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ログハウスの二階。
ビーバーが、バスの模型のトラクター(運転席)をテーブルに置いた。プレーリーは、模型の客車をテーブルに置いた。ビーバーが、トラクターと客車を連結させた。
プレーリーとビーバーは、バスの模型を、じっと見つめた。うなだれた、ふたりの表情は見えなかった。
間。
突然、テーブルの上に、強い閃光が発生し、バタン、と、テーブルの天板が外れて落ちた。
プレーリー 「模型が!!」
ビーバー 「ばすの!?」
床に、ばすのが倒れていた。
プレーリー 「戻ってきてくれたであります!」
プレーリーは、うれしそうだった。ビーバーは、不安そうな顔で、しゃがんで、ばすのの肩をたたいた。
ビーバー 「ばすの! おきて!」
プレーリー 「ばすのはつかれているであります。寝かせておいてあげるであります」
プレーリーとビーバーは、協力してばすのを持ち上げ、ベッドに寝かせた。
夕方。ログハウスの二階。
ばすのが目を覚ました。
ベッドのそばに、プレーリーとビーバーがいた。ふたりは、椅子に座って、ばすのを見守っていた。
プレーリー 「おきたであります!」
ビーバー 「よかった……心配したッスよ」
ばすのは、プレーリーとビーバーを、きょとんとした顔で、見つめた。
プレーリー 「……自分たちのこと、おぼえているでありますか?」
ビーバーが驚いて、プレーリーを見た。そして、すぐに不安そうな顔になった。
ビーバー 「プレーリーさん、なにを言ってるんスか……」
ばすのが、ゆっくりと右腕を上げて、プレーリーの頬に触れた。腕の緑色の部分は、土色が混ざったままだった。
ばすのが、かすかに笑った。
ビーバー 「ほら、ちゃんとおぼえているッスよ。ねえ、ばすの」
ばすのが、ビーバーを見た。ばすのの口が開き、かすかに動いた。
ばすの 「…………」
ビーバー 「ばすの?」
ばすのが、少し苦しそうな顔で、声を絞り出した。
ばすの 「……かー、さ……っ」
ばすのの声は、小さく、ひどくかすれていた。
プレーリー 「この子、声が!」
ビーバー 「そんな! どうして……」
ばすのが、プレーリーとビーバーから、目をそらした。
ビーバー 「ばすの、のどが痛いッスか? 息がくるしいッスか? からだのどこかに、痛いところは? くらくらする、とか、からだがあつい、とか……調子がわるいところがあったら……」
ばすのは、目を丸くして、ビーバーを見つめた。
プレーリー 「ビーバーどの、ばすのがとまどっているであります」
プレーリーは、ばすのの頭を、やさしくなでた。
プレーリー 「もうすぐ、はかせたちが、きてくれるであります」
ビーバー 「あした、こないようなら、こちらから図書館にいくッス。プレーリーさん、また、おねがいします」
プレーリー 「まかせるであります!」
夜。図書館。
机に、何冊もの本が積んであった。はかせとじょしゅが、その中の一冊を見ていた。
じょしゅ 「似ていますね」
じょしゅが、本のページをめくった。それは、大判の分厚い本だった。そのページには、数十行の文章があり、木の椅子の写真があった。その椅子は、四本ある足のうち、一本が折れていた。じょしゅが、ページをめくると、今度は、割れた、木のお椀の写真があった。さらにページをめくると、木彫りの人形の写真があった。それは、子供用のおもちゃらしく、頭が大きかった。そして、片方の足に包帯が巻かれていた。
はかせ 「この本は、信用できないのです……」
はかせは、暗い表情だった。
じょしゅ 「少し休みますか? はかせ」
はかせ 「調べるのです。あきらめないのです」
はかせが、別の本を手に取り、パラパラとページをめくった。こちらは、手書きのノートだった。 ※1 そのノートは、たくさんの紙や付せんが挟まっていて、膨らんでいた。
はかせの手が、あるページで止まった。はかせが、一瞬目を見開き、目を閉じて、ノートから、顔をそらした。じょしゅが、はかせが見ていたノートに目をやった。
じょしゅ 「……あの子たちのことも、ちゃんと記録されていたのですね」
じょしゅが顔を上げて、図書館の外を見た。
じょしゅ 「……だれか来ますね。わたり鳥の子、でしょうか?」
はかせ 「こんな時間に、なんの用なのですか? こっちはいそがしいのです」
ひゅん、ひゅん、と、鳥のフレンズ特有の、羽音が聞こえてきた。
翌朝。[8日目] ログハウスの二階。
ばすのとビーバーが、同じベッドで、横になっていた。隣のベッドにはプレーリーが寝ていた。ばすのを真ん中にして、三人は、川の字になっていた。ビーバーは起きていて、ばすのの顔を見つめていた。
ばすのが、目を覚ました。
ビーバー 「おはよう、ばすの」
ばすのが、ビーバーの目をじっと見つめた。ばすのは無表情だった。
間。
隣のベッドに寝ていたプレーリーが、目を覚まし、ばすのを見た。
プレーリー 「おはようであります……」
