お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが   作:きりがる

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久しぶりな気がします。気がするだけでしょう。

うちのフォウはアレです。大人しくて安全です。なにももんだいはない…。

このネタをやりたかっただけとも言う。


10 受け入れろよ、これも運命だ

 

 

「おとーさーん、これ飼っていい?」

 

「こら、ジャック、駄目でしょ? そんな犬か栗鼠かもわからないような珍生物拾ってきちゃ。どんな病原菌持ってるのかわからないんだから。ちゃんとダンボールに戻して雪山で滑らせてきなさい。麓まで一直線よ」

 

「はーい…ちゃんとSRB付けとくね」

 

「フォウ!!?」

 

「月でも目指すのか?」

 

 とある日、ジャックがどこからかフォウと呼ばれるフォウと鳴くフォウさんを拾ってきて俺の目の前に持ってきた。大人しくジャックの腕の中に抱かれていた珍生物だったが、俺の捨ててきなさい発言に驚いたように鳴き声を上げる。

 

 自室で一緒にゲームをするようになった人斬りさんと俺の部屋なのに何やら機材を持ち込んで何かを作っている大天才。その二人もフォウがジャックと共にやって来たのに気づき、こちらに目を向ける。

 

「おや、まさかアルン君の部屋にこの子が来るなんて思っても見なかった」

 

「俺もだ。それより大天才、何を作ってる」

 

「これかい? これはアルン君のために作ってる、水とちょっとの材料を入れるだけで究極のドリンクが作れる発明品さ! これがあれば好きなときに好きな飲み物が最高の品質と味で飲めるんだよ」

 

 指パッチンと共に「続行」と告げれば「アイアイサー!」と元気よく返ってきた。

 

 魅惑の究極メーカーだった。

 

 それよりも、ジャックが抱えているこのカルデア内を自由に歩き回る珍生物のことだ。なにげに俺はフォウを触るのは初めてになるのかもしれない。動物に好かれるスキルがあるので嫌われはしないと思うのだが、この生物に通用するか……。

 

 ゆっくりと手を伸ばし、つぶらな瞳で見つめてくる小動物に触れれば……

 

「ーッ!!?」

 

 この、もふもふ感は――ッ!!

 

 人が作ったものでは味わえないような温かで手に優しいもふもふ感! 少し沈めるだけで指の間を通っていく毛! 

 これは、人では味わえない別種の感覚。動物だからこそ味わえるもふもふ感!

 

「これはいいもふもふだッ」

 

「フォーウッ!」

 

 もふぁ!と一気にフォウを抱きしめてモフり倒すと、俺の撫でテクもといもふテクにフォウもご機嫌な様子。

 

『スキル、モフニシャンを取得しました。毛のない対象には効果を発揮しません。髪の毛は、毛 です』

 

 知ってるわ。というか毛ありきのスキルなのか…スフィンクスとかは撫でても普通ってことだ。ハゲはカエレ!ということですね分かります。

 スキルを得られたのであれば、俺はこいつに天国を見せてやることもできれば、どこへだろうとイかせてやることも容易い…! 

 

 モフリストとなった俺に抗うこともできずに全身を預けている。誰にもなつかない? 懐くのが珍しい? 物理的?に心を射止めて懐かせてしまえばいいじゃない。

 

「おお、凄く気持ちよさそうな表情してますね」

 

「いいなぁ…おとうさん、私も!」

 

「仕方ないな…ほら」

 

 自分もしたいとジャックが言ってきたので、父親としては娘の願いを叶えてやらんわけにはいかんので蕩けたフォウを差し出した。

 

「ん~」

 

 語尾に音符でも出そうなほど嬉しそうな声を出すジャック。その手には何も持っておらず、俺の膝の上に座って俺に撫でられている。フォウは引き続き撫でろと催促してきたのでジャックの太ももの上に乗って俺に撫でられている。

 

「そっちなんですね…」

 

 沖田の台詞に大いに賛同する。俺に撫でられる方を羨ましがってたのね……。

 

「はぁ…それにしても……」

 

 顎の下がええんか?ほれほれ。とフォウの弱点を探っていたところ、徐にコントローラーを置いた沖田がダメソファに座ったまま手足を伸ばしてそんな事を言う。手足を伸ばしたことでしなやかな脚と胸が強調されて眼福である。

 

 なんでこうも女性サーヴァントって…アレなんだろうね? だって見ちゃうよ、男の子だもん。絶対にバレないけども。ハイパーセンサーって知ってる?

