「やっと到着したでありんすかえ。ここが偉大にして至高なるアインズ・ウール・ゴウン様と、その究極の妹君であらせられるさっちん様が支配するナザリック地下大墳墓でありんす。念のために聞いておきんすが、スレイン法国からの来客ということで間違いありんせんね?」
ナザリック地下大墳墓に到着したレイモン一行を出迎えたのは、非常に整った外見をした可憐な銀髪の少女だった。周りに大勢控えているのも美しい女性ばかりだが、彼女達は全員がヴァンパイアと呼ばれる異形種の特徴を持っている。つまりこの可憐な少女も人間ではないという事だ。
「はっ。私はスレイン法国土の神官長レイモン・ザーグ・ローランサンと申します。まずは態々お出迎えをして戴けた事に感謝いたします。」
そう言ってレイモンは目の前の、外見だけはそれこそ祖父と孫ほども違いがある少女に対して深々と頭を下げ、他の者達もそれに追随する。
かつて漆黒聖典として異形種との戦いに明け暮れ、現在も法国の重鎮である彼が、異業種を相手に謙った態度をとっている姿は、法国の一般国民が見れば卒倒する様な光景だろう。しかし1人だけ他とは異なる反応を見せた者がいた。
「あわわわ……そ、そ、その少女…れ、れべる…ひゃく、ご?あ、あ、ありえない…」
そう言い残して大きなとんがり帽子を被り、赤い一抱えもある球を携えたマジックキャスターらしき女性は卒倒した。股間からは臭いとともに液体が溢れ出ていた。彼女こそ「探知能力に特化し、相手の強さを正確に見抜く」というタレントを持つ漆黒聖典第十一次席である。
彼女は「レベル」という絶対値で相手の強さを判断出来る。レベルとは六大神をはじめとしたぷれいやーが強さを表すのに使った表現で、法国でも殆ど知られていない秘匿事項だ。法国でも彼女にしか判断できない基準で、一般的には冒険者組合で使われる「難度」という基準が使われている。伝承ではレベルは最高で「100」というのが不文律で、法国の秘匿された神人で95。今も法国に現存するとされる六大神スルシャーナの従属神が80で、漆黒聖典隊長で70だ。
ちなみにシャルティアのレベルを105と判断したのは、ナザリックのバフ効果の影響である。ここが表層部ではなく彼女の守護階層である第一から第三階層であればレベルはさらに上がっていた。
「た、大変失礼いたしました。これはこの者が貴女様の強大すぎる力に慄いた為で、こちらから無礼を働く意図はないと信じて戴きたい。」
「それなら不問にしんしょう…おもしろい能力でありんすね。妾はシャルティア・ブラッドフォールン。このナザリック地下大墳墓の第一から第三階層の守護者でありんす。おんしらがナザリックを訪れた理由は何でありんしょう?」
「はっ。アインズ・ウール・ゴウン様に拝謁を願い、先日の不幸な行き違いについての釈明と、今後についてのお話しをさせて戴きたく足を運んだ次第です。決してこの場をお騒がせするつもりはございません!」
「そう(少し残念)…でも偉大にして至高なるアインズ様はその玉体を軽々しくお見せする事はありんせん。それを望むのであれば相応の物を示してもうらう必要がありんす。」
シャルティアはスレイン法国の者達への応対について、アインズから指示を受けていた。相手が無礼な態度を取る様であればそのまま殲滅――周囲には不可視化した80レベル以上のシモベ達が大量に配置されていた。
そして相応の態度で礼を示すのであれば、そのまま第六階層の闘技場へ案内する様に命じられた。彼女としては前者の態度を取ってくれたほうが好ましかったのだが、アインズの命令は絶対だ。ちなみに判断基準や応対はデミウルゴスが指示している。脳筋ぎみの彼女に繊細な判断や対応を求めるのは事故の元だ。
「それは何かの対価……金銭や物品という事でしょうか?それとも何かの条件があるのでしょうか?」
「おんしらは「礼」を示しんした。あと必要なのは「勇気」と「武」でありんす。これから案内する場所で、それを示してもらいんすが、覚悟はよろしいでありんすかえ?」
なるほど…とレイモンは唸る。御伽話や伝承でも遺跡やダンジョンの主が、試練を突破した勇者を讃えて力を与えたりするのはよくある話だ。他の者達も同じ事を考えたのか怖気づいた者は無い。中には握り拳を固めている者もいた。頼もしい奴らだ…そう思いレイモンは返答しようとしたが――
