お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが   作:きりがる

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 うん? 前話も夏の話、今話も夏の話、投稿日時も夏……なんだ、随分留守にしてると思ったが、前回から今回の投稿までそんな期間が空いてなかったのか。ふーん、早いじゃん。

 私もまだまだ捨てたもんじゃあないな。

 


19 俺たちの夏はこれからだ!

 

 ワニにハントされた雌犬の処理が終わったのちに、久しぶりにまともに寝れたこともあって、むしろ長く寝たことによって気怠い体をほぐしながら、沖田とジャックの座っていたダメソファに身を沈める。

 

「わー」

 

「おー」

 

 押し出された二人が棒読みのような感情の籠っていないわざとらしい悲鳴を上げながら、ころりと横に転がり落ちていった。

 

 そんな微笑ましい娘の姿に和みながらも、コントローラーを手にしてもはや人生とも言えるであろうゲームを始める。

 

 やはり夏と言ったらホラゲーに限るというもの。怖がることも、驚くこともせずに進めていられる俺だが、それでもホラー系統は好きなジャンルのために欠かせない、夏のテイストなのだ。

 

「今日はホラーの気分なんですか?」

 

「まあな。夏になったし、そろそろホラーがおいしくなってくる季節。今が旬だからな」

 

「さすがおとーさん。採れたてが美味しいんだよねぇ、わかるとも!!」

 

 横からダメソファに肘を置くようにしてモニターを眺めつつ話しかけてくる沖田と、俺を挟むようにしてその反対で腕を組みつつ首を縦に振る、わかってますよムーブをしているジャック。だがそのセリフはこの世界線では多少の危険が伴うものだと、おとーさんは思います。

 

「採れたてが美味しいのよね、わかるわ」

 

「ならばよし!」

 

 手を頬にあて、少しばかり首を横に傾けながら言うジャック。それならばぜんぜんいいと、おとーさんは思います。

 

 小さい子が頑張って大人びようとした、ちぐはぐさが見えるのかと思えば、かなり自然な仕草と表情にギャップ萌えである。しかも頬の傷と包帯の巻かれた手というのがミスマッチで更にドン。わかるわ。

 

 既に写真と映像により記録してログに保存してある。ジャックの可愛さを残し続けるという義務がある! そう、声を大にして腕を振りかざして全世界の人間どもに伝えてやりたいのだが、これは俺だけが知っていて満足すればいいので、教えてやるなんてとんでもない!なのです。

 

 ジャックの可愛さに癒やされながらホラゲーの続きをするのだが、ここにいる奴らのホラゲー耐性の急上昇には眼を見張るものである。初めの頃はどいつもこいつもビビり腐って可愛らしいものだった。

 

 我が娘はゲーム自体が新鮮だったのか、目をキラキラさせていたが、ドッキリ要素には悲鳴を上げて抱きついてきていたし、沖田だって初めてここに来て俺の隣で見てた頃も、ベッタリだった。

 

「ジャックちゃん、予言します。あそこの棚の上の天井から、女の人の幽霊がディグダのようにニュッと湧き出てきますよ。アルンさんは気づかずにダメージを食らうでしょう。2ポンドかけてもいい」

 

「わたしたちは、それを予想しているおとうさんが呪具でジャストアタックするに、花京院の魂も賭けよう!!」

 

 なのに今はどうだろうか。頼もしいことに、逞しいことに、悪霊が出てくる位置を予測し、それに対して賭けまで始めるではないか。 

 

 ジャックは一体どこから花京院の魂を持ってくるのかはわからないが、探して来る必要も、持ってくる必要もなくなるだろう。

 

 俺のホラゲ脳が、沖田が予想する前から囁いていたのだ。

 

 3個あるうちの1つを右手にセットし、悪霊が出現する間合いに入る。1歩、2歩と近づくにつれて視界がドクドクと明滅し、重苦しい空気が全身を締め付ける。

 

 緊張が最骨頂を迎えた瞬間、引き絞られた弓矢が放たれるが如く、一瞬の間も置き去りにして右腕が呪具を振りかざした。

 

 丁度、そのタイミング。まさしくのタイミングで悪霊が出現し、顔面に眩い光を喰らい、身も毛もよだつような叫び声を上げて消滅したではないか。勝ったな。風呂入ってくる。

 

「ほらね? わたしたちとおとーさんは相思相愛の以心伝心なんだよ!」

 

「な、なんだってー!?」

 

「ちょっと聞き捨てなりませんねジャックさん! 私とアルンさんこそが世界に…いえ、この宇宙に定められ、祝福された夫婦なのですよ!」

 

