第4話と同様に、セリフの改行位置などを調整した個所があります。
ログハウスの二階。
プレーリー 「ほんとうに、ギリギリだったでありますな……」
プレーリーは、疲れた様子で、ばすのの隣のベッドに横になっていた。
ビーバー 「ちがう世界が見えたッスよ……」
ビーバーと、ばすのは、抱き合って、ベッドに横になっていた。ビーバーが、ばすのの頭をなでると、ばすのが微笑んだ。
プレーリー 「そっち、うらやましいであります!」
プレーリーが、隣のベッドに転がり込んで、ばすのに抱きついた。ばすのは、ビーバーとプレーリーに挟まれる恰好になった。
ばすの 「あつい」
はかせ 「やれやれ、なのです」
じょしゅ 「暑苦しいのです」 ※1
はかせとじょしゅが、戻ってきた。
ビーバー 「ふたりとも、どこへ行っていたんですか?」
はかせ 「それをきくのは野暮、というものなのです」
じょしゅ 「気をきかせてあげたのです」
プレーリー 「かたじけないであります」
ばすの 「あついー」
ばすのが、ばたばたともがいた。
じょしゅ 「おどろくほど回復していますね」
はかせ 「ふたりとも、やりすぎなのです。ほんとうにフレンズ化が解けてしまうのです」
ビーバー 「ちょっと、むちゃしちゃったッスね……」
はかせ 「ちょっとじゃないのです。あなたたちふたりがいなくなったら、ばすのはどうなるのですか?」
プレーリー 「そのときは……はかせたちにまかせるであります!」
ビーバー 「あれ? いま、ばすの、って言ったッスか?」
じょしゅ 「あなたたちは、ほんとうに、おろか者なのです」
助手の声は、いつもの少し冷たい感じだったが、その中に、あきれが混じっていた。
はかせ 「そんなおろか者のふたりに、おしえてあげるです……ばすのが、もう少しだけ、いまのすがたでいられる方法を」
プレーリー 「そんな方法があるでありますか!?」
じょしゅ 「このやりかたには、大きなリスクがともなうのです。それでもよろしいですか?」
ビーバー 「ぜひ、おしえてください! ……リスク?」
プレーリー 「リスクって、なんでありますか?」
はかせ 「うまくいくかは、半々……以下なのです。逆に、早く戻ってしまうかもしれないのです。仮に延命できたとしても、ばすのを苦しめるかもしれないのです」
ビーバー 「苦しめるって、なにがおきるんですか……」
はかせ 「そのままの意味なのです。…その方法は、流れに逆らって、むりやりヒトのすがたを保つのです。もとに戻ろうとする部分と、ヒトのままでいようとする部分が、ばすのの中で混ざるのです。バランスが崩れて、痛みが生じるかもしれないのです。こころとからだ、両方にです」
ビーバー 「…………」
プレーリー 「それでも、それでももっと、ばすのといっしょにいたいであります!」
ビーバー 「……プレーリーさん、やめときましょう……」
ビーバーが、ばすのを強く抱きしめた。
プレーリー 「ビーバーどの! なにを言っているでありますか!?」
ビーバー 「そんなの、ばすのがかわいそうッスよ……」
じょしゅ 「本人にきいてみたらどうですか?」
プレーリー 「……ばすのは……痛くても、苦しくても……」
ビーバー 「だめっスよ!! ばすの! こたえなくていいッスから!!」
ばすの 「いっしょにいたい」
ビーバー 「ばすの……反対できないッスよ……」
じょしゅ 「はかせ、方法だけ教えましょう。まだ、もう少し時間があるのです。プレーリーとビーバーが回復するころには、どうするのか、三人で、答えをだすのです」
はかせ 「…………一番大事なことは、親との接触をふやすことと、サンドスターを補給することなのです」
じょしゅ 「これは、言わなくてもすでにやっていますね」
プレーリー 「それだけでいいでありますか?」
はかせ 「まだあるのです。ばすのは、植物としての性質と、模型としての性質、
バスとしての性質の、三つを持っているのです。バスとしての性質は弱いので、
