お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが   作:きりがる

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名言の最後に変身をつけると誰でも仮面ライダーになれる説。

作者名言という名の言い訳
「俺は忘れてたんじゃねえ、記憶の奥の隅に大事にしまっておいただけだ! 変身ッ!」

 結局忘れてただけじゃないか。




15 「負けたことがある」というのが、いつか大きな財産になる…変身ッ!

 

「仕方ねぇな…ハンデとして、俺は人差し指しか使わないことにしよう」

 

「ひとっ…!? ば、馬鹿にしてぇ…!! いいわよ、その選択、後悔すんじゃないわよ!」

 

 コントローラーを床に置き、両手の人差し指をピンと伸ばして挑発するように邪ンヌに笑いかければ、面白いようにこの挑発に乗って白い肌を真っ赤にして怒りを顕にす。コイツも相当に練習してきたのだろうが、それでも俺には未だに一度も勝てていないのだ。

 

 画面の中では俺の小さなキャラが邪ンヌの大男のキャラから攻撃を食らっているが、ジャストガードで難なく防いでいる。これを指一本でやっているというものだから、攻撃の入らない邪ンヌの怒りボルテージは更に上昇。

 

「ぐぬぅ…! なんで入らないのよ! おかしいでしょ!」

 

「おっとあぶねぇ…指一本ってのもなかなかどうして面白いものじゃないか。おいおい、どうしたどうした? ゲージが変わってるように見えないんだけど?」

 

「うっさいわねぇ…! 今に見てなさい、アンタの隙ってやつを突いて………」

 

「隙ありッ」

 

「あッ…!? な、なんてこと…」

 

「どやぁ」

 

「プラチナむかつく!」

 

 邪ンヌのキャラが大振りの攻撃をしようとしたところで、そろそろ終わらせようと俺も動くことにした。瞬時に間合いを詰めて下段からの繋ぎ技に入って上に飛ばし、蹴り下ろすとともにスタン状態の邪ンヌキャラを堂々の必殺技で仕留める。フルHPだった邪ンヌのキャラが俺の猛攻に一瞬にして死んでいく。

 

「決まった、詰みだ! ぐうの音も出まい!」

 

「ぐぅ!」

 

「マジで言う子は初めて見たよ」

 

 もはや悔しさのあまりにキャラ崩壊している邪ンヌ。しかし、負けは負けであり、今日は散々負けているので力を抜いて倒れるようにして負けを認めたようだ。短パンにシャツ一枚の姿なので、倒れ込めば折れてしまいそうなほど細い腰に綺麗なお腹までが見えてしまう。

 

 なんで俺の部屋に来るやつは自分の部屋でもなく、男の俺がいるのにこうも無防備になるのだろうか。

 それにしても人差し指を動かし続けたので割と疲れた。

 

「ミッションコンプリート。今日は祝勝会だ。おめかししてこいよ」

 

「わーい、負けた立場なのにウレシーナー……アンタ強すぎよ…どれだけやり込めばここまで強くなれるのかしら」

 

「さらば青春よ、それもゲーマーの定め」

 

「灰色のアオハルね、納得しました」

 

 無表情でわーいとか言わないでほしいものである。表情の変わらない邪ンヌのやわやわ極上ほっぺを勝利の人差し指でぐりぐりと押し潰す。

 

 はぁ…と二人して同時にため息をつき、俺はだらけている邪ンヌを傍目にのそりと立ち上がって、冷蔵庫に飲み物を取りに行く。簡素な部屋のほうが好きな俺の部屋は冷蔵庫まで速攻で行けるのだが、この部屋に来るサーヴァントが増えてからというもの、俺の私物以外のものが本当に増えてきた。

 

 もともと、フィギュアや漫画を入れている壁に隣接した棚と絨毯にテーブル、駄目ソファと座椅子、そしてベッドのみだったのに、いつの間にかジャックのナイフや纏っていた黒い布が本棚の横に掛けられていたり、アストルフォが作ったフィギュアと数多の私物にダ・ヴィンチちゃんがいつの間にか作り出した本棚とラックには発明品や部品が所狭しに並べられている。沖田、お前、刀忘れて……。

 

 そして何よりも最近俺の部屋に入り浸るようになった邪ンヌの私物の方が多い。何が多いって、こいつ服を脱ぎ散らかしていくから、床に色々散らばっているのだ。しかも、俺の服を着たりするものだから困ったものである。

