「――以上が周辺3ヶ国の動向になりますので、まずはナザリックが転移したリ・エスティーゼ王国につきましては、周辺国とも隣接しており、王国の要の都市であるエ・ランテルを王国より独立させます。」
「エ・ランテルの住民も噂してたね。私が出歩いてる時も「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」とか言われてビックリしちゃった。」
「ハァ!?」
アインズにとっては寝耳に水だ。当初は都市の支配層を洗脳したり、財産を収奪したりとやりたい放題だったが、さすがに不味いと思い、あまりやりすぎるなと釘を刺したはずだ。
「人間の都市を独立なんてさせて如何するの?さっさと滅ぼしちゃえばいいのに?」
「エ・ランテルは3ヶ国の人・物・情報が集まる都市だからね。ここを押さえておくと都合がいいんだ。アインズ様の世界征服にとってね。」
「おお~さすがでありんす!」
(世界征服??どういう事だ?俺は何もきいていないぞ!?)
「イヨイヨ、我ラナザリックガ、世界ヘト打ッテ出ル時ガ来タ!アインズ様、先陣ハ此ノコキュートスニオ任セヲ!」
「あれ?まだそんな事してたの?」
さっちんは「そういえばそんな話もあったよね」と思い出す。あれは兄の持病から出た言葉のあやだったはずだ。
「――!!それはどういった意味でしょうか?既に御二方はさらに優れた計画を御進めになられているのでしょうか?」
「さっちん様!私にも教えて欲しいでありんす!」
(俺にも教えてくれ!)
NPC達の視線がさっちんに集中する。自分達が仕える兄妹の為に、少しでも役立とうとする気持ちの表れだ。
「いや、デミウルゴスさんが言っているのはアレでしょ?3人で散歩に行った時の……」
「その通りでございます。あの時アインズ様が仰られた――」
(あの時のことか――っ!!!!)
思わず立ちあがったアインズに全員の注目が集まる。さっちんだけがアインズをジト目で見つめている。
「如何なさいましたか?アインズ様。」
「お姉ちゃん、アインズ様どうしちゃったんだろう?」
「馬鹿ねマーレ。至高の御方であるアインズ様が無意味な事をする訳ないでしょう!きっと私達には理解も出来ない深遠な理由があるのよ!」
「お兄ちゃん……(またやっちゃったんだね)」
ようやく思い当ったアインズだが、既に冗談でしたでは済まない雰囲気になっているし、その冗談を現実にする為に計画が進んでいる。このまま流れにまかせても碌な事にならないだろう。
「あー…その件についてだが、その…一旦保留する事にしたのだ。」
「それはどういった理由からでしょうか?」
支配者として口にした言葉を理由も無く翻しては、部下達の忠誠心にも影響するだろう。ここはひとまず保留という形で計画を中止、後は軟着陸の為の落とし所を探っていくしかないだろう。未来の自分に丸投げだ。そしてオーバーロードの英知をフル稼働させて適当な理由をでっち上げる。
「アルベドだ。」
「アルベド?」「アルベドですか?」
「そう…アルベドだ。アルべドは我が子を身篭っており、間もなく我が子が誕生する事は知っているな?」
「是非トモ!是非トモ若君ノ爺ハ此ノコキュートスニオ任セヲ!」
「我が創造主であるアインズ様の御子であれば、私にとっても弟や妹も同然!誠にめでたく、そして喜ばしい事かと。」
「うむ。お前達の気持ちは嬉しく思うぞ。そして私も子供の誕生を心待ちにしている。だからこそ世界征服などという細事にかまけている訳にもいかないのだ。なにせ初めての子供という事で舞い上がってしまってな。それでお前達に伝えるのを失念していたのだよ。ハハハハ…」
これはアインズの本音だ。子供の誕生という一大事を控えているのに、そして生れた後も色々と大変なのに世界征服なんて勘弁して欲しいと心から思っている。
「とんでもございません!まさにアインズ様の仰る通り。私の方こそ失念しておりました。ナザリックの支配者であるアインズ様とNPC統括のアルベドの間に御子様が誕生するというのに、確かに世界征服など後回しになって当然です。」
「まったくでありんすえ。」
「そんなの当然だよね」
