お父さんになったら部屋にサーヴァントが来るようになったんだが 作:きりがる
ぶっちゃけ繋ぎ回だからなくて良かったかもしれん。
いつもいつも誤字報告ありがとうございます。大変助かってますが、見るたびに阿呆な間違いをしてんなと思ってます。ええ。
「そんな感じで、相手は複数人で一度で決めないと終わる状態。相手の弱点となる魔術を選び、一瞬で複数を展開しなければ勝てない。でも、そこまでの力がないのに魔術を使わないと抜け出せない状況……君ならどうする?」
「大人しく死ぬ」
「それ、なんの打開策にもなってないじゃないか…」
何度目かのダヴィンチちゃんに引っ張ってまで連れてこられた食堂で、興味津々と言った数多の視線の中、二人でカレーをつついて話をする。ダヴィンチちゃんは何の意味もないだろう話を楽しそうにしてくるので、俺も答えるのが楽しい……何ていうわけがない。もともとあまり喋らない俺が食事時に話なんてしたいと思うか? ねぇよ。
中辛程度のカレーを食べ、ダヴィンチちゃんの話には適当に答えておく。
それにしても、激辛を食べるやつの気がしれん。辛味とは痛覚であり、激辛とは激痛である。つまり、激辛が大好きなやつがドMじゃないか説は有名だろう。逆説的に甘口はドSになる…というのは尚早か。俺的には中辛が普通だと思うんだが…真ん中だし。
「なんか面白い答えを出しておくれよー」
「面白いって…寧ろ、その状況を予想して何も対策してこなかったのかと言いたい」
「対策しても内通者がいてバレたということにしておこう。そして上回った的な」
「巫山戯んな後付設定! そうやって適当にあとからあとから設定を付け足していくからわけのわからんことになるんだ。BLEACHとか途中で読むの止めたかんな……って知り合いが言ってた」
「いや、知らないよ…」
「まぁいい。ばれない対策をすればいいんだろう? じゃああれだ、骨に魔法陣でも刻んでおけばいいんだ」
「ほう?」
俺がそんなことを言えば、ダヴィンチちゃんは目を鋭く細めて興味深そうに見つめてくる。たまにあるんだよな。
「詠唱も魔法陣も用意せずにできるじゃん。痛いだろうけど。指は十本あるけど、その中には骨が3つずつあると言ってもいい。更に手内骨は八個程あり、橈骨尺骨なんていくつか刻めそうなくらいの幅はある。なりふり構わなくてもいいなら、全身合わせて200以上の骨に多くの陣……あれ? 痛覚やら云々を無視すれば最強じゃね? 魔力あれば200種類の魔術を一度に放てるじゃん。拒絶反応出ないように隣接する魔法陣は考えないとだけど」
昔、どこかのオリジナル小説で見たんだよなぁ…痛みを我慢して自分の体を切り裂き、中の骨に魔法陣を刻んで無詠唱で魔法を放っている主人公。痛そうだし、色々考えることもあるだろうけど、なるほどとは思ったものだ。
「でも…股間から放たれる魔術とか見たくねぇ…」
「アッハッハ! 確かに、それは滑稽だね。お尻向けて魔術放つとかね。やっぱり君は面白いなぁ…そんなこと考えもしなかったよ」
「頭からかの有名なビームも撃てるのでは……? ―――まさかだけど、今言ったことするんじゃないぞ?」
「うん? 流石にやらないけど、なんでか聞いてもいいかな?」
「いや、もとはクソジジイだとしても今は誰もが認める美女だろう? 魔術とかでどうとでもなるとは言え、簡単に体を傷つけるのもどうかと思うしな。骨にまで刻む狂人さは見せなくてもよろしい」
いくらダヴィンチちゃんの頭が違う意味でパッパラパーとはいえ、そこまでやられると正気を疑う。そのダヴィンチちゃんはぽかんとしている。まさか、マジでやろうとしていたんじゃないだろうな。
もう一口、カレーを食べようとして自分のミスに気づく。ルーとご飯の相対が……ご飯マネジメントミスった。
仕方ない、福神漬で白飯でも食べるかと福神漬の容器に手を伸ばしたところで、前の方からスプーンが伸びてきて俺の白飯の上にルーが載せられる。なんぞ?と確認してみれば、ダヴィンチちゃんが自分の分のルーを入れてくれたようだ。ちなみにダヴィンチちゃんはルーが余っていた。