ばすのが、プレーリーを見た。ばすのは、無表情だった。
プレーリー 「ばすの、調子はどうでありますか?」
ばすのは、無表情だった。
一時間ほどあと。
ばすのは、ベッドに横になったままだった。プレーリーとビーバーは、ベッドのそばの椅子に座っていた。ばすのは、無表情で、ふたりを見つめるだけだった。
プレーリー 「ばすの、ジャパリまん、食べるでありますか?」
プレーリーの声は優しかった。ばすのが、ゆっくりと上体をおこした。プレーリーが立ち上がって、テーブルの上に置いてあった、ジャパリまんを一つ取ってきた。プレーリーは、それを二つに割って、半分をばすのに渡した。ばすのは、ゆっくりとした動きで、それを受け取った。そして、それを数秒見つめたあと、ほんの少しかじった。
プレーリーが、残りの半分をさらに半分に割って、ひとかけらをビーバーに渡した。
三人は、なにも言わず、ジャパリまんを食べた。
突然、ばすのが、ジャパリまんを落として、ベッドに倒れた。
ビーバー 「ばすの!」
プレーリー 「どうしたでありますか!?」
ばすのは、首を少しだけ動かし、目線を、ぼんやりと、プレーリーとビーバーに向けた。
ビーバー 「えっと、ジャパリまんが、そうじゃなくて! ばすのが、ばすのが、えっと、あれ、どうしよう! どうしたらいいんスか……」
ビーバーは ひどく取り乱していた。
プレーリー 「ビーバーどの! しっかりするであります!」
ビーバー 「……ばすの、体は、動かせるッスか? 痛い所は?」
ばすのは、ほんの少し、首を横に振った。ビーバーが、ばすのの手をつかんで、握った。ばすのの指が、少しだけ動いた。ビーバーは、ばすのの手をつかんで、腕をゆっくりと持ち上げた。ばすのの腕には、全く力が入っておらず、持ち上がったひじが、力なく揺れた。
ビーバー 「重症ッスね……助けをよばないと」
プレーリー 「だれかよんでくるであります!」
プレーリーが、階下へ飛び降りた。
はかせ 「プレーリー、戻ってくるのです」
ビーバー 「はかせ!」
はかせとじょしゅが、ログハウスの二階に飛んできた。
プレーリーが、二段飛ばしで、はしごを登ってきた。
プレーリー 「おそいであります!」
じょしゅ 「その子は、うごけないのですか?」
ビーバー 「ええ、さっきまで、うごけてたんですけど……。きのう、一度、模型に戻って、そのあと、しゃべれなくなって……」
ビーバーは、泣きそうな声だった。
はかせ 「予想よりも早いのです」
はかせとじょしゅが、ベッドに寝ているばすのに近づき、見つめた。
プレーリー 「お願いであります! この子を、ばすのを助けてほしいであります!」
はかせ 「残念ながら、助ける方法はないのです」
じょしゅ 「近いうちに、この子は、もとのすがたに戻るでしょう」
ビーバー 「そんな……もう、おはなしできない、うごかない……ってことッスか? なにか、今のすがたでいられる方法があるはずッスよ……」
はかせ 「ないのです」
プレーリー 「ひどいであります……」
じょしゅ 「この子に、はげしい運動などをさせましたか?」
ビーバー 「おととい、むこうのダムまで歩いて、きのう、トンネルの出口に、土を盛る作業を手伝ってもらって……」
はかせ 「むりしすぎなのです……。植物は、うごけないのです……」
はかせがうつむいた。その声は、いつもと違って、暗く、重かった。
じょしゅ 「ほかには? それだけではないでしょう?」
プレーリー 「きのう、トンネルのなかで、水もれがあって……、ばすのが、すごい力を使って、水を止めたであります……」
はかせが顔を上げた。
はかせ 「そんなことしたら、からだがこわれてしまうのです!!」 ※2
プレーリーとビーバーが、驚いて目を見開いた。
プレーリー 「……自分らの、せいであります……」
じょしゅ 「元のすがたに戻ってしまうのは、どうやっても避けられないのです。記録によれば、持っても三週間ほど。はげしい運動をさせると、それが短くなるのです。この状態だと、おそらく……三日ももたないでしょう」
ビーバー 「早すぎるッスよ! まだ、生まれたばっかりなのに!」
はかせ 「過去にも、似たような子がいたのです……。その子たちに共通するのは、
もとが、木を加工したものであること、
フレンズが愛着をもったものであること、
それらが、なんらかの形でこわれたこと、
そして、それらが水にぬれて、そこにサンドスターがあたったこと、
なのです」
はかせ 「ただ、例外も多く、記録の多くは、つくられたものである可能性が高いのです。それらは、ヒトのすがたになり、時間がたつと、サンドスターが失われるか、生命力がなくなるかして、ヒトのすがたを保てなくなるのです」 ※3
はかせ 「……そもそも、この子は……もう、死んでいるのです……」
プレーリー 「死んでる!?」
ビーバー 「そんなはずないッスよ!!」
じょしゅ 「材料の木を切り倒し、その木が再生できなくなった時点で、この子は死んだのです」
ビーバー 「木が硬くなる、あのかんじッスね……。オレっちが……ばすのを……殺したんだ」