「ナ、ナンダッテー。ア、テガスベッター」

 

「あ痛ッ!? アルンさんじゃないからとても痛いですよ沖田さん!」

 

「あの雌犬はもう駄目だねー。頭の中まで何かしらの菌に侵されちゃってるよ。それより、沖田お姉ちゃん、2ポンドちょーだい!」

 

「くっ、そうでした…これで勘弁してください」

 

 そう言って沖田が差し出したのは、腰に差していた自身の愛刀であった。お前の大切な刀は2ポンド程度の価値しかないのか。

 

 気絶から復活した簀巻き状態のマシュに投げた小銭といい、刀といい、お前の価値観が段々と狂ってきてるような気がしないでもない。この間も刀忘れていたことがあった。

 

 その刀を貰ったジャックはというと、珍しそうに刀を抜いたり振り回したりしているようだが、普段からナイフを使っていることもあり、刃物の扱いはお手の物。

 

「逝ってるミツルギスタイル!? お取り寄せぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「危なッ!?」

 

「もう一発いくよー。………支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセット!アッーーーー!!」

 

「なんですかそれ!? 危ない! 死ぬ、死んじゃいますってジャックさん!」

 

「荒ぶってんなぁ、あいつら」

 

「呑気にし過ぎじゃないかい? いいの? 娘が真剣を部屋の中で、人に向けて振り回してるんだよ?」

 

「今更だろ。あいつ、ナイフ振り回して色々解体してるんだぜ」

 

「それもそっか」

 

 ミリ単位で神回避したことにより、鎖を敢えて切り裂かせて脱出したマシュが、ジャックのお遊び(ヒテンミツルギスタイル)に付き合ってやっているのは微笑ましいものだと思う。ただ、付き合ってやってると言うには、汗流して本気で避けているのだが、気にしたら負けというやつだろう。

 

「アルンさん! おたくの娘さんが凶行に走ってますよ! このままだと私が、【マ/シュ】になっちゃいますよっ!」

 

「なにそれどういうこと?」

 

「頭と首がチョンパです」

 

「見せてくれ」

 

「なぜ乗り気に!?」

 

 ホラーが美味しい夏の季節だからな。

 

 あと、はしゃぐジャックが可愛いから。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 粗方仕事も片付き、今日は何もすることがねえなと食堂の片隅で、キャット特性の茶をしばきつつ、テーブルの上のフォウを撫でながらのんびりと午後の続きを謳歌する。

 

 流石にこの時間帯は、酒を飲んで騒ぐようなサーヴァントもいなければ、大食い選手も顎が外れんばかりの量を貪るサーヴァントもおらず平和なものである。

 

 俺自身は割と食堂を利用しており、ブーディカにキッチン内に連れ込まれたり、キャットに技を仕込んだり、エミヤの新作を味見したりしているのだが、そういえばと、ふと、周りを見渡す。

 

 俺以外のスタッフ、いなくね?

 

 ちらほらと見えるのは、露出多めで目のやり場に困る複数の女性サーヴァントや何やら死にかけでネタがなんとかと叫んでいるサーヴァントくらいなものである。

 

 別にサボりというわけじゃあない。ああ、そうだとも。サボりじゃあないんだよ。

 俺はどちらかといえば、仕事自体は早いほうだし、スキルもあるからどうとでもできる、自分で言ってしまうがチートのような存在だ。チーターや!

 

 それに、この職場自体、どこぞのモジャモジャが爆発する前は確かにしっかりとした職場ではあったが、今現在で言えば、忙しいときは最骨頂に忙しい。だが、暇なときは別に好きにしてもいいよ。しっかり休んで次に備えてね。といった方向性になっている。

 (ドクター)(ドクター)という理由もあるし、サーヴァント増えたからというのも一因なのかもしれない。

 

 なーんていう言い訳じみたことを言ってはみるが、俺を含めたチームが仕事終わっただけなので、それ以外のチームは未だに仕事というだけである。だからこうして、優雅にカップを傾けながら、キャット特性の茶……茶ットなるものを飲んでいるわけだ。何が入っているのかは謎だが、意外に美味い。

 

「でもなぁ…なーんか、どことなく獣臭いんだよなぁ…このお茶」

 

 もっと細かく言えば、キャットの匂いがほのかにする。臭いではなく匂い。最悪の想像が脳内を過る。具体的に言えば、キャットがニャハハと笑いながら、尻尾をプロペラのように回して高速飛行している。両手にはこんもりと毛玉。ソニックにいたな、そんなキャラ。

 

