お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが   作:きりがる

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けっこうそこそこなんとなく遅くなってしまいました。
なので今回は少し長めですので暇なときにどうぞ。

最初に言っておくと、あの子のキャラが崩壊しているのでご注意ください。

それでは、またいつか、ご機会が有りましたらお会いしましょう。




17 私達が好きなのはアルンで、アルンが好きなのは私達。ハイお話おしまい

 最近、例の珍生物ことフォウが撫でてくれと俺の方に来るから構い倒して、更にはキャットも参加して撫でくり倒しているのだが、その際によく視線を感じるようになった。

 それは複数の視線というわけではなく、一人の人物による一つだけの視線らしく、ついにはフォウが居なくても俺のことをこっそりと監視しているかのように見てくるのだ。

 

 忘れているかもしれないが、俺はあのジャックちゃん父親事件の犯人、父親である。だが、こうも事件やら犯人やらと言うと俺がどうも悪いことをしているかのように聞こえるではないか。

 

 バレなきゃ犯罪ではない。全くもってその通りだが、これは別に犯罪じゃないから俺が気に病む必要もない。というか、そろそろ忘れられているのではないかとさえ思えてくる。

 

 だというのに、俺のことを執拗に見てくる相手がいるとなると、それは俺がジャックの父親であることに感づいているのではないかと疑ってしまうのは仕方のないこと。やっぱこれ、悪くないのに自分が悪いと何故か認めている自意識過剰な陰キャのようなんだが。パトカーが近くを通るだけでドキドキするみたいな。

 

 まあそんなことはどうでも良くはないのだが、置いておくとしよう。

 

 そして、置いておいた結果がこちらである。

 

「フォーウ…」

 

「ああ、つけられているな…」

 

「ねえアルン、何かしたの?」

 

「いや、何もしてないんだけど……」

 

「何もしてないのが悪いんじゃない? よぅし、代わりにボクが聞いてきてあげるよ!」

 

「止めなさい!」

 

 ただでさえ、俺のストーカーっぽい静謐がその見てくるやつのことを排除しようとしているのに、お前が突撃すればそれこそ穏便に済まなくなる。

 

 最初こそ、それはただ単に視線が行っちゃって見てるだけなのかなとは思ったものの、時が経つにつれてなにやら視線が変化しだし、ついには俺を尾行するが如くストーカーになり始めた。

 

 人物が人物なだけに、好奇心や知りたいからという探究心、それに引っ込み思案というかあまり積極的に話しかけるようなタイプの子ではなかったから話しかけれないのかなと思ってみたりはしたものの。

 

「ふむふむ、やはりアストルフォさんとは仲がよろしいようですね…おっと、今日で11回目の欠伸。これはコレクションしましょう」

 

 放置した結果、俺の行動が俺の知らない単位で観察されている模様。その時間とそのスキルは俺じゃなくて、君ならもっとやるべき人物が最も近くに要るでしょうと言ってやりたい。

 

 何気なく出した欠伸の回数が知られており、更には凄まじい早業で俺の欠伸の顔を盗撮する始末。くそっ、これが一ヶ月以上無視して好きにやらせた弊害…ッ!

 

 というか、何が面白くて俺のような一スタッフをストーキングするのだろうかということに疑問が耐えないが、これをダ・ヴィンチちゃんに聞けば、何を言うかと呆れた顔で言われるのだろうことは簡単に想像がつく。

 

 でも俺の秘密は知られてないのよ? それがなければ何も面白みはないと思うのだが。サーヴァントとの仲もアストルフォと邪ンヌくらいしか外では見せておらず、他の奴らはマスターちゃんラブみたいに見えるはずだ。

 

 何が原因か。フォウのせいなのか。

 

『恋に切っ掛けはないのです…つい、目で追ってしまっていたら、その人の存在が心の大部分を占めてしまうのです……』

 

 絶対に恋じゃないというのはわかるのだが、何故ナビさんがそう恋のスペシャリストみたいにしみじみした感じで語る。誰だお前。

 

『漫画でそんなことが描写されていました』

 