 

「まさかアルンさんが噂のお父さんだなんて思ってもみませんでしたよ…しかも、ここ数日通ったところからも、こんなに他のサーヴァントの方がいるなんて吃驚です」

 

「バラしたら実験台だからな」

 

「実験台!? なんの!?」

 

「おや、この場で実験と言ったら私しか居ないじゃないか。大丈夫、すぐに良くなる。血反吐を吐かなくてもいい頑丈でメカメカしい体にしてあげるよ?」

 

「メカ沖田さん!? ちょっと見てみたい気もするけど、え、遠慮しておきますね~…あはは…」

 

 引きつった笑みを見せる沖田は既に数日に渡って俺の部屋に通っている。あのときの出来事以来の最初の出会いは恥ずかしかったのか、真っ赤になって小さくなっていた。まあそれでも俺のゲームを見に来ていたということは俺の部屋に入るということである。

 

 つまり、俺の部屋に来るこいつらと出会うのは必然であろう。全員集合の俺の部屋に沖田が来た瞬間、アストルフォが何やら動けなくし、ジャックが更に押し倒して動けなくし、さらにさらにダ・ヴィンチちゃんがヘンテコなアイテムで拘束し、静謐が俺に抱きつくコンビネーションを見せた。

 

 ダ・ヴィンチちゃん監修の沖田さんと一緒にOHANASHIしよう!で悲鳴が聞こえるほどの話し合いが行われたらしいのだが、俺はシャワールームに一人押し込められていたため何があったのかはわからない。

 もはや俺がなにかしなくても他のメンツが口止めしてくれるからありがたいものである。

 

 でも、そろそろ危なくなってきている気がするんだが……いや、厳密に言うとまだまだ大丈夫だろう。ここ、カルデアにいるサーヴァントはかなりの数だ。その中の両手の指に満たない人数だからバレル可能性も少ないかもしれないが、主力の沖田や中心となるダ・ヴィンチちゃんに大人気でお父さんの鼻が高いぞジャックちゃんまでいる。

 

 うん、まだセーフ。まだいける。基本、サーヴァントってなにもないときは自由らしいし。

 

「ジャックは昨日何もなかったと思うけど、何してたんだ?」

 

「えっとね、昨日はあどばいす?通りに厨房で食材を解体してたよ!」

 

「あ、だから昨日のご飯はみじん切りとか一口サイズが多かったんですね!? でもでも、沖田さん的には食べやすいので有りでしたよ」

 

「ガッツリいきたい奴らには食べごたえなかったんじゃね?」

 

「それは別にどうでもいいです」

 

 ほら自由。解体欲も食材で発散すればいいじゃないというアドバイスをどこからか受けたジャックがこうして自由奔放に楽しんでいる。

 

 その悪魔の囁き(アドバイス)したの俺だけど。

 

 言わんとこ。

 

 だからこっち見ないでダ・ヴィンチちゃん。

 

「フォーウ……」

 

 そんなバカジャネーノみたいな目で見られても知りません。お前も蓬莱人形にしてやろうかッ。

 大体なんでお前はフォウしか言えないの?(責任転嫁) もしかしなくてもそういうキャラ作りではないだろうか。

 

 また無駄な思考を行っていると気になってきたので他の言葉を言わせてみたいと思い、フォウを両手で捕まえて目の前に持ってくる。

 

「おとうさん?」

 

「ンキュ……」

 

 何すんだよみたいな視線を向けてくるが、目を逸らしたら負けだと思っている。そのよく七変化するつぶらな瞳を見つめること数秒。周りの三人も何をしているのか気になったのか、俺たちのことを見ている。俺は、その視線を一身に受けながらもフォウが次に鳴くのを待った。

 

 そして、それは来た。

 

「フォ…フォウ…?」

 

「それはベトナム料理だな。インド料理は?」

 

「フ…フォ……」

 

「インド料理は?」

 

「………………………」

 

「インド料理は?」

 

「………………。……………ナァン…」

 