 

 サーヴァントってのは自分の格好ってものがあるし、大体はそれで過ごしていることが多いらしく、現にダ・ヴィンチちゃんや静謐などはいつも同じだ。だというのに、特に気にしないやつや気楽に行きたいやつは自分の服を着ているが、それの殆どが俺の服だというのだから止めてほしい。ジャックはいいだろう、なにせ我が娘なので。

 

 まあわからなくないよ? 鎧的なのや防具的なのは邪魔になるのもわかるが、別に魔力で構成されているのなら消せばええやん。邪ンヌのヘッドバッドしたらめちゃくちゃ痛そうな金属のあれも消えてるし、あれだけ消せば普通に過ごせるだろう。

 

 ジャックだって消すときはナイフ消してるし…なぁ、ジャックー?

 

「あっ、おとーさん終わったー?」

 

「おう、終わったぞー。邪ンヌの馬鹿をコテンパンにしてぐうの音を実際に出させてフィニッシュだ」

 

「うっさいわよ。まったく……って、ジャックは何してんのよ? なんか…手の中のキューブ?がウニョウニョ動いてるけど…気持ち悪いわね」

 

 起き上がった邪ンヌの言葉に俺も振り返ったジャックの手の中を見てみれば、そこには黒いルービックキューブほどの四角い物が変化しようとしているのか、スライムのように蠢いている。なるほど、確かに見様によっては気持ち悪いかもしれないが、なんだろうか…俺にはそのキューブに見覚えがあるような既視感を覚えていた。

 

 あれは確か…まだお父さんにもなっていない頃の……

 

『あれは持っているものの想像通りの形に変化する魔道具です。一年ほど前にマスターが暇つぶしに作られたものでしょう』

 

 そう、そうだ、あれは持っている奴が考えた形に変化し、自律行動する魔道具であり、暇つぶしに作った玩具のようなものだった。命令しなくても自分で考えて動くことから、犬や猫に変化させてペットのようにすることもできる。

 

 また、ルービックキューブ程度の大きさまでしかなれないようにしているので、手の平サイズの動物やドラゴンなどの幻想種が出来上がり、それがまた可愛いものだ。

 

 まあ、本物というわけではないので火を吐くなどの行動は出来ないから危険ではない。しかし、飽きてアイテムボックスの中にしまっていたんじゃなかったのか。

 

『私の記憶ではフィギュアの奥にそのまま放置されていたと思います。それをジャックが見つけたのでしょう』

 

 なる。

 

 俺がナビとともにそんなことを思い出していると、ジャックの手の中のキューブが鴉に変化して部屋の中を飛び始める。

 

「嘘ッ!? 生き物に変化して動き始めた!?」

 

「そうだよ。なんか、わたしたちが考えたものに変わって、動くんだー」

 

「ということは、何にでも変われるってこと…?」

 

「あー、まあ、そうだ。思ったものに変化して自分で動くんだが、別に攻撃するとか言った危険はないぞ。ただの玩具みたいな魔道具だ」

 

 説明がてら鴉を回収して今度は俺の考えたものに変化させる。

 手の中でグニョグニョと変化した鴉はやがて、一匹のドラゴンに変化する。手乗りサイズのドラゴンは吠えることもなく翼をバサバサと羽ばたかせるだけだが、ただ動くだけとなるとドラゴンだというのに何の迫力もないな。

 

 なるほど、流石にこのままでは面白くない。

 

 少しばかり考えて、調節しながら付与スキルで新たな要素をキューブに付与していく。鳴く、吠えるを可能とし、その生物の代名詞とも言える現象や行動を一割以下にまで効果を抑えて可能とする。

 

 少しばかりドラゴンが光ったと思うと、次の瞬間にはまるでドラゴンが自由性の増したのを歓喜したかのように吠え始めたではないか。

 

「グルァアアアァァッ!!」

 

「わー! ドラゴンだー!」

 

 口からチロチロと炎が漏れ、更にひと鳴きして自由に宙を飛び回り始めた。これで多少は面白くなるだろう。ブレスも最大でガスバーナー程度には抑えておいたし、爪も折りたたみナイフ程度の切断力。

 

 ………殺り様によっては人を殺れるな。

 