 だろうと思ったよ。

 ナビの阿呆な発言を無視して休憩していたベンチにため息とともに深く座り直す。隣にはアストルフォがいて、膝の上にはフォウが丸まって寛いでいる状況。

 

 そして、この状況を遠く離れたところから覗き見ている一人の少女。その少女は掛けていた眼鏡の位置を直すように指で動かし、そのまま把持しているメモ帳に何やら書き込み、カメラで盗撮している。

 

 何度でも言おう、こんなことをするような子じゃなかったはずなんだ。今回ばかりは、俺は全く関係ないんだと。

 

 はぁ…と、また一つため息をつく。

 

「あぁ…! あのため息を保存できないこのもどかしさ…! 時間を止められない自分の無力さが恨めしいですっ」

 

 変態じゃないか。

 

「うわぁ、徹夜明け並みに疲れてるじゃんか…ほら、膝枕してあげるよ! おいでおいで!」

 

「我は神也……」

 

「なんか言い出した…」

 

「フォウ…」

 

 自分の膝をポンポンと叩くようにして俺に膝枕を誘ってくるアストルフォに、遠慮すること無く壁を滑るようにして倒れ込んで、男のくせに女の子並に柔らかな太ももに頭を置けば、優しく笑顔で撫でてくれるアストルフォが俺を見ていた。

 

 もう男の娘でも良いや…なんてことが素で思えてくる。ちなみにフォウは俺の腹の上に移動して胸に顔を置いてべったりと腹ばいで寝転がり、リラックスしている。お前が原因かもしれないんだぞと横腹を人差し指で突けば、猫パンチ的な右フックで頬をモフモフ叩いてきやがった。

 

 肉球を頬に感じながら力を抜いてリラックスタイム突入。

 

「くっ…! まあいいでしょう、いずれはあの位置に居るのが私になるのですから」

 

 あれ? もしかしてストーキングされてるのって俺じゃなくてアストルフォじゃね? と思わなくもないのだが、マジで真意がわからない。そろそろ本当に俺の方から聞きに行くべきなのだろうが、面倒くさいと言うか自ら藪を突いて蛇を出すのもアレではある。

 

 巷ではあの炎をチロチロ出してた扇子のヤンデレ美少女や何故か静謐がマスターちゃんラブ勢として常にマスターちゃんをストーキングしているという噂は聞いたことがあるのだが、静謐がストーカーと言われている噂は何なのだろうか。

 

 そう言えば、マスターの弱点などを探ってきますって一週間ほどずっとマスターちゃんをつけていた事もあったが、それがそう思われていたのかもしれない。

 

 ちなみにマスターちゃんの弱点は俺に献上された模様。中身はパラパラとしか見ていないが、がっつり個人情報の詳細や弱点と言う名の弱みも書いてあった。詳しく見てないけど。

 

 ぼっち筆頭だった俺がこんなことになるなんて思ってもみなかった。

 

「それにしても、やっぱりアストルフォは静かに集中する系のゲームは苦手だったようだな」

 

「あー、あのゲームねー。面白かったけど、頑張ったのに最初からって絶望感がちょっとなー」

 

「理性蒸発してるくせに、最近はそう思えないと思ってれば…ストレス発散とか言ってセーラー服で暴れまわるの止めてくんない? しかも満足したと思ったら一日中べったりで離れないし。ジャックとか静謐とか拗ねて面倒くさかったんだぞ」

 

「ごめんごめん! そんな事するのアルンだけだから許して!」

 

 何を許せば良いのだろうか。

 つか、セーラー服とかどこから持ってきたというのだ。俺はどちらかといえばブレザーの方が……いや待て、セーラー服も捨てがたい。どちらも服の形や着ているキャラにより好みは変わるのだが、俺はどっちかといえば…いや、どちらなのだろうか。ラブプラス……うぅむ、アマガミだってマジ最高……ぐぬぬ……ここでいちご100%も持ってくるべきか…しかし、駄菓子菓子、ここで突き抜けてエロゲにまで行けば……元はと言えばこの作品もエロゲが始まり……ではなくて、ああいや、エロゲはもはや制服アレンジされすぎ作品多いし………悩ましい……。

 