「動物の糞から採れる実で作られている珈琲ってご存知ですか?」

 

「いやいや、あれは流石に別物……というか、静謐」

 

「はい、貴方の静謐です」

 

 いつの間にいたのか、俺の席の隣りに座って、綺麗に背筋を伸ばしている静謐の姿がある。気配が感じにくいことから、気配遮断を使用しているのだろうが、一応、俺の部屋の外ということで距離を保っているのだろう。隣に座っているが。

 

 今も腕に抱きつきたいのか、澄まし顔であるが体を少しだけゆらゆらと揺らし、手を脚の間に挟んで我慢しているようだ。

 

「ちなみに、有名なのは猫ですが、他にも猿、狸、象なんかもあるそうですね」

 

「いや、んな豆知識いらねえから。大体、糞からとった実なら獣臭さとかないだろう」

 

「なら、そういうことですね」

 

「ヤメテヤメテ!」

 

 気のせいだと思うことにした。

 

 フォウに珈琲豆を食わせて、体内でいい感じに発酵させ、糞から採取して淹れてみたらどうなるだろうとも思ったが、視線を下に向けると愕然とした表情をしたフォウが顔だけこちらに向けていたので、気の迷いということにしておいた。

 

 ………………いつかしてみたいとも思ったのだった。

 

「ところで、アルンさんはここで何を…?」

 

「見てわからんのかね。優雅に午後の余暇を満喫しているのだよ。放課後ティータイムってやつだ」

 

「そうですか……直ぐに部屋に戻らないというのも、珍しいです」

 

 言われてみればそうかも知れない。今までの生活を考えてみれば、仕事が終わり次第、一直線に部屋に戻って駄目ソファに沈んでゲームをしていたのに、部屋以外で余暇を過ごすなんて以前の俺なら考えられないようなことだ。

 

『サーヴァントの皆さんと関わってから、マスターにも変化があったようですね』

 

 そのようだ。

 

 しかしながら、トータルしてゲームしている時間は変わってないと思われ。その他諸々の趣味にも時間を費やしているので、結局の所、やることや時間自体は変わっていないのだと思う。

 

 ただそこに、ジャックや静謐といった奴らが加わっただけ。

 

 もうボッチとは口が裂けても言えないのではないだろうか。

 

 静謐の言葉に少しばかり息を漏らして、気持ちを切り替える。思い込むように目を閉じて茶ットを飲んでいた俺の顔を、不思議そうに静謐が見つめていた。

 

「ま、たまにはな。それよりも、お前こそ暇なのか? マスターちゃんのところにでも行けばいいものを」

 

「…いえ、特にこれと言って、行く理由もありません。なぜか、巷…もとい、他の方々からは、何やら私がマスターガチ勢だと思われているのですが………なぜでしょう?」

 

 心底不思議そうに、キョトンとした顔で首を傾げる。人差し指を顎に当てているのがまたあざとい。天然なんだろうけど。

 

「私はアルンガチ勢なのに……」

 

「今の言い方、マシュみたいだったぞ」

 

「え”っ」

 

 凄い声出したな。ショックを受けたような顔だが、広い目で見ればお前もしてることはマシュと同じようなものだと思うのだが。俺にとってはバレバレだが、ストーキングしていることには変わりないぞ。

 

「今、とてもショックを受けたはずなのに、どこか納得している私がいます……」

 

「自覚してる証拠だ。マスターガチ勢に思われているのは、あれだ。一時期、偵察とか言って、マスターちゃん尾行して情報収集してただろう? アレのせいで、セコムだと思われてるんだろうよ」

 

「…………あぁ、あれですか。なるほどです」

 

 そういえばそんな事もあったなとでもいうかのように、納得した顔で頷いている静謐。しかし、一瞬鋭い目つきになったかと思うと、次の瞬間には気配を消して俺の背後に潜むように隠れた。

 

 何事かと一瞬身構えてしまったが、気配察知スキルが感知した気配から、静謐が隠れた理由がわかり、納得する。

 

 食堂に近づくに連れ、気配が大きくなってくるのはサーヴァントという英霊だからであり、マスターちゃんもいるのだがこちらは普通の少女くらいの気配の大きさしかない。したがって、普段からパッシブで発動させている気配察知スキル。やればカルデア全域まで可能だが、そう、やればそれはもう…うむ、それはもう凄まじい大きさのオーラが雪山から立ち上るレベル……というか、天を衝くレベルになる。

 

 気配という名のオーラに潰されて、俺は車に轢かれたカエルのように、中身を噴出させて死ぬことだろう。俺のような一般人にはキツイものである。

 

 そのため、普段は30m前後に留めているというワケダ。

 

『逸般人の間違いでは?』

 

 英霊からしてみれば俺なんて一般人、一般人。

 

『かの大天才がチートの塊と称していましたが……』

 

 聞き覚えがないですねぇ。

 

 ナビさんのツッコミにすっとぼけながらも、残りの紅茶を優雅に飲み干す。

 さて、既に食堂に入ってきたマスターちゃんとマシュ、その他複数名に目をつけられないために……主にマシュが面倒くさいことをしないために、俺は早々に退散でもしようか。

 

 静謐? ああ、あの人見知り? もう既にどこかに行ったんじゃないですかねぇ?