「うむ、正解だ。じゃあナンが属する、小麦粉やライ麦粉に水や酵母、塩を混ぜた世界の広い地域で主食としても有名な食べ物は?」

 

「キャーゥ………」

 

「世界中で見られる有名な食べ物は?」

 

「フォ……ファ………」

 

「世界中で見られる有名な食べ物は?」

 

「……………………」

 

「世界中で見られる有名な食べ物は?」

 

「………………。…………パァン…」

 

「正解だ。なんだ、別のことも喋れるじゃないか」

 

「え…それ確かめてたんですか…」

 

 冷や汗ダラダラで震えているフォウと満足な俺を見て沖田がそう言うが、これでやろうと思えば似たようなことは何でも話せるんじゃないかということがわかった。快く協力してくれたフォウにはスキルをフル活用した撫で撫でをしてやるために、膝の上に置いて固くなった白い塊をモフり倒すことにする。

 

「おとーさん、わたしたちもー!」

 

「はいはい」

 

 今度は2単語以上の何かを喋らせてみせようと思った日だった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 フラフラの死にかけといえばいいのだろうか。まさしくゾンビという名が似合いそうなほどにフラフラゆらゆらとしながら俺は食堂へ向かっている。目の下に隈を作り、亡霊のような姿の俺に見たこともないサーヴァントたちも気味悪そうに俺のことをちら見しながら通り過ぎていった……というのをナビに聞いた。俺は全く意識に入ってこなかったので知らない。

 

 クマー…もうこんなとこやめてやるクマー……。

 

『外に出てもなにもないのでは?』

 

 知ってんよ。人類が仕事してねえもん。

 

 ようやっと食堂にたどり着けば、そこは地獄だった。

 

 俺と同じ制服を着た誰も彼もがテーブルに突っ伏しており、全員が黒い何かを背中から放出しているという死に体。これは、先程まで俺と共に戦っていた戦士の……亡骸だ。

 

「死んでねえよ……」

 

 俺の亡骸発言に(言ってない)誰かが何かを感じ取ったのかそう呟いたのが聞こえた。俺もすでに限界だったので一つのテーブルに向かって行き、倒れ込むようにして座ると本当にテーブルに倒れ込むと同時に、今回の仕事の終わりを告げる会議が始まる。

 

「よーし、全員集まったな……まず、ソルシエは最後まで片付け助かった……」

 

「うぇーい…」

 

「うーい…で、三日三晩の修復作業、お疲れだった…これから自由だ。2日の休暇を与える……死ね」

 

「「「「「へーい…?」」」」」

 

「間違えた……死んだように眠るといい…」

 

「「「「「へーい…」」」」」

 

 誰も彼もがもはやツッコミを入れる元気もなく、班長的なリーダーからの声に呻くようにして応えた。

 そのまま部屋に帰って寝ようとするやつや、少しでも食事を摂ろうと注文しに行くやつ、既に崩れ落ちて仲間に引きずられているやつなどいるが、殆ど帰って寝るようだった。

 

 それ以外の人といえば何故壊れたのかわからない装置を修復していた俺たち以外のスタッフや修復中は休暇だったサーヴァントしかいない。

 三日三晩、休みなく急速で修理していた俺達だが、もう誰も彼もが全力だったので死にかけだ。そりゃ壊れるよ、機械だもん。このボロボロカルデアで酷使してればいつかなるとは思ってた。

 

「お前はどーすんの…」

 

「あー…もうここで寝てもいいかもしれん…」

 

「ここまで来ると食欲もないもんな…」

 

「それな……ん…」

 

「フォウッ!?」

 

 眼の前の仲間からの問い掛けにぼんやりと答えながら、視界の端にはしった白い塊も確保し、それをテーブルの上において顔面からダイブする。

 

「フォーウ! キャゥ……ンキュ……フォウ、フォーウッ!」

 

「うるさいぞ、枕…」

 

「フォーゥ………」

 

「お前、何やってんの……」

 

「枕だ…」

 

「枕か…」

 

「そうだ」

 

「そうか」

 

 フォウフォウキャウキャウとうるさい白い枕に顔面をもふもふしながらも顎下などを撫でてやれば、すぐに大人しくなって力を抜き、枕役に徹するフォウ。もふもふの尻尾が首に巻き付いて気持ちいい…これは寝れる。