 俺はこれだ!ここだ!という一つの信念を持った紳士ではなく、あれよこれよと様々なものが好きで一つの好みが決められない浮気性な紳士であるからして、あっちこっちと思考が入り乱れている。言っておくが、変態ではない。例え変態であったとしても、それは変態という名の紳士だよ。つまり変態ですねわかりますん。

 

 それにだ。古来より、『前屈みのむっつりスケベより、胸を張ったオープンエロであれ!』と言う格言があります。

 

 こそこそして気持ち悪いのよりも堂々としている方が紳士度も遥かに上だろう。限度と種類はあるが。

 

 またいらん事に悩みに悩んでいると、俺のことを撫でていたアストルフォが突然と声を上げた。

 

「あッ!? そう言えば、マスターとの約束忘れてた! ごめんね、アルン! ボクはもう行くよ、いってきまーす!」

 

 本当、あいつのいつも行動が突然すぎるのは困りものである。座っていたベンチから突然立ち上がれば、膝枕されていた俺が床へと転がり落ちるのは必然なことで……アストルフォの太ももからころんと転がり落ちた俺は床に激突する羽目になった。

 

「フギュッ!!」

 

「あうち…」

 

 腹の上のフォウを押しつぶすようにして転がり落ちた後に首を動かしてアストルフォの方を見れば元気に走り去っていく姿が見えるではないか。ところでそれは上下とも俺の服なのだが、短パンと半袖シャツでミッションに向かうつもりなのか。防御力ゼロだからボロボロになる未来しか待っていないぞ。

 

 まああいつならなんとかするだろう。

 腹の下からもぞもぞと這い出てきたフォウがやっと出れたというように息を漏らしている。悪かったが悪いとは微塵たりとも思っていない。

 

 床の冷たさを感じながら無気力に起き上がろうともせずに、フォウとともに寝転がって居るのだが、背後…つまりは足元の方から靴が床面を叩くような音が聞こえてくる。控えめで高めの音であるからして、これは女性の足音だろう。

 

 その足音の持ち主は俺達の側まで来ると立ち止まり、床に寝転んでいる俺を覗き込むようにしてしゃがみこんできた。

 

「あの…大丈夫ですか? 床に寝るなんて…汚いですよ? 体調でも悪いのでしたらすぐにでも医務室に…」

 

「ああ、いや、お構いなく…別にどこも悪くないので」

 

「そうですか、良かった…それなら、硬い場所じゃないと寝れないという性癖でもあるのですか?」

 

 ホッとしたように安堵の表情を見せたかと思うと、次いで少し誂うかのように冗談を言ってきた少女………そう、さも偶然を装ってあたかもここを通っていたら見ちゃいましたーといった様に振る舞っているこの少女こそ、最近俺を見つめている人物。

 

「ベンチもありますし、眠たいのでしたら私が膝枕でもしましょう。任せてください、男の人とは違ってこれでも柔らかさには自身があります」

 

 フンスと謎の自信を見せるのは、マスターちゃんの美少女後輩である、マシュ・キリエライトである。

 

 少々強引に引っ張り起こされてキリエライトがベンチに座ると同時に俺も寝転がるように動かされ、そのままその魅惑の太ももへ頭をポン。なんだろう、この俺の部屋に来る奴らとは違ったこの子特有の香りに暖かさと柔らかさ。

 

 とても新鮮であり、本来ならこれほどまでの美少女の膝枕なんて喜び舞い踊るほどのものであろうが、今は後頭部に感じる柔らかさや見上げた先の立派な山脈の絶景に見惚れるよりもなによりも。

 

 ええ、後頭部から感じる熱と振動、触れたいけども触れてはいけないと葛藤するかのような宙を彷徨っている両手に恍惚とした表情をしているだろうと予想できる顔と熱の籠もった声。例え、ふるふると揺れるおぱーいが素晴らしくとも、こやつがマジで何を考えてこんなことしているのか、なんでこうなってしまったのかの方が気になりすぎて堪能できないのが正直なところである。

 

 ふぉおぉぉぉとか言ってそう。

 

「ふぉおぉぉぉっ……!!」

 

 言ってた。

 

「フォオォォウ……キャゥ……」

 

