異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
The☆修羅場。
SPAAAAAAAAAAAAAAAAAN!!
雛の手と俺の頬が心地よいまでのシンフォニーを奏でた。
くくく……さすが雛だ。
俺の厄が1/3は虚空に持ってかれたぜ……。
「……いつまで経っても帰ってこないから、心配したじゃない」
そう言うと、雛は目を伏せて拳を握る。
「すまなかった……何か連絡手段があればよかったんだが……」
「いいのよ、別に……。
なんとなく、どうなっているかは察したし」
はぁ、と大きく雛が溜息を吐く。
「お食事にしましょうか」
雛が脇に抱えていたバスケットの中から、水筒、サンドイッチ、果物を広げていく。
そして彼女は伏している紫苑の口の中に、大ぶりのブドウを一粒入れた。
「穣子ちゃんに貰った果物だから、栄養満点で美味しいわよ」
紫苑が咀嚼して喉が動くのを確認すると、雛は次の粒を入れてやる。
何度かそれを繰り返すと、紫苑の手がブドウや他の果物を掴み、自らのペースで食べ始めた。
「はぁー、幸せだよ」
やがて固形物も食べる元気が出てきたのか、彼女はサンドイッチに手を伸ばす。
その頃には上体を起こして、両手でガツガツと食べるようになっていた。
さすがの回復力だ。
仮にも名前に『神』がつくだけのことはある。
紫苑の元気になっていく様子を眺めながら、どこか腑に落ちないものを感じる。
……彼女は『幸せ』だと言った。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまです」
穏やかな顔で微笑む紫苑と、まるで親鳥のような表情を見せる雛。
ふたりで水筒のお茶を啜る様は、一見すると和やかな食後の風景である。
だが俺の目には、真っ黒で不穏な空気が流れているように見えるのだ!!
(逃げたい……。
いや、別にやましいことはしてないんだけど……とりあえず逃げたい)
……もしかして、気のせい?
自意識過剰な俺が抱いた幻想風景?
俺が抱く幻想郷は、皆が仲良くハーレムライフだから!
これは錯覚なんだよね。うん。
本当はみんな仲良しだもんね!! らぶあんどぴーすっ!!
「お姉さん」
栄養のあるものをたくさん食べて、目に見えて血色のよくなった紫苑が呼びかける。
そう呼ばれることに嬉しさを感じるのか、「なぁに?」と雛が続きを促す。
「その人と、どういう関係なの?」
はわわ///
やっぱり不穏な雲行きだったんじゃないですかぁ!!
「どうって……彼は……私の厄……よ……」
答える雛の歯切れは悪い。
「雛ぁ……」縋るような俺の視線を受けて、
「別に、特別な関係じゃないわよ」と、そっぽを向いてしまう。
あー、さっきまでのこと、めっちゃ怒ってますやん。
「じゃあ、お姉さんの恋人じゃないんだよね?」
ニヤリと笑う紫苑は、もうこれ少女のしていい表情じゃない。
部長と不倫した挙句、奥さんと直接対決しちゃう系のOLがする表情じゃないですかあ!!
「ええ、まぁ……そういうことに……」
雛が答え終わる前に、紫苑が俺の右腕に抱き着いてくる。
トレーナー越しに、痩せてはいるが確かなふくらみの感触が……っ!!
全集中!! 厄の呼吸!!
今は、この腕だけに神経を集中させるぞ!!
「ちょっと、離れなさいよ」
焦る雛が、俺から紫苑を引き離そうとするが、
「なんでさ。
やっと会えたんだ。
私が一緒にいても、大丈夫な人が」
涙ながらに紫苑が訴える。
「それは……」
雛にも思い当たるところがあるのだろう。
お互い、一緒に居られる人がいないから、誰からも距離を取る。
この二人は、そんな強情なところまで似通っている。
「それでも、ダメ」
雛が空いてる方の俺の腕を掴む。
あっ……あっ///(声にならない悦び
「彼は、私の(厄)なんだから!!」
雛が叫ぶ。
括弧内の都合の悪い言葉は、腕に意識を集中させているので聞こえなかったことにしよう。
「いいじゃん。減るもんじゃないし!!
むしろ減ったほうがいいでしょ!!」
「良くないわよ!!」
念願のハーレムルート到来っ!!
俺の頭の中で天使たちがラッパを吹き鳴らしている。
「おいおい、やめるんだ君たち」(イケボ)
「ほら、放しなよ」
「なに言ってるの、あなたが放しなさい」
ん。徐々に力が強くなってない?
はわわ///
痛い。腕の付け根がめっちゃ痛い。
「やめるんだ、お前らぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」(必死)
――メリメリッ
俺の身体から変な音が聞こえてるのは気のせいであって欲しい。
裂けちゃう/// 裂けちゃうぅぅぅぅ!!
――メリメリッ
――ベリッ!!
『あっ……』
雛と紫苑が同時に声を上げ、尻もちをつく。
『あーーー!!!!』
ふたりが目を丸くしてこちらを指さす。
『分裂しちゃった///』
ふたりになった俺が、雛と紫苑の前で恥ずかしそうに頭を掻くのであった。