二日前にスレイン法国の神都を出発した一団は、エ・ランテル近郊の森を突き進んでいた。極秘裏の任務である為に途中の町で休息・補給を行えない強行軍であった。森を抜け次第、一行は二手に分かれる予定である。
ナザリック地下大墳墓へ向かう土の神官長レイモン・ザーグ・ローランサン率いる一行と、法国の若きホープであるスタメン・グリッド・ルーイン率いる元漆黒聖典第九席次捜索&叡者の額冠奪還部隊である。スタメンは風花聖典の人員と共に、交易都市エ・ランテルで情報収集だ。
「それでは我らはエ・ランテルで情報収集に努め、元第九席次の足取りを追跡します。法国の至宝である叡者の額冠は必ずや奪還してみせます。皆様もどうか…どうか生きて御帰還を。」
「任せたぞスタメン君。ニグン隊長からも声を掛けてやれ。重要な任務へ赴く弟に先達としてアドバイスしてあげなさい。」
「お心遣いに感謝します。スタメンよ、元第九席次のクレマンティーヌは疾風走破の名を与えられていた戦士だ。凄まじいスピードの持ち主で刺突武器を使いこなし、煽情的な装いを好む露出狂のうえ、残虐で性格破綻者の殺人狂――っと失礼、クアイエッセ殿の前で言うべき事ではありませんでしたな。」
「構いませんよルーイン殿。あの売国奴で裏切り者の恥晒しを家族とは思っていません。叶うなら私がこの手で引導を渡してやりたかった。」
忌々しそうに語るクアイエッセ。大墳墓の兄妹とは違って、こちらの兄妹の仲は険悪な様だ。
「兄上もくれぐれもお気をつけて。ナザリック地下大墳墓で待ち受けるのは想像を絶する力の持ち主と聞いております……いや、直接に相対した兄上が誰よりもご存じのはずでしたね。神都での再会を心から待ち望んでおります。神都に帰ったら2人で、父(カントック)と母(コーチイ)に会いに行きましょう。」
「そうだな両親にも久しく会っていない。姉夫婦(姉:マネージャ、夫:スケット)の所へも顔を出すか。甥っ子(エフエー)にはお土産を持って行ってあげないとな。それでは弟よ…どうか無事でな。任務達成を信じているぞ。」
ルーイン家は非常に敬虔な事で知られる、スレイン法国でも有数の名門一族だ。ニグン達の祖父であるイチグンは先代の陽光聖典隊長を務めていたし、叔父であるキャプテインも軍の将軍という地位に就いている。
両親は神殿の高位関係者で巫女として仕えている長女も、他国出身ながら優秀な神官と結婚している。※スレイン法国では優秀な血統維持の為に神殿関係者の婚姻を奨励(半ば強制)しており、優秀であれば他国出身者(但し人間に限る)の血も積極的に受け入れている。兄弟も優秀で兄は陽光聖典の隊長、弟も将来を有望視され漆黒聖典入りが確実視されている逸材だ。
がっしりと抱き合い互いの無事を祈る兄弟に水を差す者はいない。今回の任務が非常に危険で重要である事はこの場に居る全員が覚悟している。こうしてスタメン達はクレマンティーヌと叡者の額冠の手掛かりを求めてエ・ランテルへ向かい、レイモン一行はニグンの先導でナザリック地下大墳墓へと向かった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
エ・ランテルへ到着したスタメン達は、中級冒険者向けの宿に拠点を構えた。本来であれば国外での情報収集やサポートを担当する風花聖典の拠点があるのだが、エ・ランテルに潜伏していたクレマンティーヌによって壊滅状態に陥っている。
神殿勢力に影響を持つ法国の事を前面に出せば、各神殿に便宜を図らせる事も可能だが、今回の任務の性質上望ましくは無い。秘密裏に慎重に事を進める必要がある。スタメンは長期戦も視野に入れて、焦らずじっくりと行動する方針を固めた。
まずは同行した風花聖典が都市の各所で簡単な情報収集にあたったが、思いの他あっけなく「クレマンティーヌ」と「叡者の額冠」についての情報、さらに法国が最も重要視する「アインズ・ウール・ゴウン」の情報さえ入手したのだった。