 これにはいつも側に居たであろうフォウ氏も呆れて何だこいつ、やべえなっていう声を出していた。

 

 大体、マシュ・キリエライトといえば礼儀正しくて真面目で、でも天然でありながらもクール系な寡黙で心優しい美少女ではなかったのか。割と好奇心旺盛だというのは聞いたことはあるが、こんなことに好奇心を振り分けられても困るというものである。それに、マスターちゃんへの想いの方が強いはず…。

 

 このままというわけにも行くまい。変なテンションではあるが、キリエライトに話しかけることとした。

 

「ちょっといいですかね、キリエライトさんや」

 

「はい? なんでしょうか。ちょっとどころか果ての果てまで限りなくどこまでも全てにおいて、このマシュ・キリエライトがお答えしましょう。あと、敬語は無しでマシュと呼び捨てでお願いします」

 

「さいで…んじゃあ、マシュに聞きたいんだが、その奇行と変貌っぷりを教えてもらいたい。つか、なんで俺なのかも教えろください」

 

「なるほど、私とソルシエさん…アルンさんとの出会いについてですね」

 

 出会いも何も食堂での出会いがまともな初の対面になっているのではないだろうかと思うのだが、突っ込んだら負けだろう。

 

 突っ込まずにキリエライト改めマシュの言葉に耳を傾け、どうしてこう残念になってしまったのかの理由を聞き始めた。

 

 まともな出会いはやはり食堂で俺がフォウを枕にしていたのが初めてだったらしい。マスターちゃんが来る前はマシュ以外に姿を滅多に見せることもなかったほどのこの小動物が俺に良いようにされて文句の一つも言っていなかったのが不思議で、印象深かった。いや、文句は言っていたと思う。

 

 ここから、マシュの好奇心旺盛な部分が刺激されて、俺のことをちょくちょく観察し始めて考えるようになった。とはいえ、あれ以来まともに会うこともなかったので遠目で見ていたらしいのだが、俺が特定のサーヴァントと仲いいのも分かっていたそうだが、流石にいつも見られていれば気づかれもする。だが、そこは邪ンヌやアストルフォといった外でも構ってくる奴らのみなのでジャックなどは大丈夫そうだ。

 

 まあ、邪ンヌやアストルフォといたことでも好奇心の熱に油を注ぎ込んでしまう結果となったようだが。

 

 だがわからない。興味がある程度ではこんなストーカーじみた行為にまで至るだろうか。その答えはマシュ自身が語ってくれる。

 

「その時点では私もサーヴァントの方々と仲の良いスタッフの一員、しかしながらフォウさんともとても仲の良いことからどの方よりも飛び抜けて私の中に残る不思議な人だったのです。でも、それ止まりだったのですが………切っ掛けは、とあるミッションでの失態とそこからの疑問や悩みでした」

 

 マシュも同伴したとあるミッションで、マスターちゃんのことを守りきれずに怪我を負わせてしまった。幸いにもその怪我自体はそこまで大きなものでもないので直ぐに治癒出来たそうなのだが、護り切ると心に決めていた彼女にとってはこのミスがずっと残り続けていた。

 

 更には最近、自身の力不足を感じてきており、このままでは更なる大きなミスを犯すのではないかと不安でもあった。他のサーヴァントと比べれば弱く、自身はマスターちゃんの力になれているのかどうか。この先もしっかりとやっていけるのか。

 

 些細な悩みに思えるかもしれないが、真っ直ぐで真面目であり、悩みに対してずっと考え続けるタイプの彼女にとって、それは大きな問題となっていたのだろう。

 

 ああ、そうだとも。人によって問題や悩みというのは規模も深さもまちまちだ。あの人にとっては重大なことかもしれないが、この人からすれば直ぐに解決や解消してしまうようなもの。それが、その人自身が持つ悩みや問題というものだ。

 

 そこからなんとか解決し、前に進めるかというのも、人それぞれの強さによるのではないだろうか。

 

 マシュの悩みは俺からすればそんなことかと思うけれども、マシュ自身からすれば大きな大きな悩み。もしかしたらマシュにとっては一つのターニングポイントだったのかもしれない。そして、悩み元気のないマシュを見た某天才がアドバイスをした。

 