「そうだよね、お姉ちゃん。」
(よし!これで納得したか?後は世界征服についてもこのまま……)
「という事はアーインズ様、御子様が誕生された後で、それを祝して世界征服の為の行動を開始するのですね?」
「いや、子供の事で忙しくなるしな……それに、色々とこの世界の実態を知った後では、余り魅力を感じなくなってな。私としては家族やナザリックの者達の為に力を使いたいのだ。」
これも本音だ。仮に世界征服をしたら、当然その後は世界を統治していかなければならない。ナザリックの運営だけでも手一杯で、さらに子育てだって加わるのだ。絶対に世界征服なんてごめんだ。
「オオ!アインズ様ノ慈悲深サニ感服イタシマス。」
「さすがはアインズ様でございます。」
「ククク…アインズ様の御心がそれだけだと思っているのかい?」
「えっ?」「どういう事?」「他にも何かありんすか?」
纏まりかけた話しが、思わぬ方向に向かい始めてアインズは困惑する。
「Oh~言われてみれば!確かにアインズ様の真意は他にもあります。」
「アインズ様!私にも教えて下さい。」
「アインズ様の真意を汲み取れない愚かな私に、どうかその真意をお聞かせ願えないでしょうか?」
「うむ……デミウルゴスよ。お前が理解した事を他の者に説明してあげなさい。」
「かしこまりました。では説明させていただきます。いいかい皆?我らはアインズ様とさっちん様によって身も心も支配していただいて、そしてありがたくも側に侍り奉仕する事を許されているが、これがどれだけ素晴しく、そして幸福であるかは言うまでも無いね?」
企業に搾取されていた貧困層出身の兄妹には「支配される喜び」なんて理解出来ないし、酷使されていた身としては「奉仕を許される喜び」なんて以ての外だ。そこまで社畜になってはいない。
「勿論でありんす。」
「身ニ余ル光栄ダ。」
「全くだね。そしてアインズ様はこう仰っているんだよ「そんな幸せを有象無象の者達に与えてやる必要があるのか?」…とね。」
「そんな必要ありません!御二方は僕達だけの支配者なんですから!」
「然り!ナザリックの支配下に置かれるとしても最低限度の資格というものが必要でしょう。」
これにはアインズもおおっ!となる。その通りだ。何で俺がよそ様の事まで面倒見ないといけないんだよ!と同意する。そしてある事を思い出し「まてよ?」と考える。
「それならさ、邪魔な人間なんて滅ぼしちゃえばいいんじゃない?アインズ様とさっちん様の素晴しさが理解出来ない奴らなんて存在する価値もないよね。」
「そうだね!お姉ちゃん。」
意外と過激な姉弟である。他の者達からも「滅ぼす」「皆殺し」といった物騒な単語が飛び交う。
「それは早計ではないですか?アインズ様とさっちん様の偉大さを理解出来ないのではなく、未だ知る機会に恵まれていない者も多いはずです。そしてナザリックに従順で無害な者には慈悲を与えるべきと考えますが。」
「私もセバスの意見に賛成だね。只、そこに有用という言葉も加えて欲しい所だ。」
「お前達、その辺にしておけ。」
アインズの言葉に全員が話しを止めて姿勢を正す。NPC達があれこれと話して時間が取れたので、何とか考えを纏める事が出来たのだ。多少強引だが、このまま押し通すしかない。
「まず虐殺等は極力控えるべきだ。不必要に敵を作る事になるし、例のバレアレ一家の様な有用な存在が巻き込まれる可能性もあるからな。勿論ナザリックに害を為す存在には遠慮も容赦もいらないがな。」
これにはNPC達全員が理解を示す。カルマ値が悪に傾いている者が多いが、それをナザリックの利益に優先させる愚か者は居ない。
「そして世界征服についてだが……私はナザリックを支配する者として、ナザリックに住まう者達の幸福と安寧を第一に考えている。それが支配者の責務だからだ。仮に私が世界をこの手に収めれば、私は世界中の者に対して責任が生じてしまう。さすがの私でもそれは面倒だ。まあ…かつての仲間達が居てくれれば造作も無い事だろうがな。」
アインズは「世界の1つくらいは征服してやろう」と語っていた仲間の姿を思い浮かべる。彼がこの場に居ればどう思ったのだろうか?