「それでは、この都市でアンデッドを大量に召喚した事件を起こした主犯の1人が、元第九席次のクレマンティーヌの可能性が高いと?」
「もう一人の男は邪教集団ズーラーノーン幹部との事です。元第九席次は外見が判別不能なほど死体が損傷していたそうですが、クレマンティーヌという名前から間違いないと思われます。残念な事に両名の死体は紛失…恐らくは情報漏洩を防ぐ為にズーラーノーンが持ち去ったかと。」
「だろうな……そしてアンデッドを大量に召喚という事は、間違い無く叡者の額冠の力だが…あれの力を引き出せるのは100万人に1人と聞く。どうやって遣い手を確保したのだ?」
「エ・ランテルにはンフィーレア・バレアレという「あらゆるマジックアイテムが使用可能」というタレントを持った少年が居ました。その少年を拉致して叡者の額冠を使わせた模様です。」
流石は情報収集に特化した風花聖典…と言いたいが、現在のエ・ランテルで話題の中心となっている「漆黒の剣(白)」の名を知らしめた英雄譚に関係する事だ。少し酒場や市場で話しを聞けばいくらでも聞く事が出来る。現に彼らは宿を出てから1時間程で戻って来た。あまりに大量の情報が簡単に入手出来た事に戸惑いながら。
「その様な人材が市井に埋もれているとは…やはり王国は許しがたい――いや、今は関係ない事だな。それにしてもンフィーレアと言う少年、叡者の額冠の力を使ったという事は只では済まなかったはずだが?」
「現在は祖母と共にカルネ村という農村で静養中という噂です。祖母が営んでいたバレアレ薬品店も営業を取り止めています。」
「バレアレ薬品店という事は、リイジー・バレアレか?この国最高のポーション職人と云われる!」
「そのリイジー・バレアレです。ただちに影響はないと思われますが、彼女のポーションは周辺国家でも高い評価を得ておりまして、各国にも影響が及ぶ恐れがあります。」
リイジー・バレアレは優秀なポーション職人だ。周辺国家でも高い評価を得ていた。それを蔑ろにしていたとは言わないまでも、彼女や孫の存在に殆ど気を留めなかった王国の無能さが異常なのだ。
「元第九席次の仕出かした事の影響は大きいな。それでは事件を解決した漆黒の剣(白)という冒険者チームについて報告をしてくれ。」
「漆黒の剣(白)はエ・ランテルで稼働していた銀級チームでした。メンバーはリーダーのペテル・モーク(戦士)、ルクルット・ボルブ(レンジャー)、ダイン・ウッドワンダー(ドルイド)、ニニャ(マジックキャスター)の4人です。」
「銀級だと!バカな!?」
「事件解決の功績で、現在はミスリル級となっております。」
「それでも評価が低すぎる。事件の規模と首謀者達の戦力を考えればアダマンタイト級でもおかしくはない。」
事件が齎したかもしれない被害と、彼らの実力を理解出来るスタメンの考えは、あのバハルス帝国の皇帝と同じものだった。いかにイグヴァルジの考えが嫉妬と偏見に塗れたものだったのかを物語っている。
「組合はオリハルコン級に認定するはずでしたが、一部の冒険者から不満の声があった様です。また事件の被害が軽微だったので、エ・ランテル全体の危機感も少ない事が影響した様です。」
「まったくこの国の者達は……と言っても詮無いか。しかし王国をこのままにはしておけん。帝国との計画は絶対に成功させねばならん。任務を果たせなかった兄上の無念を晴らしたいものだ。」
リ・エスティーゼ王国は異形種の脅威から守られた肥沃な土地に建国された。それは平和な地で健やかに育った国民から優秀な者が輩出され、人類の戦力となる事を願ってのことだった。しかし現在では国の支配層は腐敗に塗れ、国民は貧困にあえぐという救いようのない国に為り果て、周辺国家にまで麻薬等の害悪を及ぼしている。王国の人間が忘れてしまった理念を知る法国としては許しがたい存在だ。
「話しの腰を折ってしまったな。漆黒の剣(白)について続けてくれ。」
「メンバーの中でも、マジックキャスターのニニャという