「ほら、竜の魔女。喜べよ、大好きなドラゴンちゃんだぞ」

 

「……色々と驚きに顎が外れそうだけれども、これはドラゴン…でいいの?」

 

「見た目ドラゴンだし、ドラゴン以外の何に見えるんだ?」

 

 いやまぁ、本物ではないけども。

 えー本当にドラゴンにござるかー?と首を傾げる邪ンヌだが、見た目はドラゴンだしドラゴンて呼んでもええやん?と対面で頭にドラゴンを乗せたジャックと、頭の上のドラゴンもシンクロして首を傾げている。何だこの二人と一匹、可愛いな。

 

「……まあいいか」

 

 思考を放棄した邪ンヌが俺の隣に座って考えることを止めた。諦めたらしい。

 ジャックも俺の胡座の中にお尻を収め、背中を俺に預けて座ってくる。ジャックの手の中ではドラゴンが未だに弄られており、しっかりとジャックの遊び相手になってあげているようだ。

 

 そして何を思いついたのか、ハッと顔を上げて首だけ動かして俺の方を見上げてくるのだが、今では慣れたがキスしそうなほどの距離感に前は動揺していたものだ。今では好き勝手ぐりぐりと頭を押し付けられたり、匂いを嗅がれても愛で返すだけ。

 

 そんな可愛いジャックが俺を見上げて、もしかしてと口を開く。

 

「これ、おとうさんのことを思えばおとうさんになったり…」

 

「なりません。というか、させません」

 

「ちぇー。ミニミニおとうさん、ぜったいにかわいーのに」

 

 ぶーと頬を膨らませるジャックだが、これ、人には成らないようにしてるのよね。面白くないし。

 

「まあまあ、そう不貞るなって。その大きさじゃ楽しめないことでも、お父さん自身が変身して大きくなってやるから」

 

「ほんとッ!? おとーさん、変身できるの!?」

 

「おー、できるとも。邪ンヌにでもなってやろうか?」

 

「えぇ…私になるとか、もう同じ顔はこれ以上いらないんだけど…」

 

「んじゃ、なにがいい?」

 

「えーっとね……もふもふがいいから…」

 

 もふもふね…何にしようかと悩んでいるジャックだが、悩んでいるのが手の中の黒いキューブからも、ずっとうにょうにょしているから伝わってくるようだ。何にしようか悩んでいるから形を固定することなく、グニャグニャの状態が続いているのだろう。

 

 その間にジャックのサラサラの髪をゆっくりと撫でて待っているのだが…なにやら隣に密着するレベルで座っている邪ンヌの頭が徐々にジャックの頭の横に近づいている気がする。顔を見てみると、私なんでもありませんよといった表情だが、頬はほんのりと赤く、目も逸らすように反対を見ている。

 

 本当、子供みたいなやつだな。キャラ的にないとは思っていたが、一度甘やかすとここまで甘えるようになってくるのだろう。

 

 苦笑しながら反対の手で邪ンヌの頭を撫でてやる。

 

「………私は別に撫でて欲しいなんて頼んでませんけど?」

 

「じゃあ止めるか?」

 

「……………特別に。ええ、特別に私の頭を撫でるのを許しましょう」

 

「素直じゃねぇなぁ……」

 

 ジャックが俺の変身先を決めるまでの少しの間、俺は二人の頭を優しく撫でてやるのだった。

 

 さて、ジャックはあれこれと悩みに悩んだようだが、結局決めたのは――

 

「きゅーびの狐!」

 

 まさかの九尾の狐というものであった。確かに、俺の中でのもふもふと言えばトトロ、ネコバス、九尾の狐の尻尾が3強ではあるが、なんならトトロとかでもええんやで? あの尻尾にダイブしたいし、猫バスにもダイブしたい。子ども達も大人達も、良い子も悪い子も一度は夢見る夢であろう。

 

「九尾ねぇ…よーし、お父さんが一肌脱いで……一肌どころかまるっと変えて毛皮になろうじゃないか」

 

「やったー!」

 

「ちょ、言い方ッ」

 

 ジャックを足の上から降ろし、机などの邪魔なものを一切合切アイテムボックスの中に収納してしまえば、部屋の中はベッドと本棚だけという伽藍堂とした空間の出来上がり。二人を部屋の隅に行かせて、俺は部屋の真ん中で変身系の魔法を使って変身ッ。