「一旦そのことは置いといて、気分転換でもしてみたらどうだい? その悩み…そうだね、アルン君でも見てれば解決するんじゃないかな。君、前々から目で追ってたじゃん? 面白い子だから見ていて飽きないよ? 気分転換、気分転換」

 

 貴様は斬刑に処す。

 

「だからアルンさんをずっと見ることにしたのです。片時も目を離さず、アルンさんのことだけを考えるようにして」

 

 違う、そうじゃない。

 

 気分転換だって色々あったろう! 読書とか、甘いもの食べるとか、寝るとか難しく考えないでも様々な方法があるはずだというのによりにもよって。 

 

 純粋すぎる。そこで真面目さを発揮しなくてもいいではないか。このアドバイスは軽んじても良いものだ。それは要らない前向きさ!

 

「自身のしたいことのために適当かつ確実に終わらせていく。我を通す強さと奔放さ、そして自身の欲に嘘をつかずに欲のために全てを向ける…………これは、強い!(確信)」

 

 別の意味でな。

 お前はどうやら頭が弱いようだ(確信)

 

「こうして、私はアルンさんにのめり込むと同時に色々と癖になり、いつしかずっとアルンさんのことを考えるようになり、私の中で先輩に次ぐ大きな存在となりました。このようなことは初めてです。四六時中考えてしまうようになった私はもう一度ダ・ヴィンチちゃんに聞きに行きました。これで良いのかと。これは何なのかと。そうしたら…」

 

「それはまさしく、恋、ってやつだ」

 

「…………なるほどッ!!」

 

 違うだろ。そうじゃないだろ。あいつは必ず殺ってやる。極彩と散るがいい。

 

 真っ直ぐだったはずのマシュの性格が、それが災いして逆に歪曲しているようだ。そもそも、悩みというのはどうしたのだ。解決もしていないのではないだろうか。

 

「アルンさんは私に大切なことを教えてくれると同時に私自身を強くして下さいました。後ろからつけるために必須の気配遮断、他の方に気取られず、されどアルンさんのことにも気を配るための気配察知能力及び空間把握能力。アルンさんのことを考えていたらついた高速思考と並列思考。影から影へと素早く移る敏捷性。咄嗟に身を隠すために物にへばりつける程の筋力。そして何より観察能力と情報収集及び処理能力。これらの習得によるついでで、マスターへの被弾率はゼロ、敵殲滅完了速度3倍、奇襲強襲率上昇、暗殺阻止率100%、アサシン顔負けの暗殺成功率カンストなどなど……強くなれました。全て貴方のおかげです」

 

 嘘だ、強くなりすぎ頭おかしいこの子。暗殺とか巨大な盾持ってどうやって殺っているのだろうか。違う、そうではなくて身についたスキルが全て暗殺者寄りというかストーカーの必須スキルじゃないですかやだー。

 

 お前は全てを間違えているとか、ガバガバやないけとか、正気に戻ってはいかがか?などと言いたいことは色々…本当に色々あるのだが、まずはやるべきことがある。いらない後押しをしたもはや元凶と言っても過言ではないのではないだろうかという人物。

 

 七夜名言録は持ったか? 

 

 行くぞ―――

 

 大天才を殺りに行く。

 

 

 

 

 

 

「アルンさんにはまだまだ秘密があると思います。秘密が多い男性というのも格好良いです。素敵です。でもその秘密含めてアルンさんを愛していたいと思っているので、仲間に入れてください!」

 

「え…やなんだけど…」

 

「仲間に入れてください!」

 

「だから、お前はマスターちゃんのとこに帰r…」

 

「仲間に入れてください!」

 

「俺よりも優先すべきことg……」

 

「ここで働かせてください!」

 

「ジブリ観た?」

 

「アルンさんがジブリ作品の中でも特に好きな『もののけ姫』と『風の谷のナウシカ』を観て好きになりました。ヒロインが可愛いです。あの世界の生き物の絶妙な気持ち悪さや怖さが少し癖になります」

 

「歓迎しよう、盛大になッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシュ・キリエライトが仲間になった。

 

