異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
他に語ることなどない。
「というわけで、こいつの出番だ!」
パパパパン!!と狸猫が秘密道具を出す時の効果音を口ずさみながら
にとりが持ち出してきたのは、棒にトゲトゲがぶっさしてある……どうみても釘バット。
「ええと、これが厄取りマシーンなのね」
ちょっと引きつった笑顔で雛が確認する。
「マッスィーン」とそれをネイティブな発音で訂正しながら、フフンとにとりが強調するように胸を張る。
「厄取りホイホイ一番星くんだよ」
そのネーミングセンスはどうかと思うよ。あのその見た目の凶悪さ……。
「じゃあお願いします」
意を決した雛が頭を下げる。
「任された!」
言い終わるや否や、にとりが雛に向けて釘バットの切っ先を向ける。
「すいっちょん!」
シュポンという音とともに、バットの先端が開かれ、中から飛び出した粘液が雛を襲う。
「えっ!? きゃあ!!!!」
ネバネバした粘液に体中包まれる雛。
どう控えめに見ても、ローションじゃないか、これ。
(よくやった、にとり!! 衣服だけ溶かすやつかな?
いや、待て……これは……)
「うぅ……ベタベタするぅ」
涙目になりながら、粘液と格闘する雛を、にとりが制す。
「まぁ、じっとしててごらんよ」
「そう言っても……うぅ、気持ち悪い」
ローションまみれになるイケナイ作品を想像させる。
……のだが、実は俺はというと、あんまり余裕がない状況に陥っていた。
(なっ、体が、動かない……!?)
ローションが厄である俺の姿を固形化させてしまっているのだ。
まさしくホイホイ。恐るべし!!
「くくく、これが厄取りホイホイくんの実力さ」
厄から切り離すように雛の手を引くと、キラリ、とにとりの瞳が光る。
(その表情……もしかして、俺の存在に気づいて……?)
いや、これだけ傍に居る雛すら気づいていたないのだ。
きっとそんなわけ……。
(それにしても、これは本当に、ヤバイんじゃないか……?)
古来より日本にはこんな諺があってな。
(ヤられる前に、ヤれ!!)
俺の厄としての能力をにとりに向けてフルパワーで開放する。
「んんっ」
にとりは小さく喘ぐと、居心地が悪そうに腕を胸の前で組んだ。
(くくく、やつのブラのホックを外してやったぞ!!)
……今はこれが精いっぱい。
「なんか意思でもあるんじゃないのかい?」
まぁ、偶然だろうけど。
ポツリとつぶやき、鞄のヒモをきつめに調整して胸部を固定すると、にとりは手に持ったバットを大きく素振りしてみせる。
「厄の動きを封じて固形化したところで、一番星くんの出番ってわけ」
くそぅ、隙を生じぬ二段構えか!!(それよりも揺れる胸に興奮を抑えきれない。まぁ俺は雛一筋だから、興奮するだけなんだけど)
こんな固形化された状態で殴られたら、さすがにただでは済まない……と思う。
「バッチ来いやぁぁぁぁ!!!!」
掛け声とともに、にとりの全力スイングが俺を襲う。
(それはピッチャーのセリフぅぅぅぅ!!!!)
心の叫びとともに、俺の体は粉々になって河を流れて行きましたとさ。
「ありがとう、にとり!!」
雛の嬉しそうな声が、河を流れていく俺の耳にも届いた。
(君の笑顔を見られないのは少しだけ悲しいけど、君が笑ってくれてよかった)
めでたし、めでたし。
数日後、そこには元気に雛にまとわりつく、俺(厄)の姿が……。
「いやぁぁぁ、全然めでたくないぃぃぃぃ」
流れていかない厄を眺めながらため息をつく雛の瞳には、既に生気が抜けている。
それはそれで、本当のお人形さんみたいで背徳的な可愛さがある。
「厄自体に異変が起きているのだとすると、巫女の出番だね」
おのれ、ダブルパイスラーめ。余計なことを提案しおって。
怒りに任せて再びにとりのブラホックを外す俺であった。