もけい   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 第1話、第2話をちょっとだけ修正しました。第2話は大事なセリフをいじっていますが、物語の筋には大きく影響しない範囲です。



第3話 水と土

 

 プレーリーが図書館に行っているころ。湖のログハウスの二階。

 

 ビーバーが、ベランダから湖を見下ろしていた。湖の水位が下がっていて、岸に、水位が高かった時の跡が残っていた。ビーバーが室内へ戻り、椅子に座っていたばすのに声をかけた。

ビーバー  「オレっち、ちょいと、ダムの様子を見てくるッス」

 ビーバーがはしごを下りようとすると、ビーバーの服が何かに引っ張られた。ビーバーが斜めうしろを見ると、ばすのが、ビーバーの服の裾をつかんでいた。

ビーバー  「ばすの。湖の水が減っているんスよ。ダムの穴をふさがないと……」 ※1

ばすの   「いっしょに」

ビーバー  「そんな、あぶないッスよ」

 ばすのは、じっと、上目づかいで、きょとんとした表情で、ビーバーを見ていた。

ビーバー  「……ばすのは、およげるんスか?」

 

 ビーバーの頭に、ばすのと出会った時の映像が思い浮かんだ。ばすのが、ぷかぷかと、水に浮かんで、ゆっくりと流されていく……。

 

 

 ビーバーとばすのは、手をつないで、湖の岸を歩いて、ダムへ向かった。

ビーバー  「ここでちょっと休憩ッス」

 ログハウスからダムまでは、それほど離れてはいなかったが、ばすのは歩くのが遅いため、移動には時間がかかった。

ビーバー  「よくがんばったッスね」

 ふたりは、ダムの端にたどり着いた。

ビーバー  「オレっちは、泳いでダムの穴をふさいでくるから、ばすのは、ここで待つッスよ」

 ビーバーが、水に入っていこうとした。ばすのが、ビーバーの腰に後ろから抱き着いた。

ばすの   「いっしょに」

 ビーバーが振り返った。

ビーバー  「だめッスよ」

 ばすのが、少し悲しげな表情になった。

ビーバー  「……浮くだけなら、できるッスよね?」

 ビーバーとばすのは、お互いの腰を木のつるで繋いで、湖へ入っていった。ビーバーがばすのを引っ張る形になった。ばすのは、立ち泳ぎの姿勢で浮かび、両手でつるをつかんで、引っ張られていった。

 

 ふたりは、ダムの放水口にたどり着いた。

 ばすのは、ぼんやりと、たくさんの木と木の枝で作られた、ダムを見つめていた。ばすのは、足で水をかいて、ゆっくりと泳ぎ、ダムの木の一本に、両手をあてて、目を閉じた。その様子を見て、ビーバーの表情が雲った。

ビーバー  「ばすの……」

 ばすのが、ビーバーを見た。

ばすの   「あやまっちゃだめ」

 ビーバーがうつむいた。

ビーバー  「せめて、あやまらせてほしいッス……」

ばすの   「わるいこと、してない」

 

 ビーバーは、放水口のわきに置いてあった木材を使って、放水口をふさいだ。

 帰りは、ビーバーがばすのを引っ張って泳いだため、早かった。

 

 

 夕方。ログハウスの二階。

 

 ビーバーとばすのが、ベッドのふちに隣り合って座っていた。ばすのは、ビーバーにもたれかかっていた。ビーバーが、ばすのの顔を見て、それにこたえるように、ばすのもビーバーの顔を見た。至近距離で見つめ合うふたり。そこへ、プレーリーが、はしごを登って現れた。

プレーリー 「ただいまであります!」

 ビーバーがビクッとなった。

ビーバー  「お、おかえりなさいッス……」

 ビーバーは、慌てて、もたれかかっていたばすのを離そうとした。

プレーリー 「なんで驚くでありますか?」

 プレーリーが、はしごを登りきった。

ビーバー  「なんでもないッスよ……。ほら、ばすの、こういうときは、おかえりなさいって」

 ばすのが立ち上がり、ビーバーに歩み寄った。そして、少し背伸びをして、目を閉じて、キスをした。プレーリーは、ばすのを抱きしめた。

ビーバー  「なにやってるんスか!?」

 プレーリーが、こくん、と、何かを飲み込んだ。

 ふたりの唇が離れた。プレーリーが、ビーバーを見た。

プレーリー 「あいさつであります」

ビーバー  「そういうことは、オレっちと……」

 ばすのが、ビーバーを見た。

ビーバー  「え?」

 ばすのが、プレーリーから離れて、ビーバーに歩み寄った。そして、少しかがんで、ビーバーに顔を近づけていった。

ビーバー  「ばすの、そういう意味じゃないッスよ!」

 ばすのが、ビーバーにキスをした。そして、ビーバーを抱きしめた。ビーバーが、こくん、こくんと何かを飲んでいった。 ふたりの唇が離れた。

ビーバー  「やっぱりこれ、おいしいッスね……。ありがとう、ばすの」

 ビーバーが微笑んだ。

 次の瞬間、ばすのが、ふらりと、倒れかかった。

ビーバー  「だいじょうぶッスか!?」

プレーリー 「ねむいみたいであります」

 ばすのは、眠そうな顔だった。

ビーバー  「きょうはたくさん歩いて、つかれちゃったッスね。すぐ寝ちゃうといいッスよ」

 