「素晴しいな。成長すれば漆黒聖典に迎え入れてもおかしくない逸材だ。それに高位のマジックアイテムか…その様な貴重なアイテムをどうやって入手したのだ?」
漆黒の剣(白)は法国からも高い評価を受けたようだ。もっとも当人達にしてみれば「全てお嬢様のおかげです」という事になるのだが。
「漆黒聖典入りが確実視されているスタメン殿がそこまで評価するとは……アイテムの入手経路ですが、非常に有力な後見人が付いています。そして漆黒の剣(白)はンフィーレア少年救出の際に入手した叡者の額冠と思われるアイテムを後見人へ渡した模様です。」
「私としては陽光聖典で兄の補佐をしたかったのだがな。しかし叡者の額冠の所在が確認できればかなり前進だ。それで後見人とは何処かの貴族か?エ・ランテルには例のナザリック地下大墳墓に興味を持っている貴族がいるという情報もあったが。」
「それが……後見人と言うのは
「何だとっ!!それはどういう事だ?」
驚愕すべき情報だ。アインズ・ウール・ゴウンは兄達が向かったナザリック地下大墳墓に居るのではないのか?さらに妹の存在、そして妹が自らの拠点へ冒険者を向かわせた?――何かとんでもない陰謀が進んでいるのを感じたスタメンは全身に冷や汗を感じる。
「ではアインズ・ウール・ゴウン様はエ・ランテルに居られるのか?」
「それが…直接その姿を見た住民は居ない模様です。都市長のパソナレイの館に滞在中という噂です。但し妹のほうは冒険者組合を始めとした各所に顔を出していた模様です。さらにトブの大森林に生息していた森の賢王を騎獣にしていたという話も…あっ、森の賢王は漆黒の剣(白)と協力してズーラーノーンと戦ったそうで、住民へも受け入れられ、恐れられたりはしておりません。そして妹もここ数日は姿を見せていないそうです。」
「都市長については興味深い話があります。彼はアインズ・ウール・ゴウン様に忠誠を誓い、彼の御方が後ろ盾となり王国からの独立を目論んでいると……王都からの使者を無視したあげく納税を拒否し、王国の他の都市へ搬出される物資も荷留、というより横領しているという事です。」
「エ・ランテルの住民も殆どが好意的な様です。税の軽減や帝国兵…に襲撃された村の復興にかなりの予算を投入する事も発表され、商人達もそれを見越した動きをしています。王国の貴族と関わりのあった商人も貴族から距離を置いています。」
わずかな期間で激変している情勢にスタメンは驚愕する。エ・ランテルはいずれ王国を滅ぼした際に、どちらが併合するかで法国と帝国が協議している重要な都市だ。ここを第三者に押さえられれば、2カ国の政策に重大な影響が出るのは間違いない。
「この情報の精査をして確認が取れ次第、本国へ報告する必要がある。そして…出来れば兄上、いやレイモン様にこの事を伝えたいが時間的に難しいな。」
「今から全力で向かっても厳しいでしょうね。」
「無理だろうな。向こうは今頃ナザリック地下大墳墓に到着していてもおかしくない。レイモン様達を信じるしかない。私達はさらなる情報収集を――件の漆黒の剣(白)との面会は可能か?」
「漆黒の剣(白)は黄金の輝き亭という宿に逗留中です。まずは探りを入れてみますか?」
「いや、ぷれいやー様に連なる可能性が高い人物だ。礼節を持って交渉、いや話しを伺うのだ。私が直接赴こう。1人だけ供に付いてくれ。残りは情報の確認を進めろ!」
出来る男スタメンは想定外の事態にもうろたえずに、そして迅速に事を進める。しかしそんな彼でもどうしても腑に落ちない事があった。
「それにしても「漆黒の剣(白)」の(白)というのはどういう意味なんだ?黒なのか?白なのか?どっちなんだ?」
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
エ・ランテルで最高級の宿である「黄金の輝き亭」、そこでも最上級の部屋に漆黒の剣(白)は滞在していた。各自に個室が宛がわれ、設備も文句なしで食事だって豪勢……なのだが、数日でも「お嬢様」と過ごした彼らにとっては、これ位ではいちいち驚くほどの事でも無かった。