 この事実において一同(ダ・ヴィンチ除く)は驚愕に目を見開き、開いた口は閉じることなく呆気にとられていた。しかし、仲間になったということに驚愕したのは半分以下であり、ジャック含めた他のメンツが最も驚いたのは。

 

「ここが、アルンさんのお部屋なのですね。スー、ハー……素晴らしいです。世界にはこのような至高の場所というものがあったのですね!」

 

 マシュの変わり様であった。この子の世界はレイシフトもして色々見てきたはずなのに部屋レベルで滅茶苦茶狭いらしい……つか、深呼吸はしないでもらいたい。

 

 マシュがここに来たというだけでも驚愕なのに、普段大人しい彼女が緩みに緩んだ表情で両腕を広げて部屋の真ん中でくるくると踊っている姿を見て顎が外れんばかりの驚きを見せている。

 

 また、その部屋の片隅にはボロボロになった絶世の美女だった物が放置されていることはどうでもいいこと。

 

 マシュの変わりように仲間入り、そしてマシュにとっても俺の部屋にいるメンツやジャックのお父さんであったのが俺だということは信じ難いような内容であった。

 

 勿論、今まで以上に場は騒ぎ立ててひと悶着あったものの、いつものようにマシュは他のメンツに別室へと連れ込まれて色々と教え込まれることとなるのだが、なんともまぁ、それが誰よりも長いのだ。

 

「長えなぁ…」

 

「フォウ…」

 

「ねえ、私のことは無視なのかな……? 見てくれたまえ、自慢の美貌が汚れ果て、服もボロボロであーんなところやこんなところまで丸見えだよ? 興奮しない? それよりもなによりも動けないから回復魔法ちょうだい………」

 

「まあ、今回はマシュというマスターちゃんに一番近い奴だから念入りなんだろうなぁ…スキルで喋れないように防止するけどさ」

 

「フォウ、フォーウ……ナゲェフォウ」

 

「ねえったら、わーたーしーはー?」

 

 かれこれ二時間は経っているのだが、マシュ自身が連れ込まれること自体に乗り気だったので、逆質問を行っているのかもしれない。

 

 流石に長すぎるのでフォウを頭に載せつつ、這うようにしてこちらまで戻ってきたダ・ヴィンチちゃんと共にゲームをして時間を潰すことにしたのだった。

 

 駄目ソファに身を沈める俺とボロボロの姿で俺の膝の上に伸し掛かるようにして伏せたダ・ヴィンチちゃん。こいつが言うには完璧なスタイルの体らしいが、その魅力には思わず納得するしかないだろう。主に俺の太もも全体を覆うかのようにむにゅりと柔らかに形を変えて押しつぶされている大きな胸。

 

 飽きることなどないのではないかと思うほどの柔らかさにしっかりと形を決めるほどの弾力もありつつ、決して不格好とは思わせないその体にあった大きさ。胸の下に手でも挟んで揉みしだけば最高ではないのだろうか。

 

 興味もない他人なら絶対に無理と言えるだろうが、俺であれば多分、頼めば…いや、頼まずとも無言で行ってもこいつなら全然許してくれるし、それ以上も推奨するかもしれない。なにせこいつ、元は男だからな。男の気持ちは確りと理解も把握もしている。

 

 現に確信犯なのか、俺の上に覆いかぶさるように伏せた状態で顔を少しだけ上げて、流し目で妖艶に微笑みながら、その艷やかな唇をそっと開き、吐息を吐くかのように言葉を紡いでくる。

 

「ふふっ、どうだい…? 今まではこうも大胆ではなかったけれども、たまには直球のセックスアピールというものさ。満足して頂けたかな?」

 

「うむ、苦しゅうない。余はとても満足じゃ……ところで顔が真っ赤なんだが、熱でもあるんですかね?」

 

「……………密着してるから暑いのかなー。ほら、特に胸がとっても熱いんだ。内も外も」

 

 さあ、始まったよと俺を促すように言ってくるが、十中八九実は恥ずかしかったということなのだろう。

 

 息を吐くような苦笑と共に、コントローラーを持った両手をダ・ヴィンチちゃんの小さな頭に置いてゲームスタート。あまり一緒にゲームをしないダ・ヴィンチちゃんだが、たまにはこういうのもいいだろう。

