第1話、第2話をちょっとだけ修正しました。第2話は大事なセリフをいじっていますが、物語の筋には大きく影響しない範囲です。
プレーリーが図書館に行っているころ。湖のログハウスの二階。
ビーバーが、ベランダから湖を見下ろしていた。湖の水位が下がっていて、岸に、水位が高かった時の跡が残っていた。ビーバーが室内へ戻り、椅子に座っていたばすのに声をかけた。
ビーバー 「オレっち、ちょいと、ダムの様子を見てくるッス」
ビーバーがはしごを下りようとすると、ビーバーの服が何かに引っ張られた。ビーバーが斜めうしろを見ると、ばすのが、ビーバーの服の裾をつかんでいた。
ビーバー 「ばすの。湖の水が減っているんスよ。ダムの穴をふさがないと……」 ※1
ばすの 「いっしょに」
ビーバー 「そんな、あぶないッスよ」
ばすのは、じっと、上目づかいで、きょとんとした表情で、ビーバーを見ていた。
ビーバー 「……ばすのは、およげるんスか?」
ビーバーの頭に、ばすのと出会った時の映像が思い浮かんだ。ばすのが、ぷかぷかと、水に浮かんで、ゆっくりと流されていく……。
ビーバーとばすのは、手をつないで、湖の岸を歩いて、ダムへ向かった。
ビーバー 「ここでちょっと休憩ッス」
ログハウスからダムまでは、それほど離れてはいなかったが、ばすのは歩くのが遅いため、移動には時間がかかった。
ビーバー 「よくがんばったッスね」
ふたりは、ダムの端にたどり着いた。
ビーバー 「オレっちは、泳いでダムの穴をふさいでくるから、ばすのは、ここで待つッスよ」
ビーバーが、水に入っていこうとした。ばすのが、ビーバーの腰に後ろから抱き着いた。
ばすの 「いっしょに」
ビーバーが振り返った。
ビーバー 「だめッスよ」
ばすのが、少し悲しげな表情になった。
ビーバー 「……浮くだけなら、できるッスよね?」
ビーバーとばすのは、お互いの腰を木のつるで繋いで、湖へ入っていった。ビーバーがばすのを引っ張る形になった。ばすのは、立ち泳ぎの姿勢で浮かび、両手でつるをつかんで、引っ張られていった。
ふたりは、ダムの放水口にたどり着いた。
ばすのは、ぼんやりと、たくさんの木と木の枝で作られた、ダムを見つめていた。ばすのは、足で水をかいて、ゆっくりと泳ぎ、ダムの木の一本に、両手をあてて、目を閉じた。その様子を見て、ビーバーの表情が雲った。
ビーバー 「ばすの……」
ばすのが、ビーバーを見た。
ばすの 「あやまっちゃだめ」
ビーバーがうつむいた。
ビーバー 「せめて、あやまらせてほしいッス……」
ばすの 「わるいこと、してない」
ビーバーは、放水口のわきに置いてあった木材を使って、放水口をふさいだ。
帰りは、ビーバーがばすのを引っ張って泳いだため、早かった。
夕方。ログハウスの二階。
ビーバーとばすのが、ベッドのふちに隣り合って座っていた。ばすのは、ビーバーにもたれかかっていた。ビーバーが、ばすのの顔を見て、それにこたえるように、ばすのもビーバーの顔を見た。至近距離で見つめ合うふたり。そこへ、プレーリーが、はしごを登って現れた。
プレーリー 「ただいまであります!」
ビーバーがビクッとなった。
ビーバー 「お、おかえりなさいッス……」
ビーバーは、慌てて、もたれかかっていたばすのを離そうとした。
プレーリー 「なんで驚くでありますか?」
プレーリーが、はしごを登りきった。
ビーバー 「なんでもないッスよ……。ほら、ばすの、こういうときは、おかえりなさいって」
ばすのが立ち上がり、ビーバーに歩み寄った。そして、少し背伸びをして、目を閉じて、キスをした。プレーリーは、ばすのを抱きしめた。
ビーバー 「なにやってるんスか!?」
プレーリーが、こくん、と、何かを飲み込んだ。
ふたりの唇が離れた。プレーリーが、ビーバーを見た。
プレーリー 「あいさつであります」
ビーバー 「そういうことは、オレっちと……」
ばすのが、ビーバーを見た。
ビーバー 「え?」
ばすのが、プレーリーから離れて、ビーバーに歩み寄った。そして、少しかがんで、ビーバーに顔を近づけていった。
ビーバー 「ばすの、そういう意味じゃないッスよ!」
ばすのが、ビーバーにキスをした。そして、ビーバーを抱きしめた。ビーバーが、こくん、こくんと何かを飲んでいった。 ふたりの唇が離れた。
ビーバー 「やっぱりこれ、おいしいッスね……。ありがとう、ばすの」
ビーバーが微笑んだ。