「それで…大切な話しがしたいとの事ですが?ニニャの事情についてですね。」
「はい…今まで話せずにいたのですが、ようやく決心が付きました。チームの皆には関係のない事ですが、それでも聞いてくれますか?」
「私達は仲間。それも文字通り一蓮托生なのである。」
「前にも言っただろ。話しなら幾らでも聞いてやるさ。仲間なんだからな。」
「ありがとうございます。私には姉が居ました。ツアレニーニャといってとても気立てが良くて優しい姉でした――」
ニニャから語られた事情。姉を貴族に奪われた少女の悲劇。そしていつか力を手に入れて姉を救いたいという強い決意。とても悲しい同情すべき話だが、そんな話しは王国では珍しくもない。それほどこの国は腐っているのだ。
「私は都市の出身でしたから、そういった話しがあるという事くらいは聞いていましたが、本当に許せない話しです。それに都市の貴族も変わりません。私の実家は小さな雑貨店でしたが、貴族の息のかかった商人に目をつけられて立ちゆかなくなり、両親は過労で病になりそのまま亡くなってしまいました。これでも商人として成功するという夢があったんですけどね。」
ペテルの意外な告白に皆が驚く。たしかに彼は冒険者としては珍しいくらい礼儀もあり、読み書きや計算も得意でメンバーも頼りにしていた。だからこそリーダーとして認められていた。
「私も農村の出身で、同じ村の女性が貴族の使用人として雇われたのを聞いた事があるのである。しかしその女性は帰郷はおろか手紙の一通も村に送って来る事もなかったのであるが、おそらくニニャの姉上と同じ様な事情だったのだろう。残された家族はとても悲嘆にくれていたのである。」
ダインも似たような事情が身近にあったので、ニニャの辛さがよく理解出来た。なにせ彼女は彼にとって初恋の人だったのだから。そしてこの少女と姉の為に命を使うのも悪くは無いと、心の中で決心した。
「俺も似たようなもんだ。俺には兄貴が2人いたんだけどよ……どっちも戦争に連れていかれて帰って来なかった。一緒に戦争に行った村の連中が、せめてこれ位はって遺髪を持ち帰ってくれたが、領主の野郎からは何もなかったぜ。それで両親は「こんな村にいても幸せになれない」と言って、路銀を用意して俺を送り出してくれたんだ。」
ルクルットにも悲しい過去があった。漆黒の剣(白)の全員が貴族によって人生を狂わされているのだ。
「皆にもそんな事情があったなんて……自分だけが不幸なんじゃないかと思っていたのが恥かしいです。それで――」
「勿論、協力は惜しまないのである。」
「俺も協力するぜ。それにニニャにはまだ可能性が残ってるんだ。姉貴はきっと生きてるさ。」
「私も賛成ですが、リーダーとしては確認しなければならない事があります。既に私達の命は、私達だけの物ではありません。当然この事を報告…というより、協力を乞うべき御方がいます。」
「はい。お嬢様に全てをお話しして助力を願います。どんな対価を求められても構いません。僕の全てを捧げてでも!」
こうして漆黒の剣(白)はそれぞれ胸の内を打ち明け合った事により、いっそう固い絆で結ばれる事になった。
「とりあえず飯にしようぜ。その後は作戦会議だ――と、誰か来たみたいだな?」
「失礼いたします。漆黒の剣(白)の皆様に面会を求めている方がいらっしゃいました。スレイン法国から参られたスタメンという方で…そ、その「人類の未来について重要な話しがある」との事で、至急面会を願うという事なのですが?」
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
白いな…というのが、漆黒の剣(白)を前にしたスタメンの第一印象だ。髪は真っ白で肌も同様だ。稀にいるというアルビノ?とも思ったが瞳の色は赤くない。それに室内だというのに純白の装備に身を包んでいる。
