異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
(あれ? 前書きってそういうことを書くところって認識であってますよね????)
「天清浄、地清浄、内外清浄、六根清浄と、祓給う―――」
巫女のいつ終わるとも知れぬ祭事は続いている。
始めこそ物珍しさに緊張や興奮したものだが、正直言って少し退屈である。
正座して聞いている雛とにとりであったが、にとりがモゾモゾし始める。
(ん? これは、もしや……)
最適な居住まいを探索するような動作。
(くくく、そうか。ついに足に限界が来たか!!)
背中のリュックを降ろさないから、その分足に負担が来ているのだろう。
(亀……じゃなかった。河童としての矜持なのかな? そういえば室内なのに帽子も被っているし。
帽子の中身は……まぁ女の子には触れられたくないこともあるよね。ステキな紳士is俺)
とは言え、モジモジしているにとりを見ていると、嗜虐心が湧き上がってくるのも事実。
ふふん、俺を滅するだなんて酷いことを考えた罰だ。
足をさすってあげよう。
にとりの足にモヤをかけ、意識を集中させて撫で上げる。
「!!!!!!?」
声を押し殺して、涙目のにとりが俺を睨みつける。
その反応は十二分に可愛らしかったが、少しだけ罪悪感が芽生える。
ただちょっと……イケナイことをしている気分になって、再び痺れている足をさすってあげたくなってしまう。
女子の足をさする……。文字にするとそれだけのことかもしれないが、結構すごいことだぞ、これ。
向こうからは存在を認知されていないのだから、やらない理由がない。
再び手(モヤ)を彼女に伸ばしたところで、俺の体に異変が起こった。
(くっ、なんだ……これ……)
視界が白い色に覆われて、世界が徐々にフェードアウトしていく。
「罪と言ふ罪は在らじと、祓へ給ひ清め給ふ事を、天津神國津神八百萬神等共に、聞こし食せと白す」
これが巫女のお祓いの力なのか?
にとりに粉々にされた時の流されていく感覚とは違う。
これは……消滅、か。
あっさりとした幕切れには、後悔や未練などといった感慨を抱く暇すらなかった。
ただ、己の存在が薄れていき、もうすぐに消えてしまうのだという実感だけがのしかかる。
(雛……どこだ……?)
せめて最後は彼女の傍で迎えたい。
意識を集中させて彼女を探すが、見つからない。
(雛……)
ひとり……か。
俺は、ひとりで消滅するのか。
彼女を残して?
この世界に生まれてから今までのことを想う。
………………
…………
……
(……)
「さぁ、厄滅の儀はこれにて終了よ」
爽やかな声が言う。
「ひゃあ、もう限界。足がジンジンするよぉ」
愛らしい声が言う。
「ありがとうございました」
愛しい声が言う。
「これで今まで通りに過ごせるはずよ」
「よかったね、雛」
「ええ……」
「それにしても、なんだったんだろうね……あれは」
「誰かの意思か、突然変異か……」
まぁなんにしても、と声が言う。
「あなたに憑いた異変は解決したわ」
異変。
その女は確かにそう断言した。
俺を異変だと言うのか? 博麗の巫女よ。
俺がここにあるべき存在ではないと?
もし本気でそう考えているのなら……
残念だったな。お前に、俺は、祓えない。
「えっ、なに? この気配……」
巫女の表情が一気に引き締まる。
さぁ、宴を始めようではないか。