次の瞬間、ばすのが、ふらりと、倒れかかった。
ビーバー 「だいじょうぶッスか!?」
プレーリー 「ねむいみたいであります」
ばすのは、眠そうな顔だった。
ビーバー 「きょうはたくさん歩いて、つかれちゃったッスね。すぐ寝ちゃうといいッスよ」
夜。ばすのがベッドで眠っていた。プレーリーとビーバーが、テーブルに向かい合って座っていた。ふたりは、小声で会話していた。
ビーバー 「痛い目にあう?」
プレーリー 「はかせにそう言われたであります……」
ビーバー 「こわいこと言うッスね……。でも、好きになるな、なんて……。はじめから、模型だったときから、ばすののこと、好きだったから、むりッスよ……」 ※2
プレーリー 「それは、自分もおなじであります」
ビーバー 「痛い目って、変なこといろいろ考えちゃうッスよ……。ものすごく不安ッスね……」
プレーリー 「へんな、こと? ……好き……痛い…………よくわからないでありますー!!」
プレーリーは、泣き叫ぶように言って、頭を抱えた。
ビーバー 「声が大きいッスよ! 考えたくないッスよね……。そんなふうにはさせないッスよ」
ふたりが、ベッドに寝ているばすのを見た。ばすのは、すやすやと眠っているように見えた。
翌日の朝。[7日目] ログハウスの二階。
ビーバーが、ベランダから湖を見下ろしていた。湖の水位は、昨日より少し上がっていた。ばすのは、ベッドで眠っていた。ビーバーが室内へ戻り、椅子に座っていたプレーリーに話しかけた。
ビーバー 「いまの季節は雨が多くて、ダムの調整がむずかしいッス……。水が増えすぎると、穴に水が流れ込んでしまうかも……。不安ッスね……」※3
プレーリー 「穴のまわりに、土を盛ってみたらどうでありましょう?」
ビーバー 「いいッスね。土を木の枝でかためる、とか、ちょっと考えてみるッス」
ログハウスの下の、トンネルの入り口のまわりに、土を盛る作業が始まった。以前と同じく、ビーバーが設計と指示、プレーリーが実作業を行う形になった。
ビーバーが穴の外にいて、未完成の、盛り土の状態を見ていた。そこへ、ばすのがはしごを下りてきた。ビーバーが頭を上げて、ばすのを見た。
ビーバー 「ばすの、まだ寝てていいッスよ」
ばすのが、縦穴の中へ下りていった。
ビーバー 「そっちは工事中だから入っちゃだめッスよ!」
ばすのを追って、ビーバーも縦穴へ入った。
トンネルの途中には、横にのびる部屋があった。その部屋の向かい側の壁を、プレーリーが掘っていた。そこへ、ばすのとビーバーがやってきた。
プレーリー 「ばすの! おはようであります!」
ばすのは、プレーリーの作業を興味深そうに見ていた。
ビーバー 「いまは、お部屋を増やしてるッス。ここで出た土を、むこうの入り口のまわりに盛って、穴に水が入ってくるのを防ぐッス」
ばすのが、プレーリーが掘っていた壁にふれた。そして、上から下へ、手をすべらせた。ばすのがしゃがんで、壁の一番下まで手を滑らせると、立ち上がり、壁の高い所に、ずぼっと、手を深く突っ込んだ。
ビーバー 「なにしてるッスか?」
ばすの 「ここがいい」
プレーリー&ビーバー「ここ?」
ばすのが、壁から、ずぼっと手を引き抜いた。
ビーバー 「わあっ! なんですか、それ?」
ばすのの手のまわりには、土のかたまりが出来ていた。
プレーリー 「くっついている、でありますか?」
プレーリーが、土のかたまりに指を突っ込んだ。
プレーリー 「これ、粘土であります…。きもちいいやわらかさ、でも、しっかりしているであります」
ビーバー 「盛り土にちょうどいいッスね。掘れば、もっと出てくるかも」
ばすのは、手についた粘土を床に落とした。
ばすの 「このあたり」
ばすのは、トンネルの壁の、高い所を、横向きになでた。
プレーリー 「ここ掘れ、でありますな!」
プレーリーが、ばすのがなでたあたりの、土を掘っていった。
プレーリー 「おおお! この感触! 粘土のかたまりであります!」
ビーバーが掘った先には、他とは色の違う土の層があった。
ビーバー 「これ、粘土の層ッスよ! どうしてわかったんスか? ばすの?」
ばすの 「なんとなく」
プレーリーとビーバーは、ばすのが発見した粘土の層から、粘土を地上へと運び、ログハウスの下の、トンネルの入り口のまわりに盛っていった。ばすのは、粘土のある場所を的確に指示していった。