確かにかなり高位のマジックアイテムだ。それにしても宿の中で完全装備?と訝しむ。彼ら全員がすぐに武器を手に出来る様にしているのが分かる。かなり警戒されている。
これはクレマンティーヌの奇襲によって惨殺された彼らの苦い経験からくる物だ。例え宿の中でも、直ぐに戦闘に移れる様に心がけている。ちなみに面会しているのは黄金の輝き亭に併設された食堂の個室だ。高級宿では商談が行われる事も多いのでこういった設備がある。当然、それ相応の料金が発生する。
「私はある任務の為にスレイン法国から来たスタメン・グリッド・ルーインと申します。まずは面会に応じて戴き感謝します。」
漆黒の剣(白)に対して深々と頭をさげるスタメン。従者も同様だ。その非常に礼儀正しい態度に彼らも若干だが警戒を緩める。だが決して油断は出来ない。なにせ法国は帝国兵に偽装してエ・ランテル周辺の村を襲っていたのだ。愛国心などない彼らでも、村人を惨殺した法国には思う所がある。
「これはご丁寧に…私達が漆黒の剣(白)です。私はリーダーのペテル・モークです。」
続いて残りの3人も簡単な挨拶を済ませる。いくら目的不明で気にくわない相手でも「礼には礼を」これ位は彼らも弁えている。
「それでスレイン法国のお偉い様が、俺達に何の用があって尋ねて来たんだい?任務ってやつも気になるけどな。それにしても俺達も大人気だ。
「おいルクルット!」
ルクルットの厳しめの物言いをペテルが窘める。これは彼らなりの交渉のセオリーだった。
「かまいません。皆様には包み隠さずお話しいたします。私の目的はスレイン法国で火の巫女姫を殺害して、法国の至宝である叡者の額冠を奪って逃走した女と、奪われた叡者の額冠の行方を追っていました。その女は法国の特殊部隊に所属していたクレマンティーヌという者で、エ・ランテルで発生した事件の主犯の1人で、皆様が捕らえた女です。それと差し支えなければ帝国からの客人の用件をお聞きしても?」
「帝国の商人から、帝都アーウィンタールまでの護衛を依頼されただけですよ。」
「かなりの高条件でしたけどね。僕達はある御方に仕えているのでお断りさせて貰いましたけど。」
既に帝国も動いていたか…とスタメンは危機感を覚える。
「それにしてもあの女…只者じゃないとは思ったが、法国の特殊部隊?」
「そんな存在は聞いた事もありません。」
「そうでしょうね。法国には六つの特務聖典がありますが、その中でも最強で特に存在を秘匿された漆黒聖典。クレマンティーヌはその第九席次でした。」
「おいおい…あんな化け物が9番目かよ。」
「そういえば、あの女は自分の事を「以前は人類の守護者だった」と言っていたのである。」
「漆黒聖典は席次=強さという訳ではありませんが、第一席次の隊長は別格ですね。神の血を引いた神人という話しですから。そして漆黒聖典は文字通り人類の守護者として、人知れず強大な異形種・モンスターから人類を守る役割を担っています。全員が冒険者で言うアダマンタイト級を凌駕する実力を備えています。」
法国の機密を隠し立てせず話すスタメンに漆黒の剣(白)はおろか従者の男も驚愕する。もっともスタメンも法国の最高機密である彼女についてまではさすがに知らなかったようだ。そして彼がここまで話すのは自分達、つまりは法国の力を示す為でもある。
「俺達みたいな冒険者如きに、そんな話しをして大丈夫なのかよ?」
「かまいませんとも。貴方達には是非とも知って頂きたい事ですから。」
「買いかぶり過ぎでは?私達はたかだかミスリル級の冒険者チームですよ?」
「正確には皆さんの後見人に対して、ですがね。それに皆さんもかなりの実力者でしょう。法国に冒険者組合はありませんので詳しくはありませんが、皆さんの実力は最低でもオリハルコン級という話しだそうですね。」
実際スタメンは漆黒の剣(白)をかなり評価している。自分には及ばない事を解ったうえで、彼らを中の上くらいと分析している。仮に戦うとすれば、負けないまでもかなり苦戦するだろう。そして彼らだけではクレマンティーヌ達には勝てない、森の賢王の助力以外にも何かあったのでは?と推測する。