 

 おっと、なにあのドローン。痛すぎるんですけど。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

「アルンさん、先に言っておきます。申し訳ないのですが…私のゲーム戦闘力はたったの5……ゴミレベルです。素人がリズムゲームで適当に叩いてなんとなく良い結果が出ちゃったときの運の良さよりも劣るレベルです」

 

「アルンザブートキャンプでも始めようか。安心するといい、一時間でゲーム実況者並の腕になる」

 

「個々人の腕もあるし、一概に上手くなってるとは言い切れないわよ、それ……」

 

「あ、でも、アルンさんに関することであれば……私の戦闘力は530000ですよ」

 

「怖いので近づかないでもらえますか。さて、マシュのゲーム特訓はどこから始めたものか…」

 

「ここから、始めましょう。一から……いいえ、ゼロから」

 

「そのセリフをここで使うんじゃねえよ。使いどころ考えろ、それにお前のセリフじゃねえ……つか、戦闘力zeroから始めるんじゃなくて5から始めてくんない? いや待てよ……そうだ、ゼロから始めるのであれば、お前は俺のことをなんとも思っていないときから始めるとして、俺とお前は出会っていないという状態からやり直せばいいのでは? まともなお前に戻れるぞ」

 

「私はいつだってまともですよ! それに、今も少し前も、私が好きなのはアルンで、アルンが好きなのは私。ハイお話おしまい」

 

「役に入り切らないでもらえますかおいこっちみろテメエ」

 

「ばっくれつ!ばっくれつ!ばっくれつ!」

 

「ついに壊れたか」

 

 柔らかな頬を握り潰すが幸せそうにするだけで効果はなさそうである。こいつは静謐タイプなのかもしれない。

 

 あれから更に時間が経ってダ・ヴィンチちゃんと一章分をクリアした頃に、他の奴らは別室から戻ってきた。マシュも事情を把握したのか、たとえマスターちゃんであっても口外しないことを約束してくれたのだった。

 

 マスターちゃんに黙ってるのがイケナイコトをしているようでドキドキするとのことだが、どことなく小学生が頑張って秘密にしておけよと言われたことを言わないようにうずうずしている感が否めない。

 

 まあそのうち慣れるだろう。なにせジャックだって今では立派なゲーマーで、隠し通すことも呼吸をするかのように行えるのだから、初めから割と変態ムーブしてたマシュも直ぐにこちらの世界に馴染むに違いない。ただ、嘘だけはいけない。焼かれるだろうから。

 

 それにしても…と、モニターの前を譲ってベッドに座った状態で一つ息を吐く。

 

 目の前ではジャックとアストルフォ、邪ンヌがマシュにゲームを教えており、静謐は体質的に他のやつの中に入れないから俺の右隣へ。沖田が左隣に座ってダ・ヴィンチちゃんは未だにボロボロの姿のまま俺の後ろに座ってマシュのことを暖かい目で見守っている。

 

 驚いたり笑ったりとマシュを見ていると微笑ましいのだが、あのマシュ・キリエライトが俺の部屋にいるというだけで違和感が凄まじいというもの。それがさらに俺の部屋に来る奴らがマシュのことを受け入れて善意だけでゲームを教えているという光景は本来なら見られないものではないだろうか。

 

 物珍しげに俺が目の前の光景を見ていると、後ろのダ・ヴィンチちゃんが俺の背中に抱きつきながら目の前の光景に熱い吐息を吐く。

 

「まさかあのマシュがこんなことになるなんてねぇ……」

 

「おい、確信犯が何を言ってやがる……お前が切っ掛けだというのはわかっているんだぞ。吐け、何を考えてマシュにアドバイスという名のネタを提供した!」

 

「はてさて…何を言っているのかさっぱりわからないね。私はただ純粋に面白くなればいいなと思って、純粋なマシュにああ言ったのさ」

 

「それ言い訳ちゃう、アンサーや…」

 

 そうほざきながらケラケラと俺の耳元で笑うダ・ヴィンチちゃんだったが、横目で確認したがその目だけは温かく、優しいものだった。それだけで色々と予想はできるのだが、ダ・ヴィンチちゃんや、あとは……ドクター。そう、俺の考える限りで思いつく人物の限りでは、この二人にとってはマシュという少女は特別なものなのかもしれない。

