異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について 作:水無飛沫
それから数日後、俺の復活を見計らうようにしてにとりが顔を出した。
手にぶら下げたお菓子(カッパ饅頭)を雛に渡すと、心配そうに声をかける。
「雛、大丈夫? 変なことされてない?」
「やれやれ。開口一番それか」
「あんたは口開く前にブラ外してくるじゃない」
「挨拶みたいなもの、かな」
最高の笑顔で親指をクッと立ててやる。
「気持ち悪い!!」
無言で服の中に手を入れるにとり。ほぅ。今日はフロントホックですか。大したものですね。
ギロリという擬音が似合いそうな視線でこちらを一瞥すると、にとりが持ってきた扇風機のような機械のスイッチを入れる。
ブゥンブゥンという音を立てて羽が回り始めると、作り出された風がにとりのツインテールを揺らした。
「いやぁ、今日は暑いねぇ」
雛に向けて扇風機の首をセットすると、その隣ににとりが座る。
少し気恥ずかしそうなふたりを、風が揺らしている。
「せっかくだしお茶にしましょう」
雛がお茶の準備をして、にとりの持ってきたお饅頭をふたり並んで食べる。
その光景に、俺は自然と……
「ささ、お兄さんも一緒にどうだい?」
イタズラっぽい笑みを浮かべて俺を誘うにとり。
(……こ、こいつ、なにか企んでやがる)
「ほぅら、一緒にお饅頭食べようよぉ」
この程度の風量で厄が霧散するわけはないのだが、どうにもにとりの態度が気になる。
というか、明らかにおかしい。お兄さんとか呼ばれたことなかったぞ。
お兄さん……あぁ、甘美な響きだ。
そう、これは決してやましい感情ではない。お兄さんとしての……そう、妹を想うような感情である。
「にーとりーぃ」
我ながらキモい声が出るものだ。
ニヤつきながら彼女の隣に陣取った俺であったが、その笑顔は一瞬で消える。
「おのれ……謀ったな」
この扇風機、一見すると普通の扇風機であるが、その実おかしな成分が……。
「ありゃりゃ気づくの早いね」
この異様な心拍数の上がり具合、火照る体……そう、これは……まちがいない。
「ペロッ、これは媚薬……」
だとすると一緒に風を浴びているにとりも……。
くそっ、妹が大人の女に変容している成長を間近で見てしまった兄の心境だぜ。
立派な誘い受けになりやがって(嬉し涙)
「違いますぅ。あとキモいのでそれ以上こっち見ないでくださいぃ」
コホン、と咳払いをしてからにとりが扇風機を指さす。
「これは『厄流旋風くん(14)』だ」
やくながしつむじかぜくんじゅうよんさい。
自慢気に胸を張って解説するにとりは、楽しそうだ。
それを聞く雛も興味津々といった感じ。
うん、友情ってのは素晴らしいね。
「というわけで、雛の回転と逆回転の磁場を発生させることによって、このキモい厄にのみダメージを与えることができる風を作り出すことに成功したのである!!」
おぉと感嘆の声を出しながらパチパチと手を叩く雛かわいい。
「いや、それは確かに俺の厄が散らされるすごい発明だと思うんだけどさ……」
ひょい、と扇風機の前から一歩横に離れる。
「風が当たらなかったら意味ないのでは?」
「あ゛」
にとりの自慢気な表情がフリーズする。
面白いのでそのまま待っていると、約5分ののち、しょんぼりした表情に切り替わった。
「本当にごめんね。次はもっといい道具開発するからさ」
あんなのと一緒じゃ雛がかわいそうだよ。
という言葉が続いていたが、聞こえなかったフリをしてあげよう。
「私は大丈夫よ。見られてるだけだから……」
「それが問題なんじゃない」
「私の厄だから、私には悪いことしないみたいだし」
「そうは言ってもさぁ」
なおも心配な顔をするにとりに、ここはしっかりと答えてあげなければなるまい。
「いや、ほら……俺は雛の厄だから、傍に居ないといけないっていうか……義務っていうか……
離れられない関係。そう、恋人みたいな!!」
「それはないわね」
「早く流されちまえ」
即答されてしまい消沈しながらお饅頭を食べる。
あ、これ美味しい。
そんなやりとりをしているとコンコンと扉が叩かれる。
来客のようだ。
「はーい」
雛が小走りに玄関へと向かう。