異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
長屋の連なる村の細い路地の前に、私――博麗の巫女――は立っていた。
周囲に蔓延する淀んだ空気が私に溜息を吐かせる。
(まぁ、そんなことだろうと思ってはいたけど)
まるで誰かの性格のように濁った場の乱れを気にせずに、路地裏へと足を踏み出す。
それを阻害するように、私のサラシが胸の谷間をなぞるように裂けた。
「TMA(谷間はありまーす)!!」
嫌悪を感じるより早く――誰に叫んでいるのかはわからないけど――私は絶叫していた。
コホン、と小さく咳払い。
いけない。私としたことが邪念に心を支配されるところだったわ。
いや、実際あるものをあるといっただけで、邪でもなんでもないんだけど。
ゾクリ、と首の後ろを嫌な気配が通り抜ける。
この目には見えぬ禍々しい気配、そしてそれらのもたらす実害に私は嫌と言うほど覚えがある。
はぁ。
そりゃ溜め息だって出る。
私にだって『異変』を選ぶ自由があったっていいでしょうに。
路地裏という、ただでさえ陰気くさい場所だというのに、
こんなあり得ない不幸が続くので今では誰も近寄ることがなくなっている。
度重なる不運に、周囲に住んでいた人間たちもついには避難して、……それで私に白羽の矢が立ったというわけだ。
「大体厄神様がなんだってこんなところまで来てるのよ……」
厄の押し売り?
仏滅と13日の金曜日が一緒に来ても、こんなに酷いことにはならないでしょうよ。
っていうか、たまには早苗を頼ってもいいんじゃない?
近いからって理由だけでうちの神社を頼らないで欲しいんだけど。
それも大した賽銭も納めてない信仰の薄い農民が!!
はぁ。
また溜息。
文句を言ったところでしかたがないのはわかってるんだけど(依頼料はもらってるし)。
さらに歩を進める。
プチン、という音がして、腰に巻いたふんどしの紐が切れた。
(よもやふんどしの布地まで切ってくるとは……恐ろしい執念ね)
ニンマリと笑う。
なぜなら今日の私は長袖長ズボン。
およそ巫女らしい恰好とは言えないが、この際気にしてられない。
気にしてたら別のことが気になっちゃうし……。
少し動きにくくなった脚を前に出し、行き止まりへとたどり着く。
それは吹き溜まりと呼ぶにはぴったりの場所であった。
そして……汚れ切って、ところどころ穴の空いているテントが目に入った。
「ん、これって……」
私は独り言ちる。
中を確認したくはあるけど、会いたくもない存在に会うのも気が引けるし、
なによりこれ以上近づくのは貞操の危機すら覚える。
だから、私は頭を巡らせて”なぜここにテントがあるのか”を考えて、
一つの結論に達する。
あー、はいはい。なんとなくわかっちゃったわ。
この『異変』に触れずして解決する方法を思いついたわ。
私ったら天才ね。
んふっ、と含み笑いとも溜め息とも取れる奇声を発すると、私は妖怪の森へと飛ぶのであった。