もけい   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 投稿は、定期的ではなく、マイペースでいきます。



第2話 おかあさん

ばすの   「こんなにいらない、おかあさん」

ビーバー  「え?」

 驚いて、なにも言えなくなったビーバーは、ジャパリまんのかけらを受け取った。

ばすの   「これ、おとうさん」

 ばすのは、もう一つのかけらを、プレーリーに渡した。

プレーリー 「……自分は、おとうさんじゃない、で、ありま……」

 プレーリーは、うろたえていた。

ビーバー  「ある意味、正しいッスね……いいじゃないッスか、これで……」

 ビーバーは、感慨深げに、受け取ったジャパリまんのかけらを見つめた。

 プレーリーが、ビーバーの方を向いた。

プレーリー 「これで、はれて夫婦でありますな!」

ビーバー  「それはちがうッスよ!」

 ビーバーは、顔を赤くして、慌てた様子だった。

プレーリー 「……ちがう、でありますか?」

 プレーリーは、真剣な表情だった。

ビーバー  「……えっと、ちがわない、かも……」

 ビーバーは、うつむいて、小さな声で言った。

 

 ばすのが、ログハウスの二階を見た。

ビーバー  「ばすのが、うまれた場所、行ってみるッスか?」

 

 

 ばすのは、昨日失敗した、はしご登りを行った。昨日とは逆に、プレーリーが二階に、ビーバーが一階に待機した。

 ばすのは、ゆっくりと、おぼつかない感じで、はしごを登っていった。

ビーバー  「あれ? さっきと違う……気をつけるッスよ……」 ※1

 ばすのが、あと少しではしごを登りきれる所で、足を滑らせた。

ビーバー  「あぶない!!」

プレーリー 「はっ!!」

 プレーリーが、はしごの方へ上半身を下げて、右手ですばやく、ばすのの左手をつかんだ。

プレーリー 「ばすの! 手をこっちへ!」 ※2

 ばすのが、プレーリーの方へ、右手を上げた。プレーリーは左手でそれをつかんだ。そして、両手でばすのを引き上げた。

 

 

 プレーリーとビーバーが、ベッドのふちに座り、ばすのが、テーブルのそばの椅子に座っていた。

プレーリー 「だいじょうぶッスか? けがとかしてないっスよね?」

 

ばすの   「……こわれた」

 

プレーリー&ビーバー ※3「え?」

 

 ばすのが、左腕を前に突き出すように持ち上げた。ひじより先(緑色の部分と、肌色の部分の境目あたり)に、ジグザグのひびが入っていた。そして、パキっと音がして、そこが割れて、ぱたんと、緑色の部分が垂れ下がった。

 

プレーリー&ビーバー「わああー!!」

 プレーリーとビーバーが、立ち上がってばすのに歩み寄った。

プレーリー 「うでがー!! ばすののうでがー!!」

ビーバー  「どうすれば……えっと、みせて」

 ばすのの左腕の、折れ口は、ガサガサと荒れた感じの繊維質で、折れた木のようだった。

ビーバー  「この子のからだ、木そのものッスね……」 ※4

 ばすのが、左腕の、垂れ下がった部分を、右手でつかんだ。そして、腕の折れた部分を、もとの位置に戻した。みしっと音がした。

ビーバー  「痛くないッスか?」

ばすの   「……わからない」 ※5

プレーリー 「なにか、動かないようにとめるものを……」

ビーバー  「穴をあけて、木の枝を差し込んでとめて、松やにでくっつけて……。 ※6 でも、そんなことしてだいじょうぶッスかね……。ものすごく痛そうだし……不安ッスね……」

 ばすのが、左腕から右手を離した。

ビーバー  「あれ?」

プレーリー 「くっついた?」

 ばすのの腕の、折れた部分は、くっついたままだった。

プレーリー 「どうして? ……痛いかもしれないけど、ちょっと触るッスよ」

 プレーリーは、ばすのの腕をさわって、傷口の状態を調べた。

プレーリー 「完全につながってる……」

ビーバー  「すごいであります! 自分で直したでありますか?」

 ビーバーがばすのの顔を見た。

ばすの   「……わからない」

ビーバー  「わからないことだらけッスね……」

 ビーバーの声と表情には、苦笑いと、不安がまじっていた。

 

 ばすのが、テーブルの上に置いてあった、模型のホイールを見た。そして、それをつまんで、見つめた。

プレーリー 「わかるでありますか?」

ビーバー  「それだけ、残ったんスよ。この台が、ばすののうまれた場所……」

 ビーバーは、テーブルに右手を置いた。

 

 

 翌日の午後。[3日目]

 