 

 夜。ばすのがベッドで眠っていた。プレーリーとビーバーが、テーブルに向かい合って座っていた。ふたりは、小声で会話していた。

ビーバー  「痛い目にあう?」

プレーリー 「はかせにそう言われたであります……」

ビーバー  「こわいこと言うッスね……。でも、好きになるな、なんて……。はじめから、模型だったときから、ばすののこと、好きだったから、むりッスよ……」 ※2

プレーリー 「それは、自分もおなじであります」

ビーバー 「痛い目って、変なこといろいろ考えちゃうッスよ……。ものすごく不安ッスね……」

プレーリー 「へんな、こと? ……好き……痛い…………よくわからないでありますー!!」

 プレーリーは、泣き叫ぶように言って、頭を抱えた。

ビーバー 「声が大きいッスよ! 考えたくないッスよね……。そんなふうにはさせないッスよ」

 ふたりが、ベッドに寝ているばすのを見た。ばすのは、すやすやと眠っているように見えた。

 

 

 翌日の朝。[7日目] ログハウスの二階。

 

 ビーバーが、ベランダから湖を見下ろしていた。湖の水位は、昨日より少し上がっていた。ばすのは、ベッドで眠っていた。ビーバーが室内へ戻り、椅子に座っていたプレーリーに話しかけた。

ビーバー  「いまの季節は雨が多くて、ダムの調整がむずかしいッス……。水が増えすぎると、穴に水が流れ込んでしまうかも……。不安ッスね……」※3

プレーリー 「穴のまわりに、土を盛ってみたらどうでありましょう?」

ビーバー  「いいッスね。土を木の枝でかためる、とか、ちょっと考えてみるッス」

 

 ログハウスの下の、トンネルの入り口のまわりに、土を盛る作業が始まった。以前と同じく、ビーバーが設計と指示、プレーリーが実作業を行う形になった。

 ビーバーが穴の外にいて、未完成の、盛り土の状態を見ていた。そこへ、ばすのがはしごを下りてきた。ビーバーが頭を上げて、ばすのを見た。

ビーバー  「ばすの、まだ寝てていいッスよ」

 ばすのが、縦穴の中へ下りていった。

ビーバー  「そっちは工事中だから入っちゃだめッスよ!」

 ばすのを追って、ビーバーも縦穴へ入った。

 トンネルの途中には、横にのびる部屋があった。その部屋の向かい側の壁を、プレーリーが掘っていた。そこへ、ばすのとビーバーがやってきた。

プレーリー 「ばすの! おはようであります!」

 ばすのは、プレーリーの作業を興味深そうに見ていた。

ビーバー  「いまは、お部屋を増やしてるッス。ここで出た土を、むこうの入り口のまわりに盛って、穴に水が入ってくるのを防ぐッス」

 ばすのが、プレーリーが掘っていた壁にふれた。そして、上から下へ、手をすべらせた。ばすのがしゃがんで、壁の一番下まで手を滑らせると、立ち上がり、壁の高い所に、ずぼっと、手を深く突っ込んだ。

ビーバー  「なにしてるッスか?」

ばすの   「ここがいい」

プレーリー&ビーバー「ここ?」

 ばすのが、壁から、ずぼっと手を引き抜いた。

ビーバー  「わあっ! なんですか、それ?」

 ばすのの手のまわりには、土のかたまりが出来ていた。

プレーリー 「くっついている、でありますか?」

 プレーリーが、土のかたまりに指を突っ込んだ。

プレーリー 「これ、粘土であります…。きもちいいやわらかさ、でも、しっかりしているであります」

ビーバー  「盛り土にちょうどいいッスね。掘れば、もっと出てくるかも」

 ばすのは、手についた粘土を床に落とした。

ばすの   「このあたり」

 ばすのは、トンネルの壁の、高い所を、横向きになでた。

プレーリー 「ここ掘れ、でありますな!」

 プレーリーが、ばすのがなでたあたりの、土を掘っていった。

プレーリー 「おおお! この感触! 粘土のかたまりであります!」

 ビーバーが掘った先には、他とは色の違う土の層があった。

ビーバー  「これ、粘土の層ッスよ! どうしてわかったんスか? ばすの?」

ばすの   「なんとなく」

 