除外しましょう」
はかせ 「植物としての性質を優先するならば、水分を多くとり、日当たりのいい場所で過ご
すこと。水に浸かってもいいのです。
模型としての性質を優先するならば、水分を避けて、風通しの良い、乾いた場所で
過ごすこと。そして、温度の変化も避けるのです。この場合は、あまり日にあたら
ないほうがいいのです」
ビーバー 「それ、逆ですよ……」
はかせ 「どちらかを選ぶです。まちがえれば、逆効果になるのです」
ビーバー 「なにそれ……こわいッスよ……」
プレーリー 「そんなの選べないであります……」
じょしゅ 「どちらを選んでも、別れが近い、というのは変わりません。すこし早いか、遅いかだけなのです」
ビーバー 「もうひとつ、選べるものがほしいッス……。ばすのと、ずっといっしょにいられるものを。むりだって、わかってるんスけど……」
プレーリー 「自分も、ほしいであります!!」
はかせ 「模型のすがたでなら、いっしょにいられるのです。……どうやっても、いまのままでは、いられないのです」
ビーバー 「……なにもしないで、自然にまかせる、というのも、ありッスね……」
はかせ 「今までの感じだと、おそらく、植物としての性質が強いので、リスクはありますが、そちらを選ぶのが、正解かもしれないのです」
はかせとじょしゅが、ベッドから少し離れて、小声で話しを始めた。
じょしゅ 「図書館へ戻りましょう、はかせ」
はかせ 「……もう少し、この三人を見ていてあげるのです」
じょしゅ 「例の雲の件で、そろそろ知らせがくるのではないですか?」 ※2
はかせ「あれはまだ直撃するかわからないのです。……見ているのがつらいのですか?じょしゅ」
じょしゅ 「…………ほんとうに、あの雲はあぶないかもしれないのです。情報を集めて、あぶないようであれば、島の皆に伝えましょう」
はかせ 「しかたないのです」
プレーリーが、じょしゅを見た。
プレーリー 「あのくも、ってなんでありますか?」
じょしゅ 「なんのことでしょう?」
はかせ 「じょしゅ、隠すような話ではないのです。…おまえたちには先に伝えておくです。
近いうちに、この島に嵐がくるかもしれないのです。
鳥の子たちが、南西の海で、大きな雨雲を見たと言っているのです。風がものすご
く強くて、近寄れなかった、とか……。※3 その雲は、おそらくこの島へ向かって
いるのです。この家は頑丈そうですが、逃げることも考えておくですよ」
プレーリー 「こわいであります……」
ビーバー 「なんでわるいことが重なっちゃうんスかね……」
じょしゅ 「われわれは、いったん図書館に戻るのです」 ※4
はかせとじょしゅが、ログハウスから去っていった。
翌日の夕方。[9日目]
プレーリーとビーバーは、回復し、普段通りに活動できるようになった。
プレーリー 「そろそろ、決めないといけないであります……」
プレーリーとビーバー、そして、ばすのは、決断を迫られた。考えられる選択肢は、三つ。
ばすのの、植物としての性質を優先し、延命策をとる。
ばすのの、模型としての性質を優先し、延命策をとる。
延命策をとらず、自然にまかせる。
ビーバー 「あのふたり、むちゃくちゃなこと言うッスよ……知らなきゃよかった……」
ビーバーは、頭を抱えた。
ビーバー 「どうすればいい……。なにが正解なんスか……」
プレーリー 「わからない、こんなの選べないであります!」
ばすの 「えらばなくていい」
ビーバー 「ばすの……でも、いっしょにいたいんじゃ……」
ばすの 「つらいなら、えらばなくていい」
プレーリー 「ばすのは、やさしいでありますな」
ビーバー 「ほんとうに、いい子ッスよね」
ビーバーは、ばすのの頭をなでた。
ビーバー 「でも、選ばないって、なにをすればいいんスかね? 自然にまかせる、のと同じなんスかね?」
プレーリー 「考える必要なんて、ないでありますよ!」
翌日。[10日目]