プレーリー 「そうそう、もうひといきであります!」

 ばすのが、ログハウスのはしごを下りていた。その下では、プレーリーとビーバーが、ばすのを見守っていた。

ビーバー  「手は、さいごまでしっかりとつかんで、穴に落ちないように気をつけるッスよ」

 ばすのが、地面におり立った。

プレーリー 「やった!」

ビーバー  「うまくできたッスね! よくやったッス!」

プレーリー 「あとは、自分らがいなくても、ひとりで、のぼりおりができるでありますな」

ビーバー  「いえ、もうしばらくは、いっしょに見ててあげるッスよ……ごほうびに、ジャパリまん、食べるッスか?」

プレーリー 「ビーバーどのは、過保護であります……」

ばすの   「おかあさん、やさしい」

ビーバー  「へへへ……」

プレーリー 「デレデレであります……」

 プレーリーの声と表情には、あきれと、微笑みがまじっていた。

 

 

 さらに二日後の午後。[5日目] ログハウスの二階。

 

 ばすのが、椅子に座って、模型のホイールを、テーブルの上に、何度も転がして遊んでいた。ばすのの手から放たれたホイールには、強い逆回転がかかっており、カカカッと音を立てながらテーブルの端ギリギリまで進むと、ヨーヨーのように戻り、再びばすのの手に収まった。

プレーリー 「なんど見ても、ふしぎな動きであります……」

 プレーリーは、ベッドのふちに座って、転がるホイールを見ていた。ベッドは二つに増えていた。

ビーバー  「ばすのの特技ッスねえ」

 ビーバーは、ばすのの向かい側の椅子に座っていて、やわらかな表情で、ばすのを見ていた。

プレーリー&ビーバー「あっ!」

 模型のホイールが、テーブルの上から、丸太組みの床に落ちた。そして、丸太と丸太の隙間に入ってしまった。

 ばすのが、一瞬驚いた顔をした。そして、椅子から立ち上がり、しゃがんで、ホイールの落ちた隙間に、左手を突っ込んだ。

ビーバー  「さわると、下まで落ちちゃうかも……。まずは、木の枝をすきまにいれて……」

 ばすのの手が、スライムのように変形して、丸太の隙間に入り込んだ。そして、ホイールを包み込み、左腕の中へ取り込んだ。ヘビが卵を飲み込むような動きだった。 ※7

ビーバー  「わあ……」

プレーリー 「また、新たな特技が!」

 半透明の腕の中に見えていた、模型のホイールは、肌色の部分に移動して、見えなくなった。

 ばすのが、何かに気づいて、丸太の隙間から手を抜いた。そして、隙間の片側にあった丸太に、両手をあてて、目を閉じた。

ビーバー  「ばすの?」

プレーリー 「なにをしているでありますか?」

 

ばすの   「ばすのの木」

 

プレーリー 「ばすのの、木?」

ビーバー  「これが? ……まさか!」

プレーリー 「あの模型のもとになった木であります!」

ばすの   「死んでる」

 

 間。

 

 ばすのが、しゃがんだまま、テーブルのベースになっている、丸太の輪切りを見た。

 ビーバーが口を開き、なにかを言いかけた。

 ばすのが、少し体をひねって、身を乗り出し、丸太の輪切りに両手をあてて、目を閉じた。

 数秒経って、ばすのが目を開いた。

 

ばすの   「おかあさんの木」

 

 プレーリーとビーバーが目を見開いた。

 

 間。

 

 ばすのが、一粒、涙をこぼした。

 

 ビーバーが、椅子から立ち上がり、床に座って、ばすのに頭を下げた。

ビーバー  「ごめんなさい!! 申しわけないッス! オレっち、なんてこと……」

 ビーバーも、ベッドから立ち上がり、床に座って、ばすのに頭を下げた。

プレーリー 「この木を切ったのは自分であります! 申しわけないであります……。あやまっても、ゆるしてもらえないかもしれませぬが……」

 

 ばすのが、プレーリーとビーバーの頭に、そっと手をふれた。

ビーバー  「うそ……」

 ばすのが、プレーリーとビーバーの頭から手を離した。ふたりが、顔を上げた。

プレーリー 「ゆるして、くれるでありますか?」

 

ばすの   「わるいこと、してない」

 ばすのが、ほんの少し、笑顔になった。

 

プレーリー 「わらった……」

 プレーリーは、目を見開いて驚いた。

 ビーバーは、ばすのの顔を見ていられず、うつむいた。

ビーバー  「なんで、わらえるんスか…… はじめての、笑顔……こんな、ときに……」

 ビーバーの声は苦しげだった。泣いているようでもあった。

ビーバー  「怒って、ほしかったッス……。オレっち、おかあさんなんかじゃないッスよ……」

 

 いつの間にか、ばすのの左腕の、緑色の部分の中に、模型のホイールがあった。それは、ゆっくりと手の方へ移動し、手のひらから外に出た。先ほどとは逆の動きだった。

 ビーバーが、顔を上げた。

 ばすのが、左の手のひらから出てきたホイールを、右手でつまんで、プレーリーに見せた。その動作は、マジックショーのようだった。

 ばすのが、今度はビーバーにホイールを向けた。

 