「いやぁ、まさかそんなことまっすぐ言われるなんて思ってもみなかったよ。流石の私もちょっと恥ずかしかった」
「なにが? それよりサンキュー」
「いいさ。……ねぇ、私達って二人を足して割れば丁度良さそうだよね」
いきなり何のことを言っているのかと思えば、カレーのことだろう。確かに、俺のご飯余らせちゃうのとダヴィンチちゃんのうっかりとルーを余らせちゃう下手くそさを足せば丁度いいかも知れない。
「そうかもな」
「おおっ、アルン君も思ってくれてたなんて……でもまだ早いかな。もう少し、もう少しじっくりと……」
最後の一口分をまとめていると、なにやらブツブツと呟きながら、ゾクリとするような妖しげな目で見てくる大天才様。あれは碌でも無いことを考えている目だろう。このままでは研究対象になりそうだ…そう予想して最後の一口を速攻で食べ終わり、立ち上がる。
「ごちそうさま。俺は先に行くからな」
「うん? ああ、わかった」
食器類を返却口に返して足早に食堂を出ていく。はぁ…あれは絶対に碌でも無いことに巻き込む気だろう。そうなればスキルや魔法で逃げるのも吝かではないが…。
今日はもう仕事はないので昼から休みである。これからどうしようかと考えるが、自室でゲームくらいしか思い浮かばない。何時も通り自室でフィーバーするかと脚をそちらに向けたところで、俺の端末に通信が…見てみれば、それはダヴィンチちゃんだった。いつの間に入れたんだ…。
先程別れたばかりだというのに、何のようだ。カレーの件か? あれは貸しにもならんぞ。
面倒くさいので、出てくだらなければ速攻で切ろう。
「もしもし…何のようだ」
『いやぁ、さっき別れたばかりなのに悪いね。あ、これなんか駄目なカップルみたいじゃないかい?』
「黙れ爺切るぞじゃあな」
『あ、待って待って! 少し聞きたいことがあるんだけどさ……』
そこで一度溜めを作るダヴィンチちゃん。
「ちょいとダヴィンチちゃん? 早く言ってくれない?」
『あーうん、そうだね…実は今、君の部屋に居てだね…』
「はぁ?」
『無断で入ったのは悪かったと思うよ? でも、ちょっと用事で君のところに行こうと思って、曲がり角から顔を出したら、勝手に扉が開いて閉まるもんだからさ、ちょっと侵入したんだ』
「は? はぁ!? ちょ、おま、侵入ってなんだ侵入って!」
『まあまあ、怒らないでよ。おとうさん?』
通信機越しのダヴィンチちゃんのその言葉…それだけで察してしまった。ジャックとの関係がバレた。つまりはそういうことだろう。
ふらりくるりと反転し、壁にゴンッと腕と頭をぶつける。終わった…。
いつかバレるとは思っていたが早すぎる…しかも相手は面倒くさい相手ときたものだ。どう口封じをしようか…。
痛覚限界ギリギリまで上げる、快楽3000倍、毒、声帯切除、気管切除、植物状態、抜歯、四肢欠損、五感消失……」
『ちょ、ちょっとまってよ何怖いこと呟いてるんだい? 通信機越しでも殺気が伝わってくるんだけど……そ、そのことは後でゆっくり話そう? 誰にも言わないから…』
「…………それで、何の用だ」
『いやぁ、実に言いにくいんだけど……その、私が入ってきたことに反応したジャックとちょっと反射的に動き合っちゃって……あの、部屋のね? あ、わざとじゃないんだよ? でも偶然さ? えっと…棚のプラモデルが沢山壊れちゃって…なんか、以前見た子の頭も…』
俺のぽいぬー!!
「判決。死刑」
『早っ!?』
『うぅ……ごめんなさい、おとうさん。わたしたちが早とちりしなかったら……』
ふと、ダヴィンチちゃんの声の隣からジャックの声が聞こえてくる。その謝っている声は鼻声であり、嗚咽も聞こえることから泣いていることがわかる。
確かに、俺のプラモデルは丹精込めて作った大切なものだったが、ま、まぁ、可愛い娘と比べれば? ぜ、全然ただのゴミ同然だしぃ?