プレーリー 「ちがうであります!! ビーバーどのは、ばすのを生み出したであります!!」
はかせ 「殺したのも、生み出したのも、どちらも正しいのです。この子は、生きているふりをしているだけなのです。“いのちの模型”、なのです。こういった現象がおきるには、長い時間がかかるものなのですが、この子の場合、木を切り倒した本人たちが、はじめから、模型として作ったので、こうなるのも早かったのです」
はかせの声のトーンが少し変わった。
はかせ 「そして、おそらく、もとに戻るのも、早いのです」
ビーバー 「…………ジャパリまんを食べさせるとか、サンドスターをあげれば……」
じょしゅ 「食事を与えても、少し、もとに戻るのを遅らせるだけなのです」
プレーリー 「……いっしょにいられる時間を、ふやせるでありますな」
プレーリーが、ベッドに落ちていたジャパリまんを拾った。
プレーリーは、しゃがんで、ジャパリまんを一口かじった。そして、ばすのと、口を合わせた。
少し経って、プレーリーは、口を離した。体をおこしたプレーリーは、ふらりと、倒れそうになった。
ビーバー 「プレーリーさん!」
ばすのが、プレーリーを見つめて、口を開いた。
ばすの 「……おとーさ……」
プレーリー 「やった!」
じょしゅ 「あなた、まさか!」
ビーバー 「プレーリーさん、ジャパリまんを」
プレーリー 「むりをして、フレンズ化が解けたら意味ないでありますよ」
プレーリーは、ビーバーを見て笑った。プレーリーが、ジャパリまんを、ビーバーに渡した。
ビーバー 「ギリギリで、持ちこたえてみせるッス」
ビーバーは、プレーリーに笑い返した。
ビーバーが、ジャパリまんを一口かじった。
はかせ 「やめるです! それは、わるあがきなのです。意味がないのです」
ビーバーが、ばすのと口を合わせた。少し経って、ビーバーは、口を離した。そして、ばすのの胸の上に、倒れ込んだ。
ばすのが、首をおこして、ビーバーを見た。そして、腕を上げて、ビーバーの頭に触れた。
ばすの 「おかーさん……」
ビーバー 「うう、ぐす、ばすの……」
ビーバーは、肩を震わせていた。
プレーリー 「もう一回であります! ばすの!」
じょしゅ 「これは、言ってもきかないでしょうね」
はかせが、ベッドに背を向けて、ベランダへ歩いていった。
じょしゅ 「はかせ?」
はかせは、ベランダから外へ飛んだ。じょしゅが、はかせを追った。
じょしゅ 「どうしたのですか? はかせ」
はかせ 「見ていられないのです」
湖の岸。
はかせとじょしゅは、岸に立って、ログハウスを見ていた。
はかせ 「あのふたりはおろか者なのです。あんなことをしても、よけいにつらくなるだけな
のです」
じょしゅ 「それは、われわれがおろか者だと言っているようなものでは?」
はかせ 「あのときはおろか者だったのです。……なぜそんなに冷静でいられるのですか?
じょしゅ」
じょしゅ 「冷静ではないのです。あの三人がうらやましい、なんて、おかしなことを考えて
いるのですから」
はかせ 「それが冷静だというのです。……もう少しだけ、あの三人に知恵をかしてあげる
のです」
じょしゅ 「よけいにつらくなる、のではないんですか?」
はかせ 「わかっているのです」
つづく
※1 パークの職員(飼育員)たちが残した、膨大な数のノートのうちの一冊です。パークで起きた出来事や、研究内容などが書かれています。このノートには、複数の職員が書き込んでおり、職員たちの日記のような役割も果たしていました。中には印刷物が挟んであったり、写真や図が貼り付けてあったりします。重要な所には、付せんがついています。時には、フレンズが、簡単な文字や絵を書き込むこともあったようです。ページのふちが、少し茶色く変色しています。
※2 はかせが珍しく感情的です。
※3 つくもがみ(動物ではなく器物)に近いですが、少し違います。
次回予告
ビーバー 「だめっスよ!! ばすの! こたえなくていいッスから!!」
はかせ 「どちらかを選ぶです」
ばすの 「いっしょにいたい」
ビーバー 「なんでわるいことが重なっちゃうんスかね……」
プレーリー 「好きに、させてあげるであります……」
じょしゅ 「警戒地域をふやしますか?」
次回 第5話 『選択』
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
はかせが感情的なうえに、他人の気持ちにも敏感になっていて、原作とは別人です。これは、意図的にこう書いているんですが、違和感がすごいです。じょしゅもそうですね。プレーリー&ビーバーは、意図せずに原作とはかなり違うキャラになってしまっていますが……。
あとは、「おろか者」という単語にも違和感があります。これは当初「馬鹿」だったのですが、「馬鹿」はストレートな罵倒語であることと、けものフレンズで、「馬と鹿」を使うのもどうかと思ったので、「おろか者」になりました。