 

 別にライダー的なポーズは決めちゃいないが、それっぽく見せるためにせめてもの演出でボフンと煙を出しておいた。

 

 次の瞬間には、部屋になんとか収まる程度の大きさをした九尾の銀狐が一匹。大きさが大きさなだけに尻尾も九本あれば部屋をモフりと埋め尽くすほどである。

 これにはジャックも目をキラキラさせて大喜びであり、邪ンヌも呆然として大喜び(?)である。

 

「すごいすごーい! ねえねえ、おとうさん! 抱きしめてもいいッ!?」

 

「おー、どこにでもいいぞー。自慢の毛並みを体感していくといい」

 

「わーい!」

 

「邪ンヌもどうだ?」

 

「……アンタ、本当に何でもできるのね…もういいわ、慣れた」

 

 呆れたようにそう呟く邪ンヌはそれでも九本の尻尾の中に埋もれるようにしながら入っていき、気持ちよさそうにもふもふしている。人間、諦めが肝心と言うし、受け入れてしまえば楽しく生きていけるのではないだろうか。

 

 ジャックを見てみるといい。何の躊躇いも抵抗もなく、自分の背よりも高い俺の背中にひとっ飛びで、しかも満面の笑みでダイブしてるぞ。娘がこんなにも嬉しそうに笑顔でお父さんに戯れてくるなんて、俺はもうそれだけで幸せである。

 

「そういや、このカルデアに動物系サーヴァントとかいないのかね」

 

「なによ、動物系サーヴァントって……いや、いるけども。今のアルンみたいなガチ動物系はいないわね。狐系は……あれはどの分類…………まだ来てないわよ」

 

 ほーん、いないのか。鬼とかもいるらしいから九尾の狐というとびっきりのネームバリューをもった何かしらもいそうだけども、それは今後に期待ってことか。

 

 いやまて、食堂で働くキャットはなんなのだ。キャットでフォックスなまさに犬ではあるのだが、あれは狐に分類してもいいのだろうか。わからないからこそ、邪ンヌも迷ったのかもしれない。諦めてたけれども。

 

 教えてくれてどうもという風に尻尾をモフりと動かせば、邪ンヌの体を尻尾が撫で上げる。できることならば、俺もやる側ではなくてやられる側の立場でいたかったものだが、仕方ない。まるで洗車機に突っ込まれた車のように尻尾で撫で上げられている邪ンヌは、あまりの質量に両手をわたわたと動かしていた。

 

 きっと…いや、絶対にこの姿でジャックを乗せながらカルデア内を闊歩すればパニックの極みに陥ることだろう。

 

 しかし、それよりも面倒くさそうなことになりそうな人物が一人いる。

 

「ただいまー……はぁ!? 九尾の狐!? どうなって…あ、わかった! またアルン君の仕業だね!? おや、そのアルン君がいないけどもどこに行ったんだい?」

 

 コイツである。ダ・ヴィンチちゃんが来たのだが、ただいまってどういうことだろうか。ここはお前の部屋ではない。

 そのダ・ヴィンチちゃんも俺の部屋に入り、俺の狐姿を見た瞬間に疲れが全て吹き飛んだような勢いで目を輝かせて、背中にジャックを乗せ、尻尾に邪ンヌを埋めた俺の狐姿に大興奮を示す。

 

 このあと、俺の部屋に全員集合したメンツが俺の体に抱きついたりモフり倒したりしたのは言わなくてもわかることだろう。

 

 

 




ジャック・ザ・リッパー
「解体するよ、変身ッ!」

静謐のハサン
「貴方に出会えて、よかった。私が触れても、死なない貴方。私に触れてくれる、貴方……。永久に、尽くします………変身ッ!」

レオナルド・ダ・ヴィンチ
「さあ、万物の成り立ちを話し合おう。変身ッ!」

アストルフォ
「ボクはキミの剣、キミの刃、キミの矢だ! 弱いボクにここまで信を置いてくれたのだから、ボクは全力で応じよう! 変身ッ!」

沖田総司
「戦場に事の善悪なし……ただひたすらに斬るのみ。変身ッ!」

ジャンヌ・ダルク・オルタ
「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮!変身ッ!『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)(ライダー名)』!」

フォウ
「マーリンシスベシフォーウ! 変身(フォウシン)ッ!」



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