「但し!1名にだけ特別な試練を、アインズ様が御自らご用意して下さっているでありんす。クアイエッセ・ハゼイア・クインティアという者は名乗り出るでありんす。」
「はっ…私がクアイエッセ・ハゼイア・クインティアです。我が名をご存じだったとは…」
いったい何故?とクアイエッセは心の中で自問する。自分の名を知っている事も驚きだ。他の者達も同様で跪きながらもクアイエッセを伺う。
「おんしには特別な試練が準備されているでありんす。これを拒む事は許されないでありんす。そして見事に試練を突破すれば物凄い「ごほうび」が用意されているでありんすよ。《ゲート/転移門》」
クアイエッセの眼前に現れたのは、奈落へと通じていそうな暗い穴……この先にいったい何が?と思う間もなく声が掛けられる。
「早く行きなんし!アインズ様がお待ちしているでありんす!」
意を決してゲートを潜ったクアイエッセを確認すると、シャルティアが残されたレイモン達に告げる。
「次はおんしらの番でありんす。ちゃっちゃと済ませて、妾は観客席でのんびりと見学させてもらうでありんす♪」
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レイモン達がゲートを潜った先はしっかりとした作りの通路の途中だった。魔法の力で灯りが確保されているので視界に不自由は無い。前方に開けた空間が確認出来るので、そこが目的地という事だろう。
「ここは一体?建物の通路ようだが…かなり高度な転移魔法といい恐るべき力だ。」
「クアイエッセの坊やは無事だといいのじゃが。」
「あいつは階層守護者と言っていた。他にもあんな化け物がいるのかよ…」
「この雰囲気は…それに向こうに見えるのは競技場?帝国にある闘技場の様な施設でしょうか?あそこでは確か…」
「成程…我々は挑戦者という事か。この先で待ち構えている者と闘い、それをぷれいやー様達が御覧になられる。では精々、興行主を失望させない様にしようじゃないか。」
「望むところです。我らの勇気と武の力を示して見せましょう!」
レイモンの言葉で彼らも覚悟を決めたのか、うろたえる様な素振りは無い。あんな事になった第十一次席も魔法の力によって回復している。彼女は帝国の強者を調べる為に闘技場へ赴いた事があったので、似た雰囲気を感じ取ったのだろう。
「挑戦者入ってまいりましたあぁ!」
通路を抜けた彼らを闇妖精の少年の一声が迎え入れる。観客席には無数の異形の者達が犇めいていた……アンデッド、悪魔、騎士の様な昆虫、精霊らしき存在だ。様々な異形種に詳しい彼らでも知らない様なモンスター、中には伝説に謳われるアンデッドさえいた。人類最高峰の戦士である、漆黒聖典の隊員でさえ勝てるかどうかを覚悟する様な者も多い。
そして観客席の半分以上を埋め尽くすゴーレム。法国や帝国で見られるウッドゴーレムやクレイゴーレムではない。最低でもストーンゴーレム、さらに強力なアイアンゴーレムだ。中には未知の金属製ゴーレムも含まれる。この施設の支配者の戦力と財力をまざまざと思い知らされる。
「こっ、これは!?」
「ばかな…ありえない。」
「挑戦者はナザリック地下大墳墓へ果敢に挑む、覚悟完了の勇者達6人!そして、それを迎え撃つのはナザリック随一の武人!第五階層守護者、凍河の支配者コキュートスだあぁ!」
反対側の通路から現れたのは、蟷螂と蟻を掛け合わせた様なライトブルーの巨大な二足歩行の蟲人。四本の手にはそれぞれ「巨大な刀×2」「斧槍」「メイス」を持っている。どれもが凄まじい威力を秘めているのが一目で解る。法国に遺された神の武器に匹敵、いや凌駕しているだろう。
「コキュートスが手にしているのは「建御雷八式」「斬神刀皇」「魔槍グングニール」「全力全壊」全てが神器級の業物だぞおぉ!!」
「ヨクゾ来タ。勇敢ナ戦士達ヨ。我ガ名ハコキュートス。ナザリック第五階層守護者デアル。オ前達ノ名ヲ聞コウ。」
非常に聞き取りにくい硬質な声だったが、その言葉、佇まいは堂々たるもので正に武人というのに相応しい。レイモン達もそれぞれが臆することなく名乗りをあげる。
「本来ナラ全テノ手ニ武器ヲ持ツノハ我ガ認メタ強者ノミ…ダガオ前達ノ輝キニ敬意ヲ表シテ、最高ノ武器デ相手ヲシヨウ。ソシテオ前達モ全テノ力ヲ出シ惜シミ等セヌ事ダ。