 プレーリーとビーバーは、ばすのが発見した粘土の層から、粘土を地上へと運び、ログハウスの下の、トンネルの入り口のまわりに盛っていった。ばすのは、粘土のある場所を的確に指示していった。

 

 ばすのが、粘土を片手にくっつけて、トンネルから出てきた。それを、ビーバーが迎えた。

ビーバー  「ばすののおかげで、いいものができそうッスよ」

 ビーバーは、ばすのの頭をなでた。

 

 

 午後。

 

 盛り土は、完成目前だった。トンネルの中には、プレーリーとばすのがいた。粘土を掘り出すプレーリーを、ばすのが見守っていた。

 突然、ばすのがプレーリーに言った。

ばすの   「もう取っちゃだめ」

プレーリー 「取っちゃだめ?」

 プレーリーが、掘っていた勢いで、壁に手を突っ込んだ。突っ込んだ所から、泥水が噴き出した。プレーリーが泥水をあびた。

プレーリー 「みずがー!! どろがー!!」

 外にいたビーバーが、慌てた様子でトンネルに入ってきた。

ビーバー  「ふたりとも!! はやくにげるッスよ!!」

 ばすのが、噴き出す泥水に右手をかざした。

プレーリー 「なにしてるでありますか!? にげるであります!!」

 プレーリーが、ばすのの左手を引いたが、ばすのはその場から動かなかった。

ビーバー  「ばすの!! トンネルから出るッス!!」

 ばすのの手が、倍ほどに広がり、噴き出す泥水をおさえた。そして、ばすのは、泥水を押し戻しながら歩き、泥水を噴き出していた穴を、手でふさいだ。勢いは弱まったが、なおも、泥水は漏れ出してきた。

ばすの   「にげて」

ビーバー  「ばすの!! むちゃしないで!!」

プレーリー 「いっしょににげるであります!!」

 プレーリーが、ばすのの左腕を強く引いた。ばすのの左腕が、以前折れたあたりで、ちぎれた。

プレーリー&ビーバー「わあああー!!」

 泥水の勢いが弱まっていき、出水が止まった。ばすのが、壁から手を離すと、穴がふさがっていた。

プレーリー 「またやってしまったであります……」

 プレーリーがひざをついた。その手には、ちぎれた、ばすのの左腕があった。

ビーバー  「プレーリーさん! ばすののうでを、もとに戻して!」

プレーリー 「はっ!」

 プレーリーは、ばすのの左腕を、もとの位置にくっつけた。プレーリーが、ばすのの腕から手を離したが、腕はくっついたままだった。ビーバーが、出水したあたりを見た。

ビーバー  「まだあぶないかも……いったん外に出るッスよ」

 ばすのの動きは遅く、ふらついていた。プレーリーとビーバーが、ばすのを両脇から支えた。三人は、ログハウス側の縦穴から、地上へと出た。そして、草地に座り込んだ。

ビーバー  「はあ、はあ、ばすの、うでをみせて」

 ビーバーが、ばすのの腕の、ちぎれたあたりをさわった。

ビーバー  「まだ、完全にはつながってないッスね……。しばらく、そえ木で固定しないと。ここ、もろくなってるのかも……。不安ッスね……。手は動くッスか?」

 ばすのは、左手を握ったり開いたりした。

ビーバー  「よかった……」

 ビーバーが、ばすのの左腕をみていたとき、プレーリーは、ばすのの右手を見た。

プレーリー 「その手、だいじょうぶでありますか?」

 ばすのの右手は、もとの大きさに戻っていたが、緑色だった部分が、土色ににごっていた。

ばすの   「まざった……」

 

 ばすのが、目を閉じて、倒れた。

 

ビーバー  「ばすの!!」

プレーリー 「どうしたでありま……」

 

 ばすのの姿が、一瞬で消えた。

 プレーリーとビーバーは絶句した。

 

 ばすのが倒れた場所には、泥水にまみれた、ジャパリバスの模型があった。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 雨が多い季節なので、前回の大雨のあとは、放水口を大きくしたままにしていました。

 

※2 自分が手間と時間をかけて作ったものには、思い入れができるものです。時には、自分の命を削って、作品にこめてしまうこともあります。

 

※3 アニメを見ると、ログハウス側のトンネルの入り口は、かなり低い場所にあります。それなので、湖が増水すると、トンネルが浸水してしまいそうです。

 

 

 次回予告

 

はかせ   「調べるのです。あきらめないのです」

はかせ   「そんなことしたら、からだがこわれてしまうのです!!」

はかせ   「“いのちの模型”、なのです」

はかせ   「見ていられないのです」

はかせ   「あのふたりはおろか者なのです」

 

 次回 第4話 『戻る』

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 粘土の層や出水事故は、以前書いたSS『トンネル』にも出てきますが、『もけい』と『トンネル』は、直接はつながっていません。『もけい』では、壁を固める工事は行われていません。

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