ばすのが、粘土を片手にくっつけて、トンネルから出てきた。それを、ビーバーが迎えた。
ビーバー 「ばすののおかげで、いいものができそうッスよ」
ビーバーは、ばすのの頭をなでた。
午後。
盛り土は、完成目前だった。トンネルの中には、プレーリーとばすのがいた。粘土を掘り出すプレーリーを、ばすのが見守っていた。
突然、ばすのがプレーリーに言った。
ばすの 「もう取っちゃだめ」
プレーリー 「取っちゃだめ?」
プレーリーが、掘っていた勢いで、壁に手を突っ込んだ。突っ込んだ所から、泥水が噴き出した。プレーリーが泥水をあびた。
プレーリー 「みずがー!! どろがー!!」
外にいたビーバーが、慌てた様子でトンネルに入ってきた。
ビーバー 「ふたりとも!! はやくにげるッスよ!!」
ばすのが、噴き出す泥水に右手をかざした。
プレーリー 「なにしてるでありますか!? にげるであります!!」
プレーリーが、ばすのの左手を引いたが、ばすのはその場から動かなかった。
ビーバー 「ばすの!! トンネルから出るッス!!」
ばすのの手が、倍ほどに広がり、噴き出す泥水をおさえた。そして、ばすのは、泥水を押し戻しながら歩き、泥水を噴き出していた穴を、手でふさいだ。勢いは弱まったが、なおも、泥水は漏れ出してきた。
ばすの 「にげて」
ビーバー 「ばすの!! むちゃしないで!!」
プレーリー 「いっしょににげるであります!!」
プレーリーが、ばすのの左腕を強く引いた。ばすのの左腕が、以前折れたあたりで、ちぎれた。
プレーリー&ビーバー「わあああー!!」
泥水の勢いが弱まっていき、出水が止まった。ばすのが、壁から手を離すと、穴がふさがっていた。
プレーリー 「またやってしまったであります……」
プレーリーがひざをついた。その手には、ちぎれた、ばすのの左腕があった。
ビーバー 「プレーリーさん! ばすののうでを、もとに戻して!」
プレーリー 「はっ!」
プレーリーは、ばすのの左腕を、もとの位置にくっつけた。プレーリーが、ばすのの腕から手を離したが、腕はくっついたままだった。ビーバーが、出水したあたりを見た。
ビーバー 「まだあぶないかも……いったん外に出るッスよ」
ばすのの動きは遅く、ふらついていた。プレーリーとビーバーが、ばすのを両脇から支えた。三人は、ログハウス側の縦穴から、地上へと出た。そして、草地に座り込んだ。
ビーバー 「はあ、はあ、ばすの、うでをみせて」
ビーバーが、ばすのの腕の、ちぎれたあたりをさわった。
ビーバー 「まだ、完全にはつながってないッスね……。しばらく、そえ木で固定しないと。ここ、もろくなってるのかも……。不安ッスね……。手は動くッスか?」
ばすのは、左手を握ったり開いたりした。
ビーバー 「よかった……」
ビーバーが、ばすのの左腕をみていたとき、プレーリーは、ばすのの右手を見た。
プレーリー 「その手、だいじょうぶでありますか?」
ばすのの右手は、もとの大きさに戻っていたが、緑色だった部分が、土色ににごっていた。
ばすの 「まざった……」
ばすのが、目を閉じて、倒れた。
ビーバー 「ばすの!!」
プレーリー 「どうしたでありま……」
ばすのの姿が、一瞬で消えた。
プレーリーとビーバーは絶句した。
ばすのが倒れた場所には、泥水にまみれた、ジャパリバスの模型があった。
つづく
※1 雨が多い季節なので、前回の大雨のあとは、放水口を大きくしたままにしていました。
※2 自分が手間と時間をかけて作ったものには、思い入れができるものです。時には、自分の命を削って、作品にこめてしまうこともあります。
※3 アニメを見ると、ログハウス側のトンネルの入り口は、かなり低い場所にあります。それなので、湖が増水すると、トンネルが浸水してしまいそうです。
次回予告
はかせ 「調べるのです。あきらめないのです」
はかせ 「そんなことしたら、からだがこわれてしまうのです!!」
はかせ 「“いのちの模型”、なのです」
はかせ 「見ていられないのです」
はかせ 「あのふたりはおろか者なのです」
次回 第4話 『戻る』
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
粘土の層や出水事故は、以前書いたSS『トンネル』にも出てきますが、『もけい』と『トンネル』は、直接はつながっていません。『もけい』では、壁を固める工事は行われていません。