そう言ってコキュートスは、派手な龍の刺繍が施された「チャイナ服」と呼ばれる衣服を身に着けた老婆(カイレ)へ手に持った刀を突き付ける。レイモン達の視線がカイレに集中する。そしてカイレに向かってレイモンが頷くと、カイレも覚悟を決めて頷き返す。
カイレの纏うドレスから白い稲妻のような光がコキュートスへ向かって放たれる。その光景を固唾を呑んで見つめる周りの者達――
「むうう…」
「…何…だと…」
「ありえねえ…」
「やはり…か…」
「うそ…ケイ・セケ・コゥクが効かないなんて!?」
「支配の繋がりは感じられん。よもや神器すら通じぬ存在が居ようとは。」
彼らの反応を見届けたコキュートスが一瞬で距離を詰めて4本の武器を振るう。レイモンとニグンは切り伏せられ、カイレを庇った第八席次は揃って串刺しにされる。メイスで強打された第十一次席はそのまま吹き飛ばされ、観客席の壁に激突する事で漸く止まる事が出来た。全員が辛うじて生きているが戦闘不能なのは明らかだ。
唯一無傷の第一席次が突きだした槍がコキュートスの身体に突き刺さったかに見えたが、強固な外骨格に阻まれて僅かな傷を残しただけに留まった。
「見事ダ。我ガ外皮ヲ傷ツケルトハ。オ前モソノ槍モ。」
コキュートスが建御雷八式と斬神刀皇を振るうと、第一席次の両手が付け根から切り落とされる。それでも彼は両手を失ったままでコキュートスへ突進する。第一席次の突進を受け止めたコキュートスは僅かに一歩だけ身体を後退させる。
「本当ニ見事ダ。オ前達ノ輝キハ魅セテ貰ッタ。アインズ様モ満足サレルダロウ。」
「まだだ…まだ終われない。」
両手を失い、地面に突っ伏しながらも第一席次は諦めていない。その命が尽きるまで足掻くつもりだ。諦めたらそこで終わりなのだから。これは隊長としての意地だ。仲間はもう戦えないだろう。生きているかも見当が付かない。分かり切ってはいた事だ。今回の任務は生還の期待出来ない任務だったのだから。
彼を始めとする漆黒聖典が任務にあたる時に、いつも最初に言われる事は「人類の為の礎となれ」の一言だ。彼にはそれで十分だった。そう言われるのは「人類存亡の時のみ」であり、それを受けるのは人類の守護者である自分にとって当然の義務だと考えていた。そうやって死地に赴き還ってこなかった先達、一度死んだ後に蘇生され、文字通りその身を削って戦い続けた者さえいた。
それに今回の任務だけは死ぬ事は許されても失敗する事だけは許されない、自分達の戦いに正真正銘の人類存亡がかかっているのだ。それを思えば自ら戦いを止めることなど出来る筈が無い。それからも彼は倒される度に起ちあがった。コキュートスも彼が満足するまで付き合うつもりなのだろう。
どれ位時間が経ったか、何度目かも分からないが、彼が死力を振り絞って身体を起こすと、そこには闇があった――
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法国からの使者がナザリックへ訪れている時、さっちんは玉座の間で一部始終を監視していた。兄は例のクレマンティーヌの兄とやらを歓迎する為に、第五階層で待ち構えている。さっちんは彼女も気の毒に……と思っている。彼女は本気で困っていた。最後にはヤケクソになっていたが。
兄は何故か《パーフェクト・ウォリアー/完璧なる戦士》を自分にかけ、漆黒の全身鎧に大剣二刀流という出で立ちでノリノリだ。数日前から様々な準備をしていた様で、第五階層に専用の建物まで用意するという気合いの入れ様だ。
「お兄ちゃんも相変わらずだねえ。言われた通りクレマンにはアドバイスしたけど、あんなのは人それぞれだと思うんだけどな~」
「さっちん様、間もなく第六階層での催しが始まる様です。」
「ん~どれどれ?」
そういって《クリスタル・モニター/水晶の画面》に注目するさっちんだが、膝の上にペット筆頭のぷーにゃんを乗せ、左手に持ったグラスからオレンジジュースをチューチューと吸いながら、右手でポップコーンを摘まんでは口に運んでいる。完全に観戦モードだ。
