異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
「危うく天に召されるところだったぜぇぇぇ」
寸前のところで踏みとどまれた。
これはまさしく愛の力!! 雛、愛してる!!
戻ってきた視力で周囲を見回してみると、全員の視点が俺に注がれていた。
……ん?
「今、喋った……よね……」
にとりが俺を指さして唖然としている。
……人を指さすだなんて失礼な娘さんだな。
(主に痺れている足に)一撫で加えてやろうと彼女に一歩踏み出す。
「うひぃ、こっち来るな」
恐怖の表情を浮かべるにとりが雛の後ろへと隠れる。
(……うん?)
今までになかった反応だ。雛でさえ怯えたように、にとりを庇いながら一歩下がった。
霊夢はというと、お祓い棒(御幣)を握った反対の手にお札を携え、きつい表情で構えている。
「あんた……悪霊なの? 自然現象にしては随分と人間じみているけど」
(人間じみる……?)
改めて自分の体を眺めてみると、黒いモヤであることには違いないのだが、人の形をしていることに気づく。
これは……そう。
「パワーアップ!!」
「は?」
「数多の試練を乗り越えて、俺はついに喋れるようになった。人の形をとることができた」
「なんだっていいわ。退治するだけよ」
そう言って巫女が手に持ったお札を投げつけてきたが、それは俺の体をすり抜ける。
続いて発生した結界でさえ、俺を閉じ込めるには至らない。
「な、なんでよ。悪霊のくせに!!」
俺の本質は厄。そう、自然現象だ。
厄払いはできても、悪霊や妖怪退治のようにはいかない。
だからそう。博麗霊夢には俺を滅することは不可能なのだ。
「俺のターン!! パワーアップした俺の力を見せてやるぜ!!」
ニヤリと唇を吊り上げ、パチンと指を鳴らす。
すると戦闘態勢を取る巫女の後ろで、にとりが胸を押さえた。
「んっ、こいつまた……」
「いつまでも同じだと思うなよ? ダブルパイスラー!!」
「なんだって……まさか……お前……」
慌ててにとりが背中に手を持っていき、苦悩の表情をした。
「なんで……うまく、くっついてくれない」
「もうホックを外すなんて面倒なことはしない。切った、のさ。
今の俺にはそんなことだってできてしまう」
「いやぁぁぁぁぁぁ、気持ち悪いぃぃぃぃ」
室内ににとりの悲鳴が響く。
悲哀と恐怖と憎悪の入り乱れた声だ。
あぁ……この声を肴にさっきの酒を飲みたい。
「結構貴重品なんだからね!! そもそもなんであたしなのさ!!
今の流れだと巫女の……を切るところでしょ」
「いや、サラシを切るのは……申し訳ないしな」
紳士はそんなことしません。
「なんでよ!! ブラの方が申し訳ないと思いなさいよ!!」
そもそも腋からチラチラ見えているサラシを切ったら、腋から覗く小宇宙(コスモ)が大変なことになってしまいそうだという配慮もある。
この作品はR指定のない健全な作品なのです。
「この変態!」
にとりが鞄から小瓶を取り出し、中に入っている妙な液体を俺に向かって振りかけた。
「こ……これは……」
「あんたの大好きな、厄取りホイホイ携帯版よ」
「好きじゃない!! むしろ嫌いな部類だ」
「これで身動き取れないわね。さぁ出番よ、巫女さん!」
巫女がお祓い棒片手に仁王立ちしている。
満を持しての登場です。にとりに変わりまして、代打、博麗霊夢。
「バッチ来いやぁぁぁぁ!!!!」
巫女が俺の頭に狙いを定めて、フルスイング。
(それはピッチャーのセリフぅぅぅぅ!!)
粉々に砕かれ、幻想郷中へと俺という厄が霧散していく。
めでたしめでたし……なんだが、俺は別のことが気になってしかたがない。
(もしかして、幻想郷はピッチャーがバットを振る文化なの??
じゃあバッターは??)
あ、幻想郷で野球をする伏線ではありませんので、悪しからず。