 

「っ!?」

 

 背後の静謐が動揺しているが、なんのその。カップを置いて立ち上がろうとしたところで、俺はその光景に体を固まらせることになる。

 

 立ち上がろうと少しばかり離殿し、中腰になった瞬間、俺の空っぽになったカップにトポポポ……と、湯気と香りの立つ薄い赤色の液体が注ぎ込まれた。

 その突然のことにピシリと体を固まらせ、ゆっくりと顔を上げれば、そこには優しげに微笑むマシュがポットを片手に佇んでいた。そのポットは天まで届けとばかりに高く高く掲げられており、まるで小さな滝のように紅茶を俺のカップという滝壺に注いでいる。滴は一滴たりとも飛び跳ねていない。まさしく、難易度ウルトラCである。

 

 マシュは、微笑んだまま小さく口を開く。

 

「お代わりをお持ちいたしました。放課後ティータイム、延長戦です」

 

 その言葉に、ゆっくりと椅子に座り直す。

 マシュ以外の連中は離れたところでマスターちゃんとおり、どうやらマシュだけが一瞬のうちに紅茶を用意して近づき、淹れたらしい。こいつのことだ、普通に俺とお茶をしたかっただけで、悪意はないだろうし、どうせフォウさんがなんちゃらと適当に理由をつけて一緒にいることだろう。

 

 別に普段ならいいのだが、タイミング考えろや。マスターちゃんがさっきまでマシュがいたところと、俺の目の前のマシュを驚愕の表情で何度も見比べている。首取れそう。

 

 これは少しばかり面倒なことになりそうな予感。

 

「フォーウ……」

 

 駄目だこりゃとばかりに小さな畜生が呑気に鳴きやがる。しっかりとそれを押し「ムギュゥ…」潰しながらカップを手に取る。静謐が背後で震えた。

 

 俺は額に怒りマークを浮かべながらも引き攣った笑顔を、目の前の可憐な立ち姿のマシュに向ける。マシュ、やっちまったの顔。

 

 いいだろう、砲火後ティータイム、突入である。

 

 

 

 

 




フォりじなる後書きしょウせつ ~珈琲と共に~

タイトル
    【夜と珈琲の輝く綺麗な黒い花】


 夜。俺の部屋にはいつもいる奴らが、思い思いに過ごしている。自分の部屋で過ごせと思わんでもないが、既に慣れてしまった俺は突っ込むこともなく、ジャックが淹れてくれた珈琲を飲んでいた。

 そのジャックは俺の膝の間に収まって、背を胸に預けて漫画を読んでいる。

 他にもベッドで寝転がりながらゲームをしているけしからん格好の邪ンヌや、俺の背中に背中を合わせて座り込み、こちらもゲームをしているアストルフォ。

 部屋の隅で小説を読んでいる静謐もいる。

 ちなみに、俺の頭の上にはやけにぐったりした死にかけのフォウもいたりする。

 そんな静かな時間と空間の中、カップをテーブルに置き、ジャックをゆっくりと駄目ソファに移し、首に巻き付いていたアストルフォのピンクの髪を解いて、立ち上がる。

 向かう場所は部屋の一角にある、ダ・ヴィンチちゃんお手製のドリンクバーゾーン。その中のコーヒーメーカーの前で足を止める。

 アイテムボックスの中からとある珈琲豆の入った袋を取り出し、豆をセット。抽出。

 コポコポと普段飲んでいる珈琲よりも薄い色をした黒い液体が溜まっていくのを眺める。程なくして、珈琲の芳しい香りが部屋を満たし始めた。

 いつもの俺なら、珈琲の良い香りにリラックスするのだが、今回ばかりはなんとも言えない顔で、その液体を眺めている。頭の上のフォウも、凄まじく顔を顰めていた。頭を叩かないでほしい。