俺は動揺を隠しながら話を続けた。
「よ、よし、許す」
『ほ、本当かい!?』
「おいおいおいおい、何勘違いしちゃってくれてんの? ダヴィンチちゃん。お前は許さねえから。許すのはその子だけだから。か、勘違いしないでよね! 別に貴女のためなんかじゃないんだからっ!」
『それ、良く良く考えたら結局怒ってるってことだよね。しかもなにそのツンデレ…嬉しくない。アルン君綺麗なんだから、もっと可愛らしく…』
「貴様を殺すッ」
『え、ちょ、まっ』
通信機を怒りのままにぶち切り、ポケットに仕舞うと少し離れたところで視線に気づく。なにやら全身に纏わりついてくるような愛溢れる熱い視線……おい、静謐。
ため息を零す俺に小声で話しかけてきた。周りには誰も居ないが、一応の配慮だろうか。
「もしかして、ジャックちゃんのことがバレてしまったんですか?」
「静謐……お前、なんでここにいるんだよ。マスターちゃんに用事があるとか朝言ってなかったか?」
「アルンさんの姿を見つけたから付いてきてしまって…すみません…」
申し訳なさそうに謝ってくる静謐の頬をむにーと引っ張れば嬉しそうにふにゃりと表情を緩める。しっとりとした柔らかな頬はジャックとはまた違った柔らかさを魅せてくれる。
摘むようにしているのにサーヴァントにもなると流石にこの程度では痛みも感じないのだろうか。緩めた口から八重歯がちらりと覗き、光を反射して輝く。
「というわけで俺は行くわ」
「はい」
それじゃ。と手を上げて足早にその場を去るが、トテトテと付いてくるのは静謐。
「なんで付いてきてんだよ…」
「はっ!? 身体が勝手にアルンさんを求めて…」
「なにそれちょっとアレだな」
静謐のちょっと危ない発言にチョップを入れたらやっぱり笑顔になりながら頭を触っている。まあ、もうそれはいい。静謐がいいと言うなら別にこのままともに部屋に向かって、ジャックのこととまとめて静謐のこともダヴィンチちゃんに話してしまおうか。
どう説明したものか…とにかく、言いふらさないことを第一に交渉しなければいけないだろう。こうして俺に耳を引っ張られて嬉しそうにしている静謐はこう見えて毒そのもののような存在…いざとなったらダヴィンチちゃんに静謐ミサイルでも食らわせようっと。
そんな事を考えていたら、離れた曲がり角からとある人物が現れた。その人物はピンク色の髪を持った美少女だったが、こちらに気づく瞬間に手を離したのだが…ぶっちゃけ見られてないかどうか自信がない。疑惑の判定である。
こっからあっちまではまさしく長い廊下の端から端であるので、見えていなかった可能性もある。これ以上ここにいて俺のことを覚えられても困るので、何事もなかったかのようにこちら側の角に隠れる。当たり前のように静謐もついてきた。
「先ほどの……大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だとは思いたいな…迂闊だった。俺にとってはお前に触れられる事が当たり前となっていたから気が抜けていた」
「すみません…私がもう少し我慢してたら…」
「いや、これに関しては何も悪くねえよ。気にすることはない。ほら、さっさと帰るから掴まれ。じゃないとさっきの子が来ちまう」
「はいっ」
何も悪くないのにしょぼんとしていた静謐に苦笑しながら手を差し出せば、俺が本当に気にしていないし悪いとも思ってないことを感じ取れたのか、微笑みながらそっと俺の手を握って細くしなやかな指を俺の指に絡めてくる。
誰にも見られていないことを確認してから転移魔法で部屋の中に転移する。
なんだかんだで触れることができた静謐は嬉しそうにしながらも顔を蕩かし、ごきげんである。チョロいな、こいつ。何もしてないのに好感度が上がる一方なんだが…。これ以上のことしておいてこの程度でいいのか。
部屋の中に転移して静謐から手を離す。……が、静謐は一向に手を離してくれはしない。抱きついてくるわけでもなければ擦り寄ってくるわけでもない。指を絡めながら手を握っているだけで、時折力を入れてにぎにぎと感触を確かめているくらいだ。
流石女の子。俺も男にしては手が細いほうだが、静謐の手はそれよりも細く、小さい。
でも部屋ついたからそろそろ離してくれない?
ご飯だけ残る弁当。
ご飯だけ残る牛丼。
ご飯だけ残る定食。
数多の敗北を得て。
私は、最後の一口で最後の一口を食べ終わるという境地に達した。
それはまさしく、神の如き一手。
訳・比率を間違えないようにね!