異世界転生した俺が厄神様の厄になっていた件について   作:水無飛沫

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ほおれ。
あまねくすべてのものを。


玖、風祝

 

 

メラメラと怒りに身を包む東風谷早苗。

異世界風にアレンジされた巫女服を身に纏ってはいるが、

彼女の髪の色、そのベースカラーに思うところがないでもない。

 

えーっとなんだったかな。

緑色……みどり??

あ、そうだ。霊夢と早苗で……

 

「赤と緑」

 

思わず口をついて出た言葉に、早苗の発するオーラが更に激しいものになる。

 

「誰が2Pカラーだって?」

 

はぁ? とヤンキーのような声を出して早苗が語気を荒げる。

言ってないし。

 

「おほほほ、ル〇ージかどうかはその身をもって確かめるんですね」

 

笑顔ではあるが青筋立ててプルプルと頬が痙攣している。

どうやら知らずに地雷を踏んでしまったらしい。

ってかそんな笑い方をするキャラだったか?

 

怒りを鎮めてあげようと

「いや、ほら、たぬきの方かもしれないじゃない」

などとどうでもいいフォローをしようとしたのだが、

「私は油揚げ派です。たぬきは地蔵しか能がないじゃないですか!!」

早苗はまくるように叫ぶと俺の声を掻き消した。

……そこは天ぷら派に謝っておきましょうね。

 

「というわけで、今からあなたの存在を消します。ええ、完膚なきまでに」

 

怒髪天を貫くとはこのことだろう。

ここまでガチギレしてる巫女と対峙するのは本望ではない。

霊夢が博麗の巫女として幻想郷の均衡を司る力を行使するのと違って、

外の世界から越してきた早苗はもっと純粋な力を使う。

 

奇跡(神)の力。

 

彼女の冠する風祝(かぜはふり)の名前の通り、彼女が自在に扱う風は俺と相性が悪すぎる。

にとりの扇風機もそうだったが、なんかしらかの力を秘めた風は、風でもって集まった厄を消滅させうるのだ。

こういう時は逃げるに限るな……って、あれ?

 

「逃がすわけないじゃない」

 

両手を上げ、腋をアピールしている赤い巫女。

 

「そのポーズは腋を舐めてくれってことでOK?」

 

「そんなわけないでしょ!! 霊符『夢想封印』!!」

 

霊夢が掲げているのは一枚のスペルカード。

気合の入った掛け声とともに展開される数多の札は、俺を中心として四角柱状の空間を作り出した。

前回俺を閉じ込めようとした結界とは一味違う。これは、世界そのものを隔離する博麗という力の概念そのものだ。

ここまで完璧な封印術を施されてしまっては逃げ場がない。

 

「このままあんたを封印してもいいのだけれど、それじゃ面白くないしね」

リベンジとばかりに心の底から面白そうに笑う霊夢に気を取られていると、背後からシャラリと早苗の手にした御幣が音を立てた。

 

「あなたに恨みはありませんが、私怨はあります」

 

轟々と、背景に炎でも燃え上がっているかのような威圧力をもって早苗が言葉を発する。

正直言ってる意味がわからない。

 

「私を貶めるだけでなく、あまつさえ……緑を……私のトレードカラーをバカにするなんて!!」

 

あれ? 俺、早苗や緑色のことを馬鹿にしたっけ?

ねぇ、これ完全に被害妄想じゃない??

 

「ル〇ージはジャンプ力だけで制御が効かない愚か者なのでバカにされても仕方がないですが……

緑は緑でも、私はヨッ〇ー派なんですっ!!!!」

 

あれ? 今地味にU〇Aの話してる? ハァィ。アタシキャ〇リン。ちょっと何言ってるかわからない。

わからないけど

「わかる!! あの繁殖能力がありながら〇ースター島を支配できないなんて、ぽんこつすぎて恐竜族の風上にも置けない感じがたまらなく可愛いよねっ!!」

(話を合わせなければ、確実に消される!!)

と思い援護射撃を行ったはずなんだけど……

「黙れ!!!!」

ブチンと何かの切れる音が聞こえ、早苗の霊力が怖ろしいほどに上昇する。

神聖な風が早苗の中から溢れてくると、緑の髪や巫女服がはためいた。

その風の中で小さな口で祝詞を唱えている早苗の目にはすでに一切の余念がなく、

トランスしたように惚けた表情は、古来より神懸るとされている巫女のそれであった。

 

「天津風、国津風、この世界に吹きすさぶ普く総ての風よ。祝れ。はふ(ほお)れ、はふ(ほお)れ。

……葬(ほお)れ」

 

彼女の祝(呪)詞が完成していく。

 

神懸った力であれば厄を滅することは叶うのだろうか。

それこそ奇跡なのだが、奇跡を司る東風谷早苗にならば或いは可能なのかもしれない。

 

早苗の風が俺の厄を散らしていく。

俺という本体から散らされた厄が、分散することなく昇華していくのがわかる。

 

もし……もしも厄がなくなれば、彼女は幸せになれるのだろうか。

(俺はどうしようもない厄であったが、君への想いは本当だったんだよ)

ちらりと雛を見る。

 

例えばこの時彼女が安堵の表情を浮かべていたのなら、俺は躊躇わずに成仏したことだろう。

 

「…………」

 

けれどこともあろうに、彼女は微笑を浮かべて、小さく、誰にも聞こえないような言葉を紡いだのである。

彼女の口の動きからその言葉を察してしまった俺は……

 

 

俺は…………

 

 

 

 

 

 

 

俺の存在はその場にいる全員の前から綺麗に消えた。

 

 

 

 

 


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