 やがて、抽出も終わったのか、コーヒーメーカーが仕事は終えたとばかりに眠りについたようだ。

 俺を抜いた人数分のカップを用意し、珈琲を均等に分け入れる。白いカップが滑らかな動きで注がれる珈琲に侵食されていく。白いキャンバスを染める黒いインクは、暴力的かつ光を飲み込む黒に染めてしまうが、珈琲の黒さはカップの白さと同調し、光を含んで静かに揺らめく。明るくても、薄暗くても、どこにでも合うなんとも言えない安堵さを生み出す色合いだ。飲み干したあとの少しだけ残った『跡』も良い。

 今回ばかりはそうも言えないのだが。

 カップをソーサーに乗せ、魔力糸で全ての珈琲を運ぶ。

 夜も深まってきた。そろそろ寝るにはいい時間だろう。珈琲のカフェインで眠れないなんていうこともあるが、俺達は既にカフェインに慣れているのか、リラックス効果の方が上に出ているため、飲んでから寝ることが多い。

「お前ら、手に入れようと思えば容易に手に入るが、中々手に入らないどころか、絶対に手に入らないであろう、世界に一つだけの珈琲だ。寝る前にでもどうだ?」

 そう言いながら、珈琲をテーブルに置いていくと、各々が手に持っていたものを置いて、集まってくる。
 
「なによ、それ。手に入りやすいのか、手に入りにくいのかわからないじゃない」

「そういうな、今回ばかりは特別なんだ」

「ふーん……それなら頂きます。ミルクや砂糖はないの?」

「ああ。ぜひ、ブラックで味わって欲しい。この珈琲そのものを、舌と全身で味わってほしいんだ」

「はいはい、わかりましたよ」

「あれ…? アルンの分はないの?」

「ああ、俺はいい。ジャックの淹れてくれた珈琲を飲んだからな」

 アストルフォの疑問に、いつも通りの表情で、自然に断りを入れる。頭上で、てめえふざけんなよとばかりに、フォウが叩いてきた。剥げちゃうからやめてね。

「おとーさん、苦くない…?」

「色合い的にそこまで苦くないんじゃないか? 焙煎が浅いから、酸味はあるかもしれないが、苦味はそこまでないと思うぞ」

 ならいっかーと我が最愛にして最高に可愛い娘はカップを手に取る。その無邪気な姿に俺は…………多少ながらも罪悪感が胸を突いてくる。

 それぞれがそれぞれの手にカップを把持し、香りを楽しんだ後にそっと、男とは比べ物にならないような悩ましい美しさの孕む唇に(約1名多分男)縁をつけ、珈琲を口内に含む。

 小さく動く白く細い喉を見ながら、自身も唾を飲み込んでその様子を見守る。飲んだ、飲んだぞ、こいつら…。

「どうだ…?」

「うん……あっさりしてるのに、香りが強くて美味しいわね」

「飲みやすいよ!」

「はい、いつもより美味しいです……」

「アルン、おかわり!」

「…………ああ、まだあるからな」

 カップを突き出してくるアストルフォに残りの珈琲を入れてやり、他の奴らにも2杯目を入れてやれば、完売だ。

 美味しそうに2杯目を味わっている。静かな夜に、美味しい珈琲。これで、さぞかしリラックスした睡眠を得られることだろう。

「それで…」

 邪ンヌがカップから唇を離し、俺を見てくる。

「この珈琲は何が珍しいのかしら?」

「ああ、コレはな……」

 全員が再び、珈琲を飲むのを見てから、俺は、ついに今まで黙っていた珈琲の真実を口に出した。

「この珈琲はな、フォウに実を無理やり食わせて体内で発酵させ、糞として出てきた実を採取し、乾燥させ、焙煎した珈琲。世界に一匹しかいない獣から採った、世界でここでしか飲めない、世界レベルで貴重な珈琲だ」

「「「「ブーーーーッッ!!??!?!?」」」」

「キャーゥ……」(///)

 俺の答えを聞いた四人が一斉に絶世の美貌を変顔に変化させて、珈琲を霧状に吹き出す。

 静かな夜に包まれた、いつもと変わらないある意味、静かで騒がしい一部屋に、光を含み、光とともに輝く綺麗な黒い花が咲くのだった。




                                  ~完~



















答え合わせ

フォりじなる後書きしょウせつ ~珈琲と共に~

          ↓

フォ()りじなる後書きしょ()せつ ~()()と共に~

          ↓

      ~ フォ ウ 珈 琲 ~

 珈琲界の革命児、至高の一杯を味わいたい方は、是非、カルデアスタッフ:アルン・ソルシエとフォウまで

 あなたに安らぎと癒やしの時間を提供します
                                    きりがる
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