ログハウスのわきの、小高い場所。
プレーリーと、ビーバーと、ばすのは、草地に座っていた。
ばすのは、半分のジャパリまんを食べていて、プレーリーと、ビーバーは、4分の1のジャパリまんを食べていた。三人のそばには、ジャパリまんの袋が、三枚重ねて置いてあった。
ビーバー 「ばすの……なにかやりたいことはないッスか?」
ばすの 「いっしょにいたい」
ビーバー 「そうじゃ、なくて……」
プレーリー 「ばすのは、おかあさんとおとうさんと、いっしょにいるだけでいいでありますな」
ばすのが、うなずいた。
ビーバー 「それじゃあ、いままでやってきたこと、またやってみたいッス」
ビーバーとばすのは、お互いの腰を木のつるで繋いで、湖へ入ろうとした。水に入る寸前で、ビーバーの足が止まった。
ビーバー 「水に入ったら、ばすのの寿命が変わっちゃうんじゃ……」
ばすの 「いっしょにおよぎたい」
プレーリー 「ビーバーどの、気にかけることないであります!」
プレーリーを小島に残して、ふたりは湖へ入っていった。
ばすのは、立ち泳ぎの姿勢で水に浮かび、両手でつるをつかんだ。それを、ビーバーが泳いで引っ張っていった。
ビーバーが後ろを振り返ると、無表情だったばすのが、ほんの少し笑った。ビーバーは、ばすのに微笑み返した。
ビーバーが、ログハウスのはしごを登って、下にいたばすのを見下ろした。ばすのは、するすると、はしごを登った。プレーリーは、下からその様子を見守った。
ビーバー 「はしごのぼり、うまくなったッスね。えらいえらい」
ビーバーは、はしごを登ってきた、ばすのの頭をくしゃくしゃとなでた。
ばすのは、くすぐったそうにしたあと、今までにない笑顔を見せた。
ビーバー 「う……」
ビーバーは、動揺して、片手で口元を覆った。プレーリーが、はしごを登ってきた。
プレーリー 「ビーバーどの?」
ばすの 「びっくりした? おかあさん」
ビーバー 「……びっくり、したッス……」
翌日。[11日目] ログハウスの二階。
ばすのが、椅子に座ってテーブルに向かい、模型のホイールを、テーブルの上で転がして遊んでいた。プレーリーとビーバーは、椅子に座って、それを見守っていた。
その遊びは、以前より上達していて、ホイールは、カーブしてブーメランのように手に戻ったり、テーブルの上に置いた木の枝を飛び越えたりした。何回やっても、ホイールがテーブルから落ちることはなかった。
ビーバー 「ばすのはこの遊びの達人ッスね」
プレーリー 「自分もやってみたいであります!」
ビーバー 「プレーリーさんがやると、落としちゃうッスよ」
ばすのが、ホイールをプレーリーの方へ転がした。プレーリーが、それを受け取った。
ばすの 「こっち」
ばすのが、テーブルの上に手首を置いて、手を広げた。
プレーリー 「うけとめてくれるでありますな!」
プレーリーが、ホイールを、ばすのに向けて転がした。ホイールは、転がり始めてすぐに、横に倒れて、止まった。
プレーリー 「ぜんぜんだめであります……」
ビーバー 「転がすだけでもむずかしいッスね」
ばすの 「こんなかんじ」
ばすのが、ゆっくりと手指を動かして、ホイールを転がす動作を見せた。
プレーリー 「なるほど、こうでありますな!」
プレーリーがホイールを転がした。先ほどよりもうまく転がったが、まっすぐ進まず、大きくカーブして転がって、テーブルから落ちた。それを予測したかのように、ばすのが手をのばして、テーブルから落下したホイールを受け止めた。
ビーバー 「すごい……さすがッスねふたりとも」
ばすの 「よくできた」
ばすのが、身を乗り出して、プレーリーに顔を近づけた。
ばすの 「おとうさん、ごほうび」
ばすのが、プレーリーにキスをした。プレーリーが、何かを飲み込んだ。
ビーバー 「ばすの! それはやっちゃだめだって……」
ふたりの唇が離れた。
プレーリー 「好きに、させてあげるであります……」