NPC達はアインズの慈悲深さに感動し、同時に不甲斐無さを感じる。やはり至高の方々の足許にも及ばない…と己を戒める。
「しかしナザリック地下大墳墓がこの地へとやって来た以上は、この地でもかつての様な名声を得る必要がある。やはりアインズ・ウール・ゴウンは不変の伝説でなければならない。力を示してその存在を世界に知らしめなければならない。もしかしたらこの世界の何処かにいるかもしれない仲間達に、我らの存在を知って貰う為にもだ!その為にも改めて皆の協力を頼みたい。」
おお!とNPC達は感嘆する。自らの創造主の帰還を望んでいない者など只の1人として居ない。我らの存在をあらゆる所へ知らしめていけば、何時の日か、創造主達の耳に入るかもしれないのだ。
さっちんは風呂敷を畳もうとして、何故か再び広げはじめた兄を見ながら「自分は言動に気をつけよう」と深く思ったのだった。
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「まずはアインズ様の真意を忖度せずに、勝手に計画を推し進めた事をお詫びします。エ・ランテルにつきましては早急に撤収の準備を――」
「その必要は無い。そのままお前の計画を進めるのだ。」
非常に恐縮した様子で話すデミウルゴスに、アインズは鷹揚に応える。
「こちらの融通がきく都市は魅力的だ。我らが表に出て統治する必要はないが……パソナレイという男が都市長だったな。そのまま都市長としてエ・ランテルを統治させて、我々に便宜を図らせればいいだろう。ある程度のバックアップもしてやれ。」
「ねえ、都市長さんも心を入れ替えたみたいだから、優しくしてあげて欲しいんだけど?」
「ご安心ください。彼はそこそこに優秀ですので使い潰す様な事はいたしませんとも。」
ユグドラシルでは都市を拠点として手中に収めていたギルドもあったが、異形種オンリーのアインズ・ウール・ゴウンでは都市に入場するのさえ困難だった。これを考えれば自由になる都市というのは魅力的だ。しかし統治に関わる面倒や責任は遠慮したい。
「そういえばユグドラシルには迷宮都市なんてのもあったな。エ・ランテルにはそういった役割を期待してもいいかもしれないな。」
「成程……ナザリックに挑む挑戦者の為の施設を整えて、強者を集め易くする――そして彼らの情報も集め易くなる。」
「それに気が付くとは……さすがはデミウルゴス。」
「恐縮でございます。」
こうして王家の生命線ともいえる都市の独立が決定した。王家の弱体化は留まる事を知らない。
「そしてバハルス帝国だが、皇帝には周辺国家の平定をお願いするとしよう。彼は非常に野心家……いや勤勉家らしいからな。鬱陶しい王国や、異形種に排他的な法国は彼に管理を任せてしまおうじゃないか。皇帝も本望だろう、帝国を強くする事が望みなのだから。」
「ねえねえ、皇帝ってどんな人なの?」
「デミウルゴス、皇帝の資料をさっちんに渡してやれ。」
渡された資料には皇帝の外見、性格を分析したデータや、これまでの業績、彼についての他人の評価などが細かく記載されている。
「おお~、イケメンだ!皇帝でお金持ち!さらに優秀とは!でも渾名が「鮮血帝」って酷くない?」
「ハハハハ、さっちんも気に入ってくれた様だな?私としてはこの皇帝を応援してやるつもりだ。」
アインズとしては帝国を後押ししてやって、自分は皇帝と仲良くして安全確保、そして大きくなった帝国から情報収集や人材のスカウトをしてやろうと考えていた。経済的に豊かな帝国なら交易でも儲けられそうだ。強大な国の協力者という事ならアインズ・ウール・ゴウンの名声も高まるだろう。
3ヶ国の中でアインズが最も好感を覚えたのが帝国だった。仮に自分が人間として妹と暮らすのなら帝国が一番だ。法国のような宗教国家は、あの世界で生きて来た彼の感性に合わない。王国は何があろうと全力でお断りだ。他の国も興味はあるが情報が不足している。
「そして帝国……皇帝はアインズ様の傀儡として馬車馬の如く働くという事ですね。それも自らの意思で!」
「それは誤解だぞパンドラ…あくまでも善意の協力者というやつだ。」
アインズは優秀だという皇帝を、新米支配者である自分の参考にしたいと思っている。やはり生まれながらの支配者というのは自分とは比べものにならないだろうと。もし友誼を深める事が出来れば友となってもいいという位は評価している。家族や部下に恵まれているが「ぼっち」は寂しいのだ。
「そういった訳で、帝国から来るワーカーには我々の力をしっかりと理解して貰って、それを皇帝に報告して貰う。全員を無事に帰してやる必要はないがな。その後は皇帝をナザリックへ招待してやろう。たっぷりと持て成してやるぞ。それに色々と相談しないといけないしな。」
こうして若く優秀で将来も有望な皇帝は、ブラックな支配者からドラフト指名を受ける事が決定した。
「スレイン法国はどうされますか?何も知らない国民はともかくとして、上層部は分を弁えているようです。法国の戦力も侮れませんし、さらに隠された戦力もある様ですが?」