 

 別にマシュのことを深く知ろうなんて思ってはいないし、この二人にとってどういう存在なのかなんていうものも、ぶっちゃけ興味はわかない。

 

 それでも目の前で楽しそうに笑っている少女を見れば、まぁ、こんな俺でもジャックの次くらいに色々と教えてやっても良いのかもしれないとは思う。なにせ純粋なので。

 

 ここで俺が色々と教えればある意味純粋さは失われて、ジャックのように俺よりになってしまうかもしれないが、それでも良いじゃないか。なぜなら、既にこのメンツの仲間入りしているのだから。

 

「ハッ!? 今、アルンさんの吐息を感じました! 間近で吸える幸せ…これは一人だったら危なかったですね…」

 

 しかもこのザマだし。

 大体、こんなにも人がいる時点で吐息も糞もないと思うのだが、項部分を手で抑えていることから俺のため息がそこまで届いたのかもしれない。

 

 これはどういうことだという様に俺の頬に頬をくっつけているダ・ヴィンチちゃんの顔を掴んで見れば、焦ったように言い訳をその河豚のように窄められた口から吐露し始める。

 

「し、知らないよ! 流石にここまでとは大天才の頭脳をしても予測できるものではないんだよ! 寧ろマシュのこの変な成長具合を目の当たりにした私も驚愕を禁じえないんだってば!」

 

 慌てたように俺に言い訳をしているが、先程、一度なにかに納得したかのように「まあいいか」と呟いたのを聞き逃すほど、俺も阿呆ではない。というか、呟くのであれば俺の耳元ではなく離れて呟くことを推奨しよう。

 

「まあまあ、アルンさん落ち着いてくださいってば。いいじゃないですか、悪意があってわざとやってるわけではないですし」

 

「そうです、気持ちはとても良くわかります。アルンさんに忠実な下僕ができたと喜びましょう!」

 

「下僕ってゆーな、静謐。まあ、俺もぶっちゃけどうでもいいとは思ってるんだがな。マシュについてはある程度知っている、だからこそ自由にさせてみるのもいい経験になるだろう」

 

「ここにいるとアルン君に染まるからある意味では悪影響だけどねー」

 

「お前みたいなちゃらんぽらんがいるからだろうなぁ…」

 

「なにその手…って、痛い痛い! 世界に誇る頭脳が馬鹿になっちゃう!」

 

「一度リセットしてみてはいかがかな?」

 

 せっかく沖田が俺を宥めていたというのに、自分からまた仕置されにくるとはマゾな野郎だ。ギリギリと俺のアイアンクローがダ・ヴィンチちゃんの頭を締め上げれば、必死に俺の腕を掴んでくる。貴様の筋力程度、俺のスキルの前ではなんの役にも立たぬ!

 

 反応がなくなり、ビクンビクンと体を痙攣させるダ・ヴィンチちゃんをベッドの上に捨て去り、再びマシュ達の方を向く。

 

 そこにはジャックや邪ンヌと話をしながら楽しそうにゲームをしているマシュの姿。ギャップは凄まじかったものの馴染めているようで何よりではあるし、ジャックも邪ンヌもアストルフォも楽しそうに遊んでいるのだから、つまらないという後悔は無いのではないだろうか。

 

 今ここに居るメンツは……この部屋にこうして集うまで、昨日まではどこかで話すことはあれど、こうして笑い合いながらリラックスして、好きに自分を出して楽しむなんてことはなかったに違いない。

 

 やはり漫画やゲームっていうのは仲良くなるための秘訣であり、仲良くなるための最高のスパイスであり、形はどうであれ人を幸せにしてくれるものなのだ。

 

 きっと、これからも俺たちは何気なしに過ごしていき、何があろうとなんとなく解決して、進むべき道を、辿り着くところまで行けるはずだ。

 

 俺は、そう願っている。

 

 

 

 ――その日、夜が落ちきるその時まで、俺の部屋に明るい声が絶えることはなかった。

 

 

 

 

 

 


















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