プレーリーが、ビーバーを見て、微笑んだ。
ばすの 「おかあさん、ほしい?」
ばすのが、ビーバーの方を見て、顔を近づけた。
ビーバー 「オレっちはいいッスよ! ごほうびをもらうことなんて、してないッスから」
ばすの 「してる。してくれた」
ビーバー 「…………ちょっとだけッスよ?」
ばすのが、ビーバーにキスをした。
ビーバーから、唇を離した。そして、こくん、と、何かを飲み込んだ。ばすのの口から、緑色の液体が一滴、垂れ下がった。
ビーバーが、ばすのの口元についた緑色の液体を、指でぬぐった。
ビーバー 「ありがとう、ばすの」
ビーバーがうつむいて、目元をぬぐった。
ビーバーは顔を上げ、微笑んだ。緑色の涙が一滴、頬を流れた。
ばすのが微笑んだ。
翌日の午前。[12日目] 図書館。
図書館から、数人の、鳥のフレンズが飛び立っていった。
はかせとじょしゅが、机に置かれた地図を見ていた。地図には、赤鉛筆で、数本の線が引かれていた。
はかせ 「厄介なのです」
じょしゅ 「強いうえに、いやなコースなのです。警戒地域をふやしますか?」
はかせが、赤い線に沿って、地図を指差した。
はかせ 「ジャングルの東、平原の南、西の森のものにも連絡。山の周囲と砂漠は後回しなのです」 ※5
同時刻。湖のダム。
湖の周囲で、風が強まり、木々が揺れ始めていた。
ビーバーが、ダムの木材を移動して、放水口を開けた。ダムから、勢いよく、水が流れ出した。
昼過ぎ。ログハウスの二階。
いつものように、ばすのが、模型のホイールを転がして遊んでいた。そして、プレーリーとビーバーが、それを見守っていた。ばすのの手の動きが、以前よりも遅く、鈍くなっていた。
ばすの 「つかれた……」
ばすのが、ホイールを握って、ふらりと、ビーバーにもたれ掛かった。ばすのは、眠そうではなく、言葉通り、疲れて、少し険しい表情だった。ホイールは、ばすのの腕に取り込まれて、腕の、緑色の部分の中に浮いた。
ビーバーは、ばすのの肩を抱いた。その表情は、悔しそうでも、悲しそうでもあった。
プレーリー 「横になって、ゆっくり休むであります……」
プレーリーの声は優しかった。
空を、暗い灰色の雲が覆っていった。そして、雨が降り始めた。
つづく
※1 この時の、湖周辺の気温は、30℃を超えていました。
※2 フレンズたちには、遠方の情報を得る方法が非常に限られています。
園内放送は機能しておらず、テレビも、新聞も、電話も無く、おそらくコンピューターネットワークも利用できません。ラッキービーストは無線通信ができますが、何もしゃべりません。
テレビなどの機器は一応あるようですが、アニメ1期の設定で、放送局が正常に機能しているのかは不明です。それらが機能していたとしても、機器の使い方がわかるフレンズは、ごく一部でしょう。
フレンズたちにとっての、一番の通信手段は、鳥のフレンズによる情報伝達だと思います。また、もしかしたら、特殊能力で、遠方と情報のやり取りができるフレンズがいるかもしれません(妖怪や、神に近いフレンズもいるので)。
※3 鳥のフレンズたちが、その雲の近くを飛んだところ、予想以上の強風でコントロールを失って、海に落ちそうになりました。
※4 直接、雲の情報収集ができる鳥のフレンズや、天気の変化(雲の動き、気温、湿度、気圧、風の状態、空気のにおい、など)に敏感なフレンズが、図書館に集まって、情報を集約し、はかせたちが対策を考えます。
※5 この時点では、サバンナ全域と、ジャングルの西が警戒地域でした。警戒地域の設定は、サンドスターの影響と、嵐の影響のバランスを考慮して行われています。山の周囲と砂漠は、サンドスターの影響が強いため、はかせは、嵐の影響が弱いと判断しました。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
次話が最終話になる予定です。(最終話のあと、あとがき・設定を別の話として投稿します)