「あの国は非常に重要だ。戦力・情報が他の2国とは比較にならん。プレイヤーの血を引く「神人」や、プレイヤーの「遺産」は非常に危険だが魅力的だ。よって敵対は考えていないが、こちらの力を見せつけて自分達の立場を理解させる必要がある。」
「それでしたらわれらにご命令しておくんなまし。「ナザリックが威を示せ!」と。」
最強の守護者であるシャルティアの言葉にNPC達が頷く。例え普段の言動が残念でも、今までNPC達の一番槍として最も多くのプレイヤーを屠ってきた彼女への信頼は厚い。
「もちろんお前達には期待しているし、シャルティアの役割も功績も理解している。だが今回はコキュートスを迎撃の主戦力とする。この前の詫びを兼ねてな。」
「ゴメンネ~。期待はずれだったんでしょ?」
「オオッ!オ任セ下サイ。必ズヤ侵入者ニナザリックノ威ヲ思イ知ラセテ御覧ニイレマス!」
「コキュートスには完全武装を許す。ナザリック随一の武器の遣い手である、お前の武を期待している。」
コキュートスは武器を使った戦闘ではNPCの中で最も優れている。創造主が与えた多くの武装を使いこなし、全力の戦闘では4本の手にそれぞれ武器を持って戦うが、コキュートスがそこまでする相手は滅多にいない。
「ハッ。武人建御雷様ヨリ拝領シタ武装ニ恥ジナイ働キヲシテ見セマス!」
「今回の目的はナザリックの武だけではなく、財についても示す必要がある。そこで…この後、パンドラと共に宝物殿まで同行せよ。宝物殿に保管された武具の使用を許す。パンドラと相談して、お前が最も相応しい物を選ぶのだ!」
「オオオオッ!ナ、何トイウ…」
「どの程度の武具まで許可をいただけるのでしょう?ワールドアイテムは別格として、さすがにアヴァターラの武装を持ち出すのは……」
「む…それはさすがに仲間達に――いやコキュートスの晴れ舞台だ。建御雷さんの愛刀「建御雷八式」の使用を許す。彼もコキュートスが使うのであれば喜んでくれるだろう。残りは宝物殿の武器庫から選んでくれ。他のアヴァターラの武器は許可しない。」
「ウオオオオッ!アリガタキ幸セッ!!」
コキュートスはその身を震わせて感涙する。彼が敬愛する創造主が鍛え上げた最強の武器を振るう事を許されたのだ。そして他のNPC達も驚愕してコキュートスを羨む。
ナザリックの財が保管されているという宝物殿に立入るのを許されたNPCは、宝物殿の領域守護者であるパンドラズ・アクターのみである。武器愛好家であるコキュートスならずとも、許されるのであれば、その数々の秘宝を目にしたいと願っている者は多い。
「何せやって来る者にはワールドアイテムを身に着けた者さえいるのだ。こちらも相応の装いで迎えてやらねば失礼だろうからな。」
「それならこっちもワールドアイテムで対抗しないとね!」
「当然だな。直接相対する守護者にはワールドアイテムを持たせるが、私の許可なく発動させる事は禁止する。法国は自分達のワールドアイテムに大層な自信があるらしいが、もう一つの重要な効果には気付いていない様だな。」
ワールドアイテムの効果はワールドアイテムで無効化可能。これはプレイヤーにとっては常識だが、その対策に人数分のワールドアイテムを用意出来るのはアインズ・ウール・ゴウンだけだ。
ちなみにアインズは法国の連中の装備を、ワールドアイテムを含めて根こそぎかっぱぐつもりでいる。なにせユグドラシルと違って、相手の装備・アイテムの「全取り」が可能なのだ。遠慮するつもりは全くない。当然だが万一の事態に備えた準備も抜かりなくするつもりだ。
「いいなあコキュートス。アインズ様っ!私にも何か出来る事はありませんか?」
「ぼ、僕も頑張りますっ!」
「アウラ達は闘技場の準備を頼む。それにお前達にはトブの大森林にある湖に生息するリザードマンの件で活躍して貰うからな。期待しているぞ。」
「わっかりましたぁ!それじゃあコキュートスの戦いをばっちり盛り上げてみせますね!」
「わ、分かりました。頑張ります!」
アウラとマーレは闘技場のマスコットとして、ユグドラシル時代にプレイヤー達からの人気が高かった。
「そういった訳で、法国から来る連中は最大限に持て成してやる事にする。例のクレマンティーヌにも協力してもらってな。但し今後の関係も考慮して、命までは取らない事とする。多少の無礼があっても見逃すように。」
「えっ?あの女の人裏切っちゃったの?ナザリックで雇ってあげる事にしたんだ。」
「それは違うぞさっちん。ちょっとしたお節介というやつだ♪」
ボロクソに叩きのめされて、身包み剥がされた後で関係もクソもないのだが……そのうえアインズは、法国の強者――特にプレイヤーの血を引く神人にも触手を伸ばそうとしている。
情報を盗られ、物を取られ、さらに人まで獲られようとしているスレイン法国の前途は多難だ。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「お兄ちゃんさあ……その場の勢いで、おかしな事ばかり言ってると、そのうち大変な事になっちゃうよ?みんな本気だったよ?」
「す、すまなかった…以後は気をつけます。」
何とか軌道修正に成功した?アインズ様ですが
やる事は大魔王そのものです。