ばすの   「おかあさんは、木と、あなた」

 

 ビーバーが、感極まって、ばすのに抱きついた。

 

 プレーリーが、ふたりをまとめて抱きしめた。

 

ビーバー  「この子のこと、もっとちゃんと調べたほうがいいッスね……」

 ビーバーは、涙声だった。

プレーリー 「図書館へいくであります」

ビーバー  「……じゃあ、あした、三人いっしょに……」

プレーリー 「ビーバーどのは、ここを離れるのが不安なのでありますな」 ※8

ビーバー  「そんなこと、ないッス、よ?」

ばすの   「ここにいて」

プレーリー 「ビーバーどのは、お留守番であります」

 

 

 翌日の朝。[6日目] トンネルの出口付近(湖岸側)。

 

プレーリー 「では、いってくるであります」

ビーバー  「ほんとうに、気をつけるッスよ……」

 プレーリーとばすのが、手をつないで歩きだした。

 

 

 一時間ほどあと。森の中の道。

 

 ばすのは、歩くのがとても遅かった。

プレーリー 「ついてくるの、むずかしいでありますか?」

ばすの   「ごめんなさい」

プレーリー 「あやまることないであります。図書館へは、自分がひとりでいくであります。ばすのは、おうちに戻るであります」

 

 プレーリーとばすのは、いったんログハウスに戻り、プレーリーだけが、図書館へ向かった。

 

 

 昼過ぎ。図書館。

 

ワシミミズク(じょしゅ)「その子は、おそらくフレンズではないのです。もちろん、セルリアンでもないでしょう。フレンズの模型、とでも言いましょうか……」

 じょしゅは、言葉を濁した。

プレーリー 「フレンズの、模型?」

アフリカオオコノハズク(はかせ)「その子は、“模型のフレンズ”ではなく、“フレンズの模型”なのです。あるいは、“セルリアンの模型”かもしれないのです」

プレーリー 「わからないであります……」

じょしゅ  「でしょうね。われわれにもはっきりとしたことはわからないのです」

はかせ   「その子を見てみないことには、わからないのです」

じょしゅ  「鳥の子に頼んで、その子をここまで連れてくればいいのです」

プレーリー 「でも、あんまり乱暴にすると、ばすのは怪我するであります」

じょしゅ  「……過去に、似たようなことがなかったか、調べてみましょう」

はかせ   「……なにかわかったら、こちらから行くです。その子を見てみたいのです」

プレーリー 「かたじけないであります」

 

はかせ   「プレーリー、ひとつ忠告なのです。その子のことを、好きになりすぎると、痛い目にあうですよ。ビーバーにもそう伝えておくです」

 

プレーリー 「痛い目ってなんでありますか? ばすののことは大好きであります!」

じょしゅ  「手遅れ、なのですね」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 ばすのは、はしごより、土の壁(段付き)を登るほうが得意です。

 

※2 プレーリー本人は意識していませんが、ばすのに対して、「どの」とつけずに、呼び捨てにしており、「であります」とも言っていません。自然にこうなったようです。

 

※3 「プレーリー&ビーバー」って、響きが音楽ユニット(デュオ)っぽい、と、しょうもないことを思いました。

 

※4 ばすのの体は、外側から見ると、(緑色の部分以外は)ヒトのような肌色で、やわらかいのですが、内部は硬い木のような繊維質で、矛盾しています。関節も、外見上はヒトと同じです。ばすのは、矛盾を抱えた存在なのです。

 

※5 ばすのは、「傷み」が正確には理解できていません。傷みを感じているのか、いないのかは、本人にもわからないようです。

 

※6 ダボ継ぎです。これで割れた部分をぴったり合わせるのは難しいと思うのですが、プレーリーとビーバーならできるのではないかと。

 

※7 模型のホイールの直径は、60mmくらいあり、結構大きいです。ばすのの手首は細いので、ホイールを腕に取り込む、または取り出すときは、ふくらみます。

 

※8 雨が多い季節なので、ダムと湖のことが心配なのです。

 

 

 次回予告

 

ばすの   「いっしょに」

ばすの   「あやまっちゃだめ」

ばすの   「ここがいい」

ばすの   「なんとなく」

ばすの   「にげて」

 

 次回 第3話 『水と土』

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 プレーリーとビーバーが、ばすのを呼び捨てにしているのは、自分の子供だからです。ちゃん付けにするのもありですか、もともと、他人に対して「さん」「どの」と敬称を付けているので、さっぱりと、呼び捨てにしました。
 ばすののセリフ、「おかあさんは、木と、あなた」は、悩みました。実は、書いたあとも悩んでいます。その前後の文も含めて、何度直しても気に入りません。なるべく短く、でも伝えたい内容が入るように……と、考えた結果です。
 本話のラストで、はかせに言わせたかったセリフがあります。迷った結果、書かないことにしました。これは、最終話のあとがきに書くかもしれません。

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