「それは恐縮ですね。それではそろそろ本題の方に入って頂けますか?」
「分かりました。我々の目的は皆さんの後見人である「さっちん様」と兄である「アインズ・ウール・ゴウン様」です。法国は彼らと絶対に敵対する訳にはいかないのです。不幸な行き違いで怒りをかってしまいましたので、関係を修復したいのです。」
「罪のない村人達を殺して不幸な行き違いですか?貴方達がこの国でした事をどう思っているのですか?」
「それについて
スタメンが語ったのは、王国民が知らない人類の危機的な現状。いかに王国が許しがたい存在で、法国がどれだけ憤っているかという事。さらに帝国との密約でさえ彼らに語って聞かせた。彼にしてみれば虐げられる事を嘆くだけで、現状に対して行動しない王国民へも憤りを感じている。仮に王国民が貴族達に反旗を翻す為に行動していれば、法国は喜んで支援していただろう。
「確かにこの国は腐っています。でも……」
「帝国と法国の間でそこまで話しが進んでいるとは!」
「確かに王国の民に罪が無いとは言えないのである。だが虐げられている者にさらに犠牲を強いるというのはいかがなものなのか?」
「我々も考えを改める必要はあります。それに神の力添えがあれば、より良い方策が採られるでしょう。」
「神の力添えですか?いったい何を…」
「まだお分かりにならないのですか?アインズ・ウール・ゴウン様とさっちん様です。御二方は間違いなく「ぷれいやー」と云われる存在です。人類を救った「六大神」や、凄まじい惨禍を齎した「八欲王」もぷれいやーでした。」
スタメンはぷれいやーについても自分が知る事を丁寧に説明する。歴史に隠されていた真実に漆黒の剣(白)も驚きを禁じ得ない。
「今、私の兄を含む法国でも重要な方々が、アインズ・ウール・ゴウン様へ謁見する為にナザリック地下大墳墓へ赴いています。既に法国は彼の御方の怒りに触れて少なくない被害を被っています。おそらく兄達も無事では済まないでしょう。命の危険も覚悟しています。」
「そちらの事情は理解しましたが、私達にどうしろと言うのですか?」
「皆さんからアインズ・ウール・ゴウン様へ取り成しをお願いできませんか?」
「我らもアインズ・ウール・ゴウン様とは面識が無いのである。あくまでも妹であるさっちん様に仕えているだけなのである。」
「では皆さんの主人さっちん様への取り成しをお願いします。その御方の意見ならアインズ・ウール・ゴウン様も無碍にはしないでしょう?」
間違い無く聞く。余程の事でも聞く。さっちんの意見=ナザリックの最優先事項だ。
「それを聞いて俺達にメリットは?それにお嬢様はエ・ランテルには居ないぜ。そういえば「お客さんが来る」と言っていたな。何かあれば
「主人がその兄の勘気に触れるかもしれない事を私達がするとでも?」
ペテルの言葉にスタメンは鋭く反応する。
「まずはさっちん様へ連絡を取って頂けないでしょうか?その方法があるのでしょう?それとメリットについてですが…国としては何も確約できません。しかし私個人は皆さんに大きな恩義を感じますし、可能な限りの代価を払う用意があります。今はこれ位しか出来ませんが…兄を想う愚かな弟に免じて……」
そう言うとスタメンはその場で跪いて床に額を擦りつけて懇願した。スレイン法国に伝わる最大限の礼の作法「どげざ」である。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「もしもーし、どうしたの?今いいところだから忙しいんだけど。何かあった?」
「え?スタメン?誰それ?おっ!さすがコキュートス!ウヒャヒャヒャ!圧倒的だねナザリックは!」
「ニグンの弟?だからニグンって誰?お兄ちゃんに用?そんなの私に言われてもね~。」
まさかのスタメン大活躍?です。
そして漆黒の剣(白)は
王国貴族絶対許さんカルテットを結成しました。