 

 眼の前の仲間も脳内の処理能力が限りなく低下しているのか、俺が何を言っても死んだ目つきで納得しやがった。これでいいのだ。

 

 さて、俺も帰ろうかな…。

 

『マスター、食事をして栄養をお摂りください。現状のままではお体に悪いです』

 

 ……スキルでどうにでも…。

 

『出来ますが、食事をすることからくるメリットのほうが上だと思われます。食べられるうちに食べておきましょう』

 

 そこまで言うのなら…まぁ…。しかし困ったことに一つ問題があるのだ。

 まぁ、なんだ……動きたくないという問題なんだけども。

 

 疲れ切った体は俺に動こうという思考すら持たせないくらいで、気力という気力を根こそぎ持っていってしまったようだ。

 

 そこで一つ思いついたのが、俺の代わりに行けるやつを用意すればいいということだが、生憎とこの人の目が多い場所でジャックや静謐を呼ぶわけにもいかないので、ゴーレムとかでも出して動かせばと…。

 

「フォウ…お前、芸覚えるつもりないか?」

 

「フォウ…?」

 

「料理注文してからしっかりお座り待ちしてここに運んでくるまでをやってもらおう」

 

「フォーウ…」

 

 無理だろ…という心の声が聞こえた気がした。流石に大きさ的に無理なのだろうか。

 コールボタンなんてあるはずもないので、もうそこらへんのチラシに胃に優しいものとだけ書いて鶴を折り、式神にして飛ばすことにした。出来上がった鶴がパタパタと動き出したのを見届け、キッチンの方に飛ばそうとしたのだが、その前に横から声をかけられる。

 

「あの、すみません…」

 

「ん…?」

 

 声の方向を見てみれば、そこには眼鏡をかけた美少女、デミサーヴァントになったら更にエロくなった我らがカルデアのアイドル(的な存在だった)マシュ・キリエライトが佇んでいた。その目は俺の顔とその顎の下にあるフォウを行き来しているが、俺とキリエライトの間をパタパタと呑気に飛んでいった式神に目を奪われていた。いきなりこんなものが飛んでたら誰でもそうなる。

 

「んで、何か御用ですかね」

 

「………あっ、えっと、その、フォウさんが私や先輩以外に懐いているのが珍しくて、つい話しかけてしまったのですが……フォウさんのそれは…?」

 

「枕だが」

 

「枕ですか…」

 

 今の俺には話をする気力もないために、それだけ言ってフォウの背中に再び顔を埋めれば、キリエライトも無言になる。どうしていいのかわからないのだろう、そわそわしているのは気配でわかるのだが、そんなに居たたまれないのであればどこかに行けばいいものを。というか、フォウって懐くの珍しいのか。

 

 俺としてもそうしてくれたほうが助かる。そうやってずっと俺のそばに立ったままというのも注目を集めてしまうだろう。無理なら座ってくれ。

 

 流石にこのままにしておくわけにはいかないのでキリエライトに話しかけようと顔を横に向けたとき、一人の少女が小走りで走り寄ってくる。その少女はこのカルデアでは知らないものは居ないだろう、最後のマスター、藤丸立香であった。

 そのマスターちゃんの視線はキリエライトに向かっているので彼女に用事があるに違いない。そのままどこかに連れて行ってくれることを願ってる。

 

「マシュー、よかったら一緒にご飯でも食べなーい?」

 

「あ、先輩…。はい、そうですね、ご一緒させていただきます」

 

 よしよし、その調子である。

 二人の会話を盗み聞きながら、よーしもうちょっと、ここで他のサーヴァントが更に誘いに来て……来ないかぁ……、などと脳内独り言をかましているその時、目の前の同僚がこっそりと話しかけてくる。

 

「おい、アルン…このままぐでーっとしてたら失礼にならないか?」

 

「いいんじゃね…」

 

「だが、最後のマスター様だぞ。サーヴァントがセコムってくるかもしれないじゃないか…」

 