第六階層での催しについては、コキュートスの圧勝に終わるだろうというのがさっちんの予想だ。あの装備はガチだ。自分が戦っても3分持てば善戦したほうだろう。やがて侵入者が競技場へと入場したが、あの御婆さんは無い。有り得ない。思わずジュースを噴き出して側にいたメイドにぶっかけてしまった。なぜかニコニコしていたが…
コキュートスも会場入りして、さっちんも「コキュートスいけー」と歓声を送っているとメッセージが届いた。
<<もしもーし、どうしたの?今いいところだから忙しいんだけど。何かあった?>>
メッセージの相手はニニャだった。漆黒の剣(白)には小遣いをたっぷりと与えて、エ・ランテル最高級の宿までとってやったはずだ。まさかもう使い果たしておかわり?と思っていると。
<<お忙しいところ申し訳ありません。いつもお世話になっております。漆黒の剣(白)のニニャでございます。実はお嬢様のお耳に入れたい事がございましてメッセージを入れさせて頂きました。それでスレイン法国からスタメン氏という方が――>>
画面の向こうではワールドアイテム傾城傾国を無効化したコキュートスが、一瞬で5人を戦闘不能に追いやっているところだ。
<<え?スタメン?誰それ?おっ!さすがコキュートス!ウヒャヒャヒャ!圧倒的だねナザリックは!>>
<<そのスタメン氏は、以前もそちらのナザリックで大変お世話になり、今回のお客様にも同行しているニグン氏という男性の弟だそうで、そのニグン氏の処遇についてお嬢様のお兄様にご相談があるそうなのですが――>>
<<ニグンの弟?だからニグンって誰?お兄ちゃんに用?そんなの私に言われてもね~。>>
<<まあ私としてもスタメン氏に懇願されて、
何か途中から話しが変わってない?と訝しむさっちん。画面の向こうではコキュートスが第一席次の両腕をチョンパした所だ。
<<あ~もしもし?メッセージ変わりました。ルクルットです。ちょっとよろしいですか?>>
<<別にいいけど。何かニニャの様子が変だったけど…どうしたの?>>
<<まあ、あいつにも色々とありまして…それは後日という事で…>>
<<それで、どうしたのかな?お兄ちゃんに用事があるみたいだけど…>>
<<実はですね、そちらのナザリックを訪ねている連中についてなんですが…ちなみにまだ生きてます?>>
<<ん?何で知ってるの?1人は別行動だけど他は全員戦闘不能だね。まあ死んではいないけどね。>>
<<あちゃ~…でも死んでなければいい…のか?その中でニグンって野郎が居たはずなんですが?>>
<<ニニャも言ってたけど誰それ?>>
<<以前そちらのナザリックにお邪魔した法国の男なんですがご存じないですか?>>
<<ああ、アレ!居た居た。それでニグンがどうしたの?>>
<<ニグンの弟だって言うスタメンって野郎が訪ねて来てるんですよ。兄貴を助けられないかって。それでニグンの事ですが何とかなりません?他はどうでもいいんで>>
<<ああ~そういう事。大丈夫だと思うよ。ニ/グンになってるけど…>>
<<何ですか?そのニ/グンって…>>
<<身体が1/3くらいのところでスッパリと…>>
<<本当に大丈夫なんでしょうね?>>
<<大丈夫!お兄ちゃんも命までは取らないって言ってたから!全員生きて帰れるよ!…多分>>
<<それなら問題ないか?それで物は相談なんですがね――>>
画面の向こうでは、両手を失いながらも必死に立ち上がろうとしている第一席次の姿があった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「――という訳でアンタの兄貴を含めて全員無事に(身ぐるみ剥がれて)帰って来れるとよ。お嬢様の必死のお願いでそうなったんだから感謝しろよ。もちろん俺達にもな!」
「漆黒の剣(白)の皆さんには大変お世話になりました。特にルクルット師父には感謝してもしきれません!このスタメン・グリッド・ルーイン、今回の御恩は決して忘れませんぞ!本国に戻り次第、金貨1000枚を送金させて頂きます。それ以外でも私で力になれる事がありましたら遠慮なくお申し付け下さい。」
スタメンは漆黒の剣(白)全員の手を取りながら、涙を流して感謝した。そして何度も何度も頭を下げるとスレイン法国へと帰って行った。
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