異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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おまけ:紫苑と爛れた三角関係編 第10話

 

「そういうことだから……その……降ろして」

 

部外者の視線を受けて恥ずかしいのか、俺の腕の中で雛が顔を赤くしてつぶやく。

うん、さすがマイエンジェル。可愛すぎか。

 

「めくるめく官能の世界へ、ちょっくら行ってくる!!」

 

15分待ってろ!!

来訪者に威勢よくそう言って、俺は雛を連れて寝室へ……

 

「ちょ、ちょっとぉ!!」

 

雛が腕の中でバタバタと暴れている。

 

「いいじゃん、先っちょ!! 先っちょだけ!! えんがちょするだけだって!!」

 

「だーめー、いーやーよー」

 

……そんなに拒否することないじゃないか。

せっかく帰って来たのにと、しょぼくれる俺。

 

お姫様抱っこから無理やり逃れた雛が、そんな俺の姿を見て少し申し訳なさそうにしている。

 

(これは今夜抱ける!!)

 

しょぼーんとした表情はそのままに、俺は確信していた。

 

「心の声が聞こえてるっての!!」

 

外野がうるさい。

 

「あー、もう、わかったよ」

 

俺は来訪者のふたりに向き合う。

河城にとりと依神紫苑。

一部意外ではありながらも、やっぱりかというような顔ぶれでもある。

 

俺と雛のやりとりを見て、おずおずと紫苑が

 

「やっぱり……ふたりはそういう仲なの?」

 

と聞いてきた。

 

「そうだ」とキッパリ俺が答える。

 

その言葉に

 

「……違うのよ?」と間髪入れずに雛が訂正を入れた。

 

「えっ??」

 

この世の終わりのような顔をする俺を無視して、雛が紫苑に近づく。

 

「彼は……そうねぇ親みたいな感じかしら」

 

「……」

 

紫苑が黙り込み、そして俯く。

 

「でも……ふたりは本当に……」

 

「ねぇ、紫苑さん……。

あなたにとって、彼はどうなの?」

 

今度は雛が問いかける番のようだ。

それに対して紫苑は視線を虚空にさ迷わせると

 

「……考えれば考えるほどわからなくなった。

でも、彼と一緒に居る時間は楽しかった。

 

 

……ひとりじゃなかった」

 

 

雛が紫苑の頭に手を乗せて撫でる。

その表情には、決して他人には理解できない表情が浮かんでいる。

 

 

「私もね、そうだったの」

 

「今でこそ私にはにとりがいる。それに彼がいる」

 

「じゃあ、なんで私のところに来たのさ。

あの優しい言葉はなんだったのさ」

 

紫苑が不貞腐れたようにつぶやく。

その目には捨てられた猫のように怨嗟が混じっている。

 

 

嘘であるものか。

俺はお前も……。

 

 

言葉を飲み込む。

少女を選ばなかった地点で、俺に口を出す権利はない。

 

 

雛はそんな紫苑の目をまっすぐに見つめて、

 

 

「けど、ごめんなさい。

 

……これは、『私の厄』よ」

 

 

そう、はっきりした声音で言った。

 

 

「……私……やっぱり邪魔者みたいだね」

 

紫苑が席を立ち、玄関へと向かっていく。

俺にはその背中を見守ることしかできない。

 

……けれど雛は違った。

寂しそうな紫苑の背中に

 

「でもね、彼の言葉はきっと全部本気だったと思う」

 

と投げかけた。

 

どんなやりとりがあったかは知らないけど、大体想像できるわ。

そう微笑んで。

 

紫苑の足が止まる。

肩が震えている。泣いているのだろうか。

 

「……」

 

俺に彼女にどうこうしてあげる資格はない。

紫苑と一緒に居た日々は、彼女につらい思いをさせただけであった。

だから、彼女の幸せを願うのであれば、俺と言う存在が邪魔なことはわかりきっている。

 

 

 

 

 

……だからどうしたというのだ。

 

「紫苑……」

 

俺は気が付くと紫苑を後ろから抱きしめていた。

雛の目線も、今は気にならない。

 

俺は今この瞬間、彼女を抱きしめてあげたいと思ったのだ。

その後のことはきっとなんとかなる……してみせる。

 

「おじさん……」

 

俺の腕に顔を埋めて、紫苑が泣いている。

空いた方の手で、その頭を撫でてやる。

 

「元気でな」

 

「うん」

 

 

 

 

フラグをへし折った心が痛む。

……痛むけど、俺はまだ何も諦めてはいない。

 

 

 

紫苑を見送った後、恐る恐る振り向くと

 

……ドン引きした表情を見せるにとりと、般若の形相をした雛がこちらを見つめていた。

 

 

「いや……これは、あの……その……」

 

言い訳しようとする俺に、雛が無言で床を指さす。

座れ、ということだろうか。

 

あ、はい。

 

正座して、三つ指を突こうとした俺の目の前で、にとりが雛に鉄バットを渡した。

 

「私だって、寂しかったのよ?」

 

今までにないくらいの低い声で雛が言う。

 

「それはさすがに不可抗力……」

 

ガンッ。

俺の頬をかすめて、釘バット(厄流しなんたら君)が床に打ち付けられる。

 

ヒッと声が出て、タマタマがヒュンヒュン。

 

「あの……雛…………さん?」

 

「何かしら?」

 

「今夜先っちょだけいいですか?」

 

「いいわけないでしょ!!」

 

雛のフルスイングが俺の頭に直撃した。

 

 

 

……久々の厄流しプレイ成功です。

 

 

 

 


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