「お前はマスターをなんだと思ってんの? 例え最強のセコムが居ようと、例え可愛らしい美少女だろうと、マスターはマスターだぞ。…ところで、聞いたところによると、言葉一つで相手を懐柔したり、小さな拳一つでなぎ倒したり、嗤いながら英雄達をけしかけて相手を殺す、そんな少女だと聞いた。何してんだよ、お前。もっと敬えよ。視線一つで殺されるぞ」

 

「ま、マジかよ……」

 

「ああ。真の英雄は目で殺すらしいからな……」

 

「………俺、マスター様に出会ったら道の端にずれて大きな声ではきはきと挨拶しながら、深く頭を下げるわ……」

 

「その側にいる、マシュー・キリエライトもな。彼女こそ、マスター様に逆らうものを消す、最強のセコムだ。なんでも、どこぞの妹の心臓を食べるくらいだからな」

 

「ガクガクブルブル」

 

「フォーウ……」

 

 んなわけねえだろ……という声でフォウが鳴いているが、現在疲れ切ってダメダメな脳状態である同僚はガクガクブルブルである。

 

 そして、この話は勿論、真横に居た二人にも聞こえているわけで……。

 

「そんなことありませんけどッ!!? 私はただの女の子だよ!? 視線一つで殺せるわけ無いじゃん!!!!!」

 

「マシュ・キリエライトです!! それと心臓を食べるってなんですか!! 私はそんな酷いことしませんし、食べられません!!」

 

 まあ、こうなる。

 

「やだ、男子会に女子が混ざってくるなんて」

 

「無粋よねー」

 

「セコム…してますか?」

 

「「すみませんでした」」

 

『セコムしてます』

 

 サーヴァント(戦闘組)をけしかける気だ…そんな目をしている。俺のセコムはナビなので問題ないが、同僚は瞬殺だろう。

 その同僚はこのままここに居てはまずいと悟ったのか、俺の目を見てアイコンタクトで帰ると言っている。

 

「帰るわ…怖いから…」

 

 現に言っていた。

 

「シッ! 目で殺されるぞ……俺も帰るわ」

 

「あ、貴方は少しお話でもしませんか?」

 

「そうですね。丁度、ソルシエさんのお食事が来たようですよ?」

 

 逃さねえぞという視線と共に肩を掴まれて椅子に座らされ、キリエライトの言うようにキッチンの方から盆を持った一人のサーヴァント、おかんことエミヤがやってくる。この隙に同僚は逃げていたが、俺はもう駄目かもしれない。少し遠くに居た沖田と目が合ったために助けを求めたが、いい笑顔が返ってきただけだった。

 

 俺の肩の細く小さな手に噛みつけとばかりにフォウを持ち上げて口を近づけても、フォウの奴は前足でテシッと叩くだけ。あぁ、使えない…。

 

 おかんが対面に来る。それと同時に、前を進んで案内していた鶴も俺の側に飛んでくる。

 

「君か、使い魔で注文してきたのは……………これは、どういう状況だ?」

 

 眼の前に置かれたのは多数の薬味と湯気を上げる美味そうなお粥。それと俺を囲むは二人のとびきりの美少女。ついでにエプロンの似合うムキムキ白髪褐色イケメン。そして、飛んでいる鶴を無邪気に追いかけて食堂を駆け回っている、フォウだった。

 

 




「ところでお前、本当にそれだけしか喋れないのか? まだ喋れるんだろう? ん?」

「フォーウ……」

 がっしりと両脇から手で掴まれて宙に吊るされる一匹の動物。それは脅されているかのように体を震わせて、掴んでいる男を見つめていた。

「フォウで始まる言葉だ。これを言え」

 眼の前に出された一枚の紙には、とある言葉が書かれていた。言えと言われて力も込められ、哀れな小動物は力に屈する。その声はまるで助けを求めるかのような叫びだった。

「フォーウ!……チュンクッキャーウ……」

「次はこれだ」

「ンキュッ……ーリ……」

「そんでもってこれだ」

「フォーウ…リナー……キュゥ…べぇ……キャゥ…メロット……」

「お前、割とちゃんと喋れるくね?」

「アルンさん…流石に止めてあげましょうよ…可愛そうですってば…」

「おぉー…っ!! おとーさん、凄いよ…! 喋れてる……!」

 それは、はたから見れば完璧に虐待にしか見えなかった。

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