことに、流すべき存在の居ない厄は、どんどん大きくなり、彼女の負担になっているのだろう。
「ありがとう、おじさん」
カサカサの唇、かすれた声で紫苑がそうつぶやく。
「お兄さんな」
訂正して、彼女の頭を優しく撫でてやる。
おやすみ。
……空腹を忘れるには、寝るのが一番だ。
(とはいえ……)
スゥ、と安らかな寝息を立て始めた紫苑を見守りながら頭を巡らす。
(このままでは本当にヤバいかもしれないな)
貧乏神は己含めて周囲を否応なしに貧乏(不幸)にしてしまう。
貧乏とは、厄のひとつの結果でもあるから、それを溜め込む彼女と俺は相性がいい。
……いや、良すぎたと言うべきか。
ちょっとしたことを切っ掛けに、俺は雛ではなく、紫苑の方へと集まり始めてしまったのだ。
それが俺がここに縛られてしまった理由だ。
当初は楽観的に考えていたものの、俺は自力で流れることができない。
結果としてどんどん濃くなっていく厄は、彼女に激しく弱らせることとなってしまった。
彼女の力は、自らにも向かうものであるから、相当しんどい思いをしているに違いない。
それでも健気に微笑んでくれたのだ。
……なにか、打開策を考えなくては。